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17-2 シビックの次なる一手
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第17章 セリカ編
17-2 シビックの次なる一手
王宮の夜は、いつだって静寂の中に息を潜めている。
だが今夜、その沈黙を破るように、一室だけが薄暗い灯りに照らされていた。
第四王子シビック・リュミエールは、その部屋の中央で机に肘をつき、
手元の地図をじっと睨んでいた。
「……やはり、セリカ・ディオール。君は容易には屈しないか」
彼の声は低く、冷ややかだった。
先日の講演会――彼女の反応は完璧だった。
礼を失わず、媚びず、そして完全にかわした。
彼が差し出した“協力”の手を、あくまで柔らかく、しかし確実に拒んだのだ。
(子供にしては見事だ。いや……“見事すぎる”。)
その警戒心と知略は、彼が今まで出会ってきた大人たちの誰よりも鋭い。
シビックの胸に、初めて“興味”ではなく“執着”に近い感情が芽生えていた。
---
翌晩。
王宮の奥、限られた者しか入れない密談室。
そこにはシビックの忠実な側近たち――
情報将校のグレン、交易顧問のマルティーノ、そして影の諜報員クロウが集っていた。
机の上には、ディオール領の農業地図と、収穫データが並ぶ。
「殿下、まさか……ディオール領に直接手を出すおつもりですか?」
マルティーノが恐る恐る問いかける。
「直接ではない。だが、“自然に崩れる”よう仕向けるのだ。」
シビックの瞳が、獲物を狙う獣のように光る。
「セリカは聡明だ。こちらから手を伸ばせば、すぐに気づくだろう。
だからこそ――“偶然の不運”を装う。」
その言葉に、クロウが薄く笑った。
「つまり、事故に見せかける、と。」
「そうだ。農作物の病。あるいは水源の汚染でもいい。
だが決して致命的ではなく、“対処が必要な程度”に抑えるんだ。」
「被害が出れば、王家の援助を要請する流れになるでしょう」
グレンが低い声で続けた。
「そしてそこに、あなたが現れる――“救世主”として。」
「フフ……理解が早いな」
シビックの唇に、わずかに愉悦の笑みが浮かぶ。
---
数日後、計画は静かに動き出した。
王都から派遣された商人を装い、シビックの密命を受けた者たちがディオール領に潜入する。
そして、農地の一部に“特定の菌”を混ぜた肥料を流通させた。
ほんの微量。だが、栄養過多を引き起こし、数週間後には病が蔓延する。
さらに、水路沿いでは“不自然な濁り”が観測され始めた。
報告を受けたセリカは、すぐに現地調査を命じた。
彼女の行動は迅速だった。
だが、病の進行速度は彼女の想定を上回っていた。
「……この原因、どうしてこんなに早く広がっているの?」
現場の農夫たちは首を振る。
誰も“原因”を説明できない。
セリカは眉をひそめ、心の奥に不安が広がるのを感じていた。
(偶然にしては――出来すぎている。)
---
一方その頃、王都では。
シビックが窓辺でワインを傾けていた。
赤い液体が揺れるたびに、彼の瞳も紅く光る。
「さて……そろそろ“助け舟”を出す頃合いか」
彼は報告書をめくりながら、わざとらしくため息をつく。
「可哀想に。あの幼い令嬢が、民の苦しみを前にどんな顔をするのか――見ものだな。」
机の上には、すでに用意された一通の手紙があった。
> 『ディオール領の異変について心を痛めております。
> 微力ながら、私の知る農業顧問を派遣させていただければ幸いです。
> 王家としてではなく、“友人”として。
> ――シビック・リュミエール』
完璧な“善意”の体裁。
だがその裏には、冷酷な計算が張り巡らされていた。
---
数日後、ディオール城の執務室。
セリカはその手紙を受け取り、黙って読み進めた。
彼女の表情は変わらない。だが、目の奥だけがわずかに揺れた。
「……このタイミングで、王子から援助の申し出。」
彼女は机に置いたペンを軽く転がす。
「偶然ではありませんわね。あまりにも早すぎますもの。」
エレナが息をのむ。
「セリカ様、まさか……王子が?」
「まだ断定はできません。でも――
“彼が期待している反応”をしてあげるのも、一つの手ですわね。」
セリカはゆっくりと笑った。
その笑みは、無垢な少女のものではなかった。
狩人が罠を見抜き、逆にそこへ誘い込む時の笑みだった。
---
翌朝、王都に返書が届いた。
> 『ご厚意に深く感謝いたします。
> 状況は未だ不安定のため、王子のご助力を賜れれば幸いです。
> ――セリカ・ディオール』
それを読んだシビックは、満足げに微笑んだ。
「ようやく、私の助けを“求めた”か……。
これで、第一段階は完了だ。」
だがその背後で、窓の外に沈む夕陽が不吉な光を放っていた。
その赤は、まるで彼の野望が流す“血の色”を予言しているかのように。
---
そして――
その夜、ディオール領の屋敷では、セリカがエレナに静かに告げた。
「これで、王子の“狙い”が完全に動き出しますわ。
……次はこちらの番です。」
四歳の少女は、ペンを取り、机上の地図にいくつかの印をつける。
「“病の発生源”を辿るの。
その糸の先に、きっと――シビック王子がいるわ。」
エレナは驚愕しながらも、その瞳の奥に宿る光を見た。
それは、幼いながらも王国を揺るがす知略の輝きだった。
---
17-2 シビックの次なる一手
王宮の夜は、いつだって静寂の中に息を潜めている。
だが今夜、その沈黙を破るように、一室だけが薄暗い灯りに照らされていた。
第四王子シビック・リュミエールは、その部屋の中央で机に肘をつき、
手元の地図をじっと睨んでいた。
「……やはり、セリカ・ディオール。君は容易には屈しないか」
彼の声は低く、冷ややかだった。
先日の講演会――彼女の反応は完璧だった。
礼を失わず、媚びず、そして完全にかわした。
彼が差し出した“協力”の手を、あくまで柔らかく、しかし確実に拒んだのだ。
(子供にしては見事だ。いや……“見事すぎる”。)
その警戒心と知略は、彼が今まで出会ってきた大人たちの誰よりも鋭い。
シビックの胸に、初めて“興味”ではなく“執着”に近い感情が芽生えていた。
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翌晩。
王宮の奥、限られた者しか入れない密談室。
そこにはシビックの忠実な側近たち――
情報将校のグレン、交易顧問のマルティーノ、そして影の諜報員クロウが集っていた。
机の上には、ディオール領の農業地図と、収穫データが並ぶ。
「殿下、まさか……ディオール領に直接手を出すおつもりですか?」
マルティーノが恐る恐る問いかける。
「直接ではない。だが、“自然に崩れる”よう仕向けるのだ。」
シビックの瞳が、獲物を狙う獣のように光る。
「セリカは聡明だ。こちらから手を伸ばせば、すぐに気づくだろう。
だからこそ――“偶然の不運”を装う。」
その言葉に、クロウが薄く笑った。
「つまり、事故に見せかける、と。」
「そうだ。農作物の病。あるいは水源の汚染でもいい。
だが決して致命的ではなく、“対処が必要な程度”に抑えるんだ。」
「被害が出れば、王家の援助を要請する流れになるでしょう」
グレンが低い声で続けた。
「そしてそこに、あなたが現れる――“救世主”として。」
「フフ……理解が早いな」
シビックの唇に、わずかに愉悦の笑みが浮かぶ。
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数日後、計画は静かに動き出した。
王都から派遣された商人を装い、シビックの密命を受けた者たちがディオール領に潜入する。
そして、農地の一部に“特定の菌”を混ぜた肥料を流通させた。
ほんの微量。だが、栄養過多を引き起こし、数週間後には病が蔓延する。
さらに、水路沿いでは“不自然な濁り”が観測され始めた。
報告を受けたセリカは、すぐに現地調査を命じた。
彼女の行動は迅速だった。
だが、病の進行速度は彼女の想定を上回っていた。
「……この原因、どうしてこんなに早く広がっているの?」
現場の農夫たちは首を振る。
誰も“原因”を説明できない。
セリカは眉をひそめ、心の奥に不安が広がるのを感じていた。
(偶然にしては――出来すぎている。)
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一方その頃、王都では。
シビックが窓辺でワインを傾けていた。
赤い液体が揺れるたびに、彼の瞳も紅く光る。
「さて……そろそろ“助け舟”を出す頃合いか」
彼は報告書をめくりながら、わざとらしくため息をつく。
「可哀想に。あの幼い令嬢が、民の苦しみを前にどんな顔をするのか――見ものだな。」
机の上には、すでに用意された一通の手紙があった。
> 『ディオール領の異変について心を痛めております。
> 微力ながら、私の知る農業顧問を派遣させていただければ幸いです。
> 王家としてではなく、“友人”として。
> ――シビック・リュミエール』
完璧な“善意”の体裁。
だがその裏には、冷酷な計算が張り巡らされていた。
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数日後、ディオール城の執務室。
セリカはその手紙を受け取り、黙って読み進めた。
彼女の表情は変わらない。だが、目の奥だけがわずかに揺れた。
「……このタイミングで、王子から援助の申し出。」
彼女は机に置いたペンを軽く転がす。
「偶然ではありませんわね。あまりにも早すぎますもの。」
エレナが息をのむ。
「セリカ様、まさか……王子が?」
「まだ断定はできません。でも――
“彼が期待している反応”をしてあげるのも、一つの手ですわね。」
セリカはゆっくりと笑った。
その笑みは、無垢な少女のものではなかった。
狩人が罠を見抜き、逆にそこへ誘い込む時の笑みだった。
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翌朝、王都に返書が届いた。
> 『ご厚意に深く感謝いたします。
> 状況は未だ不安定のため、王子のご助力を賜れれば幸いです。
> ――セリカ・ディオール』
それを読んだシビックは、満足げに微笑んだ。
「ようやく、私の助けを“求めた”か……。
これで、第一段階は完了だ。」
だがその背後で、窓の外に沈む夕陽が不吉な光を放っていた。
その赤は、まるで彼の野望が流す“血の色”を予言しているかのように。
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そして――
その夜、ディオール領の屋敷では、セリカがエレナに静かに告げた。
「これで、王子の“狙い”が完全に動き出しますわ。
……次はこちらの番です。」
四歳の少女は、ペンを取り、机上の地図にいくつかの印をつける。
「“病の発生源”を辿るの。
その糸の先に、きっと――シビック王子がいるわ。」
エレナは驚愕しながらも、その瞳の奥に宿る光を見た。
それは、幼いながらも王国を揺るがす知略の輝きだった。
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