見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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16-2 セリカ・ディオールの存在に気づく

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第16章 シビック編

16-2 セリカ・ディオールの存在に気づく

 リュミエール王国第三王子、シビック・リュミエール。
 宮廷の中で彼ほど「静かな危険」と称される男はいなかった。

 常に微笑みを浮かべ、誰に対しても礼儀正しく、穏やかに振る舞う。
 だが、その心の内では、常に権力の地図を描き続けている。
 彼にとって王宮とは“家”ではなく、“盤上”――
 駒を動かし、誰を切り捨て、誰を利用するか。
 それこそが生き残る術であった。

 「王冠は欲しいものではなく、奪うものだ」

 その信念のもと、シビックは密かに情報を集め、
 貴族たちの野望を見透かしては、糸を引くように操ってきた。


---

 ある日、彼のもとに届いた宮廷報告書の一枚が、
 シビックの視線を捉えた。

 ――セリカ・ディオール。

 何度も繰り返し登場するその名に、
 シビックの興味は瞬時に掻き立てられた。

 報告書によれば、ディオール領は近年驚異的な成長を遂げており、
 農業・商業・工業のすべてが異常な速度で発展していた。
 しかも、その中心にいるのはまだ幼い――四歳の少女領主。

 「……四歳の子供が、領地を立て直した?」

 シビックの唇がわずかに吊り上がる。
 嘘のような話だ。だが、報告書は実際の数字で裏付けられていた。

 新しい灌漑施設の整備、流通網の再構築、税制度の改革、
 そして平民教育の導入――。

 まるで未来を先取りするような政策。
 王宮の大臣たちが数十年議論しても結論を出せぬ改革を、
 その少女はわずか数ヶ月で実行していたのだ。

 「セリカ・ディオール……。
  なるほど、ただの天才ではなさそうだ」

 報告書を指先でなぞりながら、
 シビックの脳裏には冷徹な計算式が描かれていく。

 ――ディオール領の経済力。
 ――その領地が持つ肥沃な土地と交易路。
 ――そして、その中心にいる少女の「カリスマ」。

 (これを掌握できれば……リュミエールの心臓を握るのも同然だ)


---

 翌日、シビックは私室に側近たちを集め、静かに命じた。

 「ディオール領の詳細な調査を。
  経済、軍事、教育、すべての記録を最優先で回収しろ。
  特に“セリカ・ディオール”という少女について、
  彼女の言動を逐一報告せよ」

 「はっ」

 忠実な部下たちはすぐに動き出す。
 その中には、宮廷の侍女や商人に化けた密偵も含まれていた。

 王子が求める情報の質と速度は、誰もが恐れるほど徹底していた。


---

 数週間後。
 机の上には、分厚い報告書の山が築かれていた。
 そのすべてが、セリカという少女を中心に回っていた。

 ――領民の信頼が厚く、誰一人として反乱の気配がない。
 ――教育によって子供たちが読み書きを覚え、識字率が急上昇。
 ――商人ギルドとの協定によって、輸出量が三倍に。

 シビックは一枚一枚を読み進めるうちに、
 冷笑を浮かべながら呟いた。

 「まるで……理想の君主だな。
  まったく、あのセドリックめ。
  正義を語るのは弟だけで充分だというのに」

 ディオール領の繁栄は、王国全体の均衡を揺るがす。
 もしセリカが第四王子――セドリックと婚約すれば、
 彼の支持基盤は一気に強固なものになる。

 つまり、それはシビックの野望にとって致命的な障害だった。


---

 だが同時に、彼女は最大の好機でもあった。

 「……利用できる。
  この娘を“手中”に収めれば、
  セドリックの理想も、アコードの王権も、一瞬で崩れる」

 シビックの脳裏に、すでに完璧な計画が浮かんでいた。
 まずは外交的な接近。
 彼女の功績を称賛し、信頼を勝ち取る。

 次に、ディオール領に投資や援助を装った干渉を行い、
 徐々に領地の決定権を王都側に引き寄せる。

 最終的には、セリカ自身を「協力者」に仕立て上げ、
 彼女の名のもとに王国全体を動かす――。


---

 数日後。

 宮廷の大広間で行われた晩餐会。
 黄金のシャンデリアが揺らめく中、
 シビックはゆっくりと歩を進め、ひとりの少女へと視線を向けた。

 ――セリカ・ディオール。

 絹のドレスを纏ったその少女は、まだ四歳とは思えぬほど落ち着いた気品を漂わせ、
 周囲の大人たちに物怖じせず受け答えをしていた。

 「お初にお目にかかります、シビック王子」

 その声音は澄んでいて、まるで春の泉のように透明だった。
 だがその瞳には、彼女の年齢には不釣り合いなほどの聡明な光が宿っていた。

 シビックはその瞬間、確信する。

 ――この少女は、放っておけば王国を変える。

 だからこそ、利用しなければならない。
 その才能も、信念も、すべてを“自分のため”に。


---

 「セリカ・ディオール――
  君という駒は、私の盤上で最高の一手となるだろう」

 シビックの瞳に、夜の炎が宿る。
 その微笑は優雅で、しかしどこまでも冷ややかだった。

 こうして、冷徹な第三王子と天才少女の運命は交差し、
 リュミエール王国の“静かなる戦い”が幕を開けた。


---
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