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第2章「影の騎士との盟約」
2-2 影の誓い
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2-2 影の誓い
その夜、風はやけに静かだった。
雪明かりに照らされた駐屯地の一角――訓練場の片隅で、焚き火がかすかに揺れている。
昼間の訓練を終え、ルナリエは疲労と充実感の入り混じった顔でベンチに腰を下ろしていた。
指のひらには小さな豆。痛みはあるけれど、不思議と誇らしい。
火の向こうで、オルヴィンが剣を磨いていた。
光を吸い込むような黒髪。
焚き火の炎に照らされたその横顔は、静かに何かを決意しているように見えた。
「……まだ剣を磨いておられるの?」
「剣は、命だ。錆びさせるわけにはいかない」
淡々とした声。けれど、その手の動きには無駄がなかった。
火の音だけが二人の間を満たす。
ルナリエはそっと膝の上で手を組み、ためらいながら口を開いた。
「ねえ、オルヴィン。ひとつ……聞いてもよろしいですか?」
「なんだ」
「どうして、わたくしを助けてくださったの?」
一瞬、磨く手が止まる。
焚き火が、ぱち、と弾けた。
「……理由が必要か?」
「ええ。あなたは王太子の側近だった。それなのに、今は左遷されて……。それでも、あの夜、わたくしを見つけて助けてくれた。――なぜ?」
オルヴィンは少しだけ視線を落とし、夜空を仰いだ。
白い息が空に消える。
「……十年前の冬だ」
「十年前……?」
「当時、俺はまだ見習いだった。雪の庭で迷っていた少女を見つけた。小さな手で泣いていて、でも、誰も助けに来なかった」
ルナリエの胸がきゅっと締め付けられる。
それは、彼女の記憶と同じ光景だった。
「……わたくしを、助けたのは……あなた、だったのですね」
オルヴィンは小さく頷いた。
「守ると決めた。あのときから。それが、俺の最初の誓いだ」
「最初の……誓い」
彼は続ける。
「俺の剣は、王のためではなく――ただひとり、雪の庭で泣いていた少女のためにある」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
彼の声は冷静なのに、心に刺さるほどの熱があった。
「そんな昔から……わたくしを……」
「覚えている。お前は震えながらも、泣きながら言った。『もう一度、自分を信じたい』と」
ルナリエは息をのんだ。
その言葉を、彼が覚えていたなんて。
「……あのときは、ただ怖かっただけです」
「だが、それでも言った。だから、俺は信じた。お前は、必ず立ち上がる人間だと」
焚き火の光が、ルナリエの瞳に映る。
涙がこぼれそうになったけれど、彼の前で泣くのは違うと思った。
「……オルヴィン。わたくし、もう逃げません」
「……ああ?」
「守られるだけの存在でいるのは、もう嫌です。
わたくしも、誰かを守れる人になりたい。あなたのように」
その言葉に、オルヴィンの瞳がわずかに揺れた。
火の粉が夜空へ舞い上がる。
「……俺のように、か」
「はい」
彼は立ち上がり、手袋を外した。
そして、ルナリエの前に片膝をつき、手を差し出す。
「ならば――“影の盟約”を結ぶか?」
「影の盟約……?」
「この地では、誓いを交わすとき、互いの手に炎の光を宿す。
“光を分かち、闇を共に歩む”という意味だ」
ルナリエは少し躊躇いながらも、彼の手を取った。
オルヴィンの掌は硬く、温かかった。
その瞬間、焚き火の炎がひときわ強く揺れ、二人の手のあいだから、淡い光が生まれた。
「……きれい」
「お前が選んだ光だ」
炎が二人の間に舞い、空へ消える。
ルナリエは胸の奥に広がる温かさを感じながら、静かに言った。
「わたくし、あなたに守られるだけではなく、共に歩みたい」
「それが、お前の誓いか」
「はい。――これからは、わたくしも誰かを照らせるように」
オルヴィンは静かに頷き、わずかに微笑んだ。
「なら、これからはその光を“信じる”ことだ。……お前自身の力を」
ルナリエは微笑み返した。
「ええ。もう、信じることをやめたりしません」
夜空には、静かに雪が舞っていた。
二人の影が焚き火に揺れ、まるでひとつに重なって見えた。
――こうして、“氷の姫”と“影の騎士”の誓いが結ばれた。
それは、ただの守護と被守護の関係ではなく、
共に闇を歩き、光を見つけるための、運命の盟約だった。
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その夜、風はやけに静かだった。
雪明かりに照らされた駐屯地の一角――訓練場の片隅で、焚き火がかすかに揺れている。
昼間の訓練を終え、ルナリエは疲労と充実感の入り混じった顔でベンチに腰を下ろしていた。
指のひらには小さな豆。痛みはあるけれど、不思議と誇らしい。
火の向こうで、オルヴィンが剣を磨いていた。
光を吸い込むような黒髪。
焚き火の炎に照らされたその横顔は、静かに何かを決意しているように見えた。
「……まだ剣を磨いておられるの?」
「剣は、命だ。錆びさせるわけにはいかない」
淡々とした声。けれど、その手の動きには無駄がなかった。
火の音だけが二人の間を満たす。
ルナリエはそっと膝の上で手を組み、ためらいながら口を開いた。
「ねえ、オルヴィン。ひとつ……聞いてもよろしいですか?」
「なんだ」
「どうして、わたくしを助けてくださったの?」
一瞬、磨く手が止まる。
焚き火が、ぱち、と弾けた。
「……理由が必要か?」
「ええ。あなたは王太子の側近だった。それなのに、今は左遷されて……。それでも、あの夜、わたくしを見つけて助けてくれた。――なぜ?」
オルヴィンは少しだけ視線を落とし、夜空を仰いだ。
白い息が空に消える。
「……十年前の冬だ」
「十年前……?」
「当時、俺はまだ見習いだった。雪の庭で迷っていた少女を見つけた。小さな手で泣いていて、でも、誰も助けに来なかった」
ルナリエの胸がきゅっと締め付けられる。
それは、彼女の記憶と同じ光景だった。
「……わたくしを、助けたのは……あなた、だったのですね」
オルヴィンは小さく頷いた。
「守ると決めた。あのときから。それが、俺の最初の誓いだ」
「最初の……誓い」
彼は続ける。
「俺の剣は、王のためではなく――ただひとり、雪の庭で泣いていた少女のためにある」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
彼の声は冷静なのに、心に刺さるほどの熱があった。
「そんな昔から……わたくしを……」
「覚えている。お前は震えながらも、泣きながら言った。『もう一度、自分を信じたい』と」
ルナリエは息をのんだ。
その言葉を、彼が覚えていたなんて。
「……あのときは、ただ怖かっただけです」
「だが、それでも言った。だから、俺は信じた。お前は、必ず立ち上がる人間だと」
焚き火の光が、ルナリエの瞳に映る。
涙がこぼれそうになったけれど、彼の前で泣くのは違うと思った。
「……オルヴィン。わたくし、もう逃げません」
「……ああ?」
「守られるだけの存在でいるのは、もう嫌です。
わたくしも、誰かを守れる人になりたい。あなたのように」
その言葉に、オルヴィンの瞳がわずかに揺れた。
火の粉が夜空へ舞い上がる。
「……俺のように、か」
「はい」
彼は立ち上がり、手袋を外した。
そして、ルナリエの前に片膝をつき、手を差し出す。
「ならば――“影の盟約”を結ぶか?」
「影の盟約……?」
「この地では、誓いを交わすとき、互いの手に炎の光を宿す。
“光を分かち、闇を共に歩む”という意味だ」
ルナリエは少し躊躇いながらも、彼の手を取った。
オルヴィンの掌は硬く、温かかった。
その瞬間、焚き火の炎がひときわ強く揺れ、二人の手のあいだから、淡い光が生まれた。
「……きれい」
「お前が選んだ光だ」
炎が二人の間に舞い、空へ消える。
ルナリエは胸の奥に広がる温かさを感じながら、静かに言った。
「わたくし、あなたに守られるだけではなく、共に歩みたい」
「それが、お前の誓いか」
「はい。――これからは、わたくしも誰かを照らせるように」
オルヴィンは静かに頷き、わずかに微笑んだ。
「なら、これからはその光を“信じる”ことだ。……お前自身の力を」
ルナリエは微笑み返した。
「ええ。もう、信じることをやめたりしません」
夜空には、静かに雪が舞っていた。
二人の影が焚き火に揺れ、まるでひとつに重なって見えた。
――こうして、“氷の姫”と“影の騎士”の誓いが結ばれた。
それは、ただの守護と被守護の関係ではなく、
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