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第14話 楽しそうなお祭りは全部輸入する!キメ!
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「元妖精王はあの戦いの時には既に行動を起こしていた。でもその二人が妖精王だとしたら、あれからそれまでの間、ずっとその格好をしてたって事になると思わない?」
「なぜそうなる? そんなもの、ずっと着ていてボロボロになったから買い替えただけじゃないのか?」
「よく思い出してよ。もしもね、一度でもそれをしてたとしたら、理髪店とか服屋とか靴屋なんてわざわざ誰かに聞かなくても分かるんだよ。でも彼らはそれをしなかった。それは何故か? 知らなかったからだよ。だから人に聞いて回ったんだ。つまり、彼らはこの世界の事を何も知らないって事になる。言葉と魔法を使う歩く赤ちゃんだよ。恐らく、元妖精王はこの世界の事を何も知らないままここに来たんだ。今はそれを見極めている最中って事なんじゃないかな。妖精王の力を封印したのは、それを邪魔されないようにする為ってのが妥当だと思うんだよ」
「……なるほど……そう考えるとしっくりくるわね」
「ああ。ノア、今からでも王都に来ないか?」
相変わらずのノアにルイスが真顔で言うと、ノアはいつものようにニコっと笑った。
「行かない。リー君じゃないけど、僕はここで平和に暮らしたいんだよ」
「……平和……?」
ノアの言葉を聞いて思わずアリスを見て首を傾げたキャロラインに、ノアは苦笑いを浮かべて、まだお菓子を貪っているアリスを抱き寄せる。
「アリスが居るのが僕の平和なんだよ。これからもずっと」
だからこそ元妖精王が何かを仕掛けてきたら、その時は敵わないと分かっていても全力を出すつもりでいる。相手が赤ちゃんだろうが神だろうが関係ない。
ノアはそう言って立ち上がると、妖精手帳に『王城 王の寝室』と書いて二人に握らせた。
「それじゃ、二人共おやすみ~」
「え、ちょ、まだ話が――」
「こら! お前、王にこの仕打――」
何か叫びながら消えていった二人を見送ったのノアは、アリスの目の前からお菓子を取り上げて担ぎ上げる。
「アリスもそろそろ寝る時間だよ。歯磨きして寝ようね」
「はぁい」
小麦粉のようにノアに担ぎ上げられたアリスは、手に持っていたオートミールクッキーの最後のひとかけらを口に押し込んで珍妙な歌を歌いだす。
寝る前にキャロラインに会えた! 明日はきっと良い日になるに違いない!
翌日、仲間たちはノアに言われてバセット領に集まり、何故か秋の収穫祭の準備を手伝わされていた。
「ちょ、キャシー、お願いだから言うこと聞いてっ! そっちじゃなくてこっちだってば!」
「リー君、その子はキャシーじゃなくてエレガントよ」
ニコニコ笑いながら言うライラの手には雄牛の手綱が握られている。
「一緒じゃない⁉ 見分けつかないんだけど⁉」
「顔が違うわ。それに模様も。ね? ダンディー?」
「ぶもぉぉ!」
「ほら、ダンディもそう言ってる」
「ていうか、名付け親誰⁉ 形容詞じゃん!」
牛と格闘しているチャップマン夫妻を横目に、ライト家の面々もまた鶏と格闘していた。
「オスカー! その子まだ帽子被れてないぞ!」
「分かってるんだけど、すばしっこくて捕まらないんだってば!」
「ウォンウォン!」
「ブリッジ、無理しちゃ駄目だよ。もう年なんだから」
「お嬢様、ブリッジさんは遊びたいんですよ」
「そっか! じゃ、遊ぼ!」
「こらフィル! そんな事言ってサボろうとすんな! ほら、そっち行ったぞー!」
鶏一匹ずつの頭に何故かカボチャの被り物を被せる作業に奔走するライト家は、既に全身泥だらけだ。あれほど塞ぎ込んでいたフィルマメントも、今はそんな事すら忘れているかのように楽しげでカインはホッとしていた。
ノアに呼ばれてやってくるなり、元妖精王かもしれない人物が見つかったと聞いて、仲間たちは全員が暗い顔をした。
何せあのミランダにまで魔法を使ったのだ。そのせいでミランダは腰を痛めたという。思っていたよりも好戦的な相手なのかもしれない。気がかりなのは、まだその二人のどちらかが元妖精王かどうかは分からないということだ。
話を全て聞き終えて帰ろうとした所で、ノアが言った。
『考えても分からない事考えてもしょうがないよ。とりあえず皆、手伝ってくれない?』と。
そして現在である。
「はは、ドロシー、顔真っ黒っすよ」
「オリバーだって! 見て、サシャもだよ」
子供が出来ても未だ新婚のような初々しい二人を、アリスは遠巻きにニヤニヤと見つめていた。アリスの自他共に認めるカップリング厨はまだ健在だ。
「ところでこれは何のお祭りなの? アリス」
キャロラインが周りを見渡すと、鶏は揃ってかぼちゃの被り物をつけられ、牛たちは魔女のような帽子を被っている。ウルフ達は角のついたカチューシャをつけてご機嫌だ。
「これはハロウィンですよ! 琴子時代の産物です。今年やっと兄さまが解禁してくれたんです! クリスマスとかと同じで本当はちゃんとした由来もあるんですが、うちでは収穫祭とお盆を引っくるめたお祭りです! 面白いお祭りはぜ~んぶ輸入する、それがうちです!」
「そのせいでバセット領では毎日がお祭りですけどね。お嬢様、静かで何もしないお祭りは無いんですか」
「そういうお祭りは輸入しないよ! キメ!」
「……そもそもお盆ってなんなの?」
「お盆はご先祖さまたちが還ってくる日ですよ。元々は――」
お盆とハロウィンの関係性について説明するアリスに、キャロラインはうんうん頷いて聞いている。そして全て聞き終わるなり、目を輝かせて言った。
「それはいいわね。来年は是非王都でもやってみましょう! あなたが持ち込んだお正月、バレンタイン、ホワイトデー、そこからクリスマスまで何も無かったから丁度いいわ! それに収穫祭とお盆というのもいいわね。今までの収穫祭はちょっと生々しいものも多かったし、どちらかと言うとまじないや儀式のようなものが多かったもの。それに私、ずっと思っていたの。神様への供物として作物を川に流すのもいいけれど、それは……もったいないでしょう?」
ルーデリアの収穫祭は未だに広場で牛の解体ショーが行われたり、出来上がった作物を大量に川に流すという原始的なものだ。
けれど、それは全員が楽しめるようなものではない。ならばアリスの言うように大人から子供まで楽しめるようなお祭りの方が街全体の士気が上がるのではないだろうか。
「もったいない! 一番キライ! そうです。神様も精霊も人間も動物も全員が楽しめないと! だって、お祭りなんだから!」
アリスが胸を張って言うと、キャロラインも頷いた。仮装はイマイチよく分からないが、動物たちの頭に乗っているカボチャや角や魔女の帽子は少なくとも可愛い。
それを見て子供達も大はしゃぎしているし、大人たちも楽しそうだ。
「本番はいつなの?」
「明日です! だから明日は子供達をここに呼びますね! キャロライン様たちも参加しますか?」
「そうね。お祭りは夜でしょう? なら早めに仕事を終えて参加するわ。どうして今までこんなお祭りに呼んでくれなかったの?」
「あー……それはですねぇ……」
言葉を濁したアリスの後ろから、それまでずっとカボチャをくり抜いていたノアが寄ってきて言った。
「僕がずっと駄目って言ってたからだよ」
「……どういう事?」
「ハロウィンでは皆がお化けの仮装するんだけどね、中には過激なものもあるんだよ。アリスがね、そういうのに手を出さない訳がないよね?」
そう言って思い出したのはアリス画伯のハロウィン向けのデザイン画である。毎年この時期になるとアリスはノアにハロウィンのデザイン画をいくつも持ち込んでくる。それを見て毎年ハロウィンを却下してきたノアだ。
「一番最悪だったのは、葉っぱだけという大変斬新な物でした。流石にあれはアウトです」
「……なるほど、そういう事……それはあれかしら。私が見たら卒倒するような格好って事?」
「そう」
「なぜそうなる? そんなもの、ずっと着ていてボロボロになったから買い替えただけじゃないのか?」
「よく思い出してよ。もしもね、一度でもそれをしてたとしたら、理髪店とか服屋とか靴屋なんてわざわざ誰かに聞かなくても分かるんだよ。でも彼らはそれをしなかった。それは何故か? 知らなかったからだよ。だから人に聞いて回ったんだ。つまり、彼らはこの世界の事を何も知らないって事になる。言葉と魔法を使う歩く赤ちゃんだよ。恐らく、元妖精王はこの世界の事を何も知らないままここに来たんだ。今はそれを見極めている最中って事なんじゃないかな。妖精王の力を封印したのは、それを邪魔されないようにする為ってのが妥当だと思うんだよ」
「……なるほど……そう考えるとしっくりくるわね」
「ああ。ノア、今からでも王都に来ないか?」
相変わらずのノアにルイスが真顔で言うと、ノアはいつものようにニコっと笑った。
「行かない。リー君じゃないけど、僕はここで平和に暮らしたいんだよ」
「……平和……?」
ノアの言葉を聞いて思わずアリスを見て首を傾げたキャロラインに、ノアは苦笑いを浮かべて、まだお菓子を貪っているアリスを抱き寄せる。
「アリスが居るのが僕の平和なんだよ。これからもずっと」
だからこそ元妖精王が何かを仕掛けてきたら、その時は敵わないと分かっていても全力を出すつもりでいる。相手が赤ちゃんだろうが神だろうが関係ない。
ノアはそう言って立ち上がると、妖精手帳に『王城 王の寝室』と書いて二人に握らせた。
「それじゃ、二人共おやすみ~」
「え、ちょ、まだ話が――」
「こら! お前、王にこの仕打――」
何か叫びながら消えていった二人を見送ったのノアは、アリスの目の前からお菓子を取り上げて担ぎ上げる。
「アリスもそろそろ寝る時間だよ。歯磨きして寝ようね」
「はぁい」
小麦粉のようにノアに担ぎ上げられたアリスは、手に持っていたオートミールクッキーの最後のひとかけらを口に押し込んで珍妙な歌を歌いだす。
寝る前にキャロラインに会えた! 明日はきっと良い日になるに違いない!
翌日、仲間たちはノアに言われてバセット領に集まり、何故か秋の収穫祭の準備を手伝わされていた。
「ちょ、キャシー、お願いだから言うこと聞いてっ! そっちじゃなくてこっちだってば!」
「リー君、その子はキャシーじゃなくてエレガントよ」
ニコニコ笑いながら言うライラの手には雄牛の手綱が握られている。
「一緒じゃない⁉ 見分けつかないんだけど⁉」
「顔が違うわ。それに模様も。ね? ダンディー?」
「ぶもぉぉ!」
「ほら、ダンディもそう言ってる」
「ていうか、名付け親誰⁉ 形容詞じゃん!」
牛と格闘しているチャップマン夫妻を横目に、ライト家の面々もまた鶏と格闘していた。
「オスカー! その子まだ帽子被れてないぞ!」
「分かってるんだけど、すばしっこくて捕まらないんだってば!」
「ウォンウォン!」
「ブリッジ、無理しちゃ駄目だよ。もう年なんだから」
「お嬢様、ブリッジさんは遊びたいんですよ」
「そっか! じゃ、遊ぼ!」
「こらフィル! そんな事言ってサボろうとすんな! ほら、そっち行ったぞー!」
鶏一匹ずつの頭に何故かカボチャの被り物を被せる作業に奔走するライト家は、既に全身泥だらけだ。あれほど塞ぎ込んでいたフィルマメントも、今はそんな事すら忘れているかのように楽しげでカインはホッとしていた。
ノアに呼ばれてやってくるなり、元妖精王かもしれない人物が見つかったと聞いて、仲間たちは全員が暗い顔をした。
何せあのミランダにまで魔法を使ったのだ。そのせいでミランダは腰を痛めたという。思っていたよりも好戦的な相手なのかもしれない。気がかりなのは、まだその二人のどちらかが元妖精王かどうかは分からないということだ。
話を全て聞き終えて帰ろうとした所で、ノアが言った。
『考えても分からない事考えてもしょうがないよ。とりあえず皆、手伝ってくれない?』と。
そして現在である。
「はは、ドロシー、顔真っ黒っすよ」
「オリバーだって! 見て、サシャもだよ」
子供が出来ても未だ新婚のような初々しい二人を、アリスは遠巻きにニヤニヤと見つめていた。アリスの自他共に認めるカップリング厨はまだ健在だ。
「ところでこれは何のお祭りなの? アリス」
キャロラインが周りを見渡すと、鶏は揃ってかぼちゃの被り物をつけられ、牛たちは魔女のような帽子を被っている。ウルフ達は角のついたカチューシャをつけてご機嫌だ。
「これはハロウィンですよ! 琴子時代の産物です。今年やっと兄さまが解禁してくれたんです! クリスマスとかと同じで本当はちゃんとした由来もあるんですが、うちでは収穫祭とお盆を引っくるめたお祭りです! 面白いお祭りはぜ~んぶ輸入する、それがうちです!」
「そのせいでバセット領では毎日がお祭りですけどね。お嬢様、静かで何もしないお祭りは無いんですか」
「そういうお祭りは輸入しないよ! キメ!」
「……そもそもお盆ってなんなの?」
「お盆はご先祖さまたちが還ってくる日ですよ。元々は――」
お盆とハロウィンの関係性について説明するアリスに、キャロラインはうんうん頷いて聞いている。そして全て聞き終わるなり、目を輝かせて言った。
「それはいいわね。来年は是非王都でもやってみましょう! あなたが持ち込んだお正月、バレンタイン、ホワイトデー、そこからクリスマスまで何も無かったから丁度いいわ! それに収穫祭とお盆というのもいいわね。今までの収穫祭はちょっと生々しいものも多かったし、どちらかと言うとまじないや儀式のようなものが多かったもの。それに私、ずっと思っていたの。神様への供物として作物を川に流すのもいいけれど、それは……もったいないでしょう?」
ルーデリアの収穫祭は未だに広場で牛の解体ショーが行われたり、出来上がった作物を大量に川に流すという原始的なものだ。
けれど、それは全員が楽しめるようなものではない。ならばアリスの言うように大人から子供まで楽しめるようなお祭りの方が街全体の士気が上がるのではないだろうか。
「もったいない! 一番キライ! そうです。神様も精霊も人間も動物も全員が楽しめないと! だって、お祭りなんだから!」
アリスが胸を張って言うと、キャロラインも頷いた。仮装はイマイチよく分からないが、動物たちの頭に乗っているカボチャや角や魔女の帽子は少なくとも可愛い。
それを見て子供達も大はしゃぎしているし、大人たちも楽しそうだ。
「本番はいつなの?」
「明日です! だから明日は子供達をここに呼びますね! キャロライン様たちも参加しますか?」
「そうね。お祭りは夜でしょう? なら早めに仕事を終えて参加するわ。どうして今までこんなお祭りに呼んでくれなかったの?」
「あー……それはですねぇ……」
言葉を濁したアリスの後ろから、それまでずっとカボチャをくり抜いていたノアが寄ってきて言った。
「僕がずっと駄目って言ってたからだよ」
「……どういう事?」
「ハロウィンでは皆がお化けの仮装するんだけどね、中には過激なものもあるんだよ。アリスがね、そういうのに手を出さない訳がないよね?」
そう言って思い出したのはアリス画伯のハロウィン向けのデザイン画である。毎年この時期になるとアリスはノアにハロウィンのデザイン画をいくつも持ち込んでくる。それを見て毎年ハロウィンを却下してきたノアだ。
「一番最悪だったのは、葉っぱだけという大変斬新な物でした。流石にあれはアウトです」
「……なるほど、そういう事……それはあれかしら。私が見たら卒倒するような格好って事?」
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