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第27話 キャスパーの置き土産
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「それにしても、随分立派なお屋敷っすね。王都の外れとは言え、よくこんな所空いてたっすね」
部屋の中を見渡していたオリバーが言うと、それにルイスが答える。
「ああ。ここはキャスパーの別荘だったんだ。あいつときたら、こんな屋敷をそこら中に購入して税金対策をしていたんだ! これを機に全て没収してやったわ!」
わはは! と笑うルイスにキャロラインも怖い顔をして頷く。
「領民たちが苦労して収めた税をこんなくだらない事に使っていたなんて、本当にどうしようもない人間だったのよ、キャスパーは。今でも調べればあちこちから埃が出てくるのもちょっと異常よ」
キャスパーが居なくなって、というよりは木に吸収されて随分経つというのに、未だにキャスパーがあちこちに残した悪事は全て炙り出されていない。
「他のとこはどうすんの?」
「没収した土地は全て公園に、そして屋敷は図書館や資料博物館にするつもりよ。アリスに話したら、色んな人が使える施設にすればいいって言うから、その通りだなと思ったの」
「へぇ~、いいじゃん。で、王子はここだけは買い取った、と」
「ああ。避暑地として一つぐらいこういう場所があってもいいだろうと言う名目で今回の為にな。まぁでも全て片付いてもここは手放す気はないんだが」
「ルイスはあれだろ、裏の森にある温泉目当てだろ?」
そう言って窓から見える森に視線を移したカインが言うと、ルイスはバレたか、と頭をかく。裏の森にはそこそこ大きな源泉が湧いていたのだ。それを見たルイスはすぐさまここを購入した。そしてそれを聞いてアリスはガタンと立ち上がる。
「温泉! ルイス様、ここもうルイス様のおうちだったら、魔改造してもいい⁉」
「改造は構わんが魔改造は止めてくれ。お前の所みたいに壁がひっくり返る仕掛けとか本棚の裏に隠し部屋とかはいらんぞ!」
「しないよぅ! うちみたいに各部屋に露天風呂つけようと思ったんですよ!」
それを聞いて顔を輝かせたのはミアだ。
「アリス様! 是非! 是非やってください! ね? お嬢様! いいですよね⁉」
「え、ええ。もちろん。でもミア、あなたアリスと居すぎてどんどんアリスに……いえ、なんでも無いわ。アリス、便利になるなら何をしても構わないわよ」
「やったぁ! 兄さま、明日から頑張ろうね! そうと決まればクルスさん呼んで、スルガさんとこからおっちゃん達と妖精たちも何人か派遣してもらって、それから――」
言いながら徐に窓を開けたアリスは、そのまま外に飛び出して裏の森に駆けていく。
それをしばらくポカンと見つめていた仲間たちだったが、我に返ったノアとキリが慌てて叫びながら後を追って行った。
「……どこに居てもアリスさんはアリスさんですね……」
「そしてノアとキリは本当に一生気が休まらないっすね……可哀相」
呆れたアランとサシャを抱いたオリバーが言うと、チビアリスとドロシーが一緒になって笑う。
「ダニエル達も呼ぶ?」
ひとしきり笑い終えて言ったドロシーに、リアンが首を振った。
「ダニエルにはあちこち仕事の合間に情報仕入れてもらってるんだ」
「そうなんだ。私達もサシャが居なければ手伝えたけど……ごめんなさい」
サシャの頬を撫でながら視線を伏せたドロシーに、ライラが笑顔で言った。
「子供たちよりも大事なものなんてこの世に無いよ! だからドロシーは胸張ってサシャを育てるんだぞ! 難しい事は兄さま達に任せとけばなんとかなるよ! キメッ! って、アリスなら言うと思うの」
「なっがい! 今日のモノマネは長かった! でも似てる」
どんどんアリスのモノマネが上手くなるライラにリアンはもう止めろとは言わない。なぜなら、アリスのモノマネをしている時のライラはとてもポジティブだからだ。何よりも楽しそうである。
「……凄いわね、ライラ。本当にアリスが言いそうだわ。そういう訳だからドロシー、気にしなくていいのよ。それにうちだってエイダンが居るわ。そのためにステイシアとサマンサにも来てもらうのよ」
キャロラインの所にもまだ幼いエイダンが居るし、ミアの所にもアニーが居る。アランの所のリリーだっている。
「そうです。叔母は今から楽しみにしているんですよ。沢山の赤ちゃんをいっぺんに面倒見れるなんて! と喜んでいました。だから気に病まないでください」
そう言ってオリバーに向かって手を差し出したトーマスの腕に、サシャが喜んで移動する。そんなサシャを見て笑みを浮かべたトーマスは、実は子供が大好きである。
「サシャ君は本当に可愛いでちゅね~。え? お腹が減った? そうでちゅね、そろそろお昼でちゅもんね~」
ニコニコしながらサシャにそんな事を言ってあやすトーマスを見て仲間たちが引きつる。あのトーマスが? そんな顔である。
「……お、おい、トーマス、大丈夫か?」
普段、トーマスはルイスの側にはついているが、仕事が終わったらそのまま自室へ戻ってしまう。だからあまりエイダンとも顔を合わせないのだが、まさかこんなに子供好きとは思ってもいなかったルイスだ。
「え? 何がです?」
「あ、いや……気づいてないならいい」
そっと視線を反らしたルイスの後ろでは、ルーイとユーゴがひそひそと話している。
「隊長、トーマスさんの意外な一面見ちゃった感じなんっすけどぉ」
「そうか? あいつ、酒飲んだら大体こんな感じだぞ。子供から行きつけの酒場でお菓子のおじちゃんだなんて呼ばれてるぐらいだ」
「まじかぁ~……人は見かけによらないなぁ~」
トーマスの豹変っぷりに驚いていると、大量の荷物を持ってやってきたステイシアとサマンサがようやく到着した。
「さぁさぁ、お昼ですよ皆! あ、子供達はお預かりしますね。大丈夫、任せてください! ステイシアと張り切って面倒みますので!」
「そうです! 私達にお任せください!」
そう言って胸を叩いたステイシアとサマンサ。とても頼もしい。
「ふぅ~! 乳母ーズ格好いい~!」
そこにようやく森で捕まったアリスが戻ってきた。首元をしっかりキリに掴まれ、腰には縄が巻かれている。完全に犯罪者の扱いである。
「乳母ーズってあんた……お城の乳母様達捕まえて変な呼び名つけるの止めなよ」
しかもまたダサいし……リアンの心配を他所に、何故か乳母ーズは喜んでいる。
「チームキャロラインのように私達にもとうとう通り名が!」
「ありがたいことです。さて、ステイシア、こうしてはいられません。食事にしましょう!」
「はい!」
「私達もお手伝いに行こ!」
ここに居ても自分たちは何も出来ない。それならば自分の出来ることをするまでだ。フィルマメントが言うと、ミアもドロシーもチビアリスまで頷いて立ち上がろうとした所でアランに止められた。
「アリスはここで大人しくしていましょうね」
「……はい」
しょんぼりと項垂れたチビアリスを見てミアが小さく笑うと、拳を握りしめて言う。
「子供達と皆さんのお世話は私達でしっかりやりましょう! 裏方はとても大事です!」
「うん!」
そう言って5人は床やソファでコロコロしていた子供達を抱えて部屋を出ていく。
裏方に徹してくれると宣言した仲間たちと共に笑いながら出ていった乳母の後ろ姿を、ルイスとキャロライン、そしてトーマスが目を細めて見守っている。
「楽しそうね、二人共」
「ああ。サミーは子供が本当に好きだからな」
「全くです。叔母が生きていた時、それだけでも嬉しくて仕方なかったですが、またあんな叔母が見られるなんて……本当に胸が一杯になります」
胸を押さえて涙を浮かべるトーマスの肩をルーイが慰めるように軽く叩いた。
部屋の中を見渡していたオリバーが言うと、それにルイスが答える。
「ああ。ここはキャスパーの別荘だったんだ。あいつときたら、こんな屋敷をそこら中に購入して税金対策をしていたんだ! これを機に全て没収してやったわ!」
わはは! と笑うルイスにキャロラインも怖い顔をして頷く。
「領民たちが苦労して収めた税をこんなくだらない事に使っていたなんて、本当にどうしようもない人間だったのよ、キャスパーは。今でも調べればあちこちから埃が出てくるのもちょっと異常よ」
キャスパーが居なくなって、というよりは木に吸収されて随分経つというのに、未だにキャスパーがあちこちに残した悪事は全て炙り出されていない。
「他のとこはどうすんの?」
「没収した土地は全て公園に、そして屋敷は図書館や資料博物館にするつもりよ。アリスに話したら、色んな人が使える施設にすればいいって言うから、その通りだなと思ったの」
「へぇ~、いいじゃん。で、王子はここだけは買い取った、と」
「ああ。避暑地として一つぐらいこういう場所があってもいいだろうと言う名目で今回の為にな。まぁでも全て片付いてもここは手放す気はないんだが」
「ルイスはあれだろ、裏の森にある温泉目当てだろ?」
そう言って窓から見える森に視線を移したカインが言うと、ルイスはバレたか、と頭をかく。裏の森にはそこそこ大きな源泉が湧いていたのだ。それを見たルイスはすぐさまここを購入した。そしてそれを聞いてアリスはガタンと立ち上がる。
「温泉! ルイス様、ここもうルイス様のおうちだったら、魔改造してもいい⁉」
「改造は構わんが魔改造は止めてくれ。お前の所みたいに壁がひっくり返る仕掛けとか本棚の裏に隠し部屋とかはいらんぞ!」
「しないよぅ! うちみたいに各部屋に露天風呂つけようと思ったんですよ!」
それを聞いて顔を輝かせたのはミアだ。
「アリス様! 是非! 是非やってください! ね? お嬢様! いいですよね⁉」
「え、ええ。もちろん。でもミア、あなたアリスと居すぎてどんどんアリスに……いえ、なんでも無いわ。アリス、便利になるなら何をしても構わないわよ」
「やったぁ! 兄さま、明日から頑張ろうね! そうと決まればクルスさん呼んで、スルガさんとこからおっちゃん達と妖精たちも何人か派遣してもらって、それから――」
言いながら徐に窓を開けたアリスは、そのまま外に飛び出して裏の森に駆けていく。
それをしばらくポカンと見つめていた仲間たちだったが、我に返ったノアとキリが慌てて叫びながら後を追って行った。
「……どこに居てもアリスさんはアリスさんですね……」
「そしてノアとキリは本当に一生気が休まらないっすね……可哀相」
呆れたアランとサシャを抱いたオリバーが言うと、チビアリスとドロシーが一緒になって笑う。
「ダニエル達も呼ぶ?」
ひとしきり笑い終えて言ったドロシーに、リアンが首を振った。
「ダニエルにはあちこち仕事の合間に情報仕入れてもらってるんだ」
「そうなんだ。私達もサシャが居なければ手伝えたけど……ごめんなさい」
サシャの頬を撫でながら視線を伏せたドロシーに、ライラが笑顔で言った。
「子供たちよりも大事なものなんてこの世に無いよ! だからドロシーは胸張ってサシャを育てるんだぞ! 難しい事は兄さま達に任せとけばなんとかなるよ! キメッ! って、アリスなら言うと思うの」
「なっがい! 今日のモノマネは長かった! でも似てる」
どんどんアリスのモノマネが上手くなるライラにリアンはもう止めろとは言わない。なぜなら、アリスのモノマネをしている時のライラはとてもポジティブだからだ。何よりも楽しそうである。
「……凄いわね、ライラ。本当にアリスが言いそうだわ。そういう訳だからドロシー、気にしなくていいのよ。それにうちだってエイダンが居るわ。そのためにステイシアとサマンサにも来てもらうのよ」
キャロラインの所にもまだ幼いエイダンが居るし、ミアの所にもアニーが居る。アランの所のリリーだっている。
「そうです。叔母は今から楽しみにしているんですよ。沢山の赤ちゃんをいっぺんに面倒見れるなんて! と喜んでいました。だから気に病まないでください」
そう言ってオリバーに向かって手を差し出したトーマスの腕に、サシャが喜んで移動する。そんなサシャを見て笑みを浮かべたトーマスは、実は子供が大好きである。
「サシャ君は本当に可愛いでちゅね~。え? お腹が減った? そうでちゅね、そろそろお昼でちゅもんね~」
ニコニコしながらサシャにそんな事を言ってあやすトーマスを見て仲間たちが引きつる。あのトーマスが? そんな顔である。
「……お、おい、トーマス、大丈夫か?」
普段、トーマスはルイスの側にはついているが、仕事が終わったらそのまま自室へ戻ってしまう。だからあまりエイダンとも顔を合わせないのだが、まさかこんなに子供好きとは思ってもいなかったルイスだ。
「え? 何がです?」
「あ、いや……気づいてないならいい」
そっと視線を反らしたルイスの後ろでは、ルーイとユーゴがひそひそと話している。
「隊長、トーマスさんの意外な一面見ちゃった感じなんっすけどぉ」
「そうか? あいつ、酒飲んだら大体こんな感じだぞ。子供から行きつけの酒場でお菓子のおじちゃんだなんて呼ばれてるぐらいだ」
「まじかぁ~……人は見かけによらないなぁ~」
トーマスの豹変っぷりに驚いていると、大量の荷物を持ってやってきたステイシアとサマンサがようやく到着した。
「さぁさぁ、お昼ですよ皆! あ、子供達はお預かりしますね。大丈夫、任せてください! ステイシアと張り切って面倒みますので!」
「そうです! 私達にお任せください!」
そう言って胸を叩いたステイシアとサマンサ。とても頼もしい。
「ふぅ~! 乳母ーズ格好いい~!」
そこにようやく森で捕まったアリスが戻ってきた。首元をしっかりキリに掴まれ、腰には縄が巻かれている。完全に犯罪者の扱いである。
「乳母ーズってあんた……お城の乳母様達捕まえて変な呼び名つけるの止めなよ」
しかもまたダサいし……リアンの心配を他所に、何故か乳母ーズは喜んでいる。
「チームキャロラインのように私達にもとうとう通り名が!」
「ありがたいことです。さて、ステイシア、こうしてはいられません。食事にしましょう!」
「はい!」
「私達もお手伝いに行こ!」
ここに居ても自分たちは何も出来ない。それならば自分の出来ることをするまでだ。フィルマメントが言うと、ミアもドロシーもチビアリスまで頷いて立ち上がろうとした所でアランに止められた。
「アリスはここで大人しくしていましょうね」
「……はい」
しょんぼりと項垂れたチビアリスを見てミアが小さく笑うと、拳を握りしめて言う。
「子供達と皆さんのお世話は私達でしっかりやりましょう! 裏方はとても大事です!」
「うん!」
そう言って5人は床やソファでコロコロしていた子供達を抱えて部屋を出ていく。
裏方に徹してくれると宣言した仲間たちと共に笑いながら出ていった乳母の後ろ姿を、ルイスとキャロライン、そしてトーマスが目を細めて見守っている。
「楽しそうね、二人共」
「ああ。サミーは子供が本当に好きだからな」
「全くです。叔母が生きていた時、それだけでも嬉しくて仕方なかったですが、またあんな叔母が見られるなんて……本当に胸が一杯になります」
胸を押さえて涙を浮かべるトーマスの肩をルーイが慰めるように軽く叩いた。
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