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第二十二話 壺の中身
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第二十二話 壺の中身
来客用廊下の中央に置かれた大きな装飾壺。
誰も近づかない場所に、誰も気にしないまま置かれている。
エルマは今日の担当を終えたあと、ふと思い立った。
「ここも、きれいにします」
頼まれてはいない。
だが目についた。
踏み台を持ってくる。
はたきを軽く当てる。
ほんの少しだけ、縁に触れた。
がくり。
壺が揺れる。
「あ」
両手で支える。
重い。
踏み台がわずかに軋む。
そして。
ゆっくりと前へ。
ぱりん。
廊下に響く音。
だが、今はちょうど昼下がり。
人の気配は遠い。
誰も来ない。
静かだ。
エルマはしゃがみ込む。
「割れました」
周囲を見回す。
誰もいない。
ほっとする。
破片を集めようとして、手が止まる。
壺の中。
丸められた紙束。
「……?」
取り出す。
紐が結ばれている。
開いていいのか迷う。
少し考える。
「お嬢様に」
それが正解だと判断する。
踏み台を片付け、破片を端に寄せる。
壺の残骸はそのまま。
紙だけを抱えて、ヴィオレッタの自室へ向かう。
扉を叩く。
「お嬢様」
「何かしら」
「壺が割れました」
「……そう」
慣れている声。
「怪我は?」
「ありません」
「では入りなさい」
部屋に入る。
エルマは紙束を差し出す。
「中に、何か入っていました」
ヴィオレッタは受け取る。
紐をほどく。
広げる。
帳簿形式。
数字。
日付。
王宮提出用とは違う記載。
差額。
沈黙。
エルマは不安そうに見る。
「だめでしたか?」
「いいえ」
静かな声。
「とても、よくできました」
「壺を割ったのにですか?」
「ええ」
視線は紙から離れない。
「壺は、役目を終えただけですわ」
エルマは理解していない。
「壺の役目?」
「ええ」
ふっと微笑む。
「中身を出すこと」
紙を机に置く。
壺の話はそれ以上しない。
「破片は?」
「端に寄せました」
「後で処理させます」
「怒られますか?」
「まだ、誰も知りません」
エルマは安堵する。
「よかったです」
ヴィオレッタは椅子に座り、帳簿をもう一度開く。
壺。
偶然。
だが。
指でなぞる数字。
覚えのある項目。
以前、別の場面で見た違和感と、繋がる。
「……ふふ」
小さく漏れる。
声を押し殺す。
笑いではない。
確信でもない。
ただ、面白い。
「エルマ」
「はい」
「今日はもう、何も触らなくていいわ」
「触りません」
「絶対に」
「はい」
エルマは素直に頷く。
部屋を出ていく。
扉が閉まる。
静寂。
ヴィオレッタはゆっくりと背もたれに寄りかかる。
壺は割れた。
だが、割れたのは偶然か。
それとも。
「また、ですの」
独り言。
誰も聞いていない。
まだ誰も知らない。
屋敷は静かだ。
だが、どこかにひびが入った音が、確かに残っていた。
来客用廊下の中央に置かれた大きな装飾壺。
誰も近づかない場所に、誰も気にしないまま置かれている。
エルマは今日の担当を終えたあと、ふと思い立った。
「ここも、きれいにします」
頼まれてはいない。
だが目についた。
踏み台を持ってくる。
はたきを軽く当てる。
ほんの少しだけ、縁に触れた。
がくり。
壺が揺れる。
「あ」
両手で支える。
重い。
踏み台がわずかに軋む。
そして。
ゆっくりと前へ。
ぱりん。
廊下に響く音。
だが、今はちょうど昼下がり。
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誰も来ない。
静かだ。
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「割れました」
周囲を見回す。
誰もいない。
ほっとする。
破片を集めようとして、手が止まる。
壺の中。
丸められた紙束。
「……?」
取り出す。
紐が結ばれている。
開いていいのか迷う。
少し考える。
「お嬢様に」
それが正解だと判断する。
踏み台を片付け、破片を端に寄せる。
壺の残骸はそのまま。
紙だけを抱えて、ヴィオレッタの自室へ向かう。
扉を叩く。
「お嬢様」
「何かしら」
「壺が割れました」
「……そう」
慣れている声。
「怪我は?」
「ありません」
「では入りなさい」
部屋に入る。
エルマは紙束を差し出す。
「中に、何か入っていました」
ヴィオレッタは受け取る。
紐をほどく。
広げる。
帳簿形式。
数字。
日付。
王宮提出用とは違う記載。
差額。
沈黙。
エルマは不安そうに見る。
「だめでしたか?」
「いいえ」
静かな声。
「とても、よくできました」
「壺を割ったのにですか?」
「ええ」
視線は紙から離れない。
「壺は、役目を終えただけですわ」
エルマは理解していない。
「壺の役目?」
「ええ」
ふっと微笑む。
「中身を出すこと」
紙を机に置く。
壺の話はそれ以上しない。
「破片は?」
「端に寄せました」
「後で処理させます」
「怒られますか?」
「まだ、誰も知りません」
エルマは安堵する。
「よかったです」
ヴィオレッタは椅子に座り、帳簿をもう一度開く。
壺。
偶然。
だが。
指でなぞる数字。
覚えのある項目。
以前、別の場面で見た違和感と、繋がる。
「……ふふ」
小さく漏れる。
声を押し殺す。
笑いではない。
確信でもない。
ただ、面白い。
「エルマ」
「はい」
「今日はもう、何も触らなくていいわ」
「触りません」
「絶対に」
「はい」
エルマは素直に頷く。
部屋を出ていく。
扉が閉まる。
静寂。
ヴィオレッタはゆっくりと背もたれに寄りかかる。
壺は割れた。
だが、割れたのは偶然か。
それとも。
「また、ですの」
独り言。
誰も聞いていない。
まだ誰も知らない。
屋敷は静かだ。
だが、どこかにひびが入った音が、確かに残っていた。
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