このまま君と遠くまで

下井理佐

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番外編 遠く、その先で

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 琉は事件後、今までの勤務態度を改め懸命に働いていた。
 冬陽が退院した時にかっこ悪いところを見せたくなかったという見栄もあったが、それ以上に冬陽を引き取るためのお金と信頼が欲しかった。
 今では社内でもそこそこ頼られるようになり、新人の育成も少しずつ頼まれるようになった。
 全ては冬陽のため、そう思うだけで目の前の仕事が面倒なものではなくなっていった。

(冬陽が、俺の生きる理由になってるってことだよな)

 時計を見ると、昼前だった。
 冬陽と初めて会った時に行ったファミレスを思い出す。
 あの時は遠慮してあまり良いものを食べさせてあげられなかった。

(次行く時は、好きなもの食わせてやろう)

 胸の中でまた一つ小さな誓いを立てると、目の前の仕事に没頭した。
 

 
 冬陽が医療少年院に入ってから、もうすぐ4年が経とうとしている。つまり、もうすぐ仮退院が許されると言うことだ。
 冬陽が保護されてからは様々な検査や調査が行われたという。
 その結果、聞き馴染みのない病名が冬陽にはたくさんついた。
 それだけ心も体も傷ついていたということだ。
 入院して最初の一年間は、パニックやフラッシュバック、過呼吸の症状が出てとても苦しかったと聞く。
 面会は原則保護者のみだったが、冬陽には頼れる親類がおらず、更生のためということで特別に許された。
 面会の度にやつれた冬陽の顔を見るのはとても辛かった。
 そんな何か冬陽の力になりたくて、手紙のやり取りだけは積極的に行った。
 一週間に一枚、その日会ったことや、これから冬陽としたいこと、冬陽のおかげで毎日を頑張れていることを書いて送った。
 検閲されるとのことだったから、どれだけ冬陽の元に届いたかは分からない。
 一枚でも多く冬陽の元に届いて、冬陽の力になればいいなと思っていた。



 退院当日、少年院の前で琉は緊張しながら冬陽が出てくるのを待っていた。
 琉は27歳になっていた。
 どこか気の抜けた顔をした23歳の頃とは違い、今では精悍な顔つきで強い意志を宿した青年になっていた。
 両親からは結婚のことが度々話題に上がっていたが、冬陽のことを考えると、そんな選択肢は最初から存在しなかった。
 医療少年院の門が開き、一人の青年が出てくる。
 出会った頃に比べて少しだけ背が伸び、痩せすぎだった体は健康な体へと変わっていた。
 琉はその青年へ向かって一歩ずつ足を進める。
 青年もどこか緊張した足取りで琉の元に向かって足を進める。
 お互いに足を止めると、目に涙の膜を張りながら強く抱きしめ合う。
 
「……おかえり、冬陽」

「ただいま……琉」

 あの日バス停でイタズラっぽく笑い壊れていた少年は、今とても幸せそうな笑顔を浮かべている。
 桑原冬陽はここにいる。
 とても大好きな、三山琉の腕の中に。
 
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