役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

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第七話 料理すら不要

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第七話

料理すら不要

 私は、包丁を握っていた。

 ――正確に言えば、握ろうとしていた。

「……よし……」

 キッチンの作業台の前に立ち、
 エプロンまで着けている。

 ここまで来て、
 ようやく“生活している感覚”が戻ってきた。

「……さすがに……
 料理くらいは……
 自分で……」

 スローライフだ。

 少なくとも、
 そういう名前が付いている以上。

 食材を切り、
 火を使い、
 味を見て、
 失敗して。

 そういう“過程”が――
 必要なはずだ。

「……よし……
 今日は……
 シンプルなスープから……」

 私は、食料庫から野菜を取り出した。

 相変わらず、新鮮すぎる。

「……この人参……
 畑から……
 抜いた瞬間……
 みたい……」

 気にしない。

 今は、料理。

 包丁を持ち上げ――

 ――カタン。

「……?」

 作業台の横で、
 小さな音がした。

「……え……?」

 視線を向ける。

「…………」

 皿が、置いてある。

 湯気が、立っている。

「……?」

 もう一皿。

 そして、もう一皿。

「……ちょ……
 待って……」

 私は、慌てて周囲を見る。

 キッチンファミリーは、
 いつも通り、静止している。

 だが――
 空気が、仕事を終えた雰囲気だ。

「……まさか……」

 恐る恐る、皿を覗く。

「…………」

 完成している。

 スープ。
 焼き物。
 副菜。

 しかも。

「……私……
 今……
 何も……
 言って……
 ない……」

 視界に、文字が浮かぶ。

> 《調理:完了》
《献立:最適化》
《嗜好分析:更新》



「…………」

 嗜好。

「……好み……
 学習……?」

 スープを一口。

「…………」

 目を見開いた。

「……好き……」

 塩加減。
 香り。
 温度。

 完璧に、私の好み。

「……え……
 なんで……
 分かるの……」

 次の一口。

 さらに確信する。

「……これ……
 昨日より……
 微妙に……
 好み……」

 つまり。

「……学習……
 してる……」

 私は、包丁を作業台に置いた。

「……料理……
 しようと……
 した……のに……」

 包丁は、
 一度も使われなかった。

「……これ……
 私の意思……
 必要……?」

 視界に、追記。

> 《栄養:不足なし》
《疲労回復:最適》
《満足度:高》



「……満足度……」

 数字で管理される生活。

「……食事……
 って……
 もっと……
 雑で……
 失敗して……
 いいもの……
 じゃ……」

 だが。

 スープは、
 静かに、湯気を立てている。

 ――冷めないように。

「……ああ……」

 私は、椅子に座った。

「……完全に……
 “頑張らなくていい”
 に……
 振り切れてる……」

 教会での生活が、
 脳裏に浮かぶ。

 早朝の祈り。
 掃除。
 雑用。
 失敗すれば、叱責。

「……あの頃……
 “努力しなさい”
 って……
 言われ続けて……」

 なのに。

「……今……
 努力……
 邪魔……
 されてる……」

 私は、苦笑した。

「……料理……
 好き……
 だった……のに……」

 包丁を見つめる。

 刃は、ピカピカだ。

 使われる予定は、
 ない。

「……マイホームさん……」

 床に、声をかける。

「……私……
 何もしなくて……
 いいの……?」

 返事はない。

 ただ。

 ――キシ。

 短い音。

 ――問題なし。

「……それが……
 一番……
 怖い……」

 私は、料理を食べ終えた。

 皿は、
 気づけば片付いている。

「……後片付け……
 すら……
 ない……」

 ソファに倒れ込む。

「……生活……
 って……
 こんなに……
 楽で……
 いいの……?」

 天井を見上げる。

「……このまま……
 何も……
 しなくなったら……」

 ふと、不安がよぎる。

「……私……
 私で……
 いられる……?」

 答えは、ない。

 だが。

 毛布が、
 そっとかけられた。

 ――休息推奨。

「……ちがう……
 そうじゃ……」

 抗議する声は、弱い。

「……これは……
 スローライフ……
 じゃ……」

 瞼が、重くなる。

「……フルサポート人生……」

 意識が、沈む。

 その間も。

 キッチンは、
 次の食事を準備し、
 栄養を計算し、
 嗜好を更新し続けていた。

 こうして。

 追放された聖女見習いは――
 料理という役割すら失い、
 次にやるべきことを――
 完全に見失った。

 残っているのは。

 暇。

 そして。

 **「暇つぶしの召喚」**という、
 最悪の選択肢だけだった。


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