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第22話 アリス、脱獄成功
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「……お前たち親子の認識はそれでいいのか?」
「なにが?」
「いや、いい。それも愛、か。よく分からんが、とりあえず今は偽アリスだ。原因は間違いなくあいつだろうが、一体どうやっているんだ……」
「クロちゃんでも分からないの?」
「ああ、さっぱりだ。我の力があればすぐにでもあいつを排除出来るというのに……」
器用に顔をしかめる妖精王を見て、アミナスが窓の外を見てポツリと言った。
「母さまに会いたいな……ハグしてキスして笑い飛ばしてほしいな……」
アリスは破天荒でそれはもう一度暴れたら手がつけられないが、どんなに落ち込んでいても、あの豪快な笑い声や動きを見ていると不思議と元気になる。何をするにも全力のアリスは、アミナスの大好きな母親であり、人生の師匠でもあるのだ。
「そうだな……お前も大概猿だが、母はまだ恋しい年だな」
「……猿は余計じゃない?」
まるでレオやカイのような事を言う妖精王を睨みつけて、アミナスはまた窓の外に視線を移してため息を落とした。
アリスには無い憂鬱な気持ちを理解しているアミナスの方が猿じゃない! 心の中でそんな事を考えながら。
「アーミナス! ラルフおじさんがお菓子くれたから一緒に食べよ」
「兄さま! うん!」
珍しく憂鬱な気持ちになっていたアミナスを元気づけるかのように、ノエルがカゴいっぱいに入ったお菓子を持って部屋にやってきた。それを見た途端アミナスの憂鬱などすぐさまどこかへ行ってしまう。
「……やはり猿だな。おお、我の好きな『ナッツぎっしりおしゃまなクッキー』ではないか!」
「すみません、ずっと気になってたんですけど、どうしてわざわざ正式名称を言うんですか? よく覚えてますね」
ナッツクッキーの正式名称を聞いてノエルが首を傾げると、妖精王は少し考えて言った。
「名前はとても重要だからだ。我ら妖精王が星を創る時、最初の仕事は全ての物に名前と形を与える事なのだ。この2つが揃って初めてそれは形となりそなたらに恩恵をもたらす。この菓子にしてもそうだ。誰かがこれを創り、名をつけた。だからこそこの世界に生まれたのだぞ!」
名前大事! そう言って胸を反らした妖精王の言葉に感心したようにノエルとアミナスは頷く。
「そっか~。私の名前は神様の名前を貰ったって言ってたよ! 女の子の神様なんだって!」
「うむ。神と呼ぶにはまだ幼すぎるが、アミナスは今もずっとそなたらを守っているぞ。ノエルはキリがつけたのだろう?」
「そうです。僕を抱き上げて顔を見た瞬間、ノエルだって思ったって言ってました。父さまと母さまも沢山考えてたのにキリが勝手に決めたんだって笑ってましたが、僕はそれで良かったって思うんです」
「何故だ?」
「だって、父さんと母さんとキリは兄妹だから。兄妹全員が僕に関わってるんだなって思ったら、すごく嬉しかったんです」
「そうか。それは良かったな。ノエルという名は初代妖精王がこの星のモデルにした場所では誕生という意味を持っていた。無意識とは言え、キリはお前を見て念願叶った事が嬉しかったんだろうな。二人共良い名だ。さて、では『ナッツぎっしりおしゃまなクッキー』を食べよう」
「はい!」
「うん!」
三人は輪になってその後も色んな話をしながらお菓子を食べた。特に初代妖精王がこの星のモデルにした星の話はとても面白くて、ずっと聞き入ってしまった。
「それでそれで? そのアリスはどうなるの⁉」
「それでか? アリスは時計を持った白いウサギを追ってだな、穴に落ちる訳だ」
「ふんふん!」
「そして穴の先で大きくなったり小さくなったりしたと思ったら芋虫に話しかけられてだな、捕まるんだ! そして何故か茶会に引きずり出されるんだな」
「なんで⁉」
妖精王のはちゃめちゃな物語を聞きながらノエルはずっと考えていた。
ラルフが今朝ぽろりと言ったのだ。妖精王が消えた。その力に匹敵するのは、恐らく始祖様ぐらいだろう、と。
始祖様とは何なのだ? ノエルはその単語を聞いた時からずっと気になっていた。
「クロ、少し聞いてもいいですか?」
夢中になって話をする妖精王を遮ってノエルが尋ねた。
「うむ。なんだ?」
「始祖様って……誰ですか?」
突然のノエルの言葉に妖精王はあからさまに息を呑んだ。
「誰に聞いた?」
「ラルフおじさんがオルトおじさんとセイおじさんに話してるのを聞いちゃったんです。僕はそれを聞きにここに来たんです」
ノエルが言うと、妖精王は少しの間俯いていたがゆっくりと顔を上げた。その顔は真剣そのものだ。
「……仲間たちを呼べ。話そう、この世界の事を」
アリスは牢から脱出して、キャロラインの部屋に上がり込む事に成功した! キメ!
「ギャン!」
ポーズを取った途端に後ろから遠慮なくげんこつが落ちてきた。犯人はチームキャロラインの一番若いメイド、カテリーナである。
「キリさんから直接頼まれたんです! お嬢様が調子に乗ったら、遠慮なくげんこつを落としてくれって!」
嬉しそうに語りながらカテリーナは、うふふ! と笑う。
「それを聞いて本当に遠慮なく殴れるのはあなたぐらいですよ」
一番年長のメイドが嗜めるのを聞いてアリスはすぐさま首を振った。
「いいんです。キリに比べたら大分優しいし、私はすぐに調子に乗っちゃうし」
アリスの珍しく殊勝な言葉を聞いたキャロラインは目を輝かせた。
「あなた大分成長したのね。自らそんな事を言い出すなんて思ってもいなかったわ!」
「あ、いえ。だから直そうとかは思ってないです! これが私だから! テヘペロ!」
「……カテリーナ、もう一度許します」
「はい!」
「ギャン!」
キャロラインが偽アリスに襲われた事でチームキャロラインからはてっきり警戒されてると思っていたアリスだったが、全然そんな事は無かった。むしろ誰かがアリスに罪を擦り付けようとした事に憤っていたぐらいだ。
「大体ですね、アリス様がお嬢様を襲うわけがないんですよ! 昨夜だってずっとお嬢様に抱きついて、お嬢様魘されてたんですよ! 可哀相に……」
「それは本当にそうですね。もしもアリス様がお嬢様を襲うとしたら、せいぜい匂いを嗅ぎ倒すぐらいでしょう」
「そ、それはそれで気味が悪いわね……」
青ざめたキャロラインを見てアリスは何故か照れている。
いや、ここでその反応はおかしいだろう⁉ キャロラインが一歩アリスから離れると、アリスはすかさずくっついてきた。
「離れません、絶対に! こんなチャンスを私は絶対に逃さない!」
ここぞとばかりにキャロラインにしがみつくアリスに、キャロラインはとうとう諦めたように首を振った。
「まぁいいわ。それでロイさんとキリを襲った時、あなたはじゃがバターを作っていたのよね?」
「はい。裏の小屋で皆を喜ばせようと思って、一生懸命蒸してました」
「そうよね。あなたはそういう人よ。何かに夢中になると周りが見えなくなるのよ、昔から」
けれど大抵の場合、アリスが一生懸命何かをするのは誰かの為なのだ。それを知っているキャロラインは、アリスの頭をグリグリと撫でて笑った。
「じゃがバター、勿体無い事をしたわね。また作ってちょうだいね」
「はい! キャロライン様、また昔みたいに皆で頑張りましょうね!」
「そうね。何せ私達はヒロインと悪役令嬢だもの。負ける気がしないわ」
そう言って顔を見合わせて笑う二人を、チームキャロラインは目を細めて見ていた。この光景があまりにも懐かしくて、何よりもこの友情が今もずっと変わらずに続いている事が嬉しくて。
「なにが?」
「いや、いい。それも愛、か。よく分からんが、とりあえず今は偽アリスだ。原因は間違いなくあいつだろうが、一体どうやっているんだ……」
「クロちゃんでも分からないの?」
「ああ、さっぱりだ。我の力があればすぐにでもあいつを排除出来るというのに……」
器用に顔をしかめる妖精王を見て、アミナスが窓の外を見てポツリと言った。
「母さまに会いたいな……ハグしてキスして笑い飛ばしてほしいな……」
アリスは破天荒でそれはもう一度暴れたら手がつけられないが、どんなに落ち込んでいても、あの豪快な笑い声や動きを見ていると不思議と元気になる。何をするにも全力のアリスは、アミナスの大好きな母親であり、人生の師匠でもあるのだ。
「そうだな……お前も大概猿だが、母はまだ恋しい年だな」
「……猿は余計じゃない?」
まるでレオやカイのような事を言う妖精王を睨みつけて、アミナスはまた窓の外に視線を移してため息を落とした。
アリスには無い憂鬱な気持ちを理解しているアミナスの方が猿じゃない! 心の中でそんな事を考えながら。
「アーミナス! ラルフおじさんがお菓子くれたから一緒に食べよ」
「兄さま! うん!」
珍しく憂鬱な気持ちになっていたアミナスを元気づけるかのように、ノエルがカゴいっぱいに入ったお菓子を持って部屋にやってきた。それを見た途端アミナスの憂鬱などすぐさまどこかへ行ってしまう。
「……やはり猿だな。おお、我の好きな『ナッツぎっしりおしゃまなクッキー』ではないか!」
「すみません、ずっと気になってたんですけど、どうしてわざわざ正式名称を言うんですか? よく覚えてますね」
ナッツクッキーの正式名称を聞いてノエルが首を傾げると、妖精王は少し考えて言った。
「名前はとても重要だからだ。我ら妖精王が星を創る時、最初の仕事は全ての物に名前と形を与える事なのだ。この2つが揃って初めてそれは形となりそなたらに恩恵をもたらす。この菓子にしてもそうだ。誰かがこれを創り、名をつけた。だからこそこの世界に生まれたのだぞ!」
名前大事! そう言って胸を反らした妖精王の言葉に感心したようにノエルとアミナスは頷く。
「そっか~。私の名前は神様の名前を貰ったって言ってたよ! 女の子の神様なんだって!」
「うむ。神と呼ぶにはまだ幼すぎるが、アミナスは今もずっとそなたらを守っているぞ。ノエルはキリがつけたのだろう?」
「そうです。僕を抱き上げて顔を見た瞬間、ノエルだって思ったって言ってました。父さまと母さまも沢山考えてたのにキリが勝手に決めたんだって笑ってましたが、僕はそれで良かったって思うんです」
「何故だ?」
「だって、父さんと母さんとキリは兄妹だから。兄妹全員が僕に関わってるんだなって思ったら、すごく嬉しかったんです」
「そうか。それは良かったな。ノエルという名は初代妖精王がこの星のモデルにした場所では誕生という意味を持っていた。無意識とは言え、キリはお前を見て念願叶った事が嬉しかったんだろうな。二人共良い名だ。さて、では『ナッツぎっしりおしゃまなクッキー』を食べよう」
「はい!」
「うん!」
三人は輪になってその後も色んな話をしながらお菓子を食べた。特に初代妖精王がこの星のモデルにした星の話はとても面白くて、ずっと聞き入ってしまった。
「それでそれで? そのアリスはどうなるの⁉」
「それでか? アリスは時計を持った白いウサギを追ってだな、穴に落ちる訳だ」
「ふんふん!」
「そして穴の先で大きくなったり小さくなったりしたと思ったら芋虫に話しかけられてだな、捕まるんだ! そして何故か茶会に引きずり出されるんだな」
「なんで⁉」
妖精王のはちゃめちゃな物語を聞きながらノエルはずっと考えていた。
ラルフが今朝ぽろりと言ったのだ。妖精王が消えた。その力に匹敵するのは、恐らく始祖様ぐらいだろう、と。
始祖様とは何なのだ? ノエルはその単語を聞いた時からずっと気になっていた。
「クロ、少し聞いてもいいですか?」
夢中になって話をする妖精王を遮ってノエルが尋ねた。
「うむ。なんだ?」
「始祖様って……誰ですか?」
突然のノエルの言葉に妖精王はあからさまに息を呑んだ。
「誰に聞いた?」
「ラルフおじさんがオルトおじさんとセイおじさんに話してるのを聞いちゃったんです。僕はそれを聞きにここに来たんです」
ノエルが言うと、妖精王は少しの間俯いていたがゆっくりと顔を上げた。その顔は真剣そのものだ。
「……仲間たちを呼べ。話そう、この世界の事を」
アリスは牢から脱出して、キャロラインの部屋に上がり込む事に成功した! キメ!
「ギャン!」
ポーズを取った途端に後ろから遠慮なくげんこつが落ちてきた。犯人はチームキャロラインの一番若いメイド、カテリーナである。
「キリさんから直接頼まれたんです! お嬢様が調子に乗ったら、遠慮なくげんこつを落としてくれって!」
嬉しそうに語りながらカテリーナは、うふふ! と笑う。
「それを聞いて本当に遠慮なく殴れるのはあなたぐらいですよ」
一番年長のメイドが嗜めるのを聞いてアリスはすぐさま首を振った。
「いいんです。キリに比べたら大分優しいし、私はすぐに調子に乗っちゃうし」
アリスの珍しく殊勝な言葉を聞いたキャロラインは目を輝かせた。
「あなた大分成長したのね。自らそんな事を言い出すなんて思ってもいなかったわ!」
「あ、いえ。だから直そうとかは思ってないです! これが私だから! テヘペロ!」
「……カテリーナ、もう一度許します」
「はい!」
「ギャン!」
キャロラインが偽アリスに襲われた事でチームキャロラインからはてっきり警戒されてると思っていたアリスだったが、全然そんな事は無かった。むしろ誰かがアリスに罪を擦り付けようとした事に憤っていたぐらいだ。
「大体ですね、アリス様がお嬢様を襲うわけがないんですよ! 昨夜だってずっとお嬢様に抱きついて、お嬢様魘されてたんですよ! 可哀相に……」
「それは本当にそうですね。もしもアリス様がお嬢様を襲うとしたら、せいぜい匂いを嗅ぎ倒すぐらいでしょう」
「そ、それはそれで気味が悪いわね……」
青ざめたキャロラインを見てアリスは何故か照れている。
いや、ここでその反応はおかしいだろう⁉ キャロラインが一歩アリスから離れると、アリスはすかさずくっついてきた。
「離れません、絶対に! こんなチャンスを私は絶対に逃さない!」
ここぞとばかりにキャロラインにしがみつくアリスに、キャロラインはとうとう諦めたように首を振った。
「まぁいいわ。それでロイさんとキリを襲った時、あなたはじゃがバターを作っていたのよね?」
「はい。裏の小屋で皆を喜ばせようと思って、一生懸命蒸してました」
「そうよね。あなたはそういう人よ。何かに夢中になると周りが見えなくなるのよ、昔から」
けれど大抵の場合、アリスが一生懸命何かをするのは誰かの為なのだ。それを知っているキャロラインは、アリスの頭をグリグリと撫でて笑った。
「じゃがバター、勿体無い事をしたわね。また作ってちょうだいね」
「はい! キャロライン様、また昔みたいに皆で頑張りましょうね!」
「そうね。何せ私達はヒロインと悪役令嬢だもの。負ける気がしないわ」
そう言って顔を見合わせて笑う二人を、チームキャロラインは目を細めて見ていた。この光景があまりにも懐かしくて、何よりもこの友情が今もずっと変わらずに続いている事が嬉しくて。
応援ありがとうございます!
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