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第十九話 沈黙の選択
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第十九話 沈黙の選択
仮住まいの小さな机の上。
白い封筒が、夜の灯りに照らされている。
地方商会当主からの縁談。
持参金不要。
王都復帰不可。
過去の騒動を口外しないこと。
リリアは、その文面を何度も読み返していた。
「……沈黙と引き換え、安定」
言葉にすれば簡単だ。
だが、それはつまり――
王都を諦めること。
公爵令嬢の夢を捨てること。
扉が叩かれる。
マルグリットだ。
「どうするの」
その声には、かつての威圧はない。
「お母様は?」
「……王都には、もう居場所がないわ」
それは事実だ。
社交資格停止。
爵位剥奪。
国外追放。
すべてが終わっている。
「地方なら、静かに暮らせる」
マルグリットは目を伏せる。
「少なくとも、これ以上失わない」
リリアは沈黙する。
奪うと宣言した夜。
あの時は、怖いものなどなかった。
王太子妃になる未来しか見えていなかった。
だが今。
王都の視線は冷たい。
信用はない。
招待状も届かない。
「……わたくしは」
喉が震える。
「逃げるの?」
自問。
同じ頃。
私は執務室で報告を受けていた。
「義妹様、まだ返答なし」
「そう」
「王都では再起は困難でしょう」
私は頷く。
「信用は、一度失えば重い」
夜更け。
リリアは机に向かい、羽根ペンを取る。
返答は短い。
“承諾いたします”
手が止まる。
本当にこれでいいのか。
だが、王都に残っても。
値札付きの令嬢。
囁きの対象。
封筒を閉じる。
それは、敗北の署名ではない。
選択だ。
翌朝。
使者が仮住まいを訪れる。
「ご決断、感謝いたします」
礼儀正しい一礼。
馬車が去る。
リリアは窓辺に立つ。
「これで……終わり?」
マルグリットが静かに言う。
「終わりではないわ」
だが、それは慰めだ。
午後。
王都に小さな噂が流れる。
『義妹、地方へ嫁ぐ』
『王都撤退』
私は報告書を閉じる。
「決めたのね」
「助けなくてよろしかったのですか」
「彼女が選んだのよ」
奪うと宣言した夜。
彼女は勝者の顔だった。
今は。
静かな敗者の横顔。
私は窓の外を見る。
王都の空は高い。
「沈黙は、罰ではない」
だが。
王都で声を上げられなくなること。
それが、最大の代償。
馬車が遠ざかる。
リリアは王都を去る。
残されたのは。
静寂。
そして。
私の名誉だけが、王都に残った。
仮住まいの小さな机の上。
白い封筒が、夜の灯りに照らされている。
地方商会当主からの縁談。
持参金不要。
王都復帰不可。
過去の騒動を口外しないこと。
リリアは、その文面を何度も読み返していた。
「……沈黙と引き換え、安定」
言葉にすれば簡単だ。
だが、それはつまり――
王都を諦めること。
公爵令嬢の夢を捨てること。
扉が叩かれる。
マルグリットだ。
「どうするの」
その声には、かつての威圧はない。
「お母様は?」
「……王都には、もう居場所がないわ」
それは事実だ。
社交資格停止。
爵位剥奪。
国外追放。
すべてが終わっている。
「地方なら、静かに暮らせる」
マルグリットは目を伏せる。
「少なくとも、これ以上失わない」
リリアは沈黙する。
奪うと宣言した夜。
あの時は、怖いものなどなかった。
王太子妃になる未来しか見えていなかった。
だが今。
王都の視線は冷たい。
信用はない。
招待状も届かない。
「……わたくしは」
喉が震える。
「逃げるの?」
自問。
同じ頃。
私は執務室で報告を受けていた。
「義妹様、まだ返答なし」
「そう」
「王都では再起は困難でしょう」
私は頷く。
「信用は、一度失えば重い」
夜更け。
リリアは机に向かい、羽根ペンを取る。
返答は短い。
“承諾いたします”
手が止まる。
本当にこれでいいのか。
だが、王都に残っても。
値札付きの令嬢。
囁きの対象。
封筒を閉じる。
それは、敗北の署名ではない。
選択だ。
翌朝。
使者が仮住まいを訪れる。
「ご決断、感謝いたします」
礼儀正しい一礼。
馬車が去る。
リリアは窓辺に立つ。
「これで……終わり?」
マルグリットが静かに言う。
「終わりではないわ」
だが、それは慰めだ。
午後。
王都に小さな噂が流れる。
『義妹、地方へ嫁ぐ』
『王都撤退』
私は報告書を閉じる。
「決めたのね」
「助けなくてよろしかったのですか」
「彼女が選んだのよ」
奪うと宣言した夜。
彼女は勝者の顔だった。
今は。
静かな敗者の横顔。
私は窓の外を見る。
王都の空は高い。
「沈黙は、罰ではない」
だが。
王都で声を上げられなくなること。
それが、最大の代償。
馬車が遠ざかる。
リリアは王都を去る。
残されたのは。
静寂。
そして。
私の名誉だけが、王都に残った。
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