役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

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15-1 最終決戦――王都防衛線、崩壊寸前

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15-1 最終決戦――王都防衛線、崩壊寸前

最終決戦――王都防衛線、崩壊寸前

 王都の外壁、そのさらに外。

 かつては緑豊かな平原だった場所は、今や踏み荒らされ、焼かれ、砕かれ、もはや戦場以外の何物でもなかった。

 最終防衛線。

 それが、この場所だった。

 前列に並ぶのは、王国騎士団の重装騎士たち。
 傷だらけの鎧、欠けた盾、刃こぼれした剣。
 それでも彼らは立っていた。

「隊形を崩すな!」 「後方を守れ! 聖女部隊を前に出すな!」

 怒号が飛ぶ。

 騎士団長の声はすでにかすれていたが、その眼差しだけは鋭さを失っていなかった。

 彼らの背後――
 少し距離を取った位置に、白いローブをまとった聖女たちが並んでいる。

 教会所属、王都防衛のために集められた聖女部隊。

 結界展開。
 回復支援。
 聖属性の防護障壁。

 本来なら、前線を支える“最後の砦”だ。

 だが。

「……魔力残量、三割を切りました……」 「詠唱が……追いつきません……」

 一人、また一人と、顔色を失っていく。

 魔物の軍勢は、数が違った。

 前方には、オーク、ゴブリン、トロール、獣型魔獣。
 地を埋め尽くすほどの数。

 そして上空――
 ワイバーン、飛行魔獣、翼を持つ異形たち。

 物量。
 純粋な数の暴力。

 それに、統率があった。

「……っ!」

 騎士団長は、歯を食いしばる。

 魔物たちは無秩序に突っ込んできているわけではない。
 前線を削り、弱った箇所を見極め、そこへ集中して圧をかけてくる。

 知恵がある。

 いや――
 指揮官がいる。

「左翼、後退! 中央を厚く――」

 その瞬間。

 ――ドンッ!!

 地響き。

 左翼の防衛線が、破られた。

「左翼が……抜かれました!」 「魔物が後方へ――!」

 騎士たちが振り返る。

 見えたのは、
 防衛線を突破し、一直線に後方へ向かう魔物の群れ。

 ――聖女部隊へ。

「……来る……」

 聖女の一人が、震える声で呟いた。

 結界を張ろうとするが、魔力が足りない。
 詠唱が、間に合わない。

 騎士団の一部が反転し、迎撃に向かう。

 だが。

「数が……多すぎる……!」

 次の瞬間、上空から影が落ちた。

 ワイバーンだ。

 騎士の盾を踏み砕き、爪で地を裂き、背後へ降り立つ。

「後方にも……空から……!」

 完全に、挟撃。

 前衛は崩れ、
 後衛は露出した。

 騎士団長は、剣を握りしめる。

 撤退はできない。
 ここを抜かれれば、王都だ。

 だが、このままでは――

「……終わり、なの……?」

 聖女の誰かが、そう呟いた。

 その言葉に、誰も否定できなかった。

 結界は薄く、
 回復は追いつかず、
 敵は止まらない。

 魔物の咆哮が、すぐそこまで迫っている。

 その時だった。

 ――ゴォォォ……。

 低く、重い音。

 戦場の誰もが、一瞬、違和感を覚えた。

 魔物の咆哮でもない。
 風の音でもない。

「……何の、音だ……?」

 騎士団長が、ふと空を見上げる。

 次の瞬間。

「……あれは……?」

 誰かが、声を上げた。

 空の彼方。

 夕焼けに染まる雲を割って、
 異様な影が近づいてくる。

 飛行魔物ではない。

 大きく、四角く、
 あまりにも場違いな輪郭。

「……え?」

 聖女たちが、目を見開く。

 騎士たちも、剣を構えたまま固まる。

 それは――

 空を飛ぶ、タンスだった。

 しかも。

 その背に、
 何かが“立って”いる。

 小さな影。
 丸い体。

 手には、長く、輝くもの。

「……ぬい……ぐるみ……?」

 誰かが、信じられない声で呟いた。

 次の瞬間、
 戦場の空気が――
 決定的に、変わった。

 だが、それが何を意味するのか。
 この時点で理解できた者は、まだ誰一人としていなかった。

 ただ一つだけ、確かなことがある。

 ――絶望の底で、何かが到着した。

 そして、
 この戦争は、
 ここから“常識の外側”へ踏み出す。

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