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82 商団の幹部と取引をしよう
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「300万!?」
高級なお酒となれば1本300万リードもするなんて、知らなかった。
「たかが酒一瓶にそんな値段もするんですか!?」
「もっと高い酒も当然ある」
目玉が飛び出るほど高かった。
10万リード金貨が30枚……金貨1枚でさえ、庶民にとってはほとんどお目にかかれない。
ユーゼフは、厳格な態度を崩さない。
「何の理由があってこれを買いたいのか知らないが、珍しい酒なんて金余りの奴らにゃ引く手あまただ。お前らが諦めても、まず間違いなく買い手は現れるだろうぜ」
道楽好きな貴族はそういうのよく買いそうだしな。
俺は言葉をつまらせた。
「おいおい、待てよ。そりゃ高すぎて貴族も買わねえだろ。たかが飲んじまったらなくなっちまう酒なんかによ、誰がそんな大金を出すっつうんだ?」
アララドさんは大げさに肩をすくめる。
……そうか、なるほど。
こういう商人は値段交渉すること前提で、客に初めに提示する値段はあえて高めに設定してふっかけると聞いたことがある。適正価格まで値切っていかなければカモられてしまうのだ。
アララドさんは、商人に値段交渉を持ちかける気だ。
さすが、戦いに身を置いてるだけあって駆け引きに長けて……
「300万じゃなくて3万にしろ」
交渉下手かな?
「てめえ舐めてんじゃねぇぞ! んな値段になんかできるか!」
ユーゼフは激昂してテーブルを叩いた。
「それにうちは適正価格で売ってる! ぼったくろうとしてこんな値段にしてんじゃねえよ! 仕入れ値がそれなりにかかってんだ! 質のいいものを作る生産者に最大限の敬意を払っているからだ! わかったら黙って300万耳揃えて払いやがれ! でなければ出て行け!」
「すまん、すまんって」
アララドさんはユーゼフをなだめにかかる。
「金ならもちろんあるさ。ロッドがな」
「……え、あー」
「おい、ロッド、金は?」
「最近、古代文字の解読書買ったので、もう手持ちが少ないです。そもそも300万とか払うのは無理です」
「ここに来た意味ねえじゃねえか!」
ユーゼフは腕を組んで、俺たちを睨むように見る。
ボディーガードの二人が、腰に下げていた剣の柄に手をかけていた。すでに冷やかしか客のふりをした盗賊かの見極めを始めているようだった。
だって酒がそんな高いとは思わないじゃないか。高価な酒って数万くらいだと思ってたぞ。
「……ま、現金がないなら物々交換でも構わんがな。それでもやはり相応の品を出してもらう」
ユーゼフは背もたれに体重を預け、蔑むような目で俺たちに言った。
「オレの普段食ってる干し肉でどうにか」
「なるかボケ!」
「すまんって」
「言っておくが、あの『異邦』のモンスター素材くらいじゃなきゃプレミアムな値段は付かんからな。逆に異邦産の珍しい素材でありゃいくらでも買い取るが、あんな場所、S級の冒険者くらいじゃなきゃ調達は不可能。用心棒ごときに身をやつしているおっさんや、ただの研究者なんかには天地がひっくり返っても無理な話だ。諦めろ」
言われて、俺はうつむいた。まったくユーゼフのいう通りだ。ここまで現実を突きつけられるまで諦めきれなかったが、ようやく実感がわいた。俺のような庶民には、最初から無理な話だったのだ。
諦めたくは、ないんだが……なにかないか?
「困ったな。スキアさんからもらったアダマンタイトはさすがに売れないし……。今は、少し前に手に入れた異邦の巨大モンスターの牙くらいしか、交換できそうなのはないけど……」
「ああ、エクスフロントに行く途中で取ってきたやつか」
名前も知らない六ツ目のゾウを倒した時に手に入れたものだ。
俺は、そのドロップアイテムを収納の魔法石から一本取り出した。
重っ。
「……え?」
ユーゼフから気が抜けたような声が漏れる。
魔法に対する耐性があるのか、運良く焼かれなかったのか、炎魔法による攻撃に耐えた象牙である。傷ひとつなく、とても綺麗だ。
ただ、重いのでとりあえず雑に地面に置いておく。
収納の魔法石に入ったのが奇跡なくらい巨大で邪魔だ。
「えっ!?」
座っていたユーゼフが立ち上がり、身を乗り出した。なにやら目を見開いている。
高級なお酒となれば1本300万リードもするなんて、知らなかった。
「たかが酒一瓶にそんな値段もするんですか!?」
「もっと高い酒も当然ある」
目玉が飛び出るほど高かった。
10万リード金貨が30枚……金貨1枚でさえ、庶民にとってはほとんどお目にかかれない。
ユーゼフは、厳格な態度を崩さない。
「何の理由があってこれを買いたいのか知らないが、珍しい酒なんて金余りの奴らにゃ引く手あまただ。お前らが諦めても、まず間違いなく買い手は現れるだろうぜ」
道楽好きな貴族はそういうのよく買いそうだしな。
俺は言葉をつまらせた。
「おいおい、待てよ。そりゃ高すぎて貴族も買わねえだろ。たかが飲んじまったらなくなっちまう酒なんかによ、誰がそんな大金を出すっつうんだ?」
アララドさんは大げさに肩をすくめる。
……そうか、なるほど。
こういう商人は値段交渉すること前提で、客に初めに提示する値段はあえて高めに設定してふっかけると聞いたことがある。適正価格まで値切っていかなければカモられてしまうのだ。
アララドさんは、商人に値段交渉を持ちかける気だ。
さすが、戦いに身を置いてるだけあって駆け引きに長けて……
「300万じゃなくて3万にしろ」
交渉下手かな?
「てめえ舐めてんじゃねぇぞ! んな値段になんかできるか!」
ユーゼフは激昂してテーブルを叩いた。
「それにうちは適正価格で売ってる! ぼったくろうとしてこんな値段にしてんじゃねえよ! 仕入れ値がそれなりにかかってんだ! 質のいいものを作る生産者に最大限の敬意を払っているからだ! わかったら黙って300万耳揃えて払いやがれ! でなければ出て行け!」
「すまん、すまんって」
アララドさんはユーゼフをなだめにかかる。
「金ならもちろんあるさ。ロッドがな」
「……え、あー」
「おい、ロッド、金は?」
「最近、古代文字の解読書買ったので、もう手持ちが少ないです。そもそも300万とか払うのは無理です」
「ここに来た意味ねえじゃねえか!」
ユーゼフは腕を組んで、俺たちを睨むように見る。
ボディーガードの二人が、腰に下げていた剣の柄に手をかけていた。すでに冷やかしか客のふりをした盗賊かの見極めを始めているようだった。
だって酒がそんな高いとは思わないじゃないか。高価な酒って数万くらいだと思ってたぞ。
「……ま、現金がないなら物々交換でも構わんがな。それでもやはり相応の品を出してもらう」
ユーゼフは背もたれに体重を預け、蔑むような目で俺たちに言った。
「オレの普段食ってる干し肉でどうにか」
「なるかボケ!」
「すまんって」
「言っておくが、あの『異邦』のモンスター素材くらいじゃなきゃプレミアムな値段は付かんからな。逆に異邦産の珍しい素材でありゃいくらでも買い取るが、あんな場所、S級の冒険者くらいじゃなきゃ調達は不可能。用心棒ごときに身をやつしているおっさんや、ただの研究者なんかには天地がひっくり返っても無理な話だ。諦めろ」
言われて、俺はうつむいた。まったくユーゼフのいう通りだ。ここまで現実を突きつけられるまで諦めきれなかったが、ようやく実感がわいた。俺のような庶民には、最初から無理な話だったのだ。
諦めたくは、ないんだが……なにかないか?
「困ったな。スキアさんからもらったアダマンタイトはさすがに売れないし……。今は、少し前に手に入れた異邦の巨大モンスターの牙くらいしか、交換できそうなのはないけど……」
「ああ、エクスフロントに行く途中で取ってきたやつか」
名前も知らない六ツ目のゾウを倒した時に手に入れたものだ。
俺は、そのドロップアイテムを収納の魔法石から一本取り出した。
重っ。
「……え?」
ユーゼフから気が抜けたような声が漏れる。
魔法に対する耐性があるのか、運良く焼かれなかったのか、炎魔法による攻撃に耐えた象牙である。傷ひとつなく、とても綺麗だ。
ただ、重いのでとりあえず雑に地面に置いておく。
収納の魔法石に入ったのが奇跡なくらい巨大で邪魔だ。
「えっ!?」
座っていたユーゼフが立ち上がり、身を乗り出した。なにやら目を見開いている。
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