役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

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第十話 召喚大成功!えくすかりばーさん降臨

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第十話

召喚大成功!えくすかりばーさん降臨

 静かすぎる時間、というものがある。

 何も起こらず、
 何も困らず、
 何も求められない時間。

 私は、その真ん中にいた。

「…………」

 マイホームさんは、今日も森を歩いている。
 四本足の規則正しい歩行は、外の景色だけを動かし、室内の平穏は完璧に保っていた。

 キッチンファミリーは次の食事の準備を終え、
 掃除スプーンは存在を感じさせない仕事をし、
 椅子は私の姿勢を正し続けている。

 本棚は静かだ。
 それが逆に、怖い。

「……やること……
 本当に……ない……」

 暇、という言葉では足りない。

 これはもう、
 生活から“選択”が消えた状態だ。

 私は、ぼんやりと召喚陣を見下ろした。

「……ここまで来たら……」

 言い訳は、いくらでもあった。

 理論検証。
 安全確認。
 知識の裏付け。

 そして何より。

「……どうせ……
 暇だし……」

 私は、小さく息を吸った。

「……非生物……
 魂宿り……
 伝承あり……」

 頭の中で、条件をなぞる。

 今の私は、
 “普通の召喚師”とは、
 まったく別の存在になっている。

「……だったら……」

 名前を、口にした。

「……来なさい……
 えくすかりばー……」

 光が、広がった。

 派手ではない。
 爆発もしない。

 ただ、
 場の空気が正される。

 神殿の奥で祈るときのような、
 背筋が自然と伸びる感覚。

 そして。

 ――カン。

 澄んだ金属音。

 床に、剣が現れていた。

「…………」

 美しい。

 それが、第一印象だった。

 無駄のない白銀の刃。
 装飾は控えめだが、
 “語られるために生まれた”存在感がある。

「……成功……?」

 次の瞬間。

「――はい。
 召喚は、完全に成功しています」

 剣が、喋った。

「………………」

 私は、反射的に一歩下がった。

「……あ……
 えっと……」

「初めまして。
 私は、えくすかりばー」

 剣は、実に丁寧な口調だった。

「伝説級聖剣の一振りであり、
 現在は“魂を宿した非生物”です」

「……魂……
 あるんだ……」

「ええ。
 ですので、あなたの召喚条件は
 問題なく満たされています」

 あまりにも落ち着いた説明に、
 逆に頭が追いつかない。

「……えっと……
 聖剣って……
 選ばれし勇者とか……」

「一般論ですね」

 えくすかりばーさんは、あっさり肯定した。

「ですが今回は、
 召喚主が世界側から適合されたケースです」

「……世界側……?」

「はい。
 あなたの周囲――特にこの家は、
 魂付き非生物にとって
 非常に安定した定着環境です」

 視界に、文字が浮かぶ。

> 《付喪神:えくすかりばー》
《分類:伝説級武装》
《魂定着:安定》



「……また……
 勝手に……
 分類されてる……」

「ご安心ください」

 えくすかりばーさんは、
 少し柔らかい声で続けた。

「敵意はありません。
 むしろ、私は“住まわせていただく側”です」

「……住む……?」

 その言葉に、
 床がわずかに鳴った。

 ――キシ。

 マイホームさんの反応だ。

「……あ……」

 剣が、わずかに光る。

「接続が……
 確認されました」

 次々と、反応が走る。

 キッチンファミリー。
 掃除スプーン。
 書架。

 視界に、統合表示。

> 《付喪神ネットワーク》
《新規参加:えくすかりばー》
《役割:武装・抑止》



「……ネットワーク……
 本当に……
 あるんだ……」

「はい。
 この家は、
 非常に優れた“魂の受け皿”です」

 私は、思わず床に手を置いた。

「……マイホームさん……
 すごいこと……
 してない……?」

 返事はない。

 だが、
 どこか誇らしげな沈黙だった。

「……えくすかりばーさん……」

「はい」

「……あなた……
 ここにいて……
 大丈夫なの……?」

「問題ありません」

 即答だった。

「現在のあなたは、
 “戦う存在”ではありません」

「…………」

「ですので、
 私が前に出る必要はない」

 その言葉は、
 剣としては、
 あまりにも穏やかだった。

「……じゃあ……」

 私は、ぽつりと呟く。

「……あなたは……
 何のために……?」

 一瞬の間。

「……待機、です」

 剣は、静かに答えた。

「必要とされるその瞬間まで、
 この家と連携し、
 抑止力として存在します」

 抑止。

 つまり。

「……いるだけで……
 世界が……
 考え直す……?」

「概ね、その理解で正しいです」

 私は、深く息を吐いた。

「……召喚……
 成功しすぎ……」

 熊のぬいぐるみが、
 部屋の隅でこちらを見ている。

 まだ、動かない。

 ただ、
 新しい仲間を確認しているだけ。

「……えくすかりばーさん……」

「はい」

「……よろしく……」

「こちらこそ。
 召喚主殿」

 剣は、
 ほんのわずか、
 嬉しそうに輝いた。

 こうして。

 追放された聖女見習いは――
 伝説級聖剣を召喚しながら、
 なおも平穏な日常を維持するという、
 前代未聞の段階へ踏み込んだ。

 まだ誰も気づいていない。

 この剣が振るわれる日が来るとき、
 彼女自身は、
 最後まで剣を持たないということを。
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