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第十一話 ヒロインSTR0、剣が持てない
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第十一話
ヒロインSTR0、剣が持てない
床に置かれた白銀の剣は、
静かに、しかし確かな存在感を放っていた。
「…………」
私は、その前に立ち尽くしている。
えくすかりばーさん。
伝説級聖剣。
魂を宿した非生物。
――召喚は、完全成功。
理屈も通っている。
付喪神ネットワークにも接続された。
問題は、ただ一つ。
「……持って……
みよう……か……」
私は、恐る恐る柄に手を伸ばした。
冷たい。
だが、不快ではない。
「……よいしょ……」
力を入れる。
――びく、ともしない。
「……あ……?」
もう一度。
「……よい……しょ……!」
剣は、床に吸い付いたままだった。
「…………」
沈黙。
マイホームさんの中で、
ほんの一瞬、空気が止まる。
「……あれ……?」
私は、額にじんわり汗を浮かべた。
「……え……
重……?」
腰を落とし、
両手でしっかり握る。
「……せーの……!」
――動かない。
まったく、動かない。
「………………」
言葉が、出ない。
視界に、淡々と文字が浮かぶ。
> 《ステータス確認》
STR:0
「………………」
ゼロ。
「……ゼロ……?」
一瞬、読み間違えたかと思った。
もう一度、表示を見直す。
> STR:0
補正:なし
「……な……
なんで……?」
困惑している私の横で、
えくすかりばーさんが静かに声をかけてきた。
「驚かせてしまい、申し訳ありません」
「……い、いえ……
その……」
「ですが、数値としては正確です」
剣は、淡々と説明する。
「あなたは、
物理的な力を行使する前提で
設計されていない存在です」
「……設計……?」
「はい。
あなたの本質は、
“行使者”ではなく
“起点”です」
起点。
意味は、分かる。
だが。
「……でも……
聖女……
見習い……」
「祈り、導き、環境を整える」
えくすかりばーさんは続けた。
「それが、本来の役割でしょう」
「…………」
私は、ゆっくり息を吐いた。
「……つまり……
私は……
戦わない……」
「はい」
即答だった。
「あなたが剣を振る必要はありません」
「…………」
そのとき。
――パタパタ。
柔らかな足音。
振り返ると、
熊のぬいぐるみが、
ゆっくりこちらへ近づいてきていた。
「……熊……」
熊は、
えくすかりばーさんを見下ろす。
次の瞬間。
ひょい。
熊は、剣を軽々と持ち上げた。
「………………」
私は、言葉を失った。
熊は、肩に剣を担ぐと、
そのまま軽く一振り。
――ブン。
空気が、裂けるような音。
家具が、微動だにしないのは、
マイホームさんの制御のおかげだ。
熊は、
二振り、三振り。
無駄がない。
洗練されすぎている。
視界に、無情な表示。
> 《熊のぬいぐるみ》
STR:999
剣術Lv:99
「………………」
差が、
あまりにもはっきりしていた。
「……あ……
なるほど……」
乾いた笑いが、喉から漏れる。
「……私は……
持てない……」
熊は、最後に一振りしてから、
えくすかりばーさんを床に戻した。
そして。
ポン。
自分の胸を叩く。
――任せろ。
「……うん……」
私は、小さく頷いた。
「……分かってた……
気が……
する……」
教会での記憶が、
脳裏をよぎる。
『役立たず』
『何もできない』
『期待外れ』
「……でも……」
私は、剣と熊を見た。
「……今は……
違う……」
えくすかりばーさんが、
静かに言う。
「あなたは、
この場に立っているだけで
十分です」
「……立ってる……
だけ……?」
「はい」
剣は、はっきりと告げた。
「守るのは、
我々の役目です」
その言葉に、
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
「……そう……
だよね……」
私は、ぽつりと呟いた。
「……守るのは……
あなたたち……
だよね……」
熊が、
力強く頷く。
えくすかりばーさんが、
穏やかに光る。
マイホームさんが、
四本の足で、
一歩、前に進む。
家全体が、
“守る側”として
静かに連動している。
私は、その中心にいる。
何も振るわず、
何も殴らず、
ただ、存在しているだけ。
「……STR……
ゼロでも……」
私は、微笑んだ。
「……悪く……
ない……」
こうして。
追放された聖女見習いは――
自分が戦わないことを、
正式に受け入れた。
彼女が剣を振る日は、
きっと来ない。
だが。
彼女を守る剣は、
すでに揃っている。
次に世界が動くとき。
それは、
彼女の命令ではなく――
仲間たちの判断によって
始まるのだった。
ヒロインSTR0、剣が持てない
床に置かれた白銀の剣は、
静かに、しかし確かな存在感を放っていた。
「…………」
私は、その前に立ち尽くしている。
えくすかりばーさん。
伝説級聖剣。
魂を宿した非生物。
――召喚は、完全成功。
理屈も通っている。
付喪神ネットワークにも接続された。
問題は、ただ一つ。
「……持って……
みよう……か……」
私は、恐る恐る柄に手を伸ばした。
冷たい。
だが、不快ではない。
「……よいしょ……」
力を入れる。
――びく、ともしない。
「……あ……?」
もう一度。
「……よい……しょ……!」
剣は、床に吸い付いたままだった。
「…………」
沈黙。
マイホームさんの中で、
ほんの一瞬、空気が止まる。
「……あれ……?」
私は、額にじんわり汗を浮かべた。
「……え……
重……?」
腰を落とし、
両手でしっかり握る。
「……せーの……!」
――動かない。
まったく、動かない。
「………………」
言葉が、出ない。
視界に、淡々と文字が浮かぶ。
> 《ステータス確認》
STR:0
「………………」
ゼロ。
「……ゼロ……?」
一瞬、読み間違えたかと思った。
もう一度、表示を見直す。
> STR:0
補正:なし
「……な……
なんで……?」
困惑している私の横で、
えくすかりばーさんが静かに声をかけてきた。
「驚かせてしまい、申し訳ありません」
「……い、いえ……
その……」
「ですが、数値としては正確です」
剣は、淡々と説明する。
「あなたは、
物理的な力を行使する前提で
設計されていない存在です」
「……設計……?」
「はい。
あなたの本質は、
“行使者”ではなく
“起点”です」
起点。
意味は、分かる。
だが。
「……でも……
聖女……
見習い……」
「祈り、導き、環境を整える」
えくすかりばーさんは続けた。
「それが、本来の役割でしょう」
「…………」
私は、ゆっくり息を吐いた。
「……つまり……
私は……
戦わない……」
「はい」
即答だった。
「あなたが剣を振る必要はありません」
「…………」
そのとき。
――パタパタ。
柔らかな足音。
振り返ると、
熊のぬいぐるみが、
ゆっくりこちらへ近づいてきていた。
「……熊……」
熊は、
えくすかりばーさんを見下ろす。
次の瞬間。
ひょい。
熊は、剣を軽々と持ち上げた。
「………………」
私は、言葉を失った。
熊は、肩に剣を担ぐと、
そのまま軽く一振り。
――ブン。
空気が、裂けるような音。
家具が、微動だにしないのは、
マイホームさんの制御のおかげだ。
熊は、
二振り、三振り。
無駄がない。
洗練されすぎている。
視界に、無情な表示。
> 《熊のぬいぐるみ》
STR:999
剣術Lv:99
「………………」
差が、
あまりにもはっきりしていた。
「……あ……
なるほど……」
乾いた笑いが、喉から漏れる。
「……私は……
持てない……」
熊は、最後に一振りしてから、
えくすかりばーさんを床に戻した。
そして。
ポン。
自分の胸を叩く。
――任せろ。
「……うん……」
私は、小さく頷いた。
「……分かってた……
気が……
する……」
教会での記憶が、
脳裏をよぎる。
『役立たず』
『何もできない』
『期待外れ』
「……でも……」
私は、剣と熊を見た。
「……今は……
違う……」
えくすかりばーさんが、
静かに言う。
「あなたは、
この場に立っているだけで
十分です」
「……立ってる……
だけ……?」
「はい」
剣は、はっきりと告げた。
「守るのは、
我々の役目です」
その言葉に、
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
「……そう……
だよね……」
私は、ぽつりと呟いた。
「……守るのは……
あなたたち……
だよね……」
熊が、
力強く頷く。
えくすかりばーさんが、
穏やかに光る。
マイホームさんが、
四本の足で、
一歩、前に進む。
家全体が、
“守る側”として
静かに連動している。
私は、その中心にいる。
何も振るわず、
何も殴らず、
ただ、存在しているだけ。
「……STR……
ゼロでも……」
私は、微笑んだ。
「……悪く……
ない……」
こうして。
追放された聖女見習いは――
自分が戦わないことを、
正式に受け入れた。
彼女が剣を振る日は、
きっと来ない。
だが。
彼女を守る剣は、
すでに揃っている。
次に世界が動くとき。
それは、
彼女の命令ではなく――
仲間たちの判断によって
始まるのだった。
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