6 / 7
番外編 遠く、その先で
しおりを挟む琉は事件後、今までの勤務態度を改め懸命に働いていた。
冬陽が退院した時にかっこ悪いところを見せたくなかったという見栄もあったが、それ以上に冬陽を引き取るためのお金と信頼が欲しかった。
今では社内でもそこそこ頼られるようになり、新人の育成も少しずつ頼まれるようになった。
全ては冬陽のため、そう思うだけで目の前の仕事が面倒なものではなくなっていった。
(冬陽が、俺の生きる理由になってるってことだよな)
時計を見ると、昼前だった。
冬陽と初めて会った時に行ったファミレスを思い出す。
あの時は遠慮してあまり良いものを食べさせてあげられなかった。
(次行く時は、好きなもの食わせてやろう)
胸の中でまた一つ小さな誓いを立てると、目の前の仕事に没頭した。
◇
冬陽が医療少年院に入ってから、もうすぐ4年が経とうとしている。つまり、もうすぐ仮退院が許されると言うことだ。
冬陽が保護されてからは様々な検査や調査が行われたという。
その結果、聞き馴染みのない病名が冬陽にはたくさんついた。
それだけ心も体も傷ついていたということだ。
入院して最初の一年間は、パニックやフラッシュバック、過呼吸の症状が出てとても苦しかったと聞く。
面会は原則保護者のみだったが、冬陽には頼れる親類がおらず、更生のためということで特別に許された。
面会の度にやつれた冬陽の顔を見るのはとても辛かった。
そんな何か冬陽の力になりたくて、手紙のやり取りだけは積極的に行った。
一週間に一枚、その日会ったことや、これから冬陽としたいこと、冬陽のおかげで毎日を頑張れていることを書いて送った。
検閲されるとのことだったから、どれだけ冬陽の元に届いたかは分からない。
一枚でも多く冬陽の元に届いて、冬陽の力になればいいなと思っていた。
◇
退院当日、少年院の前で琉は緊張しながら冬陽が出てくるのを待っていた。
琉は27歳になっていた。
どこか気の抜けた顔をした23歳の頃とは違い、今では精悍な顔つきで強い意志を宿した青年になっていた。
両親からは結婚のことが度々話題に上がっていたが、冬陽のことを考えると、そんな選択肢は最初から存在しなかった。
医療少年院の門が開き、一人の青年が出てくる。
出会った頃に比べて少しだけ背が伸び、痩せすぎだった体は健康な体へと変わっていた。
琉はその青年へ向かって一歩ずつ足を進める。
青年もどこか緊張した足取りで琉の元に向かって足を進める。
お互いに足を止めると、目に涙の膜を張りながら強く抱きしめ合う。
「……おかえり、冬陽」
「ただいま……琉」
あの日バス停でイタズラっぽく笑い壊れていた少年は、今とても幸せそうな笑顔を浮かべている。
桑原冬陽はここにいる。
とても大好きな、三山琉の腕の中に。
0
あなたにおすすめの小説
記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
大事な呼び名
夕月ねむ
BL
異世界に転移したらしいのだが俺には記憶がない。おまけに外見が変わった可能性があるという。身元は分からないし身内はいないし、本名すら判明していない状態。それでも俺はどうにか生活できていた。国の支援で学校に入学できたし、親切なクラスメイトもいる。ちょっと、強引なやつだけどな。
※FANBOXからの転載です
※他サイトにも投稿しています
貴方に復讐しようと、思っていたのに。
黒狐
BL
前世、馬車の事故で亡くなった令嬢(今世は男)の『私』は、幽霊のような存在になってこの世に残っていた。
婚約者である『彼』が私と婚約破棄をする為に細工をしたのだと考え、彼が無惨な末路を迎える様を見てやろうと考えていた。
しかし、真実はほんの少し違っていて…?
前世の罪や罰に翻弄される、私と彼のやり直しの物語。
⭐︎一部残酷な描写があります、ご注意下さい。
何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました
まんまる
BL
貧乏男爵家の次男カナルは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。
どうして男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へいく。
しかし、殿下は自分に触れることはなく、何か思いがあるようだった。
優しい二人の恋のお話です。
※ショートショート集におまけ話を上げています。そちらも是非ご一読ください。
※画像は男の子メーカーPicrewさんよりお借りしています。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる