役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

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15-2 空中騎士――飛ぶタンスと熊のぬいぐるみ

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15-2 空中騎士――飛ぶタンスと熊のぬいぐるみ

 戦場が、静まり返った。

 剣を振るう音も、魔物の咆哮も、
 ほんの一瞬――まるで世界が息を止めたかのように、消えた。

 空を飛ぶタンス。

 その背に立つ、熊のぬいぐるみ。

 誰もが、それを理解しようとして、
 しかし理解できず、ただ見上げるしかなかった。

「……幻覚か?」

 騎士の一人が、乾いた声で呟く。

 だが次の瞬間、
 その疑念は、完膚なきまでに叩き壊された。

 ――ゴォンッ!

 タンスが空中で急旋回した。

 信じられないほど滑らかな動き。
 重力も慣性も無視するような軌道。

 その背で、熊のぬいぐるみが、
 ゆっくりと――えくすかりばーを構える。

 聖剣は、夕陽を受けて白く輝いていた。

 次の瞬間。

 ――ズバァァン!!

 音が、遅れてきた。

 熊が振るった一閃は、
 空を裂き、ワイバーンの群れをまとめて断ち切った。

 首が落ち、翼がちぎれ、
 魔物たちが次々と空から落下していく。

「……は?」

「……今……何が……?」

 騎士団の誰もが、言葉を失った。

 空中戦力。

 王都防衛戦で最も厄介だった存在が、
 たった一撃で、消えた。

 タンスは止まらない。

 旋回。
 上昇。
 急降下。

 それは、もはや“飛行”ではなく、
 制空権の掌握だった。

 別方向から、ドラゴン級の魔物が吼える。

 灼熱のブレスが吐かれた。

 ――だが。

 タンスは、ひらりとかわす。

 熊が、間合いに入る。

「……あ……」

 誰かが、声にならない声を漏らした。

 ――ズバン。

 えくすかりばーが、ドラゴンの頭部を貫いた。

 ブレスは霧散し、
 巨体が、音を立てて落下する。

 空が、静かになっていく。

 残っていた飛行魔物たちが、
 明らかに動揺し始めた。

「……撤退……?」

 騎士団長が、唇を噛む。

 だが、逃がさない。

 タンスが高度を下げ、
 戦場上空を制圧する。

 熊のぬいぐるみは、
 えくすかりばーを一度、肩に担ぎ直した。

 そして――

 ひらり、と跳んだ。

 落下。

 だが、地面には届かない。

 空中で、
 聖女部隊の前に――
 静かに、舞い降りた。

 白いローブの聖女たちが、
 一斉に目を見開く。

「……え?」

「……く……熊……?」

 熊は、振り返る。

 そして、
 親指を立てた。

 ――任せろ。

 その直後。

 魔物の先遣隊が、
 聖女部隊へと突進してきた。

 だが。

 ――ズバッ!
 ――ズバババッ!

 熊が、えくすかりばーを振るう。

 近すぎる敵は、
 精密かつ迅速に切り伏せられる。

 血は、ほとんど飛ばない。

 無駄のない剣。

「……す……すご……」

 聖女の一人が、思わず呟く。

 だが、魔物はまだ多い。

 距離のある集団が、
 再び突進を開始する。

 その瞬間。

 ――ゴォン。

 上空で、タンスが停止した。

 引き出しが、
 カタカタと音を立てる。

 視界に、
 誰にも見えないはずの表示が浮かぶ。

> 《攻撃モード切替:対群制圧》



 次の瞬間。

 ――ガコン。

 引き出しが、一つ外れた。

 落下。

 ――ドン。

 魔物が潰れる。

 次。

 ――ガコン、ガコン、ガコン!

 無限引き出し絨毯爆撃。

 地面に、
 木製とは思えない衝撃が連続する。

 距離のある敵が、
 まとめて消し飛んでいく。

「……な……」

 騎士団長は、剣を下ろしたまま、
 ただその光景を見ていた。

 空から降るのは、
 火でも、魔法でもない。

 引き出し。

 それでも、
 敵は壊滅していく。

 さらに。

 生き残った空中戦力が、
 必死に距離を詰めようとした瞬間。

 ――バシュッ!

 タンスの側面が開く。

 引き出しロケットパンチ射出。

 回転しながら飛び、
 ワイバーンを直撃。

 爆散。

「……戦術……
 確立してる……」

 誰かが、呆然と呟いた。

 熊は、最後の敵を斬り伏せると、
 聖女部隊の方を向き、
 もう一度――

 Vサイン。

 歓声が、上がった。

「ありがとう……!」 「助かりました……!」

 熊は照れたように、
 少し首を傾げる。

 その瞬間。

 ――ゴォォン!!

 急降下してきたタンスが、
 熊の横へ。

 熊は跳び上がり、
 背に着地。

 そのまま、旋回。

 中ボス級の魔物を、
 機動力を活かして次々と殲滅していく。

 やがて。

 魔物軍の動きが、明らかに乱れた。

 統率が、崩れている。

「……逃げ始めた……」

 だが。

 その退路に。

 ――ドン……ドン……

 低い振動音が、
 地の底から響いてくる。

 森の奥。

 そこに現れたのは――
 四本足で歩く、巨大な家。

「……あれは……?」

 誰もが、言葉を失った。

 移動する、要塞。

 魔物軍の前に、
 悠然と立ちはだかる存在。

 熊とタンスが、
 その方向を見た。

 戦場は、まだ終わらない。

 だが。

 勝敗は、すでに決まっていた。

 次なる主役は、
 マイホームさん。

 物語は、
 次の局面へ進む。

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