白い結婚だと思っていたのに、旦那様が溺愛してきて困りますわ!

しおしお

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第2章タイトル 白い結婚”のはずでしたのに?

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◆2-1:朝食の席に現れる“淡い違和感”

翌朝、朝靄に包まれた大公邸の東翼ダイニングルームには、昨夜とは打って変わって華やかな装飾が施されていた。窓辺には金糸銀糸で縁取られたカーテンが優雅に垂れ、深紅の絨毯は足音を吸い込むように厚く敷かれている。壁には先代大公が狩りの帰路に集めた獲物の剥製や風景画が並び、昔ながらの威厳と格式が感じられる。

私は控えめなドレスに身を包み、ほのかな緊張を胸に抱えつつ、長いマホガニー製のテーブルの端に腰掛けた。隣には執事長ドレイクが控え、さらに奥には侍女クレアが慎ましやかに微笑んでいる。彼らの視線は一様に私のほうを向いており、その期待に胸が高鳴る。

「おはようございます、大公様」
薄桃色の空の下、アレクセイ大公が重厚な足取りで私の正面に現れた。燕尾服越しに一瞬だけ私のほうへ視線を向けると、すぐに前を向き直し、椅子に腰かけた。いつもながら動作に無駄がなく、ただ存在するだけで空気が引き締まる。

テーブルには二人分の朝食が整えられていた。先刻の書斎で差し入れられた体調重視の粥ではなく、今朝は社交界にも通用する華麗なメニューが並んでいる。黄金色のスクランブルエッグ、軽く香草でマリネされた燻製サーモン、バターの香りがふわりと豊かなクロワッサン。そして薔薇の花びらが散りばめられたベリーのコンポート。どれも繊細に盛り付けられ、大公がわざわざ用意を指示したことがうかがえる。

――これは、干渉ではなく、むしろ“共に”という意思表示なのだろうか?

私はスプーンを持つ手がかすかに震えるのを感じながら、ゆっくりと口元に運ぶ。サーモンの塩味とハーブの爽やかさが舌の上で溶け、体中に軽い刺激が広がる。その瞬間、視界の端にアレクセイが差し出したグラスが目に入った。薄い黄金色のジュース──今朝は白葡萄と青リンゴをブレンドし、酸味と甘みのバランスを整えたものだという。

「アルテッツァ、このジュースは君の好みに合わせたものだ」
彼の声は低く、だが確かに私の耳へ届けられる。軽い驚きと共に、私はグラスを受け取り、一口含んだ。酸味が柔らかに広がり、爽やかな後味が残る。――間違いなく、私の好みを把握している。

「ありがとうございます……しかし、本当にここまでは必要ないかと」
私は思わず口に出してしまった。あまりにも“共食”の演出が過剰に感じられ、いささか戸惑いがあったのだ。

アレクセイは淡々と微笑み、グラスを置くと私の向かい側に身を寄せた。普段はほとんど動かない彼だが、このときだけは私の存在を確かめるように、わずかな距離へと体を傾けている。

「白い結婚とはいえ、君が健康で、気分よく過ごせることが私の望みだ。それに──」
彼は一瞬だけ視線を逸らし、再び私に向き直った。その瞳の奥には、淡い光が揺れているように見えた。

「君の笑顔が見たいのだよ」

その短い一言は、契約書の条文よりもはるかに強い意味を持って胸へ飛び込んできた。私は言葉を失い、咄嗟に目をそらした。額から頬へと広がる熱を感じながら、手にしたナイフとフォークをぎゅっと握りしめる。

テーブルを囲む時間は、形式どおりに進む。しかし、その“形式”の中にこそ、大公の深い思いが込められていることを、一瞬にして理解したのだった。

食事の終盤、ドレイクが軽やかな足取りでワゴンを運び入れ、新たに用意された皿をそっと私の前に置く。それは小さなデザートプレートで、薔薇の花びらをあしらったミルクプリンに、ベリーのソースがしずく状に垂れている。ひと目で私が喜ぶと予想されたメニューだとわかる──いや、私以上に私を理解している様子だった。

「大公様、これ以上お気遣いを……」
私は声にならない抗議を続けるが、アレクセイは小さな笑みを浮かべた。

「いいのだ、アルテッツァ。君の好みを知ることは、干渉ではなく理解だ。そして理解があるからこそ、真の自由が成り立つ」

彼の言葉に、私は思わず息を呑んだ。契約書に記された「お互い干渉しない」という文字は、表面的な合意にすぎなかったのだと気づいた。真の結婚には、形式を超えた“相手を知り、相手を思う”という行為が不可欠である──アレクセイは、その行為をそっと朝食に織り込んで見せていた。

私はフォークを静かに置き、深く息を吸い込んだ。心の奥のどこかで、柔らかな何かがほころび始めている。その瞬間、私は確信した──この白い結婚の枠は、すでに淡いピンクへと染まりつつあるのだと。

◆2-2:夜に忍び寄る小さな優しさ

その日の夕暮れは、ふたりきりの邸内礼拝堂での礼拝から始まった。私は薄紫色の礼拝用ドレスに身を包み、長い裾が床をそっと撫でるのを感じながら歩みを進めた。アレクセイ大公は黒い礼服に身を固め、私の二歩ほど前を静かに歩いている。大理石の祭壇前でふたりは跪き、蝋燭の炎が揺れる荘厳な空気の中で祈りを捧げた。

――これは“同居人”としての形式的な付き合いの一環だと思っていた。

しかし、礼拝が終わり、私とアレクセイは廊下を隣り合って歩いていたとき、それはほんの小さなきっかけで訪れた。廊下の先、使用人たちが夜の燭台の灯りを整えにかかっている。その隙間を通って、ひゅうと冷たい風が吹き込んできた。

「、寒いな」

アレクセイの声に振り向くと、黒いコートの裾を私の肩に掛けようとする大きな手が伸びていた。私は咄嗟に手を振り払おうとしたが、その手はそっと止まり、やわらかくコートを広げてかけてくれる。

「大丈夫ですわ。これは契約外の……」

言い終えぬうちに、彼の手は私をそっと包み込むようにコートを引き寄せ、熱い体温が伝わった。私は思わず息を飲み、視線を下に落とす。

「干渉ではない。気候に合わないから、ただ君の体温を保持したいだけだ」

その言葉は淡々としているが、胸に染み込むような暖かさが含まれていた。契約書に書かれた「干渉しない」という言葉の余白を、静かにすり抜けてくる優しさ。私は目を閉じ、短い緊張から解放された。


---

夜の書斎にも、微かな“干渉”が忍び寄っていた。私は自室近くの書斎で、薬草学のノートを開き、翌日の研究計画をまとめようとしていた。行燈の下で文字を追う集中力を保つのに苦労していたとき、扉がひそりと開いた。

「まだ起きているか」

アレクセイが静かに姿を現し、窓際に置かれた別の明かりを灯す。慣れた手つきで行燈に火を灯すと、その暖色が部屋全体を優しく照らし、私の眼鏡に光の反射が走った。

「はい、もう少しだけ……」
私は乱れたページをそっと押さえながら答えた。だが、次の瞬間、アレクセイは私のノートの上に一枚の羊皮紙を滑らせた。

――「疲労回復に効果的なハーブティーを準備した。休憩時にどうぞ」――

私は驚きのあまり、ペンを握る手が固まった。羊皮紙には、彼の筆跡で丁寧に書かれたレシピと、揺れるような文字で「深夜の補給は控えめにな」と添えられている。

「これも、契約の範囲を超えていませんの?」
私は思わず声をかけた。アレクセイはしばし微笑みを浮かべた後、窓の外へ視線を移す。

「君の健康なくして、白い結婚も成り立たんだろう?」

その言葉に、私は胸の中でまたひとつ、大きな波紋が広がるのを感じた。白い結婚という約束が、いつのまにか彼の心遣いによって彩られている。私はノートから顔を上げ、彼の横顔を見つめた。蝋燭の揺らめく光に照らされたその表情は、厳しさよりも、一人の夫として私を見守る眼差しに満ちていた。


---

就寝前の廊下にも、ささやかな優しさが追いかけてきた。夕食後、私は自室のベッドの脇に置かれた机に広げた地図を眺めていた。家の地形に合わせた薬草の自生地をリストアップし、次の遠征計画を練ろうとしていた折、廊下の方から足音が近づいてきた。

「アルテッツァ」

振り返ると、アレクセイは布袋を抱えて立っていた。その中には、ふかふかとした白い羽根布団と、薄手だが暖かそうな毛布が詰まっている。

「寒そうだから、これを。君の部屋は少しだけ冷えるらしい」

彼はそう言って、私の寝具を差し出す。干渉のない結婚を望んでいたはずなのに――私は驚きと戸惑いで言葉が見つからなかった。彼は黙って布団を置き、私が震える手でそれを受け取るのを待っている。

「ありがとう、大公様。でも……これは」
言葉に詰まりながらも、私は丁寧にお辞儀をした。アレクセイは短く頷き、私の自由を尊重しようと、意図的に距離を置いて部屋を後にした。

――干渉ではなく、ただの気遣い。契約では規定しきれない細やかな優しさ。

私は胸の内でそっと何かを悟り、布団を抱きしめるようにしてベッドルームへ戻った。夜の静寂の中、その布団の暖かさが、私の心にもじんわりと染み渡っていった。


◆2-3:書斎での“私だけの特別な差し入れ”

翌日の昼下がり、私は大公邸の書庫にこもり、薬草学の文献を漁っていた。先代侯爵から譲り受けた稀覯本のコピーを持ち込み、「新種とされる海霞蘭(かいからん)の有効成分を抽出する方法」を調べているところだ。しかし、分厚いページをめくるたびに現れる難解なラテン語に、眉間にしわを寄せずにはいられなかった。

――こんなとき、夫であるはずの大公は何をしているのだろう。

“白い結婚”の約束では、「互いに研究や仕事に干渉しない」と定められている。私はそれをよいことに、この数日間は誰とも顔を合わせず、書庫にこもりっきりだった。しかし、いつものようにページを繰る手が止まった瞬間、微かな物音に気づいた。

書庫へと続く重厚な扉の向こうで、静かに革靴の音が近づいてくる。まるで書架の影をつたうように、その足音は床にふれるかふれないかの微かな響きだった。私は前に置いていた羊皮紙をそっと閉じ、視線を扉に向けた。

――まさか、大公が来るなんて……。

控えめに扉が開き、アレクセイ大公が一歩、二歩と書庫の奥へと踏み込んできた。黒の燕尾服姿はいつもと変わらず凛としているが、その表情には書物好きな学者のような穏やかさが宿っていた。大公は書架の間を歩きながら、手にした書物を一冊ずつ確かめるように眺めている。

「アルテッツァ、見つけたぞ」

低く、しかし心地よい声が耳元で響く。振り返ると、彼の手には小さな木箱が握られていた。箱の蓋を開けると、中には乾燥させた薄紫色の花びらが丁寧に詰められている。

「これは……?」

私は驚きのあまり声を漏らした。その花びらは、図書館に所蔵されていない、稀少な薬草「紫霞草(しかそう)」のものだった。文献によれば、その花びらには鎮静効果と再生促進作用があり、特に成長期の細胞活性を高めると記されている。

「先日、君がこの文献に目を留めていたのを見かけた。どうやら紫霞草を実験に使いたいらしいなと思って、侯爵家の温室から譲り受けた。許可は私の名で取っておいた」

彼の言葉は、ごく自然だった。しかし、その裏に隠れた手配と配慮の大きさを考えると、胸が熱くなる。

「干渉しないという契約があるはずでは……?」

私は思わず問い返した。大公は小さく微笑むと、側にあった椅子を引き寄せ、私の隣に腰掛けた。

「干渉ではない。君の研究を助けるための支援だ。契約書の“干渉しない”とは、私が君の実験に口を出さないという意味であって、必要な物品を用意することまで禁じられているわけではないだろう?」

――その通りだ。だが、こんなに自ら動いて手配をするとは思わなかった。

私は木箱を抱えるようにして胸元に引き寄せた。花びらの香りが、ほのかに私の頬をかすめる。紫霞草の効果を最大限に引き出すための抽出法も、すでに大公は書庫の奥で調べておいてくれたらしい。

「君の実験には、こうした純度の高い素材が必要不可欠だと感じた。君が安心して研究に没頭できるよう、環境を整えるのも私の役目だ」

その言葉には、夫としての責任感と学者としての敬意が同居していた。私はうまく言葉が出ず、ただ深くお辞儀をするしかできなかった。

「ありがとう、大公様……」

静かな書庫の中で、私の声がこだまする。大公は再び微笑み、書架の隙間に手を伸ばし、もう一冊の文献を取り出した。

「これも参考になるだろう」

差し出されたのは、希少本の初版本だった。本文中に紫霞草に関する注釈が多く残され、当時の研究者が何度も実験を繰り返した痕跡が紙面にうかがえる。私はその本を開き、重厚な挿絵と筆記の跡を見比べながら、大公が用意した資料に改めて感激した。

「この研究がおわったら、是非君の知見を我が家の図書館に寄贈してほしい」

アレクセイの提案は、私の研究を世に広めるチャンスでもあった。私は驚きと感謝の入り混じる表情で頷く。

「はい……必ず、役立つ論文にまとめさせていただきます」

それから数時間、私は紫霞草のサンプルを前に、実験計画を立て直した。大公が差し入れてくれた二つの本と花びらを使い、最適な抽出法を模索する。彼は書庫の隅で静かに待っていてくれたが、最後には優しく声を掛けてくれた。

「それでは、夕食までに一次抽出まで終えておくといい。何か手伝いが必要なら遠慮なく言ってくれ」

私は頭を下げ、決意を新たに立ち上がる。書庫を出るとき、大公がもう一度だけ振り返り、深い眼差しを向けてくれた。

「君の研究が実を結ぶことを、私は心から期待している」

そのひと言が、私の背中を押した。形式上は“同居人”に過ぎないはずの大公が、私の学者としての情熱を理解し、最大限に支援してくれる。この“白い結婚”は、もはや私一人だけのものではない。二人の共同作業へと、静かに色を変えていっているのを感じながら、私は書庫を後にしたのだった。

◆2-4:これは“ただの同居人”ではありませんわ

翌朝の陽光は淡くとも確かに暖かく、書斎から自室へ戻る廊下の窓辺には春の花々がやわらかに揺れていた。だが私の胸の中は、昨夜からの一連の出来事でざわめいていた。大公府での“白い結婚”──互いに干渉せず静かな共同生活を望んだはずの対等な関係は、いつの間にか大公のささやかな心遣いによって少しずつ色づき始めている。

その日、午前中の執務を終えた私は、いつものように自室の窓辺で薬草学のノートを広げていた。最初はただ研究に没頭できる環境を喜んでいたが、今は少し違う。窓から差し込む光を数学のように計算し、文字に落とし込む自分がいる。先ほど朝食の席でも、彼は私の好みの紅茶を淹れて差し出してくれた。たかが一杯の紅茶、それでしかないはずなのに、私にはその行為が“特別”に感じられてならなかった。

「アルテッツァ」

廊下を通りかかった侍女クレアの小声に呼び止められ、私はノートを閉じて立ち上がった。クレアは微かに俯きながらも、嬉しそうな笑みを浮かべている。

「大公様が、書斎でお待ちかと」

──書斎? また彼の差し入れかしら、と思いながらも、私は足取りを進めた。書斎に入ると、アレクセイは机の向こうから静かに顔を上げた。彼の瞳には、いつもの冷徹さはなく、どこか柔らかな光が宿っている。

「きみの午後の資料を揃えておいた」

アレクセイはそう告げると、机の上に二つの資料ファイルを並べた。一つは薬草学の最新研究論文の要約、もう一つは宮廷図書館から取り寄せたばかりの稀覯本のコピーだ。どちらも資料請求に時間がかかるものであり、私が気付かぬうちに準備されたことに驚きを禁じ得ない。

「……お手数をかけてしまい、申し訳ありません」
私は思わず頭を下げる。アレクセイはにわかに笑みを浮かべ、起立してその資料を私のほうへ手渡した。

「きみの研究に必要だろうと思ってな。これで午後は随分捗るはずだ」

その言葉に、私は胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。干渉しない関係を求めたはずが、“研究を助ける”という範疇での支援が、いつの間にか“私に寄り添う行為”に変わっている。すでに“ただの同居人”ではないのだと思う。

午後の光が窓から差し込む中、私は資料ファイルを抱え、自室に戻った。廊下の壁にはアレクセイの戦果を記録した肖像画が掛かっている。彼が若かりし日の功績を誇る絵画だが、今日の私はその絵をまっすぐ見据えられなかった。──彼の見据える先に、私の存在があることを知ってしまったからだ。

自室のテーブルに資料を広げると、机上には先ほど淹れてもらった紅茶が冷めかけている。私はそっとティーカップを手に取り、一口含んだ。ほのかなベルガモットの香りが鼻をくすぐり、その香りの奥にはアレクセイの意図が感じられた。──“君のために”と。

夕暮れ前の書斎で、私は改めて自問した。――これは愛情ではないのか? 形式的な協定として始まった結婚が、彼の些細な行動によって“形式”を超えようとしている。

夜が訪れ、邸内の燭台が静かに灯り始めたころ、私は自室のローブを羽織り、書斎へと向かった。キャンドルの揺らめきが長い廊下を照らし、そこに映る私の影は一人歩む令嬢そのものだった。書斎に入ると、アレクセイはすでに窓辺で背を向けて立っている。

「夕食後も研究を続けるとは思わなかったな」
彼はこちらを振り返り、微かに眉を上げた。その声には驚きよりも、どこか安堵の色が含まれていた。

「……研究は止められず、つい」
私は資料の山を目の前に置き、俯いたまま答えた。すると、アレクセイは私の机の引き出しを開き、一冊の羊皮紙の手帳を取り出して差し出した。

「これを使え。君の実験記録をまとめるのに便利だろう」

手帳の表紙には楔形文字のような金の箔押しが施され、ページは羊皮紙の繊細な感触が伝わってくる。私は驚きと感激で言葉を失ったが、次の瞬間には躊躇なくそれを受け取った。

「どうして、そこまで……」
思わず問いかける私に、彼は視線をそらさずに答えた。

「干渉しない――その契約は守る。だが、支援することは別だ。君が研究を通じて何かを成し遂げるなら、私もその一端を担いたい」

彼の言葉は、契約を遵守しつつも“共に歩む”意志を示していた。私は深く息をつき、目に涙を浮かべながら頷いた。

「ありがとうございます、大公様。これからも、よろしくお願いいたしますわ」

その言葉に、アレクセイは緩やかに微笑んだ。そして、私の手に渡された手帳を机にそっと置き、書斎を後にした。扉が閉まる音が廊下に反響し、その余韻と共に私の胸には確かな実感が残った。

――これは“ただの同居人”ではない。

契約によって結ばれた形式的な関係を、彼は自らの行動で一つずつ塗り替えている。私とアレクセイの間には、確かな“信頼”と“絆”が芽生え始めていたのだ。

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