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ゲーム軸が始まった!

224 ドロシーの秘密

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「それはどんな質問な訳?」

 リアンの質問にアリスははっきりと答えた。あんなにも苦汁を飲んだのだ。一言一句ハッキリと覚えている。

「シャルルにね、聖女になる事への助言を受けるの。そこで『シャルルの意見を聞く・聞かない』っていうのがあるんだよ。それを『聞く』って答えたらノーマルエンドに行くんだ」
「何でその質問でノーマルにいくの? 意味分かんないんだけど」
「ノーマルエンドの直前にルイス様ルートに入る分かれ道があるの。そこでルイス様ルートに入ると見せかけておかないと、そのシャルルの質問が出ないんだよ~」
「という事はなに? 一旦王子ルートに入らないといけないって事?」
「そう」

 しかしゲームからの軸から外れた今、果たしてそんなルートが現れるかどうかは謎である。どうやらそれはノアもカインも思ったようだ。

「シャルルに確認してみようか」
「それがいいと思う」

 シャルルに電話をすると、すぐにシャルルが電話に出た。

「そっちはどう? シエラさんは戻ったの?」
『ええ、まぁ……いや、何かこれはこれで悪くない気もしてると言いますか……』

 そう言ってスマホを遠ざけたシャルルの膝の上でシエラは膝枕状態で眠っている。

「どういう状況でそうなった訳?」

 シエラがアリスだと聞かされたノアとしては、何だか微妙に面白くない。そんなノアにシャルルは苦笑いを浮かべて言った。

『いえ、朝からやけに今日はシエラが積極的だったんですよ。だから驚いたんですが、よく考えればアリスは元々私が推しですもんね。こうなるのは当然でした!』

 嬉しそうなシャルルにさらにイラっとするが、今はいい。

「自分だけいち早く幸せになるの止めてくれる? とりあえずこっちは一応アラン以外は戻ったよ。スイッチの音も確認済み。ただ、これから先の事について聞きたいんだけど」
『え? 戻ったんですか? どうやって?』
「衝撃を与えたら戻ったよ。あ、別に物理じゃないからね。精神的なダメージを与えるといいみたい。ちなみに、アリスはプロポーズしたら戻ったよ」

 シレっとマウントを取るノアに全員の白い目が集まる。

『あなたね……何やってるんですか。まぁいいです。では次の段階ですね。これでキャラクターという軸からは外れたという事です。でもストーリー上の流れから脱した訳ではありません。これを踏み間違えると、またループに逆戻りです。なので、メインストーリーの流れを踏みつつ、あらかじめ決められた場所とセリフでストーリーをなぞり、メインストーリーをこなしましょう』

 シャルルの言葉に全員頷いた。ここでアリスの書いたフラグリストが役に立ってくる。既にシャルルにも見てもらったので抜けはないはずだ。

「問題はさ、今回の事を知らないヒロイン達だよね。彼女達もどうにか学園に入れなきゃなんじゃん?」

 カインの言葉にノアはクッキーを齧りながらため息を落とした。

「それだよ。どうにかしないとね。まずはエマ。そこからさらにドロシー……長いね」

 先はまだ長いな。そんな事を考えていたノアにシャルルは不思議そうに言う。

『いえ、別にあの二人は学園に入らなくても大丈夫ですよ? メインストーリー自体は飢饉の後に洪水、そしてシャルルとドラゴンの襲来です。その時に数合わせ出来ていれば問題ありません』
「鬼かよ! なんでそんな怒涛なの⁉」

 思わず叫んだカインに全員が頷く。

『花冠はあくまでも恋愛を楽しむゲームですから。メインストーリーはオマケなんですよ。ルイス達が卒業して、その後、全てが起こるんです。だからあとのヒロイン達にはヒーローとの恋愛を楽しんでもらっていれば問題ないはずです。それに、メインストーリーも聖女のように、そういう役柄の人が居れば問題ないのと同じで、最後の戦いも倒せれば何でもいいはずです』
「そうなの? じゃあ楽勝じゃない?」

 こっちには何せ化け物が居る。リアンはちらりとアリスを見て言ったのだが。

『どうでしょうね。ゲームでは、シャルルとドラゴンだけが相手でしたけどね。そういう意味では、向こうもまたどんな手で来るか分からない訳ですよ。素直にシャルルとドラゴンだけで襲ってくるとは思えません』

 何せ色々と姑息な手を使ってくる相手だ。最後の敵として何を仕掛けてくるか分からない。

「だよね。こっちの融通がきくって事は、向こうもまた同じ条件だろうしね」
『ええ。猶予はあと少ししかありません。その間に出来るだけ共に戦ってくれそうな人達は増やしておくに越した事はありません』
「すまんが一つ聞いてもいいか?」
『はい?』
「1はアリスが強大な敵に立ち向かう決意をする所で終わるんだろう?」
『ええ』
「だがアリスの話では飢饉も洪水も2や3の裏で聖女アリスが解決するんだよな? エマとドロシーのメインストーリーはまた別にあるという事なのか?」

 単純なルイスの疑問にアリスとシャルル以外は頷いた。

『良い所に気付きましたね。そうです。もちろんあの二人にもメインストーリーがあります。ただ、後の二人のメインストーリーは既に解決されてしまっているので』
「え?」
『エマの場合は始まりかけている飢饉をどうにかする為にグランとの交流を繋ぐというものです。これが花冠2のメインストーリーなんです。そして3では飢饉の真っただ中から始まります。飢饉の問題が片付きかけ、ホッとしたのも束の間、今度は国の識字率問題がルイス王子からレスター王子に入るんです。それを聞いたドロシーは識字率を上げる為に奔走している最中に、シャルルがドラゴンを連れて襲ってきます。これが3のメインストーリーなんですが、ね? どちらも全て終えてしまっているでしょう? だからあの二人は別に学園に入る必要はないと言ったんです。既にそちらは終えてしまっているので。なので、あなた達は先に2と3のメインストーリーはクリアしてしまっているという事です』

 それを聞いてカインは何かを思い出したように短く叫んだ。

「もしかして、だからあの時、アリスちゃん渋ったの?」

 識字率の話が出た時、アリスはそれを今やるのか? と聞いてきた。あれは、それはドロシーのメインストーリーだったからか。その言葉にアリスは何とも言えない顔で頷く。

「いや~エマのメインストーリーはともかく、ドロシーのは本当にそれだけが目的だったと言いますか……でも、よくよく考えればドロシーはもうオリバーと会ってるんだし、何だかイイ感じだしやっといて良かったのかもです」

 飢饉や洪水、シャルル襲来ははっきりと時期が分かるようになっているが、グラン攻略も識字率も誰がいつやったって特に支障はない。何よりも後回しには出来ない問題だったから、丁度良かったと言えば丁度良かった。

「なるほど。でも戦う時にはどっちみち協力してもらわないとね。シャルルはエマとドロシーの性能も弄ってるの?」
『いいえ。あの二人は白魔法が使えます。特にドロシーの白魔法は死者すら呼び戻してしまうという設定なので、かなり強大ですよ』
「死者も⁉ そ、それは凄いね……」
『ええ。ですから、彼女は口が利けないんです。昔、母親を助けようとして白魔法を使った彼女はそれが教会にバレてしまったんです。まぁ、その後は言わずもがなですよ。悪い大人はどこにでも居ます。母親は結局助からず、彼女は教会の連中に捕まる前にどうにかチェレアーリに逃げてきたんです。彼女の魔法は詠唱系です。口さえ利かなければ追いかけられないと今も思い込んでいるのかもしれません』

 シャルルの言葉に皆黙り込んだ。
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