見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお

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18-1 公爵令嬢セリカと影の王子

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第18章 ランディ編

18-1 公爵令嬢セリカと影の王子

 リュミエール王国の南部に広がる豊かな大地――ディオール領。
 その中心にそびえる白亜の館は、今や「奇跡の公爵家」と呼ばれていた。

 この地を治めるのは、わずか四歳の少女。
 その名は――セリカ・ディオール。

 まだ背丈は書見台にも届かぬほど。だが、その瞳の奥には、老練な宰相すら怯むほどの知恵が宿っていた。
 前世の記憶を持つ転生者。
 そして、幼くしてすでに一国の政治を見通す少女である。


---

 セリカはいつも静かに微笑んでいた。
 それは幼子のあどけない笑みではなく、**“計算の果てに生まれた均衡”**だった。

 彼女は決して力を誇示しない。
 領内の人々に優しく接し、必要な時にだけ的確な判断を下す。
 まるでこの小さな体の中に、百人分の賢者が眠っているかのようだった。

 その手腕により、ディオール領は短期間で劇的な発展を遂げる。
 収穫量は倍増し、商業路は整備され、民の暮らしはかつてないほど豊かになった。

 「公爵家の令嬢にして、天が二度祝福した子」
 ――そんな噂が、やがて王都にも届く。


---

 王宮。
 黄金の光が差し込む謁見の間で、一人の王子が報告を受けていた。

 「ディオール領の発展は異常な速度にございます。まるで、未来を見て動いているかのように。」

 報告を聞く男の名は――ランディ・リュミエール。
 リュミエール王国第五王子。
 王族の中でもっとも掴みどころのない存在。

 彼は表舞台に立つことを好まなかった。
 他の王子たちが栄光と称賛を求める中、ランディだけは、静かに「影」を選んだ。

 権力争いを避け、争いの裏側で糸を操る。
 そして――結果だけを手にする。


---

 「セリカ・ディオール……」

 ランディは、金色の瞳を細めた。
 唇に浮かんだ笑みは、興味と警戒の入り混じったもの。

 「四歳にして領地を繁栄させる少女。
  なるほど――まるで“神の駒”のようだ。」

 彼は机の上の報告書を軽く指で叩いた。
 そこには、彼女の提案で成立した数々の施策が詳細に記されている。

 「兄たちが彼女を狙うのも当然か。」
 ランディは薄く笑った。

 兄――第三王子シビックは、野心に溺れる男。
 次兄――第四王子セドリックは、誠実だが融通の利かぬ理想主義者。

 「シビック兄上の“力で支配するやり方”では、セリカは決して動かない。
  セドリック兄上の“誠実さ”では、彼女に届かない。
  ならば――」

 ランディは静かに瞳を閉じる。

 「“影”が導けばいい。」


---

 その日から、彼の策略が動き出した。

 まず彼は、ディオール領に出入りする高官・商人たちを調査し、彼らの関心と弱点を把握した。
 彼自身は一切表に出ず、ただ情報を操る。

 「王子の名を出すな。あくまで“有識者の助言”として伝えろ。」

 そう命じたランディは、商業会議の議題に匿名で意見を流し込ませた。
 やがてそれは、ディオール領の顧問会議で取り上げられ、採用されることになる。

 そして、彼の意見が通るたびに――ディオール領の問題が一つずつ解決していった。


---

 その数週間後。
 セリカは書斎で最新の報告書に目を通していた。

 「この改革案……完璧ですわ。
  でも、提案者の名がない?」

 「はい、匿名の助言者だそうです。
  ですが、彼の意見はすべて的確で……領内の評判も良好です。」

 侍女のエレナが答える。
 セリカは小さく首をかしげた。

 「まるで、私の思考を読んでいるみたいですわね。」

 小さな指で書類をなぞりながら、彼女は考える。
 ――誰かが私を助けている。
 だがその“意図”が、善意なのか計算なのかは、まだ分からない。


---

 数日後。
 執務中のセリカのもとに、家臣が報告に来た。

 「セリカ様。今回の交易路の改修計画……実は、ランディ王子のご助言によるものだそうです。」

 「……ランディ王子?」

 聞き慣れない名に、セリカの瞳が一瞬だけ揺れる。

 「第……第五王子、ですのね?」

 「はい。噂によれば、政治の裏方を支えておられるとか。」

 セリカは静かに息をついた。
 そして、微笑を浮かべる。

 「なるほど。
  影の王子、というわけですわね。」

 その瞬間――彼女の中で何かが動いた。

 “彼は私を利用する気かもしれない。けれど、こちらも利用できる。”

 セリカの思考は、既に次の一手を描いていた。


---

 一方、王都。
 ランディの部屋では、淡い燭光が机の上を照らしていた。

 「……気づいたか、セリカ・ディオール。」
 ランディの唇がわずかに吊り上がる。

 「良い反応だ。やはり君は――退屈をしのげる相手になりそうだ。」

 彼は報告書を閉じ、窓の外の夜空を見上げた。
 「次は、直接“手”を伸ばしてみるか。」

 それはまるで、影と光が互いを引き寄せる瞬間のようだった。


---

 こうして、
 幼き天才令嬢と、影を操る王子との静かな駆け引きが始まる。

 ――互いに知らぬまま、運命はゆっくりと交錯を始めていた。


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