役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

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第十二話 魔物の軍勢と遭遇、王都へ進路変更

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第十二話

魔物の軍勢と遭遇、王都へ進路変更

 それは、あまりにも唐突だった。

 ――キィィィン。

 澄んだ音でも、耳障りな音でもない。
 だが、確実に“異常”を知らせる音。

「……?」

 私は、ソファから顔を上げた。

 マイホームさんの中で、
 これまで聞いたことのない音だった。

 ――キィィィン、キィィィン。

「……なに……
 今の……?」

 熊のぬいぐるみが、
 すっと姿勢を変える。

 えくすかりばーさんの刃が、
 かすかに光を帯びた。

「警報です」

 えくすかりばーさんの声は、
 いつもより低かった。

「……警報……?」

「はい。
 周辺環境に、
 明確な敵性反応が確認されました」

 その瞬間。

 床が、
 ドクン
 と脈打った。

 まるで、
 マイホームさんが“心臓”を持っているかのように。

 視界に、文字が浮かぶ。

> 《警戒レベル:上昇》
《敵性存在:多数》
《移動中》



「……多数……?」

 嫌な予感が、背筋を這う。

「……どのくらい……?」

 返答の代わりに、
 壁の一部が淡く光った。

 そこに映し出されたのは――
 森の上空から俯瞰した光景だった。

「………………」

 息を呑む。

 黒い、塊。

 否。

「……あれ……
 魔物……?」

 それは、群れなどという言葉では足りなかった。

 角を持つ獣。
 異形の人型。
 巨大な影。

 それらが、
 統率された動きで進軍している。

「……軍勢……」

 私の声は、かすれていた。

「……魔物の……
 軍……」

「その認識で正しいです」

 えくすかりばーさんが、
 淡々と補足する。

「規模は、
 小国の正規軍に匹敵」

「…………」

 映像の端に、
 進路予測線が表示された。

 赤い線。

 それが、
 一直線に向かっている先。

「……あ……」

 胸が、締め付けられる。

「……王都……」

 そこは、
 私を追放した場所。

 冷たい視線。
 嘲笑。
 役立たずという言葉。

「……守る必要……
 ない……?」

 一瞬、
 そんな考えが頭をよぎる。

 でも。

「…………」

 王都には、
 教会だけがあるわけじゃない。

 市場がある。
 子どもがいる。
 普通に暮らす人々がいる。

「……関係ない……
 人……
 いっぱいいる……」

 拳を、ぎゅっと握る。

 私は、戦えない。
 剣も持てない。

 でも。

「……このまま……
 見てるだけ……
 なんて……」

 そのとき。

 ――ズン。

 マイホームさんが、
 立ち止まった。

「……え……?」

 四本の足が、
 ぴたりと止まる。

 そして。

 ――ギギ……。

 ゆっくりと、
 向きが変わり始めた。

「……え……
 ちょ……
 どこ……」

 進路表示が、
 自動で更新される。

> 《進路変更》
《新目的地:王都》



「…………」

 私は、目を見開いた。

「……マイホームさん……?」

 返事はない。

 だが、
 その動きには迷いがなかった。

 えくすかりばーさんが、
 静かに言う。

「判断は、
 付喪神ネットワーク全体によるものです」

「……私……
 まだ……
 何も……」

「あなたの思考は、
 すでに共有されています」

「…………」

 熊のぬいぐるみが、
 えくすかりばーさんを担ぎ上げた。

 戦闘準備。

 音もなく、
 自然に。

「……ちが……
 私……
 戦わ……」

 言いかけて、
 言葉を飲み込む。

 分かっている。

 私は、戦わない。

 でも。

「……それでも……」

 私は、
 マイホームさんの床に手を置いた。

「……王都を……
 守らないと……」

 声は、震えていた。

「……私が……
 戦うわけじゃ……
 ないけど……」

 それでも。

「……止められるなら……
 止めたい……」

 一瞬。

 家全体が、
 低く、確かな音を立てた。

 ――了承。

 視界に、簡潔な表示。

> 《防衛行動:開始準備》
《主目的:非戦闘員の保護》



「…………」

 私は、深く息を吐いた。

「……ありがとう……」

 誰に言ったのか、
 自分でも分からない。

 マイホームさんは、
 四本の足で、
 森を踏みしめる。

 揺れはない。

 中にいる私は、
 ただ、
 決意するだけだった。

 守ると。

 剣を振らなくても。
 魔法を撃たなくても。

「……私は……
 逃げない……」

 それで、いい。

 戦場に立つのは、
 仲間たちだ。

 私は、その中心にいるだけ。

 こうして。

 追放された聖女見習いは――
 初めて、自分の意思で
 世界の進路に関わった。

 剣は振らない。
 敵も倒さない。

 だが。

 この進路変更が、
 やがて王都を――
 そして世界を――
 大きく揺るがすことになる。

 次に鳴る警報は、
 迎撃開始の合図だ。


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