氷の王女と影の騎士 ――誓いの逆転婚姻

しおしお

文字の大きさ
16 / 27
第4章「反撃の誓い」

4-3 裏切りの告白

しおりを挟む
4-3 裏切りの告白

夜。
ヴァリスの砦は、風の唸りに包まれていた。
松明の灯が壁を揺らし、兵たちの影が長く伸びる。
訓練を終えた者たちが寝静まった後、ルナリエとオルヴィンは執務室で報告を待っていた。

机の上には王国の地図。
赤く塗られた線は王都から南方へ――まるで血管のように、腐敗が広がる証だった。

「……王都の内乱は続いている。だが、民の苦しみは増すばかりだ」
オルヴィンが報告書を置く。
「伯爵派が軍を動かしているらしい。王太子は表向きの“傀儡”に過ぎん」

「……伯爵派、ですか」
ルナリエの瞳に冷たい光が宿る。
「名前を出さない方がいい。耳にも呪いが残るような男だ」

その時、扉がノックされた。
「入れ」
現れたのは、全身に外套を纏った男――ひどくやつれた表情をしていた。

「失礼いたします……亡命者を名乗る者を、保護しました」
護衛の兵士が告げる。

「亡命者?」
ルナリエが眉をひそめると、男はふらりと膝をついた。
「王都から参りました……元情報将校、レオン・バルガです」

彼の手には血の滲む封書。
「お見せしたいものが、ございます……」

封を切ると、中には王国議会の印章と、見慣れた筆跡。
そこには、伯爵ヴァルデマーの署名とともに、恐るべき命令が記されていた。

> 『王家を排除し、聖女エリザを“神託の声”として立てること。
反逆者ルナリエを抹殺せよ。
王国再建の名の下、民を選別せよ』



「……なんということ」
ルナリエは思わず口元を押さえた。
書状の隅には、彼女の名前が“粛清対象第一号”として刻まれている。

「伯爵ヴァルデマー……やはり、あなたでしたのね」
彼女の声は震えていない。
けれど、その奥には怒りと悲しみが静かに燃えていた。

レオンは苦悶の表情で頭を垂れる。
「殿下……いえ、ルナ様。私は、彼の命で情報を偽造し、あなた様を陥れました。
 晩餐会の毒も、命じられた通りに……」

オルヴィンが腰の剣に手をかけた。
だがルナリエは、手を伸ばしてそれを制した。

「やめてください。……彼は、罪を自覚して来たのです」

「……!」
オルヴィンの目が驚きに揺れる。

ルナリエは歩み寄り、レオンの肩に手を置いた。
「苦しかったでしょう。
 罪を背負い、それでも真実を伝えようとしてくれた――
 それはもう、贖罪の第一歩ですわ」

レオンの頬に涙が伝う。
「あなた様は……氷の姫ではなく、慈悲の女神のようだ……」

「いいえ。氷の姫で構いません。
 氷は冷たくとも、腐敗を凍らせる力があります」

ルナリエは地図の上に手を置いた。
指先から微かな光が溢れ、王国全土が青白く染まる。
氷の魔力が、彼女の決意と共鳴していた。

「オルヴィン。伯爵は、王都を掌握しようとしています。
 王家の名を利用し、民を“粛清”の名で支配している。
 このままでは――」

「王国は滅ぶ」
「ええ。だから、止めなくては」

ルナリエはゆっくりと立ち上がる。
その背筋は、王女だった頃よりもずっと強く、美しかった。

「わたくしは、もう逃げません。
 あの国を変えるのは、“氷の姫”の責務。
 そして、わたくし自身の贖いです」

オルヴィンは彼女を見上げ、跪いた。
「……ならば俺は、お前の剣となる。
 その決意に、この命を捧げよう」

「ありがとう、オルヴィン」
ルナリエは微笑み、彼の手を取る。
「氷はもう、孤独の象徴ではありません。
 ――民と、あなたと共に、炎を灯す力です」

焚き火の光が二人を包む。
外では雪が静かに舞い落ちていたが、
その中心には確かに、“新しい夜明けの熱”が生まれつつあった。

やがてルナリエは、レオンに向き直る。
「レオン・バルガ。あなたに頼みたいことがあります」
「なんなりと」
「伯爵の行動を監視し、次の動きを知らせてください。
 ――もう二度と、彼の好きにはさせません」

「はっ……必ず」
レオンは深く頭を下げた。

ルナリエは、夜空を見上げる。
星々が冷たい光を放つ中、その瞳だけは確かな炎を宿していた。

> 「この手で、凍てついた国を解かしてみせる。
民の涙も、わたくしの過去も――全部、春へと変えるために」



その決意の言葉が、ヴァリスの砦に新たな風を呼んだ。
氷の姫は、再び立ち上がった。
今度は、誰のためでもなく――自分の意志で。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

借りてきたカレ

しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて…… あらすじ システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。 人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。 人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。 しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。 基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

ぽっちゃり侯爵と大食い令嬢の甘い婚約生活

piyo
恋愛
女性秘書官として働きながら、“大食い令嬢”の異名を持つダニエラ。そんな彼女に、上司のガリウスがひとつの縁談を持ってくる。 相手は名門オウネル侯爵家の当主、キーレン・オウネル。 大変ふくよかな体形の彼は、自分と同じように食を楽しんでくれる相手を探していた。 一方のダニエラも、自分と同じくらいの食欲のある伴侶を求めていたため、お茶会を通じて二人は晴れて婚約者となる。 ゆっくりと距離を縮め、穏やかに愛を育んでいく二人だが、 結婚式の半年前、キーレンが交易交渉のため国外へ赴くことになり―― ※なろうにも掲載しています

ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人
恋愛
 私は冒険者ギルド職員ロックウィーナ。25歳の女で担当は回収役。冒険者の落し物、遺品、時には冒険者自体をも背負います!  素敵な恋愛に憧れているのに培われるのは筋肉だけ。  しかし無駄に顔が良い先輩と出動した先で、行き倒れた美形剣士を背負ってから私の人生は一変。初のモテ期が到来です!!  ……とか思ってウハウハしていたら何やら不穏な空気。ええ!?  私の選択次第で世界がループして崩壊の危機!? そんな結末は認めない!!!! ※【エブリスタ】でも公開しています。  【エブリスタ小説大賞2023 講談社 女性コミック9誌合同マンガ原作賞】で優秀作品に選ばれました。

処理中です...