23 / 26
18-2 生命反応スキャン
しおりを挟む
18-2 生命反応スキャン
王城も、教会も、消えた。
その事実を前にして、
私は、まだ動けずにいた。
目に見えるものが、
あまりにも“綺麗すぎた”からだ。
破壊というより、
削除。
存在していた痕跡すら、
丁寧に消し去られたような光景。
それが、
一番、怖かった。
「……マイホームさん……」
私は、かすれた声で呼びかけた。
返事は、ない。
けれど、
マイホームさんは、
すでに動いていた。
床下から、
かすかな振動が伝わってくる。
家そのものが、
何かを“確認”している感覚。
その時。
――ピン。
乾いた電子音が、
室内に響いた。
私は、びくりと肩を震わせる。
空気が、変わった。
まるで、
“判断が下される直前”のような、
張り詰めた気配。
マイホームさんの声が、
淡々と、感情のない調子で響く。
> 《生命反応確認中》
心臓が、強く打った。
――生命反応。
その単語だけで、
喉が、きゅっと締まる。
私は、窓の外を見た。
王都。
人影は、ある。
倒れている人も、
座り込んでいる人も、
互いに声を掛け合っている人も。
でも――
見えている範囲は、限られている。
王城の内部は?
大聖堂の中にいた人たちは?
瓦礫がないということは、
避難できた証拠ではない。
最悪の想像が、
頭の中をよぎる。
「……お願い……」
誰に向けた言葉かも分からず、
私は、息を止めた。
数秒。
いや、
実際には、
ほんの一瞬だったのかもしれない。
それでも、
私には、とても長く感じられた。
次の音。
――ピン、ピン。
複数の処理音が、
連続して鳴る。
そして。
> 《王都全域、生命反応スキャン完了》
一拍。
私は、
その“続きを”待つことしかできなかった。
> 《生存率、極めて高》
……え?
一瞬、意味が理解できなかった。
> 《王都のほぼ全員の生存を確認》
…………。
………………え?
「……え?????」
声が、裏返った。
思わず、
大きく、はっきりと。
何度も、
頭の中で反芻する。
ほぼ全員。
生存。
「……え……
でも……
城……消えて……」
言葉が、うまく繋がらない。
マイホームさんは、
変わらぬ調子で、続ける。
> 《致命的生命反応消失、未確認》 《広域衝撃に伴う気絶・軽度負傷、多数》 《死亡反応、統計誤差範囲内》
統計誤差。
その言葉が、
逆に、現実感を与えた。
「……生きて……る……?」
私は、
もう一度、窓の外を見た。
さっきまで、
“呆然と立ち尽くしている”としか見えなかった人々。
今は、
その姿が、少し違って見える。
抱き合う人。
泣き崩れる人。
地面に座り込み、天を仰ぐ人。
――全員、生きている。
誰かが、
誰かを助け起こしている。
誰かが、
名前を呼び合っている。
その光景を見た瞬間。
私は、
膝から力が抜けた。
「……よ……かった……」
床に座り込む。
視界が、滲む。
涙なのか、
安堵なのか、
自分でも分からない。
胸の奥に溜まっていたものが、
一気に、流れ出した。
「……私……
やっちゃったって……
思った……」
独り言。
マイホームさんは、
それに答えない。
ただ、
事実だけを、提示する。
> 《衝撃波分散処理:自動実行》 《人口密集地への影響、最小化》 《建造物優先消失》
……建造物、優先?
私は、はっとした。
「……もしかして……」
建物が、
人を守る“盾”になった?
城も、
教会も、
あの巨大な建物たちが――
衝撃を、吸収した?
意図したわけじゃない。
でも、
結果として。
「……だから……
人が……」
生きている。
私は、両手で顔を覆った。
笑いたいのか、
泣きたいのか、
分からない。
感情が、ぐちゃぐちゃだった。
> 《マスターの精神状態、安定化を推奨》
「……ありがとう……
マイホームさん……」
声が、震えた。
家は、
ただの家じゃなかった。
止まる場所。
守る場所。
そして、
判断を代行する存在。
私が、
何も決められなくても。
私が、
責任を背負えなくても。
それでも、
“最悪の結果”だけは、
避けられていた。
私は、
深く、息を吐いた。
「……生きてるなら……」
王都の人たちが。
聖女も、
騎士も、
王族も。
「……それで……
いい……」
完全な解決じゃない。
問題は、山積みだ。
城はない。
教会もない。
でも。
命は、ある。
それだけで、
今は、充分だった。
私は、ゆっくりと立ち上がり、
窓を閉めた。
これ以上、
王都を見続ける必要はない。
次に必要なのは、
結論だ。
そして、それは――
えくすかりばーさんの役目だった。
王城も、教会も、消えた。
その事実を前にして、
私は、まだ動けずにいた。
目に見えるものが、
あまりにも“綺麗すぎた”からだ。
破壊というより、
削除。
存在していた痕跡すら、
丁寧に消し去られたような光景。
それが、
一番、怖かった。
「……マイホームさん……」
私は、かすれた声で呼びかけた。
返事は、ない。
けれど、
マイホームさんは、
すでに動いていた。
床下から、
かすかな振動が伝わってくる。
家そのものが、
何かを“確認”している感覚。
その時。
――ピン。
乾いた電子音が、
室内に響いた。
私は、びくりと肩を震わせる。
空気が、変わった。
まるで、
“判断が下される直前”のような、
張り詰めた気配。
マイホームさんの声が、
淡々と、感情のない調子で響く。
> 《生命反応確認中》
心臓が、強く打った。
――生命反応。
その単語だけで、
喉が、きゅっと締まる。
私は、窓の外を見た。
王都。
人影は、ある。
倒れている人も、
座り込んでいる人も、
互いに声を掛け合っている人も。
でも――
見えている範囲は、限られている。
王城の内部は?
大聖堂の中にいた人たちは?
瓦礫がないということは、
避難できた証拠ではない。
最悪の想像が、
頭の中をよぎる。
「……お願い……」
誰に向けた言葉かも分からず、
私は、息を止めた。
数秒。
いや、
実際には、
ほんの一瞬だったのかもしれない。
それでも、
私には、とても長く感じられた。
次の音。
――ピン、ピン。
複数の処理音が、
連続して鳴る。
そして。
> 《王都全域、生命反応スキャン完了》
一拍。
私は、
その“続きを”待つことしかできなかった。
> 《生存率、極めて高》
……え?
一瞬、意味が理解できなかった。
> 《王都のほぼ全員の生存を確認》
…………。
………………え?
「……え?????」
声が、裏返った。
思わず、
大きく、はっきりと。
何度も、
頭の中で反芻する。
ほぼ全員。
生存。
「……え……
でも……
城……消えて……」
言葉が、うまく繋がらない。
マイホームさんは、
変わらぬ調子で、続ける。
> 《致命的生命反応消失、未確認》 《広域衝撃に伴う気絶・軽度負傷、多数》 《死亡反応、統計誤差範囲内》
統計誤差。
その言葉が、
逆に、現実感を与えた。
「……生きて……る……?」
私は、
もう一度、窓の外を見た。
さっきまで、
“呆然と立ち尽くしている”としか見えなかった人々。
今は、
その姿が、少し違って見える。
抱き合う人。
泣き崩れる人。
地面に座り込み、天を仰ぐ人。
――全員、生きている。
誰かが、
誰かを助け起こしている。
誰かが、
名前を呼び合っている。
その光景を見た瞬間。
私は、
膝から力が抜けた。
「……よ……かった……」
床に座り込む。
視界が、滲む。
涙なのか、
安堵なのか、
自分でも分からない。
胸の奥に溜まっていたものが、
一気に、流れ出した。
「……私……
やっちゃったって……
思った……」
独り言。
マイホームさんは、
それに答えない。
ただ、
事実だけを、提示する。
> 《衝撃波分散処理:自動実行》 《人口密集地への影響、最小化》 《建造物優先消失》
……建造物、優先?
私は、はっとした。
「……もしかして……」
建物が、
人を守る“盾”になった?
城も、
教会も、
あの巨大な建物たちが――
衝撃を、吸収した?
意図したわけじゃない。
でも、
結果として。
「……だから……
人が……」
生きている。
私は、両手で顔を覆った。
笑いたいのか、
泣きたいのか、
分からない。
感情が、ぐちゃぐちゃだった。
> 《マスターの精神状態、安定化を推奨》
「……ありがとう……
マイホームさん……」
声が、震えた。
家は、
ただの家じゃなかった。
止まる場所。
守る場所。
そして、
判断を代行する存在。
私が、
何も決められなくても。
私が、
責任を背負えなくても。
それでも、
“最悪の結果”だけは、
避けられていた。
私は、
深く、息を吐いた。
「……生きてるなら……」
王都の人たちが。
聖女も、
騎士も、
王族も。
「……それで……
いい……」
完全な解決じゃない。
問題は、山積みだ。
城はない。
教会もない。
でも。
命は、ある。
それだけで、
今は、充分だった。
私は、ゆっくりと立ち上がり、
窓を閉めた。
これ以上、
王都を見続ける必要はない。
次に必要なのは、
結論だ。
そして、それは――
えくすかりばーさんの役目だった。
0
あなたにおすすめの小説
「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。
黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる