役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

文字の大きさ
14 / 26

第十四話 背面戦:タンスさん出撃(無限引き出し絨毯爆撃)

しおりを挟む
第十四話

背面戦:タンスさん出撃(無限引き出し絨毯爆撃)

 ――キィィィン。

 警報音が、さらに一段階、鋭さを増した。

「……背面……
 完全に……
 狙われてる……」

 私は、マイホームさんの中央ホールで立ち尽くしていた。

 正面では、熊がえくすかりばーさんを振るい、
 魔物の軍勢を文字通り“刈り取って”いる。

 だが――
 戦場は、そこだけじゃない。

「……別動隊……
 もう……
 近い……」

 壁に映し出された映像では、
 森の影から、複数の魔物が
 慎重に、しかし確実に近づいてきている。

 数は、正面より少ない。

 だが。

「……動き……
 違う……」

 統率が取れている。
 無駄がない。
 明らかに、“裏取り”を理解している動き。

「……賢い……
 タイプ……」

 そのとき。

 ――ギィ……。

 背後で、
 窓が開いた。

「……え……?」

 私が振り返った瞬間。

「10」

 どこからともなく、
 無機質な声が響いた。

「……え……?」

「9」

「……なに……
 この……
 カウント……」

「8」

 部屋の中央。

 一番大きなタンスが、
 わずかに、浮いた。

「……え……?」

「7」

 タンスが、
 完全に宙に浮く。

 脚は、畳まれている。

「6」

 私の脳が、
 現実を拒否し始める。

「……タンス……
 飛ぶ……?」

「5」

 視界に、表示。

> 《付喪神:タンス》
《役割:背面防衛》
《攻撃準備:完了》



「……役割……
 攻撃……?」

「4」

 タンスの引き出しが、
 カタカタと音を立てた。

「3」

「……ちょ……
 待っ……」

「2」

 タンスが、
 水平を保ったまま、窓の外へ向く。

「1」

「0」

 ――ファイヤー。

 次の瞬間。

 タンスが、水平飛行で飛び出した。

「………………」

 言葉が、消えた。

 タンスは、
 弾丸のような速度で、
 森の上空へ躍り出る。

 そして。

 ――ガコン。

 引き出しが、一つ、外れた。

 落下。

 ――ドン。

 魔物の一体に直撃。

 粉砕。

「……え……」

 次。

 ――ガコン、ガコン。

 引き出しが、
 次々と生成され、落下していく。

「………………」

 それは、
 無限。

 数える意味がない。

 上空から、
 木製の引き出しが、
 雨のように降り注ぐ。

「……絨毯……
 爆撃……」

 言葉にした瞬間、
 その異常さに震えた。

 引き出し一つ一つが、
 鈍器兵器。

 直撃すれば、
 魔物は原形を留めない。

 回避しようにも、
 降ってくる数が違う。

「……ひど……」

 別動隊は、
 瞬く間に壊滅状態に追い込まれた。

 だが。

「……あ……
 まだ……
 動いてる……?」

 映像の中。

 引き出しの雨を、
 華麗に避ける影があった。

「……一体……?」

 大型。

 異形。

 明らかに、
 この別動隊の――

「……ボス……」

 引き出しが当たらない。

 跳ぶ。
 転がる。
 木々を盾にする。

「……すご……
 避けてる……」

 その瞬間。

 ――ピタ。

 タンスが、爆撃を止めた。

「……え……?」

 引き出しが、
 ぴたりと生成を止める。

 静寂。

「……弾……
 切れ……?」

 否。

 タンスは、
 急降下を始めた。

「……まさか……」

 速度が、上がる。

 風を切る音。

 ボス魔物が、
 顔を上げる。

 その瞬間。

「――タンスの角キィィィック!!」

 どこからか、
 そんな叫びが聞こえた気がした。

 次の瞬間。

 タンスの角が、
 ボス魔物の額に直撃。

 ――ゴン。

 一瞬、
 時間が止まったように見えた。

「…………」

 そして。

 ――ドォォォン!!

 衝撃波。

 ボス魔物の巨体が、
 水平に吹き飛ばされていく。

 木々を薙ぎ倒し、
 地面を削り、
 視界の彼方へ。

「………………」

 私は、
 ぽつりと呟いた。

「……角……
 痛そう……」

 タンスは、
 何事もなかったかのように、
 再び宙に浮き、
 マイホームさんの窓へ帰還する。

 ――シュタ。

 元の位置に、
 静かに着地。

 引き出しも、
 きれいに収まっている。

> 《背面脅威:排除完了》



「………………」

 沈黙。

 マイホームさんが、
 低く、満足そうに軋んだ。

 ――問題なし。

「……問題……
 ありすぎ……」

 私は、頭を抱えた。

 戦っていない。

 指示もしていない。

 だが。

「……全部……
 守られてる……」

 正面では、
 熊が最後の敵を斬り伏せている。

 背面は、
 タンスが制圧。

「……私……
 ほんとに……
 何も……
 してない……」

 でも。

 それでいい。

 戦う必要はない。

 決意するだけで、
 家も、家具も、
 剣も、ぬいぐるみも――
 勝手に最善を選ぶ。

 こうして。

 魔物の別動隊は、
 家具によって殲滅された。

 王都は、
 まだ無事だ。

 だが。

 この戦いが、
 誰にも気づかれずに
 終わるはずがなかった。

 空を舞ったタンスと、
 降り注ぐ引き出しを見た者は、
 必ずこう思うだろう。

 ――これは、戦争ではない。

 ――生活用品による、制圧だ。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...