39 / 40
第39話 王宮の影/フェリシェール誘拐未遂
しおりを挟む
第39話 王宮の影/フェリシェール誘拐未遂
王宮での処分発表から三日後。
王都ラダニアンは、まるで祝祭のような熱気に包まれていた。
「王太子殿下のお相手はフェリシェール様らしい!」
「ついに正式に王妃候補が選ばれるのか!」
「クラリッサ嬢は爵位剥奪だって…」
噂は瞬く間に広がり、人々は期待と興奮で浮き足立っていた。
だが――
そんな中で、一部の貴族の間には別の“動き”があった。
彼らは小声で囁き合う。
「王太子妃が決まれば、我らの派閥は弱まる」
「フェリシェールは中立。どこの派閥にも属さない」
「ならば――排除するしかあるまい」
その“影”は、すでにフェリシェールの周囲を狙って動き始めていた。
王宮内・フェリシェールの部屋
フェリシェールは小さな箱を開き、息を呑んだ。
中には、淡い紫色のドレス。
ラヴィンが王妃候補としての“正式な衣装”として贈ってくれたものだった。
「……綺麗……」
着るのが怖いほどの美しさ。
王太子の隣に立つために作られたその衣装は、フェリシェールの胸に重くのしかかる。
(本当に……私が、殿下の隣に立つ日が来るの?)
不安と喜びが混じった気持ちを抱えていると――
コンコン、と控えめなノックが響いた。
「フェリシェール様、侍女のリリナでございます。お茶をお持ちしました」
「ありがとう、リリナ。入ってちょうだい」
扉が開き、優しい笑顔の侍女が盆を持って入ってきた。
だがその背後――フェリシェールは、わずかな違和感を覚えた。
(……この香り……?)
盆から漂う匂い。
それは、王宮では使われない種類の香草の香りだった。
フェリシェールが眉を寄せた瞬間。
リリナの表情が、ふっと冷たく変わった。
「……気づきましたか。さすがですね」
「あなた……誰?」
侍女は軽く肩をすくめた。
「心配なく。毒ではありません。
ただ……少し眠っていただくだけですわ」
そう言って、盆を傾けた。
次の瞬間、濃い香りがフェリシェールの鼻を突き――
視界が揺れ始める。
(……まさか……)
必死に後ずさるが、足から力が抜けていく。
「あなたを排除すれば、殿下は我らの望む相手と結ばれる。
あなたさえ消えれば――」
「……誰が……そんなことを……」
問いかける声も震え、霞む視界の中で侍女の偽者が近づいてくる。
「ご安心を。命は取られません。ただ、少し国の外へ連れていくだけ」
「……そんな……勝手な……」
床に倒れ込むフェリシェール。
そして――
侍女の偽者が手を伸ばし、彼女を連れ出そうとしたその瞬間。
扉が吹き飛ぶ勢いで開いた。
「――フェリシェ!」
鋭い声。
そこに立っていたのはラヴィンだった。
侍女の偽者が目を見開く。
「なぜここに……!」
「フェリシェールの魔力反応が急に乱れた。お前の仕業だな」
ラヴィンは腰の剣を抜き、迷いなく踏み出した。
「フェリシェに触れるな」
その声音は、王太子ではなく――
愛する者を奪われかけた、一人の男のものだった。
「くっ……!」
侍女の偽者は身を翻し、窓から逃げようとした。
ラヴィンが一歩追いかけようとしたが――
「ラヴィン様……」
倒れたフェリシェールの弱い声に、彼は振り返った。
「フェリシェ……!」
急いで抱き起こし、震える手でその頬に触れる。
「すまない……もっと早く来るべきだった」
「大……丈夫……ですわ……」
「無理に喋るな。医師を呼ぶ」
扉の外では護衛が走り回り、王宮は一気に騒然となった。
フェリシェールは、揺れる視界の中でラヴィンの顔を必死に見つめた。
(殿下……助けに来てくれた……)
その事実だけが、恐怖を押し流し、心を温かくする。
意識が落ちる直前、彼女はかすかに微笑んだ。
「……殿下……ありがとう……」
ラヴィンは彼女を強く抱きしめた。
「必ず守る。
もう二度と、誰にも……きみを奪わせない」
その宣言は、フェリシェールの最後の意識に届き、静かに夜へ溶けていった。
そして王宮は――
次なる“裁き”へ向かって大きく動き出す。
---
王宮での処分発表から三日後。
王都ラダニアンは、まるで祝祭のような熱気に包まれていた。
「王太子殿下のお相手はフェリシェール様らしい!」
「ついに正式に王妃候補が選ばれるのか!」
「クラリッサ嬢は爵位剥奪だって…」
噂は瞬く間に広がり、人々は期待と興奮で浮き足立っていた。
だが――
そんな中で、一部の貴族の間には別の“動き”があった。
彼らは小声で囁き合う。
「王太子妃が決まれば、我らの派閥は弱まる」
「フェリシェールは中立。どこの派閥にも属さない」
「ならば――排除するしかあるまい」
その“影”は、すでにフェリシェールの周囲を狙って動き始めていた。
王宮内・フェリシェールの部屋
フェリシェールは小さな箱を開き、息を呑んだ。
中には、淡い紫色のドレス。
ラヴィンが王妃候補としての“正式な衣装”として贈ってくれたものだった。
「……綺麗……」
着るのが怖いほどの美しさ。
王太子の隣に立つために作られたその衣装は、フェリシェールの胸に重くのしかかる。
(本当に……私が、殿下の隣に立つ日が来るの?)
不安と喜びが混じった気持ちを抱えていると――
コンコン、と控えめなノックが響いた。
「フェリシェール様、侍女のリリナでございます。お茶をお持ちしました」
「ありがとう、リリナ。入ってちょうだい」
扉が開き、優しい笑顔の侍女が盆を持って入ってきた。
だがその背後――フェリシェールは、わずかな違和感を覚えた。
(……この香り……?)
盆から漂う匂い。
それは、王宮では使われない種類の香草の香りだった。
フェリシェールが眉を寄せた瞬間。
リリナの表情が、ふっと冷たく変わった。
「……気づきましたか。さすがですね」
「あなた……誰?」
侍女は軽く肩をすくめた。
「心配なく。毒ではありません。
ただ……少し眠っていただくだけですわ」
そう言って、盆を傾けた。
次の瞬間、濃い香りがフェリシェールの鼻を突き――
視界が揺れ始める。
(……まさか……)
必死に後ずさるが、足から力が抜けていく。
「あなたを排除すれば、殿下は我らの望む相手と結ばれる。
あなたさえ消えれば――」
「……誰が……そんなことを……」
問いかける声も震え、霞む視界の中で侍女の偽者が近づいてくる。
「ご安心を。命は取られません。ただ、少し国の外へ連れていくだけ」
「……そんな……勝手な……」
床に倒れ込むフェリシェール。
そして――
侍女の偽者が手を伸ばし、彼女を連れ出そうとしたその瞬間。
扉が吹き飛ぶ勢いで開いた。
「――フェリシェ!」
鋭い声。
そこに立っていたのはラヴィンだった。
侍女の偽者が目を見開く。
「なぜここに……!」
「フェリシェールの魔力反応が急に乱れた。お前の仕業だな」
ラヴィンは腰の剣を抜き、迷いなく踏み出した。
「フェリシェに触れるな」
その声音は、王太子ではなく――
愛する者を奪われかけた、一人の男のものだった。
「くっ……!」
侍女の偽者は身を翻し、窓から逃げようとした。
ラヴィンが一歩追いかけようとしたが――
「ラヴィン様……」
倒れたフェリシェールの弱い声に、彼は振り返った。
「フェリシェ……!」
急いで抱き起こし、震える手でその頬に触れる。
「すまない……もっと早く来るべきだった」
「大……丈夫……ですわ……」
「無理に喋るな。医師を呼ぶ」
扉の外では護衛が走り回り、王宮は一気に騒然となった。
フェリシェールは、揺れる視界の中でラヴィンの顔を必死に見つめた。
(殿下……助けに来てくれた……)
その事実だけが、恐怖を押し流し、心を温かくする。
意識が落ちる直前、彼女はかすかに微笑んだ。
「……殿下……ありがとう……」
ラヴィンは彼女を強く抱きしめた。
「必ず守る。
もう二度と、誰にも……きみを奪わせない」
その宣言は、フェリシェールの最後の意識に届き、静かに夜へ溶けていった。
そして王宮は――
次なる“裁き”へ向かって大きく動き出す。
---
2
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜
黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。
しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった!
不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。
そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。
「お前は、俺の宝だ」
寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。
一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……?
植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです
有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」
そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。
社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。
そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。
過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。
そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。
「君が隣にいない宮廷は退屈だ」
これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。
何も決めなかった王国は、静かに席を失う』
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。
だが――
彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。
ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。
婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。
制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく――
けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。
一方、帝国は違った。
完璧ではなくとも、期限内に返事をする。
責任を分け、判断を止めない。
その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。
王国は滅びない。
だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。
――そして迎える、最後の選択。
これは、
剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。
何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。
婚約者が最凶すぎて困っています
白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。
そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。
最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。
*幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。
*不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。
*作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。
*カクヨム。小説家になろうにも投稿。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、なぜか変人侯爵に溺愛されてます
春夜夢
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢・レイナは、王子とその「自称ヒロイン」の公開断罪を、冷静に受け入れた――いや、むしろ内心大喜びだった。
自由を手に入れたレイナが次に出会ったのは、変人と名高い天才侯爵様。なぜか彼から猛烈な溺愛求婚が始まって……!?
「君がいい。契約結婚でも構わないから、今すぐ結婚してくれ」
「……私、今しがた婚約破棄されたばかりなのですが」
婚約破棄から始まる、予測不能な溺愛ラブコメディ。
策士な令嬢と、ちょっとズレた変人侯爵様の恋の行方は――?
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる