見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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16-4 ディオール領の重要性を説く

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第16章 シビック編

16-4 ディオール領の重要性を説く

 夜の王都。
 リュミエール城の一角にある王族専用の書斎には、蝋燭の炎が静かに揺れていた。
 その光に照らされ、机に広げられた地図と分厚い報告書に目を走らせるのは――第四王子、シビック・リュミエールである。

 「……ディオール領。」

 その名を、彼はまるで宝石を吟味するように呟いた。
 手元には最新の収穫報告書、交易統計、人口推移、民衆満足度調査……。
 王国中の誰よりも正確で膨大なデータが、彼の前に並んでいる。

 「ただの農業地帯ではない。――経済、軍事、流通。
  どれを取っても、王国の要だ。」

 シビックは指先で地図上の一点をなぞった。
 ディオール領――それは王国南西部、肥沃な大地と交易路の交差点に位置する。
 北には鉱山地帯、南には穀倉地帯、西には他国との国境交易。
 まるで王国の血流を支える“心臓”のような場所だった。

 「ここを押さえれば……王国全体の呼吸を制御できる。」

 その目に、一瞬だけ妖しい光が宿る。


---

 報告書をめくると、次のページには統計が並んでいた。
 収穫量の増加率:前年比二〇〇%。
 交易収入:王国全体の一五%を占める。
 民衆満足度:歴代最高値。

 「……セリカ・ディオール。あの幼い少女が、ここまでの結果を?」

 わずか四歳の少女。だが、彼女の導入した農業改良法と商業振興策は、他領地の貴族たちを唖然とさせた。
 麦と葡萄を同時に育てる交互輪作。灌漑路の再整備。物流路の再編。
 どれも“経験ではなく理論”に基づく行動――常識を超えた手腕だった。

 「やはり、ただの子供ではない……」

 シビックの指が報告書の上をすべり、ひとつの文に止まる。

 > 『セリカ嬢の施策により、王都との直通交易路の復旧完了。』

 「――これだ。」

 リュミエール王国の商業の中心・王都に、最も効率よく物資を運べるルートを掌握する領地。
 つまり、ディオール領が止まれば、王都も止まる。

 「この流通の要を抑えれば……王族の誰も逆らえない。」

 シビックの口元に、冷たい笑みが浮かんだ。


---

 彼は椅子にもたれ、瞼を閉じて思考を巡らせた。

 (セリカを力で従わせるのは得策ではない。彼女は恐らく、支配に耐えられないタイプだ。)
 (ならば、“協力者”を装って取り込む。信頼を得て、結婚を通じて合法的に支配する。)

 脳裏には、晩餐会で見たセリカの姿が蘇る。
 幼いながらも、人々の視線を集める王者の落ち着き。
 どんな王族にも媚びず、けれど無礼ではない――あの均衡感覚。

 「もし、私が王になるとすれば……
  その隣に立つのは、セリカ・ディオールでなければならない。」

 彼は立ち上がり、地図を見下ろす。
 その目は、もはや“王子”のものではなかった。
 未来の支配者の眼光だった。


---

 「ディオール領を手中に収めれば、王国の経済・軍事・外交、すべてを動かせる。
  セリカの知識と指導力を“利用”すれば、私の理想も完成する。」

 シビックは書斎の窓を開け、夜風を吸い込んだ。
 外には王都の灯りが、星のように瞬いている。

 (王国を統べるのは、第一王子ではない。
  第二でも、第三でもない。
  ――私だ。第四王子、シビック・リュミエールこそが。)

 胸の奥から、冷たい野望がじわりと広がっていく。

 「ディオール領は……もはや王国の心臓。
  その鼓動を止めるも、早めるも、私次第――。」

 指先で地図のディオール領を押さえながら、彼は静かに囁いた。

 「セリカ・ディオール。
  君が私の“鍵”だ。
  この王国の未来を、共に――いや、私の手で動かすためのな。」


---

 その夜、蝋燭の火が最後の一滴まで燃え尽きる頃。
 書斎の机には、ひとつの新しい書簡が置かれていた。

 > 『ディオール領との共同事業計画書』

 それは王国の繁栄をうたう提案書。
 だが――その裏には、第四王子による静かで冷徹な征服の第一歩が記されていた。

 そして、その書簡がセリカのもとへ届くのは、三日後の朝のことだった。


---
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