役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお

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18-3 聖剣の結論

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18-3 聖剣の結論

 王都の生存確認が終わっても、
 私の胸の奥は、まだ落ち着いていなかった。

 生きていた。
 ほぼ全員が。

 それは奇跡だ。
 疑いようもなく。

 けれど――
 だからといって、
 何もなかったことには、ならない。

 私は、ソファに座ったまま、
 しばらく動けずにいた。

 マイホームさんの中は、
 いつもと同じ。

 お茶の香り。
 一定に保たれた室温。
 外の混乱が嘘のような、穏やかさ。

 それが、
 かえって現実感を失わせる。

「……建物……
 全部……消えちゃったんだよね……」

 誰に言うでもなく、
 ぽつりと呟く。

 王城。
 大聖堂。

 権威の象徴。
 秩序の象徴。
 “世界が回っている”と、人々が信じるための形。

 それが、
 跡形もなく、消えた。

「……人が生きてて……
 よかったけど……」

 言葉が、途切れる。

 良かった。

 それは、確かだ。

 でも――
 それだけで、
 全部が帳消しになるわけじゃない。

 私は、
 自分の手を見つめた。

 この手で、
 剣を振ったわけじゃない。

 魔法を放ったわけでもない。

 何もしていない。

 ただ、
 そこにいただけ。

「……私……
 何だったんだろ……」

 その問いに、
 すぐ答えは出なかった。

 静かな沈黙の中で。

 ――キン。

 澄んだ音が、響く。

 えくすかりばーさんが、
 ゆっくりと宙に浮かび、
 私の前に現れた。

 刃は、穏やかに輝いている。

 戦場で見せた、
 圧倒的な存在感は、ない。

 今はただ、
 よく切れそうな剣に見えた。

『……考えているな』

 低く、落ち着いた声。

「……うん……」

『後悔か?』

「……分からない……」

 正直な答えだった。

 後悔しているのか。
 していないのか。

 どちらとも言えない。

「……だって……
 生きてるし……」

『ああ』

「……でも……
 城も……教会も……」

『ああ』

 えくすかりばーさんは、
 否定もしない。

 肯定もしない。

 ただ、
 事実として、受け止めている。

『世界はな……
 常に、完璧な結果を出すわけではない』

「……うん……」

『だが……
 最悪を避けることは……
 時に、できる』

 私は、
 その言葉を、ゆっくり噛みしめた。

「……今回のは……
 最悪……じゃない……?」

『……最悪とは』

 一拍。

『“生きていないこと”だ』

 その言葉は、
 静かだった。

 でも、
 はっきりしていた。

『建物は、建て直せる』

『信仰も、制度も、
 時間をかければ、形を変えて戻る』

『だが……
 命は、戻らない』

 私は、目を伏せた。

「……でも……
 こんなの……
 都合がよすぎるよ……」

 思っていたことを、
 そのまま口に出した。

「……全部……
 吹き飛んだのに……
 人だけ……生きてるなんて……」

「……ご都合主義……
 みたい……」

 えくすかりばーさんは、
 少しだけ、沈黙した。

 そして、
 静かに言った。

『……必殺二』

 私は、顔を上げる。

『運がよかった』

「……」

 あまりにも、
 あっさりした言葉。

 拍子抜けするほど、
 簡単な結論。

 私は、思わず笑ってしまいそうになった。

「……それ……
 で、いいの……?」

『ああ』

 即答。

 けれど。

 えくすかりばーさんは、
 そこで止まらなかった。

 一拍。

 ほんの、短い間。

 刃の光が、
 わずかに揺れる。

『……いや』

 声の調子が、
 少しだけ、変わった。

『そうだな……』

 間。

 考えるように。

『ここは……』

 そして。

『神のご加護ということにしておこう』

 私は、
 一瞬、言葉を失った。

「……え……?」

『人はな』

『理由がなければ、
 安心できない』

『偶然では、
 納得できない』

『ならば……
 “神のご加護”という言葉は……
 便利だ』

 私は、
 思わず、息を吐いた。

「……それ……
 いいの……?」

『いい』

 即答だった。

『神が実在するかどうかは、
 重要ではない』

『人が、
 生き延びた事実を……
 どう受け止めるか』

『それだけだ』

 私は、
 しばらく黙っていた。

 そして、
 小さく笑った。

「……すごいね……
 聖剣なのに……
 現実的……」

『剣とはな』

『“切る”ための道具だ』

『幻想も、理想も、
 時には切り捨てねばならん』

 私は、
 背もたれに体を預けた。

「……じゃあ……
 私は……」

『何もしなくていい』

 言い切り。

『責任を取るのは、
 君ではない』

『英雄になる必要もない』

『裁く必要もない』

 私は、
 ゆっくり、目を閉じた。

「……よかった……」

 心から、
 そう思った。

 世界は、
 変わってしまった。

 でも。

 それを背負う必要は、
 ない。

 私は、
 ただ、生きている。

 止まる場所があって、
 守られて、
 頑張らなくていい。

 それで、いい。

 えくすかりばーさんは、
 静かに、元の位置へ戻った。

 マイホームさんが、
 小さく音を立てる。

 外では、
 新しい世界が、
 混乱しながら動き始めている。

 けれど、
 ここは、静かだ。

 私は、
 深く息を吸った。

「……スローライフ……
 再開……だね……」

 誰も、否定しなかった。

 ――余波は、終わった。

 そして、
 物語は、
 “何も起こらない日常”へ
 戻っていく。


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