選ばれなかった令嬢は、均衡で世界を削り直す

しおしお

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第二十四話 王太子の来訪と、交わらない道

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第二十四話 王太子の来訪と、交わらない道

 王家直属顧問の要請を断ってから、王都はしばらく静かだった。

 怒号も圧力もない。

 だが沈黙の裏には、確かな動きがあった。

 ――王太子自ら、北を訪問する。

 その報せが届いたのは、早朝のことだった。

「王太子が?」

 私は書状を読み、目を細める。

 形式は友好訪問。

 だが目的は明白だ。

 王家の意思を、直接伝える。

 そして、私の意思を確かめる。

 数日後。

 北の城門に、王都の紋章を掲げた馬車が止まる。

 王太子は若く、落ち着いた人物だった。

 かつての保守派の象徴ではない。

 むしろ、改革を支持する側に近い。

「北公爵、そして令嬢」

 丁寧な一礼。

 私は応接間へ案内する。

 形式的な挨拶が終わると、王太子は率直に言った。

「王家直属顧問の件、改めてお願いに参りました」

 遠回しではない。

 真っ直ぐ。

「王家は、あなたの理念を尊重しています」

「ですが、私は北に属しています」

「北の立場を侵すつもりはありません」

 言葉は柔らかい。

 だが提案の本質は変わらない。

 王家の内側へ。

 私は静かに問い返す。

「王太子殿下は、均衡をどうお考えですか」

 彼は少し考え、答える。

「王都を安定させる理論」

「それだけですか」

 間。

「……中心に頼らぬ仕組み」

 私は頷く。

「ならば、なぜ王家の内側へ置こうとするのです」

 彼は言葉に詰まる。

 王家は中心だ。

 そこに置けば、均衡は王家の理論になる。

 私は続ける。

「均衡は、中心を持たないからこそ王都を支えています」

「王家が支配する理論になれば、再び偏ります」

 王太子は沈黙した。

 そして小さく笑う。

「父と同じことを言われました」

 王もまた、私の返書を読んで理解している。

「それでも、私は確認したかった」

「何を」

「あなたが、王都を見捨てていないことを」

 私は即座に答える。

「見捨てていません」

 北から、遠隔で支える。

 だが内側には入らない。

「それで十分です」

 王太子は立ち上がる。

「王家はあなたを縛らない」

 その言葉は、王家の敗北ではない。

 理解の宣言だ。

 ざまぁ。

 派手な断罪はない。

 だが王太子が自ら北へ来て、そして引く。

 かつて私を評価しなかった王都が、今は頭を下げて帰る。

 それは確かな逆転。

 帰り際。

 王太子は振り返る。

「もし、いつかあなたが王都を選ぶ日が来れば」

「来ません」

 即答。

 彼は苦笑する。

「やはり」

 馬車が去る。

 北の空は広い。

 レオンハルトが隣に立つ。

「危うい橋を渡らずに済んだな」

「ええ」

 王太子は誠実だった。

 だが道は交わらない。

 私は王都を憎んでいない。

 だが戻らない。

 夜。

 庭に星が瞬く。

 王家の視線も、王太子の来訪も、私を動かせなかった。

 選ばれなかった令嬢は、今や王家の選択肢の外に立つ。

 それでも王都は安定している。

 それが答えだ。

 均衡は、誰にも属さない。

 だからこそ、強い。

 私は北に立ち続ける。

 王都の光は遠くで揺らぎなく輝いていた。
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