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最終話 このまま君と
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カラオケで一夜を過ごした後、日も昇らないうちに二人は海を目指して歩き出した。
濃紺のインクを垂らしたような空と微かに輝く星を見上げながら、琉は冬陽の手を引いて歩く。
「寒くね?大丈夫?」
「……平気」
「そっか、しんどかったら言えよ」
自身の過去を話してから冬陽の言葉は少なくなった。
ずっと去勢を張っていたのだろう。
もしかしたらこれが本来の冬陽の姿なのかもしれない。
「死んだらさ、どこにいくと思う?」
「……俺は地獄にいく」
「じゃあ俺も一緒に行こうかな」
その言葉に冬陽は微かに笑う。
「なんで?」
「冬陽と一緒に行ったら面白そうだから?」
「琉って、バカだよね」
「はは、よく言われる」
薄暗い中、看板を頼りに歩くと海岸の先に出る遊歩道の入り口が現れる。
「いいね、冒険って感じじゃん」
「なんでそんなに楽しそうなの……?」
冬陽は感情の伴わない声で琉に問う。
「お前と一緒にいる時間は全部楽しかったけど?」
「……そう、なんだ」
「んじゃ行こうぜ」
二人は夜明け前の薄暗い中、海岸沿いの遊歩道を歩いていく。
あまり整備されていないためか、革靴が滑り何度か転びそうになる。
「え、年?」
冬陽がニヤニヤしながら琉を見る。
「なわけあるか!」
琉はややムキになりながら前を歩く冬陽を追う。
20分ほど歩くと海を一望できる展望台に辿り着いた。
柵の下には真っ黒な海がうねりながら岩に当たり、白い飛沫をあげている。
まだ朝日は昇っておらず水平線を明るく染めつつも、海面は暗い色を静かに揺蕩わせている。
「間に合ったね、おっさん」
「おっさんじゃねぇよ!まだ全然若いわ!」
冬陽は久方ぶりにケラケラと笑うと、視線を海に向け静かに見つめる。
二人の間に波の音だけが響く。
琉は目下の海に視線を向ける。
ここから落ちれば、多分死ぬだろう。
なぜかあまり恐怖心はなかった。
どちらかといえば吹き付ける冷たい風の方が堪え、寒さに体を震わせた。
「俺、一人で死ぬ」
冬陽は唐突に口を開いた。
言葉の続きを琉は黙って待つ。
「ごめん、一緒に死んでくれるっていったのに」
「……何?俺の未来考えてくれた感じ?」
琉は口の端に笑みを纏わせる。
「まあ……そんな感じ」
その様子を見て、冬陽も諦念を纏わせた笑みを返した。
「やっぱり、俺と一緒に死ぬなんてもったいないよ、琉はなんも悪いことしてないし」
「サボリ、仮病、未成年と宿泊……大罪人だろ」
その言葉に冬陽は声をあげて笑う。
「俺は親殺したけどね!」
「じゃあ同じ大罪人だな」
「……どこが」
冬陽は髪を振り乱しながら声を荒げる。
「全然違うよ!俺と琉じゃ、住んでる世界が違う!親殺したんだよ?!金のために男にだって抱かれてた!そんな汚い奴が琉の命もらう資格ないよ!!」
琉は冬陽の腕を引き寄せると、腕の中に閉じ込める。
海風に冷えたせいか、冬陽の体温がとても温かく感じる。
「お前さ、偉いよな」
「は、どこが」
「俺は働くのがめんどいって思ってサボったのに、お前は必死に家のために働いてたんだろ学校行きながら……これが偉くなかったら何が偉いんだよ」
「だって、必要だったから」
「俺はその必要なことを、必死にできなかった」
琉は冬陽の頭を優しく撫でる。
冬陽は感じ入るように肩に顔を埋め、微かに嗚咽を漏らす。
「頑張ったな」
ずっとこの言葉が欲しかったのかもしれない。
冬陽はその言葉で堰を切ったように声をあげて泣き出す。
琉は冬陽が落ち着くまで強く抱きしめた。呼吸が落ち着いた頃、琉は優しく声をかける。
「なあ、自首しよ」
その言葉に冬陽の体が強張るが、琉は続けて言葉を紡ぐ。
「大丈夫、やり直せるよ」
「何を、根拠に」
「俺がずっと冬陽のこと支える」
「まだ会って三日しか経ってないよ、そんな相手になんで」
「多分、俺お前のことがめっちゃ好き」
冬陽が息を呑むのが分かる。
「お前が生きてくれるなら、俺めちゃくちゃ頑張れる気がする」
「意味、分かんないよ」
「ははは、俺も。でもお前と死ぬって考えた時にさ、あんまり怖くなかったんだよね。冬陽がそばにいてくれるからだろうな」
琉は一度言葉を切ると、冬陽を力強く抱きしめる。
「なあ、冬陽。俺が必死に生きる理由になってよ」
冬陽は腕の中で声をあげて笑い出す。
「あはは!何それ、重すぎ!……でも」
冬陽は琉の肩から顔を上げる。
涙に濡れた頬が朝陽によって照らされる。
涙を拭うと朗らかに笑う。
「何でだろう、めっちゃ嬉しい」
冬陽は朝焼けに目を向ける。
どこか憑き物が落ちたような、そんな目だった。
眩い朝日が、抱擁する二人を照らし出す。
「朝陽なんて、毎日見てたのに……こんなに綺麗なのは初めて見た」
琉は水平線に昇った太陽を見て、美しいと感じた。
毎朝忌々しいと思っていた朝日がこんなに綺麗に感じる日が来るとは思わなかった。
「ああ、俺もだよ」
その後二人は手を繋ぎながら最寄りの警察署に出頭した。
警察署に来た二人の表情は、まるで祝言をあげるような穏やかなものだったという。
濃紺のインクを垂らしたような空と微かに輝く星を見上げながら、琉は冬陽の手を引いて歩く。
「寒くね?大丈夫?」
「……平気」
「そっか、しんどかったら言えよ」
自身の過去を話してから冬陽の言葉は少なくなった。
ずっと去勢を張っていたのだろう。
もしかしたらこれが本来の冬陽の姿なのかもしれない。
「死んだらさ、どこにいくと思う?」
「……俺は地獄にいく」
「じゃあ俺も一緒に行こうかな」
その言葉に冬陽は微かに笑う。
「なんで?」
「冬陽と一緒に行ったら面白そうだから?」
「琉って、バカだよね」
「はは、よく言われる」
薄暗い中、看板を頼りに歩くと海岸の先に出る遊歩道の入り口が現れる。
「いいね、冒険って感じじゃん」
「なんでそんなに楽しそうなの……?」
冬陽は感情の伴わない声で琉に問う。
「お前と一緒にいる時間は全部楽しかったけど?」
「……そう、なんだ」
「んじゃ行こうぜ」
二人は夜明け前の薄暗い中、海岸沿いの遊歩道を歩いていく。
あまり整備されていないためか、革靴が滑り何度か転びそうになる。
「え、年?」
冬陽がニヤニヤしながら琉を見る。
「なわけあるか!」
琉はややムキになりながら前を歩く冬陽を追う。
20分ほど歩くと海を一望できる展望台に辿り着いた。
柵の下には真っ黒な海がうねりながら岩に当たり、白い飛沫をあげている。
まだ朝日は昇っておらず水平線を明るく染めつつも、海面は暗い色を静かに揺蕩わせている。
「間に合ったね、おっさん」
「おっさんじゃねぇよ!まだ全然若いわ!」
冬陽は久方ぶりにケラケラと笑うと、視線を海に向け静かに見つめる。
二人の間に波の音だけが響く。
琉は目下の海に視線を向ける。
ここから落ちれば、多分死ぬだろう。
なぜかあまり恐怖心はなかった。
どちらかといえば吹き付ける冷たい風の方が堪え、寒さに体を震わせた。
「俺、一人で死ぬ」
冬陽は唐突に口を開いた。
言葉の続きを琉は黙って待つ。
「ごめん、一緒に死んでくれるっていったのに」
「……何?俺の未来考えてくれた感じ?」
琉は口の端に笑みを纏わせる。
「まあ……そんな感じ」
その様子を見て、冬陽も諦念を纏わせた笑みを返した。
「やっぱり、俺と一緒に死ぬなんてもったいないよ、琉はなんも悪いことしてないし」
「サボリ、仮病、未成年と宿泊……大罪人だろ」
その言葉に冬陽は声をあげて笑う。
「俺は親殺したけどね!」
「じゃあ同じ大罪人だな」
「……どこが」
冬陽は髪を振り乱しながら声を荒げる。
「全然違うよ!俺と琉じゃ、住んでる世界が違う!親殺したんだよ?!金のために男にだって抱かれてた!そんな汚い奴が琉の命もらう資格ないよ!!」
琉は冬陽の腕を引き寄せると、腕の中に閉じ込める。
海風に冷えたせいか、冬陽の体温がとても温かく感じる。
「お前さ、偉いよな」
「は、どこが」
「俺は働くのがめんどいって思ってサボったのに、お前は必死に家のために働いてたんだろ学校行きながら……これが偉くなかったら何が偉いんだよ」
「だって、必要だったから」
「俺はその必要なことを、必死にできなかった」
琉は冬陽の頭を優しく撫でる。
冬陽は感じ入るように肩に顔を埋め、微かに嗚咽を漏らす。
「頑張ったな」
ずっとこの言葉が欲しかったのかもしれない。
冬陽はその言葉で堰を切ったように声をあげて泣き出す。
琉は冬陽が落ち着くまで強く抱きしめた。呼吸が落ち着いた頃、琉は優しく声をかける。
「なあ、自首しよ」
その言葉に冬陽の体が強張るが、琉は続けて言葉を紡ぐ。
「大丈夫、やり直せるよ」
「何を、根拠に」
「俺がずっと冬陽のこと支える」
「まだ会って三日しか経ってないよ、そんな相手になんで」
「多分、俺お前のことがめっちゃ好き」
冬陽が息を呑むのが分かる。
「お前が生きてくれるなら、俺めちゃくちゃ頑張れる気がする」
「意味、分かんないよ」
「ははは、俺も。でもお前と死ぬって考えた時にさ、あんまり怖くなかったんだよね。冬陽がそばにいてくれるからだろうな」
琉は一度言葉を切ると、冬陽を力強く抱きしめる。
「なあ、冬陽。俺が必死に生きる理由になってよ」
冬陽は腕の中で声をあげて笑い出す。
「あはは!何それ、重すぎ!……でも」
冬陽は琉の肩から顔を上げる。
涙に濡れた頬が朝陽によって照らされる。
涙を拭うと朗らかに笑う。
「何でだろう、めっちゃ嬉しい」
冬陽は朝焼けに目を向ける。
どこか憑き物が落ちたような、そんな目だった。
眩い朝日が、抱擁する二人を照らし出す。
「朝陽なんて、毎日見てたのに……こんなに綺麗なのは初めて見た」
琉は水平線に昇った太陽を見て、美しいと感じた。
毎朝忌々しいと思っていた朝日がこんなに綺麗に感じる日が来るとは思わなかった。
「ああ、俺もだよ」
その後二人は手を繋ぎながら最寄りの警察署に出頭した。
警察署に来た二人の表情は、まるで祝言をあげるような穏やかなものだったという。
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