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第10話 黒い影、結界塔へ侵入
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第10話 黒い影、結界塔へ侵入
塔全体を揺らした“不気味なひび割れ音”は、その後も断続的に続いた。
フェリシェールはアレンの指示どおり訓練室の奥へ下がりながら、震える指先を必死に押さえた。
「殿下……結界が……本当に破られてしまうのですか……?」
「まだ破られてはいない。だが……攻撃されている」
アレンは塔の中心に刻まれた結界核へと向けて魔力探知を強めた。 額に薄く汗が浮かび、その表情は、フェリシェールがこれまで見たどんな時より厳しかった。
「フェリシェール、絶対に私から離れるな。
奴は“君の魔力”を狙っている。結界塔そのものではない」
「……はい」
塔に響く音が、さらに大きくなる。
ぎぃ……ばきん……。
まるで硬いガラスに針を何度も突き刺すような、嫌な音。
アレンは剣を抜きながら、低く呟いた。
「結界に直接干渉するとは……ただの魔術師ではないな。
禁術を使っている……あの魔力の質は危険すぎる」
「ディアスは……人ではないと?」
「少なくとも、もう“普通の魔術師”ではない。
禁術に身体を侵食されている可能性が高い」
フェリシェールは息を飲む。
(だから……ずっと感じていた黒い靄……あれは)
ディアスの魔力は、自然の魔法ではない。
嫉妬や執着を煮詰めたような、粘つく悪意そのものだった。
ドン……!
塔の外壁が一瞬、震えた。
その衝撃で天井の魔法灯が大きく揺れる。
「きゃ……!」
フェリシェールは思わず体を縮める。
「大丈夫だ。結界そのものはまだ健在だ。
破るには相当の力が必要……だが」
「だが……?」
「奴は“その力”をすでに持っている可能性がある」
アレンの声が低く落ちた瞬間――
塔内部の空気が、突然冷たく沈んだ。
魔力の“圧”が変わった。
ぞくり……。
フェリシェールの背中に、氷の爪で引っかかれたような感覚が走る。
「殿下……何かが……近づいてきています」
「ああ、感じる。
……結界が、内側に向かって“押されている”」
アレンが剣を構えたその時。
バキィン!!
結界塔の入口側から、はっきりと“割れた音”が響いた。
「今の……!」
「一部が……破られたか」
塔全体に張り巡らされた強固な防御陣。
その一部が、今、外側から抉るように壊されたのだ。
(ディアスが……入ってくる)
「フェリシェール、下がれ。私の後ろへ」
「殿下……!」
「言うとおりに」
きっぱりした声に押され、フェリシェールは一歩下がる。
塔の奥へ向かう通路の前にアレンが立ち塞がる形となる。
その瞬間――
視界の端に“黒いもの”が滑り込んできた。
ふわり。
それは煙のようであり、影のようでもあった。
しかし煙とは違い、意志を持ったようにまとわりつく。
「こ……これは……!」
「ディアスの魔力の残滓だ。
だが、まだ“本体”ではない。影だけを先に送り込んだようだ」
黒い靄はふよふよと漂いながら、まっすぐフェリシェールの方向へ伸び始めた。
冷たい悪意が皮膚を刺す。
「あっ……!」
アレンが即座に剣で魔力障壁を展開する。
ぎん、と空気が震え、靄は障壁に触れた瞬間弾き飛ばされた。
「ふざけるな。
貴様に触れさせるものか」
その言葉には、今まで聞いたことがないほどの怒りが籠もっていた。
フェリシェールは胸が熱くなる。
(殿下……私のために、怒ってくれている……)
しかし、安心したのも束の間。
塔の入口から、足音が響いた。
コツ……コツ……コツ……。
その音は、ゆっくりと、確実にこちらへ向かっている。
アレンの表情が、鋭い刃物のように張りつめた。
「来る」
足音が近づく。
フェリシェールは息を止めた。
そして――
影が、塔の入口に姿を現した。
「やっと……見つけた」
その声は、ねっとりと湿った音を含んだ声だった。
黒いローブをまとった男。
その肌は不自然に白く、瞳は濁った赤。
元は優秀な宮廷魔術師だったはずのディアスが、そこに立っていた。
その姿は、もう“人間”ではなかった。
「フェリシェール……やっぱり、ここにいたんだね。
君の魔力……ずっと、ずっと呼んでいたよ」
ディアスの視線は、最初からアレンを無視し、フェリシェールだけを見つめていた。
「気持ち悪い視線を向けるな」
アレンが冷たく言い放つ。
「王太子殿下。
どうして邪魔をするんです?
フェリシェールは……僕と“繋がっている”んですよ」
「繋がってなどいない。
二度と口にするな」
アレンが剣先を向けた。
「殿下……危険です……!」
フェリシェールは思わず手を伸ばす。
しかしアレンは首を振り、ただ一言だけ告げた。
「恐がるな。
……私は、君を渡さない」
ディアスの口元がゆっくりと歪む。
「じゃあ……壊すしかないね」
次の瞬間、塔の空気が黒く染まった。
アレンとディアス。
両者の魔力が、塔の内部で激突しようとしていた。
塔全体を揺らした“不気味なひび割れ音”は、その後も断続的に続いた。
フェリシェールはアレンの指示どおり訓練室の奥へ下がりながら、震える指先を必死に押さえた。
「殿下……結界が……本当に破られてしまうのですか……?」
「まだ破られてはいない。だが……攻撃されている」
アレンは塔の中心に刻まれた結界核へと向けて魔力探知を強めた。 額に薄く汗が浮かび、その表情は、フェリシェールがこれまで見たどんな時より厳しかった。
「フェリシェール、絶対に私から離れるな。
奴は“君の魔力”を狙っている。結界塔そのものではない」
「……はい」
塔に響く音が、さらに大きくなる。
ぎぃ……ばきん……。
まるで硬いガラスに針を何度も突き刺すような、嫌な音。
アレンは剣を抜きながら、低く呟いた。
「結界に直接干渉するとは……ただの魔術師ではないな。
禁術を使っている……あの魔力の質は危険すぎる」
「ディアスは……人ではないと?」
「少なくとも、もう“普通の魔術師”ではない。
禁術に身体を侵食されている可能性が高い」
フェリシェールは息を飲む。
(だから……ずっと感じていた黒い靄……あれは)
ディアスの魔力は、自然の魔法ではない。
嫉妬や執着を煮詰めたような、粘つく悪意そのものだった。
ドン……!
塔の外壁が一瞬、震えた。
その衝撃で天井の魔法灯が大きく揺れる。
「きゃ……!」
フェリシェールは思わず体を縮める。
「大丈夫だ。結界そのものはまだ健在だ。
破るには相当の力が必要……だが」
「だが……?」
「奴は“その力”をすでに持っている可能性がある」
アレンの声が低く落ちた瞬間――
塔内部の空気が、突然冷たく沈んだ。
魔力の“圧”が変わった。
ぞくり……。
フェリシェールの背中に、氷の爪で引っかかれたような感覚が走る。
「殿下……何かが……近づいてきています」
「ああ、感じる。
……結界が、内側に向かって“押されている”」
アレンが剣を構えたその時。
バキィン!!
結界塔の入口側から、はっきりと“割れた音”が響いた。
「今の……!」
「一部が……破られたか」
塔全体に張り巡らされた強固な防御陣。
その一部が、今、外側から抉るように壊されたのだ。
(ディアスが……入ってくる)
「フェリシェール、下がれ。私の後ろへ」
「殿下……!」
「言うとおりに」
きっぱりした声に押され、フェリシェールは一歩下がる。
塔の奥へ向かう通路の前にアレンが立ち塞がる形となる。
その瞬間――
視界の端に“黒いもの”が滑り込んできた。
ふわり。
それは煙のようであり、影のようでもあった。
しかし煙とは違い、意志を持ったようにまとわりつく。
「こ……これは……!」
「ディアスの魔力の残滓だ。
だが、まだ“本体”ではない。影だけを先に送り込んだようだ」
黒い靄はふよふよと漂いながら、まっすぐフェリシェールの方向へ伸び始めた。
冷たい悪意が皮膚を刺す。
「あっ……!」
アレンが即座に剣で魔力障壁を展開する。
ぎん、と空気が震え、靄は障壁に触れた瞬間弾き飛ばされた。
「ふざけるな。
貴様に触れさせるものか」
その言葉には、今まで聞いたことがないほどの怒りが籠もっていた。
フェリシェールは胸が熱くなる。
(殿下……私のために、怒ってくれている……)
しかし、安心したのも束の間。
塔の入口から、足音が響いた。
コツ……コツ……コツ……。
その音は、ゆっくりと、確実にこちらへ向かっている。
アレンの表情が、鋭い刃物のように張りつめた。
「来る」
足音が近づく。
フェリシェールは息を止めた。
そして――
影が、塔の入口に姿を現した。
「やっと……見つけた」
その声は、ねっとりと湿った音を含んだ声だった。
黒いローブをまとった男。
その肌は不自然に白く、瞳は濁った赤。
元は優秀な宮廷魔術師だったはずのディアスが、そこに立っていた。
その姿は、もう“人間”ではなかった。
「フェリシェール……やっぱり、ここにいたんだね。
君の魔力……ずっと、ずっと呼んでいたよ」
ディアスの視線は、最初からアレンを無視し、フェリシェールだけを見つめていた。
「気持ち悪い視線を向けるな」
アレンが冷たく言い放つ。
「王太子殿下。
どうして邪魔をするんです?
フェリシェールは……僕と“繋がっている”んですよ」
「繋がってなどいない。
二度と口にするな」
アレンが剣先を向けた。
「殿下……危険です……!」
フェリシェールは思わず手を伸ばす。
しかしアレンは首を振り、ただ一言だけ告げた。
「恐がるな。
……私は、君を渡さない」
ディアスの口元がゆっくりと歪む。
「じゃあ……壊すしかないね」
次の瞬間、塔の空気が黒く染まった。
アレンとディアス。
両者の魔力が、塔の内部で激突しようとしていた。
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