34 / 38
第三十六話 祝われない決断
しおりを挟む
第三十六話 祝われない決断
西方公国への制度支援が正式に発表された日、王都は不思議な静けさに包まれていた。
凱旋もない。
歓声もない。
祝宴もない。
ただ、一枚の公文書が出された。
「王国は、西方公国の制度再設計に助言を行う」
それだけ。
王宮の広間では、重臣たちがざわめく。
「助けるのか」
「失敗した相手を」
「競合だぞ」
王太子は立ち上がる。
「競合ではない」
声は穏やかだ。
「制度は争うものではない」
その言葉に、反論は出ない。
自由街。
アイリスは南方連合の女伯と対面していた。
「寛大ですね」
女伯は言う。
「独占する機会でもあったでしょう」
「独占は、次の失敗を生みます」
アイリスは答える。
「広がるなら、土台を整えた方が良い」
女伯はしばらく黙り、やがて小さく笑う。
「あなたは、本当に公爵令嬢なのですね」
皮肉ではない。
評価だった。
王宮と港の共同チームが西方へ派遣される。
保証基金の再算定。
拠出基準の見直し。
監査頻度の調整。
地道な作業。
目立たない。
だが確実。
王都では、商人たちが囁く。
「王国は揺れないな」
「焦らない」
「安心だ」
安心。
またその言葉。
夜。
王太子とアイリスは港で並ぶ。
久しぶりの沈黙。
「祝われないな」
王太子が言う。
「祝う理由がありません」
「成功だぞ」
「当然のことです」
王太子は苦笑する。
かつてなら、勝利宣言をしていた。
だが今は違う。
制度は、派手さを求めない。
積み重ねを求める。
セシリアは王宮の窓辺で夜景を見ていた。
姉のことを思う。
奪った婚約。
奪った未来。
あの時、奪うことが正しいと思っていた。
だが今は違う。
積む。
守る。
並ぶ。
祝われない決断。
それは地味で、拍手もない。
だが王国の灯りは揺れていない。
港の灯りも揺れていない。
西方公国の灯りも、再び安定し始めている。
勝ったわけではない。
奪ったわけでもない。
ただ、支えた。
それだけ。
夜風が吹く。
三つの国の旗が揺れる。
祝われない決断が、国境を越えた。
王国はもう、争う物語の中心ではない。
支える物語の中心になっていた。
西方公国への制度支援が正式に発表された日、王都は不思議な静けさに包まれていた。
凱旋もない。
歓声もない。
祝宴もない。
ただ、一枚の公文書が出された。
「王国は、西方公国の制度再設計に助言を行う」
それだけ。
王宮の広間では、重臣たちがざわめく。
「助けるのか」
「失敗した相手を」
「競合だぞ」
王太子は立ち上がる。
「競合ではない」
声は穏やかだ。
「制度は争うものではない」
その言葉に、反論は出ない。
自由街。
アイリスは南方連合の女伯と対面していた。
「寛大ですね」
女伯は言う。
「独占する機会でもあったでしょう」
「独占は、次の失敗を生みます」
アイリスは答える。
「広がるなら、土台を整えた方が良い」
女伯はしばらく黙り、やがて小さく笑う。
「あなたは、本当に公爵令嬢なのですね」
皮肉ではない。
評価だった。
王宮と港の共同チームが西方へ派遣される。
保証基金の再算定。
拠出基準の見直し。
監査頻度の調整。
地道な作業。
目立たない。
だが確実。
王都では、商人たちが囁く。
「王国は揺れないな」
「焦らない」
「安心だ」
安心。
またその言葉。
夜。
王太子とアイリスは港で並ぶ。
久しぶりの沈黙。
「祝われないな」
王太子が言う。
「祝う理由がありません」
「成功だぞ」
「当然のことです」
王太子は苦笑する。
かつてなら、勝利宣言をしていた。
だが今は違う。
制度は、派手さを求めない。
積み重ねを求める。
セシリアは王宮の窓辺で夜景を見ていた。
姉のことを思う。
奪った婚約。
奪った未来。
あの時、奪うことが正しいと思っていた。
だが今は違う。
積む。
守る。
並ぶ。
祝われない決断。
それは地味で、拍手もない。
だが王国の灯りは揺れていない。
港の灯りも揺れていない。
西方公国の灯りも、再び安定し始めている。
勝ったわけではない。
奪ったわけでもない。
ただ、支えた。
それだけ。
夜風が吹く。
三つの国の旗が揺れる。
祝われない決断が、国境を越えた。
王国はもう、争う物語の中心ではない。
支える物語の中心になっていた。
0
あなたにおすすめの小説
その言葉、今さらですか?あなたが落ちぶれても、もう助けてあげる理由はありません
有賀冬馬
恋愛
「君は、地味すぎるんだ」――そう言って、辺境伯子息の婚約者はわたしを捨てた。
彼が選んだのは、華やかで社交界の華と謳われる侯爵令嬢。
絶望の淵にいたわたしは、道で倒れていた旅人を助ける。
彼の正体は、なんと隣国の皇帝だった。
「君の優しさに心を奪われた」優しく微笑む彼に求婚され、わたしは皇妃として新たな人生を歩み始める。
一方、元婚約者は選んだ姫に裏切られ、すべてを失う。
助けを乞う彼に、わたしは冷たく言い放つ。
「あなたを助ける義理はありません」。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ごめんなさい、私、今すごく幸せなので、もう貴方には興味ないんです
有賀冬馬
恋愛
「君は聖女に不相応だ」。
その言葉と共に、私は婚約者だった神殿騎士団長に捨てられ、都を追放された。
絶望の中、辿り着いた山奥の村で出会ったのは、私を誰よりも大切にしてくれる竜騎士様。
優しい彼との出会いが、私の世界を変えてくれた。
一方、私を切り捨てた都の神殿では、汚職が発覚し、元婚約者と新しい聖女は破滅へ。
落ちぶれ果てた彼が私の前に現れた時、私の隣には、かけがえのない人がいました。
もう貴方には、微塵も未練なんてありませんから。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
私を捨てた婚約者へ――あなたのおかげで幸せです
有賀冬馬
恋愛
「役立たずは消えろ」
理不尽な理由で婚約を破棄された伯爵令嬢アンナ。
涙の底で彼女を救ったのは、かつて密かに想いを寄せてくれた完璧すぎる男性――
名門貴族、セシル・グラスフィット。
美しさ、強さ、優しさ、すべてを兼ね備えた彼に愛され、
アンナはようやく本当の幸せを手に入れる。
そんな中、落ちぶれた元婚約者が復縁を迫ってくるけれど――
心優しき令嬢が報われ、誰よりも愛される、ざまぁ&スカッと恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる