役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

文字の大きさ
22 / 26

18-1 消えた建物

しおりを挟む
18-1 消えた建物

 静かだった。

 それが、最初の違和感だった。

 魔物の咆哮もない。
 剣がぶつかる音も、魔法の炸裂音もない。
 あれほど騒然としていた戦場が、まるで嘘のように、音を失っていた。

 風が吹く。

 煙が、ゆっくりと流れる。

 私は、マイホームさんの窓辺に立ったまま、外を見ていた。

「……終わった……の?」

 自分の声が、ひどく小さく聞こえた。

 王都の方角。

 さっきまで、確かに――
 王城があった場所。

 そこに、
 何もない。

「……え?」

 声が、自然と漏れた。

 城壁は?
 尖塔は?
 玉座の間は?
 あれほど高くそびえていた、王国の象徴は?

 視線を凝らす。

 あるのは、
 平らな地面だけ。

 焦げ跡もない。
 崩れた石もない。
 瓦礫すら、残っていない。

 まるで――
 最初から、そこに存在しなかったかのように。

「……そんな……」

 私は、思わず一歩、前に出た。

 マイホームさんが、微かに揺れる。

 次に視線を向けたのは、
 王城のすぐ近くにあったはずの、
 大聖堂。

 私を追放した場所。

 役立たずと笑われ、
 タンスやぬいぐるみしか呼べないと嘲られ、
 森へ放り出された、あの場所。

 白亜の壁。
 高い天井。
 神の名を掲げた、荘厳な建物。

 ――そこも、ない。

「……え?」

 もう一度、同じ言葉が出た。

 今度は、少し間抜けな響きで。

 大聖堂があった場所も、
 王城と同じだった。

 綺麗に、
 何もない。

 地面は、妙に均されている。

 瓦礫が散らばっているわけでも、
 崩壊した痕跡があるわけでもない。

 “消えた”
 それ以外に、説明がつかない。

「……夢……?」

 頬をつねる。

 痛い。

 夢じゃない。

 遠くでは、
 騎士たちが、
 聖女たちが、
 人々が、
 呆然と立ち尽くしているのが見えた。

 彼らもまた、
 何が起きたのか、理解できていない。

 私は、胸の奥が、ひやりとするのを感じた。

 ――もしかして。

 ――やりすぎた……?

 頭の中に、
 あの光景がよぎる。

 空から落ちてきた、巨大なえくすかりばーさん。
 世界が歪むほどの衝撃。
 すべてを押し流す、圧倒的な力。

「……まさか……」

 私は、無意識に、両手を握りしめていた。

 王城が消えた。

 教会が消えた。

 それは、
 魔物だけを吹き飛ばした結果ではない。

 もし、
 もしも――

 そこに、
 人が、いたら……?

 喉が、ひくりと鳴る。

 私は、ゆっくりと振り返り、
 マイホームさんの内部を見た。

「……マイホームさん……」

 答えは、まだない。

 今は、
 ただ状況を確認している最中なのだろう。

 けれど、
 私の胸の中では、
 不安が、膨らみ続けていた。

 追放されたとはいえ、
 あの教会には、
 私を嫌った人だけでなく、
 何も知らない人たちもいた。

 王城には、
 王族だけでなく、
 使用人や兵士や、
 ただ働いていただけの人もいたはずだ。

「……私……」

 言葉が、続かない。

 英雄になるつもりなんて、なかった。
 世界を救うつもりも、なかった。

 ただ――
 止まる場所が欲しかっただけ。
 生き延びたかっただけ。

 それなのに。

 窓の外の光景は、
 あまりにも大きな結果を突きつけてくる。

 私は、王都を見下ろしたまま、
 しばらく、動けなかった。

 誰も、責めていない。
 誰も、叫んでいない。

 それが、
 余計に、怖かった。

 静かすぎる。

 世界が、
 一拍、息を止めているみたいだった。

 そして、
 その沈黙を破るかのように――

 マイホームさんの内部で、
 淡々とした処理音が、鳴り始める。

 次の瞬間、
 **“確認結果”**が告げられることになる。

 私は、
 まだ知らない。

 この光景が、
 絶望ではなく、安堵へと繋がっていることを。

 今はただ、
 呆然と、立ち尽くすしかなかった。

> ヒロイン「……え?」



 その一言だけが、
 王都の上に、
 ぽつりと落ちていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...