見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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16-1 シビック王子の野心

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第16章 シビック編

16-1 シビック王子の野心

 リュミエール王国第三王子――シビック・リュミエール。
 生まれながらにして王族の地位を与えられた彼は、幼い頃から他の兄弟たちと比較され続けてきた。

 長兄アコードは生まれながらの王太子として完璧な資質を持ち、
 次兄は早逝、
 そして第四王子セドリックは誠実で温厚な人格者として、民にも臣下にも愛されていた。

 ――だが、シビックには何もない。

 誰もがアコードの次に期待を寄せ、
 セドリックを「理想の王子」と讃える中、
 シビックは常に「比較の対象」でしかなかった。

 だからこそ、彼の中には静かに、しかし確実に野心の炎が燃え上がった。


---

 表向き、シビックは柔らかな微笑を絶やさぬ王子として知られていた。
 礼儀正しく、会話も穏やか。
 だが、裏では人の心を操ることに長け、
 王宮内の情報戦を誰よりも早く掌握していた。

 (兄上も……セドリックも……あまりに“正しすぎる”。)

 理想を掲げる者ほど、必ず隙が生まれる。
 そして、その隙を突くのが自分の役目だと信じていた。

 「王冠は、正義の証ではない。掴み取る力の象徴だ」

 それが、彼が信じる唯一の真理だった。


---

 青年期に入ると、シビックは裏社会にも精通するようになった。
 貴族の密約、市場の動向、商人たちの資金の流れ――
 全てを読み解き、掌の上に収めていった。

 表の政治は兄アコードの舞台。
 だが、裏の権力は確実にシビックの手の中にあった。

 「人を動かすのは、愛でも信頼でもない。
  恐怖と欲望――それだけで十分だ」

 彼の冷徹な笑みを見た者は、誰一人として逆らおうとはしなかった。


---

 そんな中、ある噂が王都に届いた。

 ――ディオール公爵令嬢、セリカ。
 四歳にして領地運営を補佐し、成人貴族をも凌駕する才覚を持つ少女。

 リュミエール国内外の貴族が彼女との縁を求め、
 さらに第四王子セドリックまでもが彼女との婚約を検討しているという。

 「……セドリック、か」

 シビックは書簡を指先で弄びながら、くつくつと笑った。

 「誠実で理想に溺れた弟君。
  彼は愛を語るが、私は“支配”を語ろう」

 セリカ・ディオール。
 その名は、シビックにとってただの“婚約相手”ではなかった。
 彼女が持つ天才的な知恵と、ディオール家の圧倒的な経済力。
 それは、王国を裏から動かすための完璧な駒だった。


---

 夜の宮廷。
 高窓から差し込む月光の下、
 シビックはワインを傾け、独り言のように呟いた。

 「ディオール家を味方につければ、
  アコードの政治も、セドリックの理想も、すべて無力になる」

 グラスの中の赤が揺れる。
 それは血にも似た色をしていた。

 「セリカ・ディオール――
  お前は天才かもしれない。だが、天才ほど脆い」

 その瞳は冷ややかに光り、
 まるで未来を見通すように王都の灯を見下ろしていた。

 「私の手に落ちれば、
  お前の知恵も、領地も、すべて私の武器となる」


---

 翌朝、執務室に控えていた側近が報告を持ってくる。

 「殿下、ディオール家の使者が王都に到着しました」

 「ふむ……」

 シビックは軽く頷き、書類の上に指を滑らせた。

 「招け。
  “未来の公爵令嬢”とやらが、どれほどのものか……見せてもらおう」

 口元に浮かぶ微笑は、絹のように柔らかく――
 だが、底には氷の刃が隠されていた。


---

 その日から、王国の運命を揺るがす“駆け引き”が始まる。
 野心の王子、シビック・リュミエール。
 彼の静かな策略は、セリカ、そして第四王子セドリックを巻き込みながら、
 王国史上最大の政略劇へと発展していくことになる。


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