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第3章 黒幕追跡と衝撃の正体
3-2 正体を隠して侯爵家へ潜入
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3-2 正体を隠して侯爵家へ潜入
――静かに忍び寄る、仮面の令嬢
夜の帳が降りる頃、アメリアは森の別邸の前に立っていた。
身にまとっているのは、普段の優雅なドレスではない。
装飾を最小限に抑え、足音を拾わない簡素な黒の外套。
顔には、素朴ながら洗練された銀の仮面がかかっている。
仮面の下で、アメリアは深く息を吐いた。
「……隠居していたはずなのに、どうして夜に屋敷へ忍び込む準備などしているのでしょうね、わたくし……」
自分でも呆れるが――放置できない。
村人を蹂躙し、領地を食い物にし、さらに複数の小物貴族を操って搾取していた黒幕が、まさかの元婚約者・スティーヴン。
その事実を前にして、アメリアの心は決まっていた。
「……許してはおけませんわ。
わたくしが振られた事など、もうどうでもよろしいのです。
ですが――罪なき人々を踏みにじる行為だけは、断じて見逃せません」
アメリアは外套のフードを深くかぶる。
森の中を抜け、町を越え、王都へ向かう。
◆
侯爵家――グレイソン邸は、王都の中でも屈指の権威と格式を誇る大邸宅である。
高い塀と衛兵たち、魔法障壁、番犬、そして見回りのメイドや執事。
通常の侵入は不可能と言える。
しかし。
「相変わらず、警備の“見た目だけ”は立派ですこと……」
アメリアは塀の影から冷静に状況を観察していた。
防備は厳しいように見えるが、実際は形だけ。
しかも何より――アメリアはかつて婚約者としてこの屋敷を訪れている。
玄関から奥の廊下まで、隠し扉の位置、書斎の鍵の保管場所、金庫の暗号……
その記憶は鮮明だ。
(ええ、あなたがわたくしを“将来の侯爵夫人”として扱っていた頃……
しっかりと屋敷のことも教えてくださっていましたわね)
皮肉が胸に広がる。
「その情報、今夜すべて活用させていただきますわ。
スティーヴン……本当に詰めが甘いのですね」
◆
アメリアは、屋敷の右端――物置小屋の裏に目を向けた。
そこには、スティーヴンが若き日の“秘密の抜け道”として作っておいた古いドアがある。
婚約者時代、彼が“可愛い秘密”と笑って見せた場所だ。
もちろん、今は錠前がついている。
「はい、ここ。鍵穴も、昔と同じ位置……」
アメリアは腰のポーチから細い金属棒を取り出す。
ピッキングはしたことがない――はずだが、アメリアは驚くほど早く錠前を開けた。
「父の書斎にあった護身用工具箱……少し触ってみただけですわ。
これくらい、できて当然ですの」
軽い音を立てて古い扉が開く。
中は暗く、ほこりっぽい。
しかしその先に続く通路は、しっかりと侯爵家の内部につながっている。
「さて……潜入開始ですわ」
◆
屋敷の中は、昼間の華やかさとは違う静けさに包まれていた。
壁にかかる油絵は薄暗い光の中で不気味に見える。
床は磨き上げられていて、足音が少しでも響けばすぐに気付かれるだろう。
アメリアは柔らかな靴底を用意し、音を立てずに進む。
(スティーヴンの書斎は……奥の塔屋。
重要な文書は必ず金庫の中……暗号は“0516”。
ええ、あなたの誕生日の日付でしたわね。
まさかそのまま使っているとは思いませんが……)
皮肉をこめたため息をつきながら、アメリアは影のように廊下を移動した。
◆
途中、メイドが二人、廊下で話をしているのが見えた。
アメリアは柱の影に隠れて耳を澄ませる。
「旦那様、また夜会を開くって……」
「最近、他領からの献金が増えて、羽振りがいいんですって」
「でもさ……どうも裏がある気がするのよね」
「わたしも思ってた。旦那様って笑顔は素敵なのに、裏の顔が見える時があるというか……」
アメリアは静かに目を伏せた。
「……やっぱり、そういうことですのね」
彼の表の顔と裏の顔。
それを知る者が、すでに屋敷内にもいたのだろう。
(彼の罪を暴くのは……わたくしだけの役目ではありませんわね)
◆
アメリアは書斎の前にたどり着いた。
重厚な扉。
扉の前には、簡易的な魔法障壁が貼られている。
「“身分証の魔力”がなければ通れない結界ですか……。
ですが、それが通じるのは本人だけの場合ですわ」
アメリアは懐から、小さな赤い石――
スティーヴンが婚約者だった頃に渡した“魔力同調石”を取り出した。
「昔は……こんなのを渡されて喜んでいたのですから、わたくしも大概ですわね」
皮肉を呟きながら、石を障壁へかざす。
――パリンッ。
光が弾け、簡易結界は音を立てて消えた。
「さて、入らせていただきますわよ」
◆
中に足を踏み入れると、そこには膨大な資料と金庫が並んでいた。
「……これ。すべて“人々から搾り取った金”の証」
アメリアはひとつの棚から帳簿を取り出し、内容を確認する。
村人名簿、献金額、搾取した人数の記録。
さらに横流しの証拠、複数の貴族との裏取引の契約書。
どれも確実で、言い逃れのできない物ばかり。
「……あなたの悪事、ここにすべて残っていましたのね」
金庫の前に立つと、アメリアは静かに暗証番号を入力した。
「0……5……1……6……」
――カチッ。
本当に開いた。
「ほんとうに、そのままですの?
侮られているわけではなく……単に馬鹿なのかしら」
金庫の中には、高額の宝石、現金、裏帳簿、そして大量の密書。
そのうちの一つを開くと、アメリアは息を飲んだ。
「……王宮の高官とまで繋がりを?」
内容は腐敗そのもの。
・特定領地に圧力をかけた見返り
・貴族の娘を利用しての裏取引
・隣国への密輸計画
・政敵の失脚案
読めば読むほど、スティーヴンの“闇”が深く露わになる。
「スティーヴン……あなたという人は……」
怒りが、胸の奥底で静かに燃え始めた。
◆
すべての証拠をコピーし、魔術具に転写してまとめた後――
アメリアは書斎を出た。
その背中は、隠居令嬢のものではない。
まるで、国の闇を一掃する“処刑人”のように静かで、強かった。
「すべての証拠はそろいました。
あとは、あなたと直接向き合うだけですわね……スティーヴン」
夜空に向かって外套の裾を翻し、アメリアは月明かりの庭を歩き去る。
その姿は――
本当に、闇を掃う“仮面の令嬢”と呼ぶにふさわしいものだった。
---
――静かに忍び寄る、仮面の令嬢
夜の帳が降りる頃、アメリアは森の別邸の前に立っていた。
身にまとっているのは、普段の優雅なドレスではない。
装飾を最小限に抑え、足音を拾わない簡素な黒の外套。
顔には、素朴ながら洗練された銀の仮面がかかっている。
仮面の下で、アメリアは深く息を吐いた。
「……隠居していたはずなのに、どうして夜に屋敷へ忍び込む準備などしているのでしょうね、わたくし……」
自分でも呆れるが――放置できない。
村人を蹂躙し、領地を食い物にし、さらに複数の小物貴族を操って搾取していた黒幕が、まさかの元婚約者・スティーヴン。
その事実を前にして、アメリアの心は決まっていた。
「……許してはおけませんわ。
わたくしが振られた事など、もうどうでもよろしいのです。
ですが――罪なき人々を踏みにじる行為だけは、断じて見逃せません」
アメリアは外套のフードを深くかぶる。
森の中を抜け、町を越え、王都へ向かう。
◆
侯爵家――グレイソン邸は、王都の中でも屈指の権威と格式を誇る大邸宅である。
高い塀と衛兵たち、魔法障壁、番犬、そして見回りのメイドや執事。
通常の侵入は不可能と言える。
しかし。
「相変わらず、警備の“見た目だけ”は立派ですこと……」
アメリアは塀の影から冷静に状況を観察していた。
防備は厳しいように見えるが、実際は形だけ。
しかも何より――アメリアはかつて婚約者としてこの屋敷を訪れている。
玄関から奥の廊下まで、隠し扉の位置、書斎の鍵の保管場所、金庫の暗号……
その記憶は鮮明だ。
(ええ、あなたがわたくしを“将来の侯爵夫人”として扱っていた頃……
しっかりと屋敷のことも教えてくださっていましたわね)
皮肉が胸に広がる。
「その情報、今夜すべて活用させていただきますわ。
スティーヴン……本当に詰めが甘いのですね」
◆
アメリアは、屋敷の右端――物置小屋の裏に目を向けた。
そこには、スティーヴンが若き日の“秘密の抜け道”として作っておいた古いドアがある。
婚約者時代、彼が“可愛い秘密”と笑って見せた場所だ。
もちろん、今は錠前がついている。
「はい、ここ。鍵穴も、昔と同じ位置……」
アメリアは腰のポーチから細い金属棒を取り出す。
ピッキングはしたことがない――はずだが、アメリアは驚くほど早く錠前を開けた。
「父の書斎にあった護身用工具箱……少し触ってみただけですわ。
これくらい、できて当然ですの」
軽い音を立てて古い扉が開く。
中は暗く、ほこりっぽい。
しかしその先に続く通路は、しっかりと侯爵家の内部につながっている。
「さて……潜入開始ですわ」
◆
屋敷の中は、昼間の華やかさとは違う静けさに包まれていた。
壁にかかる油絵は薄暗い光の中で不気味に見える。
床は磨き上げられていて、足音が少しでも響けばすぐに気付かれるだろう。
アメリアは柔らかな靴底を用意し、音を立てずに進む。
(スティーヴンの書斎は……奥の塔屋。
重要な文書は必ず金庫の中……暗号は“0516”。
ええ、あなたの誕生日の日付でしたわね。
まさかそのまま使っているとは思いませんが……)
皮肉をこめたため息をつきながら、アメリアは影のように廊下を移動した。
◆
途中、メイドが二人、廊下で話をしているのが見えた。
アメリアは柱の影に隠れて耳を澄ませる。
「旦那様、また夜会を開くって……」
「最近、他領からの献金が増えて、羽振りがいいんですって」
「でもさ……どうも裏がある気がするのよね」
「わたしも思ってた。旦那様って笑顔は素敵なのに、裏の顔が見える時があるというか……」
アメリアは静かに目を伏せた。
「……やっぱり、そういうことですのね」
彼の表の顔と裏の顔。
それを知る者が、すでに屋敷内にもいたのだろう。
(彼の罪を暴くのは……わたくしだけの役目ではありませんわね)
◆
アメリアは書斎の前にたどり着いた。
重厚な扉。
扉の前には、簡易的な魔法障壁が貼られている。
「“身分証の魔力”がなければ通れない結界ですか……。
ですが、それが通じるのは本人だけの場合ですわ」
アメリアは懐から、小さな赤い石――
スティーヴンが婚約者だった頃に渡した“魔力同調石”を取り出した。
「昔は……こんなのを渡されて喜んでいたのですから、わたくしも大概ですわね」
皮肉を呟きながら、石を障壁へかざす。
――パリンッ。
光が弾け、簡易結界は音を立てて消えた。
「さて、入らせていただきますわよ」
◆
中に足を踏み入れると、そこには膨大な資料と金庫が並んでいた。
「……これ。すべて“人々から搾り取った金”の証」
アメリアはひとつの棚から帳簿を取り出し、内容を確認する。
村人名簿、献金額、搾取した人数の記録。
さらに横流しの証拠、複数の貴族との裏取引の契約書。
どれも確実で、言い逃れのできない物ばかり。
「……あなたの悪事、ここにすべて残っていましたのね」
金庫の前に立つと、アメリアは静かに暗証番号を入力した。
「0……5……1……6……」
――カチッ。
本当に開いた。
「ほんとうに、そのままですの?
侮られているわけではなく……単に馬鹿なのかしら」
金庫の中には、高額の宝石、現金、裏帳簿、そして大量の密書。
そのうちの一つを開くと、アメリアは息を飲んだ。
「……王宮の高官とまで繋がりを?」
内容は腐敗そのもの。
・特定領地に圧力をかけた見返り
・貴族の娘を利用しての裏取引
・隣国への密輸計画
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読めば読むほど、スティーヴンの“闇”が深く露わになる。
「スティーヴン……あなたという人は……」
怒りが、胸の奥底で静かに燃え始めた。
◆
すべての証拠をコピーし、魔術具に転写してまとめた後――
アメリアは書斎を出た。
その背中は、隠居令嬢のものではない。
まるで、国の闇を一掃する“処刑人”のように静かで、強かった。
「すべての証拠はそろいました。
あとは、あなたと直接向き合うだけですわね……スティーヴン」
夜空に向かって外套の裾を翻し、アメリアは月明かりの庭を歩き去る。
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