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17-3 必殺!自由落下――戦争が終わる音
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17-3必殺!自由落下――戦争が終わる音
最初に気づいたのは、音だった。
――ゴォォ……。
それは雷鳴でも、爆発音でもない。
空そのものが、軋んでいるような音。
王都防衛線に残っていた騎士たちは、
一斉に空を見上げた。
「……なんだ……?」
青空に、
一本の光の筋。
いや、
光というより――
燃えている“何か”。
それは、一直線に、落ちてきていた。
聖女の一人が、震える声で呟く。
「……流星……?」
違う。
流星は、
音より先に光る。
だが、あれは――
音が、先に来ている。
――ドォォォォ……。
低く、重く、腹の奥に響く音。
空気が、圧縮され、押し潰され、
世界が一瞬、歪んだ。
地上の魔物たちも、異変に気づく。
逃走中だった個体が立ち止まり、
恐怖に駆られたように空を仰ぐ。
「……グ……?」
次の瞬間。
えくすかりばーさんが、
見えた。
巨大だった。
もはや剣ではない。
刃は塔のように伸び、
鍔は城壁のように広がり、
柄は柱のごとく太い。
落ちてくるそれは、
**質量を持った“概念”**に近い。
――重力。
それだけが、そこにあった。
『必殺』
えくすかりばーさんの声は、
落下と同時に、地上へ届く。
誰の耳にも、
はっきりと。
『――自由落下』
その言葉が、
合図だった。
次の瞬間。
世界が、壊れた。
――――――――――――――――
――――――――――――――――
衝突。
音は、後から来た。
いや、
音という表現では足りない。
衝撃そのものが、
波となって広がった。
地面が沈み、
空気が跳ね、
視界が、白く弾けた。
騎士団の者たちは、
思わず地面に伏せた。
聖女たちは、
咄嗟に結界を張ろうとしたが、
衝撃は、その外側を素通りした。
――ドォォォォォン!!!
遅れて、轟音。
鼓膜が悲鳴を上げ、
胸の奥が揺さぶられる。
魔物の軍勢は――
消えた。
正確には、
「吹き飛ばされた」。
地面にいた個体は、
影も形もなく、
衝撃波と共に消失。
遠くにいた魔物も、
衝撃に巻き込まれ、
まとめて空へ放り出される。
巨体も、小型も、
強さも、数も、
一切関係ない。
等しく、
吹き飛ぶ。
森が、揺れた。
木々が、倒れた。
地形が、変わった。
だが――
王都の方向だけは、
不思議と、被害が少なかった。
衝撃は、
王都を“避けるように”広がっていた。
誰も、それを意図していない。
誰も、制御していない。
それでも、
結果として――
王都は、守られた。
数秒。
いや、
数十秒。
誰も、動けなかった。
空気中に舞う土煙が、
ゆっくりと落ちていく。
やがて、視界が晴れる。
そこに残っていたのは――
静寂。
魔物の姿は、
一体も、なかった。
「……終わ……った……?」
誰かが、呆然と呟く。
騎士団長は、
剣を支えに立ち上がり、
戦場を見渡した。
「……殲滅……
いや……」
言葉を失う。
殲滅、という言葉すら、
生ぬるい。
これは、
戦争の終了だった。
その時。
――ギィ……。
低い軋み音。
マイホームさんが、
ゆっくりと前進を止めた。
内部で、
淡々とした報告。
> 《戦闘状況:終了》
《脅威反応:消失》
私は、
その場に座り込んだ。
「……終わった……」
声が、震える。
空を見上げる。
成層圏から落ちてきたはずのえくすかりばーさんは、
もう、そこにはない。
代わりに、
巨大なクレーターだけが残っていた。
底は、
不思議なほど、静かだ。
聖女の一人が、
かすれた声で言った。
「……神の……
御業……?」
その瞬間。
――キン。
澄んだ音。
えくすかりばーさんが、
元のサイズで、空中に現れた。
何事もなかったかのように。
タンスの背へ、
ひらりと戻る。
熊のぬいぐるみは、
無言で、それを受け取る。
ただ、
しっかりと。
えくすかりばーさんが、
静かに言った。
『必殺、二』
間を置いて。
『――運がよかった』
さらに、少し考えるようにして。
『……いや』
『ここは、神のご加護ということにしておこう』
誰も、否定しなかった。
否定できなかった。
私は、
マイホームさんの床に、手をついた。
生きている。
王都も、
騎士も、
聖女も。
生きている。
私は戦っていない。
剣も、
魔法も、
振るっていない。
それでも。
「……守られた……」
その事実だけが、
胸に残った。
熊は、
何も言わない。
ただ、
タンスの背で、
静かに立っている。
それで、
すべてだった。
――戦争は、終わった。
あとは、
余波だけが残る。
---
最初に気づいたのは、音だった。
――ゴォォ……。
それは雷鳴でも、爆発音でもない。
空そのものが、軋んでいるような音。
王都防衛線に残っていた騎士たちは、
一斉に空を見上げた。
「……なんだ……?」
青空に、
一本の光の筋。
いや、
光というより――
燃えている“何か”。
それは、一直線に、落ちてきていた。
聖女の一人が、震える声で呟く。
「……流星……?」
違う。
流星は、
音より先に光る。
だが、あれは――
音が、先に来ている。
――ドォォォォ……。
低く、重く、腹の奥に響く音。
空気が、圧縮され、押し潰され、
世界が一瞬、歪んだ。
地上の魔物たちも、異変に気づく。
逃走中だった個体が立ち止まり、
恐怖に駆られたように空を仰ぐ。
「……グ……?」
次の瞬間。
えくすかりばーさんが、
見えた。
巨大だった。
もはや剣ではない。
刃は塔のように伸び、
鍔は城壁のように広がり、
柄は柱のごとく太い。
落ちてくるそれは、
**質量を持った“概念”**に近い。
――重力。
それだけが、そこにあった。
『必殺』
えくすかりばーさんの声は、
落下と同時に、地上へ届く。
誰の耳にも、
はっきりと。
『――自由落下』
その言葉が、
合図だった。
次の瞬間。
世界が、壊れた。
――――――――――――――――
――――――――――――――――
衝突。
音は、後から来た。
いや、
音という表現では足りない。
衝撃そのものが、
波となって広がった。
地面が沈み、
空気が跳ね、
視界が、白く弾けた。
騎士団の者たちは、
思わず地面に伏せた。
聖女たちは、
咄嗟に結界を張ろうとしたが、
衝撃は、その外側を素通りした。
――ドォォォォォン!!!
遅れて、轟音。
鼓膜が悲鳴を上げ、
胸の奥が揺さぶられる。
魔物の軍勢は――
消えた。
正確には、
「吹き飛ばされた」。
地面にいた個体は、
影も形もなく、
衝撃波と共に消失。
遠くにいた魔物も、
衝撃に巻き込まれ、
まとめて空へ放り出される。
巨体も、小型も、
強さも、数も、
一切関係ない。
等しく、
吹き飛ぶ。
森が、揺れた。
木々が、倒れた。
地形が、変わった。
だが――
王都の方向だけは、
不思議と、被害が少なかった。
衝撃は、
王都を“避けるように”広がっていた。
誰も、それを意図していない。
誰も、制御していない。
それでも、
結果として――
王都は、守られた。
数秒。
いや、
数十秒。
誰も、動けなかった。
空気中に舞う土煙が、
ゆっくりと落ちていく。
やがて、視界が晴れる。
そこに残っていたのは――
静寂。
魔物の姿は、
一体も、なかった。
「……終わ……った……?」
誰かが、呆然と呟く。
騎士団長は、
剣を支えに立ち上がり、
戦場を見渡した。
「……殲滅……
いや……」
言葉を失う。
殲滅、という言葉すら、
生ぬるい。
これは、
戦争の終了だった。
その時。
――ギィ……。
低い軋み音。
マイホームさんが、
ゆっくりと前進を止めた。
内部で、
淡々とした報告。
> 《戦闘状況:終了》
《脅威反応:消失》
私は、
その場に座り込んだ。
「……終わった……」
声が、震える。
空を見上げる。
成層圏から落ちてきたはずのえくすかりばーさんは、
もう、そこにはない。
代わりに、
巨大なクレーターだけが残っていた。
底は、
不思議なほど、静かだ。
聖女の一人が、
かすれた声で言った。
「……神の……
御業……?」
その瞬間。
――キン。
澄んだ音。
えくすかりばーさんが、
元のサイズで、空中に現れた。
何事もなかったかのように。
タンスの背へ、
ひらりと戻る。
熊のぬいぐるみは、
無言で、それを受け取る。
ただ、
しっかりと。
えくすかりばーさんが、
静かに言った。
『必殺、二』
間を置いて。
『――運がよかった』
さらに、少し考えるようにして。
『……いや』
『ここは、神のご加護ということにしておこう』
誰も、否定しなかった。
否定できなかった。
私は、
マイホームさんの床に、手をついた。
生きている。
王都も、
騎士も、
聖女も。
生きている。
私は戦っていない。
剣も、
魔法も、
振るっていない。
それでも。
「……守られた……」
その事実だけが、
胸に残った。
熊は、
何も言わない。
ただ、
タンスの背で、
静かに立っている。
それで、
すべてだった。
――戦争は、終わった。
あとは、
余波だけが残る。
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