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第二十一話 戻れない席
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第二十一話 戻れない席
王家信任証の授与から数日。
王都の空気は、はっきりと変わっていた。
以前は、私を見る視線の中に「同情」や「面白半分の興味」が混じっていた。
今は違う。
敬意。
そして、計算。
社交界は、強い者の側につく。
残酷なほどに。
その夜、王宮舞踏会が開かれた。
大理石の階段。
金糸の装飾。
煌びやかなシャンデリア。
私は深い藍色のドレスを纏い、会場へ入る。
視線が一斉に向く。
「アウレリア様だ」
「王家信任証の……」
ざわめきは、羨望へ変わる。
王太子エドワルドが近づいてくる。
「本日はご出席、感謝する」
「招待いただいた以上、当然です」
形式的な言葉。
だがその間に流れる空気は、以前よりも確かなものになっている。
「空いた席がある」
彼が静かに告げる。
舞踏会中央、王家席の隣。
かつて。
レオンが立っていた位置。
私の隣だった席。
「お座りになるか」
問いかけ。
私は一瞬だけ視線を向ける。
空席。
そこには、もう誰も戻らない。
「辞退いたします」
会場がわずかにざわめく。
「私は公爵令嬢として立ちます」
王家の隣ではなく。
自らの足で。
エドワルドは小さく笑った。
「強いな」
「契約を守っただけです」
舞踏が始まる。
音楽が流れ、貴族たちが踊る。
だが、ひとつだけ空いた席がある。
そこは、戻れない席。
遠く。
社交界の片隅で、ある令嬢が囁く。
「もし、あの時婚約破棄がなければ」
だが、歴史に“もし”はない。
私はゆっくりと会場を見渡す。
継母はいない。
義妹はいない。
元婚約者もいない。
そして、誰も彼らの名前を口にしない。
強ザマァとは。
相手を滅ぼすことではない。
――存在を消すこと。
舞踏が終わる頃。
王太子が再び近づく。
「新たな外交協定の調整を任せたい」
「名誉なことです」
「個人の感情は?」
わずかな間。
「不要です」
彼は静かに頷く。
「では、共に立つか」
それは婚約の言葉ではない。
だが、可能性を含んでいる。
私は微笑む。
「王家が契約を守る限り」
遠くで鐘が鳴る。
戻れない席は、もう必要ない。
私の席は、ここにある。
王都の灯りが、煌めいていた。
王家信任証の授与から数日。
王都の空気は、はっきりと変わっていた。
以前は、私を見る視線の中に「同情」や「面白半分の興味」が混じっていた。
今は違う。
敬意。
そして、計算。
社交界は、強い者の側につく。
残酷なほどに。
その夜、王宮舞踏会が開かれた。
大理石の階段。
金糸の装飾。
煌びやかなシャンデリア。
私は深い藍色のドレスを纏い、会場へ入る。
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「アウレリア様だ」
「王家信任証の……」
ざわめきは、羨望へ変わる。
王太子エドワルドが近づいてくる。
「本日はご出席、感謝する」
「招待いただいた以上、当然です」
形式的な言葉。
だがその間に流れる空気は、以前よりも確かなものになっている。
「空いた席がある」
彼が静かに告げる。
舞踏会中央、王家席の隣。
かつて。
レオンが立っていた位置。
私の隣だった席。
「お座りになるか」
問いかけ。
私は一瞬だけ視線を向ける。
空席。
そこには、もう誰も戻らない。
「辞退いたします」
会場がわずかにざわめく。
「私は公爵令嬢として立ちます」
王家の隣ではなく。
自らの足で。
エドワルドは小さく笑った。
「強いな」
「契約を守っただけです」
舞踏が始まる。
音楽が流れ、貴族たちが踊る。
だが、ひとつだけ空いた席がある。
そこは、戻れない席。
遠く。
社交界の片隅で、ある令嬢が囁く。
「もし、あの時婚約破棄がなければ」
だが、歴史に“もし”はない。
私はゆっくりと会場を見渡す。
継母はいない。
義妹はいない。
元婚約者もいない。
そして、誰も彼らの名前を口にしない。
強ザマァとは。
相手を滅ぼすことではない。
――存在を消すこと。
舞踏が終わる頃。
王太子が再び近づく。
「新たな外交協定の調整を任せたい」
「名誉なことです」
「個人の感情は?」
わずかな間。
「不要です」
彼は静かに頷く。
「では、共に立つか」
それは婚約の言葉ではない。
だが、可能性を含んでいる。
私は微笑む。
「王家が契約を守る限り」
遠くで鐘が鳴る。
戻れない席は、もう必要ない。
私の席は、ここにある。
王都の灯りが、煌めいていた。
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