役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

文字の大きさ
12 / 26

第十二話 魔物の軍勢と遭遇、王都へ進路変更

しおりを挟む
第十二話

魔物の軍勢と遭遇、王都へ進路変更

 それは、あまりにも唐突だった。

 ――キィィィン。

 澄んだ音でも、耳障りな音でもない。
 だが、確実に“異常”を知らせる音。

「……?」

 私は、ソファから顔を上げた。

 マイホームさんの中で、
 これまで聞いたことのない音だった。

 ――キィィィン、キィィィン。

「……なに……
 今の……?」

 熊のぬいぐるみが、
 すっと姿勢を変える。

 えくすかりばーさんの刃が、
 かすかに光を帯びた。

「警報です」

 えくすかりばーさんの声は、
 いつもより低かった。

「……警報……?」

「はい。
 周辺環境に、
 明確な敵性反応が確認されました」

 その瞬間。

 床が、
 ドクン
 と脈打った。

 まるで、
 マイホームさんが“心臓”を持っているかのように。

 視界に、文字が浮かぶ。

> 《警戒レベル:上昇》
《敵性存在:多数》
《移動中》



「……多数……?」

 嫌な予感が、背筋を這う。

「……どのくらい……?」

 返答の代わりに、
 壁の一部が淡く光った。

 そこに映し出されたのは――
 森の上空から俯瞰した光景だった。

「………………」

 息を呑む。

 黒い、塊。

 否。

「……あれ……
 魔物……?」

 それは、群れなどという言葉では足りなかった。

 角を持つ獣。
 異形の人型。
 巨大な影。

 それらが、
 統率された動きで進軍している。

「……軍勢……」

 私の声は、かすれていた。

「……魔物の……
 軍……」

「その認識で正しいです」

 えくすかりばーさんが、
 淡々と補足する。

「規模は、
 小国の正規軍に匹敵」

「…………」

 映像の端に、
 進路予測線が表示された。

 赤い線。

 それが、
 一直線に向かっている先。

「……あ……」

 胸が、締め付けられる。

「……王都……」

 そこは、
 私を追放した場所。

 冷たい視線。
 嘲笑。
 役立たずという言葉。

「……守る必要……
 ない……?」

 一瞬、
 そんな考えが頭をよぎる。

 でも。

「…………」

 王都には、
 教会だけがあるわけじゃない。

 市場がある。
 子どもがいる。
 普通に暮らす人々がいる。

「……関係ない……
 人……
 いっぱいいる……」

 拳を、ぎゅっと握る。

 私は、戦えない。
 剣も持てない。

 でも。

「……このまま……
 見てるだけ……
 なんて……」

 そのとき。

 ――ズン。

 マイホームさんが、
 立ち止まった。

「……え……?」

 四本の足が、
 ぴたりと止まる。

 そして。

 ――ギギ……。

 ゆっくりと、
 向きが変わり始めた。

「……え……
 ちょ……
 どこ……」

 進路表示が、
 自動で更新される。

> 《進路変更》
《新目的地:王都》



「…………」

 私は、目を見開いた。

「……マイホームさん……?」

 返事はない。

 だが、
 その動きには迷いがなかった。

 えくすかりばーさんが、
 静かに言う。

「判断は、
 付喪神ネットワーク全体によるものです」

「……私……
 まだ……
 何も……」

「あなたの思考は、
 すでに共有されています」

「…………」

 熊のぬいぐるみが、
 えくすかりばーさんを担ぎ上げた。

 戦闘準備。

 音もなく、
 自然に。

「……ちが……
 私……
 戦わ……」

 言いかけて、
 言葉を飲み込む。

 分かっている。

 私は、戦わない。

 でも。

「……それでも……」

 私は、
 マイホームさんの床に手を置いた。

「……王都を……
 守らないと……」

 声は、震えていた。

「……私が……
 戦うわけじゃ……
 ないけど……」

 それでも。

「……止められるなら……
 止めたい……」

 一瞬。

 家全体が、
 低く、確かな音を立てた。

 ――了承。

 視界に、簡潔な表示。

> 《防衛行動:開始準備》
《主目的:非戦闘員の保護》



「…………」

 私は、深く息を吐いた。

「……ありがとう……」

 誰に言ったのか、
 自分でも分からない。

 マイホームさんは、
 四本の足で、
 森を踏みしめる。

 揺れはない。

 中にいる私は、
 ただ、
 決意するだけだった。

 守ると。

 剣を振らなくても。
 魔法を撃たなくても。

「……私は……
 逃げない……」

 それで、いい。

 戦場に立つのは、
 仲間たちだ。

 私は、その中心にいるだけ。

 こうして。

 追放された聖女見習いは――
 初めて、自分の意思で
 世界の進路に関わった。

 剣は振らない。
 敵も倒さない。

 だが。

 この進路変更が、
 やがて王都を――
 そして世界を――
 大きく揺るがすことになる。

 次に鳴る警報は、
 迎撃開始の合図だ。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

追放悪役令嬢は、絶品農業料理で辺境開拓!気づけば隣国を動かす「食の女王」になってました

緋村ルナ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王子から追放された公爵令嬢ベアトリス。絶望の辺境で、彼女は前世の知識と持ち前の負けん気を糧に立ち上がる。荒れた土地を豊かな農地へと変え、誰もが食べたことのない絶品料理を生み出すと、その美食は瞬く間に国境を越え、小さなレストランは世界に名を馳せるようになる。 やがて食糧危機に瀕した祖国からのSOS。過去の恩讐を乗り越え、ベアトリスは再び表舞台へ。彼女が築き上げた“食”の力は、国家運営、国際関係にまで影響を及ぼし、一介の追放令嬢が「食の女王」として世界を動かす存在へと成り上がっていく、壮大で美味しい逆転サクセスストーリー!

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...