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第二十八話 王太子妃の条件
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第二十八話 王太子妃の条件
正式婚約の発表から数日。
王都は祝賀の空気に包まれていた。
花屋は忙しく、仕立て屋は徹夜し、新聞は連日私の名を一面に載せる。
“王家信任証を持つ公爵令嬢、王太子妃へ”
まるで美談のように書き立てられている。
だが。
浮かれているのは周囲だけだ。
私は、王宮の石造りの回廊を歩いていた。
向かう先は、宮内制度協議室。
王太子妃としての権限と役割を正式に定める場。
重厚な扉が開く。
室内には、宮内長官、法務官、財務顧問、そして王太子エドワルド。
机の上には、分厚い文書が積み上がっている。
「本日は、王太子妃殿下の職掌確認を」
宮内長官が淡々と告げる。
“殿下”。
その呼び名に、まだ違和感はある。
文書が読み上げられる。
「王太子妃は、社交行事の主催および出席」
「慈善活動の統括」
「王族女性の模範的振る舞いの維持」
私は静かに聞いていた。
「以上が従来の慣例です」
宮内長官が顔を上げる。
「財務や制度に関する直接関与は行わない」
静寂。
私はゆっくりと文書を閉じた。
「では、私は不要ですね」
空気が凍る。
「どういう意味ですかな」
宮内長官の声が低くなる。
「私は飾りではありません」
穏やかに、しかしはっきりと告げる。
「制度改革に関わり、王家の信用を回復した立場です」
財務顧問が視線を上げる。
「確かに、婚約新基準はあなたの提案が軸だ」
「それを王太子妃になった瞬間に手放すのであれば」
私は椅子から立ち上がる。
「婚約は白紙に戻していただいて結構です」
ざわめきが広がる。
「殿下!」
宮内長官が王太子を見る。
エドワルドは、動じない。
「条件を聞こう」
私は一枚の書類を机に置く。
「王太子妃としての条件」
法務官がそれを手に取り、目を走らせる。
「第一に、制度協議への常時参加権」
「第二に、王家財務監査資料の閲覧権」
「第三に、婚約新基準の恒久化および改定提案権」
宮内長官が顔色を変える。
「それは王妃に近い権限だ」
「近いのではありません」
私は静かに言う。
「王妃として必要な権限です」
会議室が重く沈む。
「前例がない」
「前例がないからこそ、今回の騒動が起きました」
私は視線を巡らせる。
「婚約を軽んじた結果、家が崩れ、外交問題となった」
「制度が曖昧だったからです」
誰も反論できない。
エドワルドがゆっくり口を開く。
「反対意見はあるか」
沈黙。
宮内長官は目を閉じ、やがて小さく息を吐いた。
「……合理的ではあります」
財務顧問も頷く。
「むしろ、明文化すべきだった」
エドワルドが私を見る。
「承認する」
短い一言。
それだけで、空気が変わった。
「王太子妃権限拡張を正式に公示する」
私はゆっくりと一礼する。
「では、婚約を受け入れます」
取引ではない。
対等な合意。
会議が終わり、回廊を歩く。
「随分と強気だったな」
エドワルドが並ぶ。
「強気ではありません」
「当然の要求です」
彼は小さく笑う。
「婚約前に条件交渉する令嬢は初めて見た」
「婚約で全てを失った令嬢も、珍しかったでしょう」
一瞬の沈黙の後。
彼は真顔で言う。
「感情はないのか」
「あります」
私は足を止める。
「ですが、感情で契約は結びません」
彼は頷いた。
「ならば安心だ」
午後。
王都に追加公示が出る。
『王太子妃権限拡張、制度協議参加明文化』
社交界は騒然とする。
「王太子妃が制度に関与?」
「前例がない」
「しかし否定できない」
私の名は、再び議論の中心へ。
夜。
バルコニーに立つ。
王都の灯りが、冬の空気に揺れる。
「これで、本当に選ぶ側ですね」
カレンが静かに言う。
私はゆっくり頷く。
「席に座るだけでは、意味がない」
かつて私は、席を奪われた。
嘲笑と共に。
今は。
席の形そのものを変えた。
強ザマァの最終段階。
相手を滅ぼすことではない。
自分が立つ位置を、制度に固定すること。
遠くで王宮の鐘が鳴る。
王太子妃の条件は、私が決めた。
王都は、もう昔の王都ではない。
私は静かに呟く。
「まだ終わらない」
次に動くのは、王国そのもの。
そして。
王妃としての、最初の一手。
正式婚約の発表から数日。
王都は祝賀の空気に包まれていた。
花屋は忙しく、仕立て屋は徹夜し、新聞は連日私の名を一面に載せる。
“王家信任証を持つ公爵令嬢、王太子妃へ”
まるで美談のように書き立てられている。
だが。
浮かれているのは周囲だけだ。
私は、王宮の石造りの回廊を歩いていた。
向かう先は、宮内制度協議室。
王太子妃としての権限と役割を正式に定める場。
重厚な扉が開く。
室内には、宮内長官、法務官、財務顧問、そして王太子エドワルド。
机の上には、分厚い文書が積み上がっている。
「本日は、王太子妃殿下の職掌確認を」
宮内長官が淡々と告げる。
“殿下”。
その呼び名に、まだ違和感はある。
文書が読み上げられる。
「王太子妃は、社交行事の主催および出席」
「慈善活動の統括」
「王族女性の模範的振る舞いの維持」
私は静かに聞いていた。
「以上が従来の慣例です」
宮内長官が顔を上げる。
「財務や制度に関する直接関与は行わない」
静寂。
私はゆっくりと文書を閉じた。
「では、私は不要ですね」
空気が凍る。
「どういう意味ですかな」
宮内長官の声が低くなる。
「私は飾りではありません」
穏やかに、しかしはっきりと告げる。
「制度改革に関わり、王家の信用を回復した立場です」
財務顧問が視線を上げる。
「確かに、婚約新基準はあなたの提案が軸だ」
「それを王太子妃になった瞬間に手放すのであれば」
私は椅子から立ち上がる。
「婚約は白紙に戻していただいて結構です」
ざわめきが広がる。
「殿下!」
宮内長官が王太子を見る。
エドワルドは、動じない。
「条件を聞こう」
私は一枚の書類を机に置く。
「王太子妃としての条件」
法務官がそれを手に取り、目を走らせる。
「第一に、制度協議への常時参加権」
「第二に、王家財務監査資料の閲覧権」
「第三に、婚約新基準の恒久化および改定提案権」
宮内長官が顔色を変える。
「それは王妃に近い権限だ」
「近いのではありません」
私は静かに言う。
「王妃として必要な権限です」
会議室が重く沈む。
「前例がない」
「前例がないからこそ、今回の騒動が起きました」
私は視線を巡らせる。
「婚約を軽んじた結果、家が崩れ、外交問題となった」
「制度が曖昧だったからです」
誰も反論できない。
エドワルドがゆっくり口を開く。
「反対意見はあるか」
沈黙。
宮内長官は目を閉じ、やがて小さく息を吐いた。
「……合理的ではあります」
財務顧問も頷く。
「むしろ、明文化すべきだった」
エドワルドが私を見る。
「承認する」
短い一言。
それだけで、空気が変わった。
「王太子妃権限拡張を正式に公示する」
私はゆっくりと一礼する。
「では、婚約を受け入れます」
取引ではない。
対等な合意。
会議が終わり、回廊を歩く。
「随分と強気だったな」
エドワルドが並ぶ。
「強気ではありません」
「当然の要求です」
彼は小さく笑う。
「婚約前に条件交渉する令嬢は初めて見た」
「婚約で全てを失った令嬢も、珍しかったでしょう」
一瞬の沈黙の後。
彼は真顔で言う。
「感情はないのか」
「あります」
私は足を止める。
「ですが、感情で契約は結びません」
彼は頷いた。
「ならば安心だ」
午後。
王都に追加公示が出る。
『王太子妃権限拡張、制度協議参加明文化』
社交界は騒然とする。
「王太子妃が制度に関与?」
「前例がない」
「しかし否定できない」
私の名は、再び議論の中心へ。
夜。
バルコニーに立つ。
王都の灯りが、冬の空気に揺れる。
「これで、本当に選ぶ側ですね」
カレンが静かに言う。
私はゆっくり頷く。
「席に座るだけでは、意味がない」
かつて私は、席を奪われた。
嘲笑と共に。
今は。
席の形そのものを変えた。
強ザマァの最終段階。
相手を滅ぼすことではない。
自分が立つ位置を、制度に固定すること。
遠くで王宮の鐘が鳴る。
王太子妃の条件は、私が決めた。
王都は、もう昔の王都ではない。
私は静かに呟く。
「まだ終わらない」
次に動くのは、王国そのもの。
そして。
王妃としての、最初の一手。
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