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16-1 マイホーム防衛システム稼働
しおりを挟むマイホーム防衛システム稼働
魔物軍の統率は、完全に崩れていた。
空は制圧され、
前線は切り裂かれ、
中ボス級は次々と倒されていく。
だが――
それでもなお、生き残った魔物たちは、
本能的に理解していた。
この場から離れなければならない。
「……退くぞ……!」 「森へ……森へ戻れ……!」
魔物の指揮系統が壊れ、
逃走が始まる。
だが、その退路。
森の出口――
王都と平原を隔てるその場所に、
巨大な影が立ちはだかっていた。
――ドン……
――ドン……
低く、重い振動。
それは、地響きだった。
騎士団の誰もが、
その音に気づき、
ゆっくりと視線を向ける。
「……なにが……来ている……?」
土煙の向こう。
四本の太い脚が、
地面を踏みしめる。
姿を現したのは――
家。
いや。
「……歩いてる……?」
誰かが、呆然と呟いた。
石造りの外壁。
屋根。
窓。
だが、それらすべてが、
“移動すること”を前提にした構造へと変化している。
マイホームさん。
ヒロインが名付けた、
唯一の拠点。
それが今、
王都防衛戦の戦場に立っていた。
逃げようとする魔物たちが、
一斉に立ち止まる。
本能が、叫んでいた。
――これは、敵だ。
――近づくな。
だが、遅い。
マイホームさんの内部。
静かな、しかし確実な“起動音”。
> 《防衛システム:稼働》
《対別動隊モード:選択》
誰にも聞こえないはずの声が、
空間に響く。
次の瞬間。
――カチ。
外壁の一部が、
わずかに浮いた。
「……?」
魔物の一体が、
その異変に気づいた瞬間。
――バシュッ!!
外壁のタイルが、
高速で射出された。
回転。
空気を裂く音。
次の瞬間、
魔物の頭部に突き刺さる。
――ドン。
倒れる。
「……っ!?」
別方向。
――バシュッ!
――バシュッ!
――バシュッ!
次々と、
外壁タイルが飛び出す。
それは、
まるで――
巨大な手裏剣。
いや。
精度が違う。
避けようとした魔物の、
関節。
首。
胸部。
致命部位だけを、正確に貫いていく。
「……魔法……じゃない……」 「……機械……?」
騎士団長が、思わず呟いた。
タイルは、
外れない。
弾切れもしない。
外壁から射出され、
命中し、
そして――
元の位置へ、戻っていく。
「……戻って……る……?」
まるで、
意思を持つ防壁。
魔物たちは、
完全に混乱した。
逃げる者。
突撃を試みる者。
叫びながら散開する者。
だが。
どの選択も、間違いだった。
射出は、止まらない。
> 《迎撃精度:最大》
《味方誤射:ゼロ》
マイホームさんは、
戦場全体を“把握”していた。
騎士。
聖女。
家具。
ぬいぐるみ。
そして――
魔物。
すべてを識別し、
排除対象だけを、淡々と処理する。
別動隊は、
瞬く間に数を減らしていった。
「……これは……
家……なのか……?」
聖女の一人が、
震える声で呟く。
誰も、答えられない。
やがて。
生き残った魔物たちは、
射程外へ逃れようと、
必死に距離を詰め始めた。
「……近づけば……
撃たれない……?」
愚かな判断。
マイホームさんの脚が、
止まった。
> 《接近脅威:検知》
《対応フェーズ:次段階》
外壁タイルの射出が、
ぴたりと止まる。
戦場が、静まる。
「……止まった……?」
魔物たちが、
安堵した、その瞬間。
――ギギ……。
マイホームさんの脚部が、
ゆっくりと――
持ち上がった。
次の対応を、
誰もまだ知らない。
だが。
この時点で、
別動隊の運命は、
すでに決していた。
これは、迎撃の第一段階に過ぎない。
続くのは――
直下制圧。
マイホームさんは、
構わず前進を続ける。
戦場の主役は、
完全に――
家へと移っていた。
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