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第六話 食材問題すら不要
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第六話
食材問題すら不要
私は、ふと立ち止まった。
理由は単純だ。
「……あれ?」
お腹が空いていない。
朝食を食べたのは、もう何時間も前のはずなのに、妙に身体が軽い。
胃が重くもないし、空腹のサインも出てこない。
「……朝ごはん……
量……普通だったわよね……?」
思い返す。
スープ、パン、副菜。
決して過剰ではなかった。
「……栄養……
管理……されすぎ……?」
いや、それ以前に。
私は、ある重大なことを思い出した。
「……あれ……?」
森の中で生活するなら、
まず考えるべきこと。
「……食材……
集めてない……」
薪も割っていない。
狩りもしていない。
野草の知識も、きのこの見分けも――
一切、使っていない。
「……ちょっと……
それは……
おかしくない……?」
嫌な汗が、背中を伝う。
「……森よ……
ここ……」
私は、キッチンの奥にある扉へ向かった。
昨日から気になっていた場所。
「……食料庫……」
キッチンファミリーは、何も言わない。
ただ、邪魔をしない。
私は、扉に手をかけた。
「……確認……
するだけ……」
ギィ――。
扉を開ける。
「………………」
思考が、止まった。
「……え……?」
食材が、ぎっしり詰まっている。
肉。
魚。
野菜。
果物。
香草。
調味料。
どれも、新鮮。
どれも、傷一つない。
「……え……
これ……
どこから……?」
私は、一歩踏み入れた。
「……?」
涼しい。
寒いわけじゃない。
でも、明らかに――
リビングやキッチンより温度が低い。
「……冷蔵庫……?」
そう呟いて、首を振る。
「……違う……」
冷蔵庫特有の、
電気の音も、風の流れもない。
なのに。
「……温度……
一定……?」
肉に触れる。
「……冷た……」
でも、凍ってはいない。
魚の目は澄み、
野菜は張りがある。
「……これ……
今日買ってきた……
って言われても……
信じる……」
棚を見上げる。
奥にも、まだある。
「……量……
おかしくない……?」
食べきれる量ではない。
なのに。
「……腐って……
ない……」
私は、背筋がぞくりとした。
「……まさか……」
視界に、文字が浮かぶ。
> 《付喪神:食料庫》
《保存機能:稼働中》
《腐敗進行:停止》
「………………」
停止。
「……腐敗……
停止……?」
思わず、声が裏返った。
「……冷蔵……
じゃ……ない……」
これは。
「……時間……
止めて……る……?」
食材の“劣化”という概念が、存在していない。
「……保存……
っていうより……
保存超えてる……」
私は、棚から果物を一つ取り出した。
香りが、濃い。
「……これ……
何日前の……?」
返事はない。
でも。
――キシ。
床が、かすかに鳴った。
――問題なし。
「……問題……
ありすぎ……」
私は、額に手を当てた。
「……これ……
狩り……
不要……」
薪も、不要。
水汲みも、不要。
料理も、ほぼ不要。
「……生きるための……
努力……
全部……
消えてる……」
森の生活とは。
自然と向き合い、
手を動かし、
知恵を使い、
少しずつ生き延びること。
それが。
「……ここ……
生活RPGの難易度が
突然ゼロになってる……」
私は、思わず笑った。
乾いた笑い。
「……スローライフ……
じゃ……ない……」
これは。
「……オートプレイ……」
キッチンの方で、
調理音がする。
今日の昼食の準備だろう。
「……食材……
減っても……
補充……
されるの……?」
試すように、
私は果物を一つ、かじった。
「……甘……」
自然な甘さ。
食べ終わる。
食料庫を見る。
「……あ……」
減っていない。
「………………」
私は、完全に無言になった。
「……無限……?」
視界に、追記。
> 《在庫:維持》
《消費分:補完》
「……補完……」
聞き覚えのある言葉が、
今は恐ろしい。
「……これ……
私……
何も……
頑張らなくて……
いい……?」
床に座り込む。
「……追放……
されたのに……」
教会で言われた言葉が、
脳裏をよぎる。
『役立たず』
『無価値』
『聖女失格』
「……あの人たち……」
苦笑する。
「……ここ見たら……
卒倒するわね……」
でも。
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
「……こんな……
便利な場所……」
私は、そっと床を撫でる。
「……私……
守る側……
だったはずなのに……」
マイホームさんは、答えない。
ただ。
静かに、歩き続けている。
四本足で。
森を。
人を乗せたまま。
「……生きる……
って……」
私は、天井を見上げた。
「……努力……
しなくても……
いいもの……
だったかしら……」
その問いに、
答えはない。
ただ一つ確かなのは。
この家は、
彼女を飢えさせない。
それが、
正しいかどうかは――
まだ、誰にも分からない。
こうして。
追放された聖女見習いは――
食べるために生きる必要すら失い、
次の段階へと進んでしまった。
次に不要になるのが、
**「戦う覚悟」**だとも知らずに。
---
食材問題すら不要
私は、ふと立ち止まった。
理由は単純だ。
「……あれ?」
お腹が空いていない。
朝食を食べたのは、もう何時間も前のはずなのに、妙に身体が軽い。
胃が重くもないし、空腹のサインも出てこない。
「……朝ごはん……
量……普通だったわよね……?」
思い返す。
スープ、パン、副菜。
決して過剰ではなかった。
「……栄養……
管理……されすぎ……?」
いや、それ以前に。
私は、ある重大なことを思い出した。
「……あれ……?」
森の中で生活するなら、
まず考えるべきこと。
「……食材……
集めてない……」
薪も割っていない。
狩りもしていない。
野草の知識も、きのこの見分けも――
一切、使っていない。
「……ちょっと……
それは……
おかしくない……?」
嫌な汗が、背中を伝う。
「……森よ……
ここ……」
私は、キッチンの奥にある扉へ向かった。
昨日から気になっていた場所。
「……食料庫……」
キッチンファミリーは、何も言わない。
ただ、邪魔をしない。
私は、扉に手をかけた。
「……確認……
するだけ……」
ギィ――。
扉を開ける。
「………………」
思考が、止まった。
「……え……?」
食材が、ぎっしり詰まっている。
肉。
魚。
野菜。
果物。
香草。
調味料。
どれも、新鮮。
どれも、傷一つない。
「……え……
これ……
どこから……?」
私は、一歩踏み入れた。
「……?」
涼しい。
寒いわけじゃない。
でも、明らかに――
リビングやキッチンより温度が低い。
「……冷蔵庫……?」
そう呟いて、首を振る。
「……違う……」
冷蔵庫特有の、
電気の音も、風の流れもない。
なのに。
「……温度……
一定……?」
肉に触れる。
「……冷た……」
でも、凍ってはいない。
魚の目は澄み、
野菜は張りがある。
「……これ……
今日買ってきた……
って言われても……
信じる……」
棚を見上げる。
奥にも、まだある。
「……量……
おかしくない……?」
食べきれる量ではない。
なのに。
「……腐って……
ない……」
私は、背筋がぞくりとした。
「……まさか……」
視界に、文字が浮かぶ。
> 《付喪神:食料庫》
《保存機能:稼働中》
《腐敗進行:停止》
「………………」
停止。
「……腐敗……
停止……?」
思わず、声が裏返った。
「……冷蔵……
じゃ……ない……」
これは。
「……時間……
止めて……る……?」
食材の“劣化”という概念が、存在していない。
「……保存……
っていうより……
保存超えてる……」
私は、棚から果物を一つ取り出した。
香りが、濃い。
「……これ……
何日前の……?」
返事はない。
でも。
――キシ。
床が、かすかに鳴った。
――問題なし。
「……問題……
ありすぎ……」
私は、額に手を当てた。
「……これ……
狩り……
不要……」
薪も、不要。
水汲みも、不要。
料理も、ほぼ不要。
「……生きるための……
努力……
全部……
消えてる……」
森の生活とは。
自然と向き合い、
手を動かし、
知恵を使い、
少しずつ生き延びること。
それが。
「……ここ……
生活RPGの難易度が
突然ゼロになってる……」
私は、思わず笑った。
乾いた笑い。
「……スローライフ……
じゃ……ない……」
これは。
「……オートプレイ……」
キッチンの方で、
調理音がする。
今日の昼食の準備だろう。
「……食材……
減っても……
補充……
されるの……?」
試すように、
私は果物を一つ、かじった。
「……甘……」
自然な甘さ。
食べ終わる。
食料庫を見る。
「……あ……」
減っていない。
「………………」
私は、完全に無言になった。
「……無限……?」
視界に、追記。
> 《在庫:維持》
《消費分:補完》
「……補完……」
聞き覚えのある言葉が、
今は恐ろしい。
「……これ……
私……
何も……
頑張らなくて……
いい……?」
床に座り込む。
「……追放……
されたのに……」
教会で言われた言葉が、
脳裏をよぎる。
『役立たず』
『無価値』
『聖女失格』
「……あの人たち……」
苦笑する。
「……ここ見たら……
卒倒するわね……」
でも。
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
「……こんな……
便利な場所……」
私は、そっと床を撫でる。
「……私……
守る側……
だったはずなのに……」
マイホームさんは、答えない。
ただ。
静かに、歩き続けている。
四本足で。
森を。
人を乗せたまま。
「……生きる……
って……」
私は、天井を見上げた。
「……努力……
しなくても……
いいもの……
だったかしら……」
その問いに、
答えはない。
ただ一つ確かなのは。
この家は、
彼女を飢えさせない。
それが、
正しいかどうかは――
まだ、誰にも分からない。
こうして。
追放された聖女見習いは――
食べるために生きる必要すら失い、
次の段階へと進んでしまった。
次に不要になるのが、
**「戦う覚悟」**だとも知らずに。
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