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第八話 暇なので召喚の練習
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第八話
暇なので召喚の練習
暇だった。
それはもう、
びっくりするほど暇だった。
「………………」
ソファに寝転がり、天井を見上げる。
お腹は空いていない。
疲れてもいない。
寒くも暑くもない。
家は揺れず、
森は安全で、
危険は存在しない。
「……暇……」
人は、
ここまで何もする必要がなくなると、
逆に不安になるらしい。
「……洗濯……
終わってる……」
見れば、干されていた洗濯物はすでに畳まれ、
引き出しに収納されている。
「……掃除……
完了……」
床に、埃一つない。
「……料理……
却下……」
キッチンは、
こちらの視線を察知した瞬間に、
「既に準備済み」の空気を出してきた。
「……努力……
全部……
拒否されてる……」
私は、起き上がった。
「……こうなったら……」
やることは、一つしかない。
「……召喚……
練習……」
暇を持て余した聖女見習いが、
やってはいけないことランキング上位。
ノーリスク暇つぶし召喚。
「……まあ……
小さいもの……
なら……」
私は、召喚陣を描いた。
これまで、
ぬいぐるみ。
廃屋。
家。
だが、今回は。
「……もっと……
日用品……」
集中する。
「……来なさい……
掃除用スプーン……」
光。
ぽん。
「…………」
床に落ちたのは、
ごく普通の木製スプーンだった。
「……成功……?」
拍子抜けするほど、地味。
「……付喪神……
発動……?」
視界に、文字。
> 《付喪神:掃除スプーン》
《役割:微細清掃》
「…………」
次の瞬間。
スプーンが、
自走した。
「……え……?」
床を、すー……っと滑るように移動。
そして。
「………………」
床の隙間に入り込み、
埃をすくい取り、
どこかへ消える。
「……地味……」
だが。
「……すごく……
助かる……」
次。
「……じゃあ……
雑巾……」
ぽん。
> 《付喪神:雑巾》
《役割:拭き上げ》
雑巾は、
黙々と壁を磨き始めた。
「……誰も……
頼んで……
ない……」
でも、止まらない。
次。
「……椅子……」
リビングの椅子に向け、
軽く意識を向ける。
「……付喪神……」
――キシ。
> 《付喪神:椅子》
《役割:姿勢補正》
「……え……?」
座った瞬間。
「……っ!?」
背筋が、強制的に伸ばされた。
「……いた……
いたい……」
いや、痛くはない。
でも。
「……正しい……
姿勢……」
猫背になろうとすると、
そっと、でも確実に修正される。
「……これ……
長時間……
座る人……
泣く……」
熊のぬいぐるみが、
遠くで見ている。
どこか、誇らしげ。
「……熊……
あなた……
こういうの……
どう思う……?」
熊は、親指を立てた。
――良い。
「……そう……」
私は、次々と召喚した。
・自動で並ぶ本
・音量調整クッション
・最適温度マグカップ
・眠気感知ブランケット
「……どれも……
戦えない……」
でも。
「……全部……
地味に……
便利……」
視界に、まとめ表示。
> 《付喪神ユニット:日用品》
《生活快適度:上昇》
「……生活快適度……」
数値で管理される日常。
「……これ……
冒険……
始まる前に……
ダメになるやつ……」
私は、ソファに沈んだ。
「……やること……
なくなった……」
周囲を見回す。
椅子は姿勢を正し、
雑巾は黙々と働き、
スプーンは見えない場所を清掃している。
「……仲間……
増えた……?」
戦闘力は、ゼロ。
でも。
「……生活力……
カンスト……」
私は、ぽつりと呟いた。
「……追放……
された……
はず……
なのに……」
教会で言われた言葉が、
遠く感じる。
『役立たず』
『無価値』
「……役に……
立ちすぎ……」
自嘲気味に笑う。
「……このまま……
召喚……
続けたら……」
視線が、
部屋の奥に向いた。
「……もっと……
変なもの……
来る……?」
少し、
本当に少しだけ。
「……楽しく……
なってきた……」
それが。
このあと、
伝説級の問題を呼ぶとも知らずに。
こうして。
追放された聖女見習いは――
暇つぶしで召喚を繰り返し、
生活を、
もはや戻れないレベルまで
快適化してしまった。
次に召喚されるのは。
小物ではない。
明らかに、
重すぎる何かだった。
暇なので召喚の練習
暇だった。
それはもう、
びっくりするほど暇だった。
「………………」
ソファに寝転がり、天井を見上げる。
お腹は空いていない。
疲れてもいない。
寒くも暑くもない。
家は揺れず、
森は安全で、
危険は存在しない。
「……暇……」
人は、
ここまで何もする必要がなくなると、
逆に不安になるらしい。
「……洗濯……
終わってる……」
見れば、干されていた洗濯物はすでに畳まれ、
引き出しに収納されている。
「……掃除……
完了……」
床に、埃一つない。
「……料理……
却下……」
キッチンは、
こちらの視線を察知した瞬間に、
「既に準備済み」の空気を出してきた。
「……努力……
全部……
拒否されてる……」
私は、起き上がった。
「……こうなったら……」
やることは、一つしかない。
「……召喚……
練習……」
暇を持て余した聖女見習いが、
やってはいけないことランキング上位。
ノーリスク暇つぶし召喚。
「……まあ……
小さいもの……
なら……」
私は、召喚陣を描いた。
これまで、
ぬいぐるみ。
廃屋。
家。
だが、今回は。
「……もっと……
日用品……」
集中する。
「……来なさい……
掃除用スプーン……」
光。
ぽん。
「…………」
床に落ちたのは、
ごく普通の木製スプーンだった。
「……成功……?」
拍子抜けするほど、地味。
「……付喪神……
発動……?」
視界に、文字。
> 《付喪神:掃除スプーン》
《役割:微細清掃》
「…………」
次の瞬間。
スプーンが、
自走した。
「……え……?」
床を、すー……っと滑るように移動。
そして。
「………………」
床の隙間に入り込み、
埃をすくい取り、
どこかへ消える。
「……地味……」
だが。
「……すごく……
助かる……」
次。
「……じゃあ……
雑巾……」
ぽん。
> 《付喪神:雑巾》
《役割:拭き上げ》
雑巾は、
黙々と壁を磨き始めた。
「……誰も……
頼んで……
ない……」
でも、止まらない。
次。
「……椅子……」
リビングの椅子に向け、
軽く意識を向ける。
「……付喪神……」
――キシ。
> 《付喪神:椅子》
《役割:姿勢補正》
「……え……?」
座った瞬間。
「……っ!?」
背筋が、強制的に伸ばされた。
「……いた……
いたい……」
いや、痛くはない。
でも。
「……正しい……
姿勢……」
猫背になろうとすると、
そっと、でも確実に修正される。
「……これ……
長時間……
座る人……
泣く……」
熊のぬいぐるみが、
遠くで見ている。
どこか、誇らしげ。
「……熊……
あなた……
こういうの……
どう思う……?」
熊は、親指を立てた。
――良い。
「……そう……」
私は、次々と召喚した。
・自動で並ぶ本
・音量調整クッション
・最適温度マグカップ
・眠気感知ブランケット
「……どれも……
戦えない……」
でも。
「……全部……
地味に……
便利……」
視界に、まとめ表示。
> 《付喪神ユニット:日用品》
《生活快適度:上昇》
「……生活快適度……」
数値で管理される日常。
「……これ……
冒険……
始まる前に……
ダメになるやつ……」
私は、ソファに沈んだ。
「……やること……
なくなった……」
周囲を見回す。
椅子は姿勢を正し、
雑巾は黙々と働き、
スプーンは見えない場所を清掃している。
「……仲間……
増えた……?」
戦闘力は、ゼロ。
でも。
「……生活力……
カンスト……」
私は、ぽつりと呟いた。
「……追放……
された……
はず……
なのに……」
教会で言われた言葉が、
遠く感じる。
『役立たず』
『無価値』
「……役に……
立ちすぎ……」
自嘲気味に笑う。
「……このまま……
召喚……
続けたら……」
視線が、
部屋の奥に向いた。
「……もっと……
変なもの……
来る……?」
少し、
本当に少しだけ。
「……楽しく……
なってきた……」
それが。
このあと、
伝説級の問題を呼ぶとも知らずに。
こうして。
追放された聖女見習いは――
暇つぶしで召喚を繰り返し、
生活を、
もはや戻れないレベルまで
快適化してしまった。
次に召喚されるのは。
小物ではない。
明らかに、
重すぎる何かだった。
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