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第二十四話 静かな移転
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第二十四話 静かな移転
最初に動いたのは、古参の両替商だった。
王都で三代続いた店。
看板には歴史が刻まれている。
「港に支店を出します」
その報告は、王宮よりも先に市場へ広がった。
理由は単純だ。
保証制度の中に入れば、為替の安定が約束される。
王都では、両替の比率が日ごとに微妙に揺れる。
港では揺れない。
揺れない場所へ、人は移る。
王宮の会議室で、財務官代行が言う。
「王都内の両替商、三軒が港に拠点を移します」
王太子は目を伏せる。
「撤退ではないのだな」
「本店は王都に残します。ただし……」
「ただし?」
「実務の中心は港へ」
静かな移転。
奪われたわけではない。
選ばれただけ。
セシリアは思う。
姉は人を引き抜かない。
囲い込まない。
ただ、揺れない場所を作った。
自由街では、両替商の代表が挨拶に訪れていた。
「制度の中で業務を」
「条文通りに」
アイリスは短く答える。
「特別扱いはありません」
「承知しております」
むしろそれが安心だ、と代表は言った。
皇帝が後ろで小さく笑う。
「王都の歴史ある店が、ここへ来る」
「歴史は消えません」
アイリスは答える。
「場所が変わるだけです」
港の通りに、新しい看板が掲げられる。
派手ではない。
だが人の流れは明らかに増えた。
「両替はあちらで」
「保証制度内です」
商人たちの声が重なる。
王宮では、別の動きが始まっていた。
若手貴族の一団が、港視察を申し出る。
「視察?」
王太子は眉を寄せる。
「制度運営を学びたいと」
皮肉でも反逆でもない。
純粋な興味。
王太子はしばらく考え、頷いた。
「許可する」
拒めば、さらに距離ができる。
自由街では、視察団を迎える準備が整う。
華やかな歓迎はない。
帳簿と倉庫と、保証基金の記録。
「ここが基金の管理室です」
側近が説明する。
若い貴族が驚く。
「王宮より透明だ」
その一言が重い。
アイリスは視察団に言う。
「制度は誰のものでもありません」
「では誰が守るのです」
「守ると決めた人です」
単純な答え。
だが真理。
夜。
王太子は報告書を読む。
視察団の感想。
批判はない。
むしろ評価。
「……学ぶべきか」
呟きは小さい。
王冠は軽い。
だが完全に失われてはいない。
港では、両替商の灯りが増える。
王都の灯りは減らない。
ただ、中心がずれていく。
静かな移転。
剣も怒号もない。
だが確実に。
王国の重心は、ゆっくりと港へ移っていた。
最初に動いたのは、古参の両替商だった。
王都で三代続いた店。
看板には歴史が刻まれている。
「港に支店を出します」
その報告は、王宮よりも先に市場へ広がった。
理由は単純だ。
保証制度の中に入れば、為替の安定が約束される。
王都では、両替の比率が日ごとに微妙に揺れる。
港では揺れない。
揺れない場所へ、人は移る。
王宮の会議室で、財務官代行が言う。
「王都内の両替商、三軒が港に拠点を移します」
王太子は目を伏せる。
「撤退ではないのだな」
「本店は王都に残します。ただし……」
「ただし?」
「実務の中心は港へ」
静かな移転。
奪われたわけではない。
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姉は人を引き抜かない。
囲い込まない。
ただ、揺れない場所を作った。
自由街では、両替商の代表が挨拶に訪れていた。
「制度の中で業務を」
「条文通りに」
アイリスは短く答える。
「特別扱いはありません」
「承知しております」
むしろそれが安心だ、と代表は言った。
皇帝が後ろで小さく笑う。
「王都の歴史ある店が、ここへ来る」
「歴史は消えません」
アイリスは答える。
「場所が変わるだけです」
港の通りに、新しい看板が掲げられる。
派手ではない。
だが人の流れは明らかに増えた。
「両替はあちらで」
「保証制度内です」
商人たちの声が重なる。
王宮では、別の動きが始まっていた。
若手貴族の一団が、港視察を申し出る。
「視察?」
王太子は眉を寄せる。
「制度運営を学びたいと」
皮肉でも反逆でもない。
純粋な興味。
王太子はしばらく考え、頷いた。
「許可する」
拒めば、さらに距離ができる。
自由街では、視察団を迎える準備が整う。
華やかな歓迎はない。
帳簿と倉庫と、保証基金の記録。
「ここが基金の管理室です」
側近が説明する。
若い貴族が驚く。
「王宮より透明だ」
その一言が重い。
アイリスは視察団に言う。
「制度は誰のものでもありません」
「では誰が守るのです」
「守ると決めた人です」
単純な答え。
だが真理。
夜。
王太子は報告書を読む。
視察団の感想。
批判はない。
むしろ評価。
「……学ぶべきか」
呟きは小さい。
王冠は軽い。
だが完全に失われてはいない。
港では、両替商の灯りが増える。
王都の灯りは減らない。
ただ、中心がずれていく。
静かな移転。
剣も怒号もない。
だが確実に。
王国の重心は、ゆっくりと港へ移っていた。
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