公爵令嬢、爵位を弟に譲って隠居したのにどうして悪党狩りなんてしているのでしょう?

しおしお

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第4章 裁きと本当の隠居

4-2 黒幕の処罰

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第4章 4-2 黒幕の処罰

――「罪は裁かれ、国は浄化される」

 王命は、早朝に発せられた。
 王城全体に響く鐘の音とともに、宰相が朗々と読み上げた詔勅が、まずは王都を、そして瞬く間に全国へと伝わった。

> 『ラングフォード家を陥れようと企てし者、
不正を重ね、国政を乱した者、
これを断罪し、厳罰とする。』



 その中心にいるのは――元婚約者である
レオン・ハインリヒ侯爵家跡取り。

◆ ◆ ◆

◆王城に引き立てられる侯爵

 午前の柔らかい日差しのなか、王城前の大階段には人々が集まっていた。

「どうやら、ついに捕まったらしいぞ……!」 「ま、まさか本当に侯爵様が……?」 「裏では悪どいことをしていたって噂、やっぱり本当だったのね」

 ざわつく群衆の前に、鎖をかけられた男が引き出される。

 レオンだった。

 優雅な装いは失われ、粗末な囚人服に着替えさせられたその姿は、かつてアメリアに対して上から目線で威張り散らしていた“傲慢な貴族”の影もない。

「私は……私は無実だ!
 アメリアが仕組んだに違いない! 私を陥れるために!」

 喚き散らすレオンの声は、冷たい朝の空気に虚しく吸い込まれた。

(――相変わらず、責任転嫁だけは得意ですのね)

 群衆の陰で、その様子を見つめるアメリアは小さくため息をつく。
 正体を隠すため、深いフードをかぶり、目元を覆う軽い仮面をつけている。

 彼女の隣には、王直属の近衛隊長が立っていた。
 アメリアが証拠を提出した翌日に、国王からの「念のための護衛」としてつけられた者だ。

「……あれが、元婚約者殿ですか」

「ええ。“あれ”でございます」

「……なんと申しますか、あなたが振られてよかったと心から思いますね」

「同感ですわ」

 二人は小声で言葉を交わし、再びレオンに視線を戻す。

◆ ◆ ◆

◆国王による断罪

 王城の中庭に設けられた臨時裁判の場。

 国王、宰相、司法長官、高位聖職者たちが見守るなか、
 レオンとその協力者である数名の貴族たちが並べられる。

 その中には有力伯爵、金貸しと癒着した男爵、王都役人、神殿の腐敗神官――
 まさに「国を蝕む寄生虫」のような面々が一堂に並んでいた。

「レオン・ハインリヒ。
 そなたは裏取引をおこない、領民を搾取し、他家の名誉を毀損し、
 賄賂をもちいて役人を買収し、国を混乱させようとした罪……まこと重い」

 国王の声は厳しかった。

「ち、違います! それは――」

「証拠は全て揃っている。帳簿、契約書、供述書、そして被害者の証言。
 ……弁明の余地など、ない」

 レオンの膝が砕け、石畳に崩れ落ちた。

「お、お願いです、陛下……!
 私はハインリヒ家の跡取りです! こんな扱いは――」

「跡取りであった、だ。
 本日をもって、そなたは爵位を剥奪する」

 群衆が息をのむ。

「さらに、ハインリヒ侯爵領の資産の大半は没収し、
 不正により得た金は全て王国財務局へ返還させる。
 そなた自身は、北境の孤島へ“永久追放”とする」

「ひっ……ひ、ひいいい!」

 レオンの悲鳴は、恥辱と恐怖に満ちていた。

◆ ◆ ◆

◆共犯者たちへの裁き ――“大掃除”が始まる

 国王の視線が共犯貴族へ向けられる。

「……そなたらにも判決を下す。
 この国を私物化した罪、領民を虐げた罪、他家を裏切った罪……
 本来であれば死罪でもおかしくない」

 ごくり、と誰かが喉を鳴らした。

「だが、情状酌量はない。全員、爵位剥奪、財産没収のうえ、労役刑に処す。
 二度と権力に触れられぬよう、平民として働いてもらう」

「そんな……!」「わ、私は嵌められたのだ!」「ち、違う!」

 喚き散らす声が中庭に響き渡ったが、誰も同情はしない。

 むしろ――集まった民衆の表情は、
 “ようやくこの国が浄化される” と安堵に満ちていた。

「これ以上、王国を汚すことは許さぬ。
 仮面の令嬢が暴いた悪は……ここで断ち切る」

 国王の言葉が響いた瞬間、
 群衆の中から大きな拍手が起きた。

「仮面の令嬢、万歳!」「国を救ってくださった!」「ありがとう!」

 アメリアは観衆の奥に隠れながら、そっと肩をすくめた。

(……やめてほしいですわ。隠居した身としては、表に出るなど困りますのに)

 だが、村人たち、城下町の住民、そして領民たちは、
 心の底から感謝していた。

◆ ◆ ◆

◆ハインリヒ家の没落

 レオンの父である現侯爵は、息子の不祥事により失意の底に沈み、
 王命により隠居を余儀なくされた。

 王国は、ハインリヒ家の後継者を別の支流から選任し、
 領地の再建に取りかかった。

 元婚約者レオンは、王都の地下牢に数日収監されたのち、
 北境の孤島へ護送されることが正式に決定した。

「ま、待ってくれ! 私はまだ生きたい!
 アメリア! アメリアはどこだ!
 あいつが! あいつが全てを――!」

 その叫び声に反応する者はもう誰一人いない。

 王国は、彼なしでも回り続ける。むしろ、その方が健全なのだ。

◆ ◆ ◆

◆アメリアの胸の内

(……終わりましたわね)

 王城の塔の一角。
 近衛隊長に案内されながら、アメリアは深く息を吐いた。

 怒りも、失望も、全てが終わった。
 彼女の手で終わらせた。

「アメリア殿……あなたが暴いてくれた不正のおかげで、
 この国は救われました。心より感謝します」

「いえ、私はただ……身内を守りたかっただけですわ。
 それに、隠居予定の身でございますから、もう働くのはこりごりです」

「……そうおっしゃって、またすぐ動きそうですが」

「冗談おやめくださいませ」

 アメリアは微笑んだが、近衛隊長は苦笑しながら肩をすくめる。

(――もう本当に何も起きませんように)

 アメリアは心底、そう祈っていた。

 ……だがその祈りが届くかどうかは、まだ分からない。

 彼女がこの国で“守護者”と呼ばれるようになるのは、
 もう少し先の未来のことである。


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