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第45話 世界は素敵!
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アランの言葉にリアンは腕を組んで考え込む。
「正当な報酬って事か……もしかしたら何も知らない元妖精王を教会は利用してたのかもね。それこそずっとタダ働きさせてたのかも」
生かさず殺さず相手を意のままに操るのは女王もそうだった。そのやり方で元妖精王に上手いこと言って騙していたのだとしたら、同情の余地などない。
けれど相手は何を言っても妖精王だ。結果、滅ぼされて資金を全て持ち去られたのだから笑えない。
「たとえ元妖精王でも支配下に置こうとするのが教会の人間たちだったのね……そしてそれを私達が壊してしまった……それは滅ぼしたくもなるかもしれないわ。やっぱり私達は敵認定されてしまっているのかしら」
視線を伏せたキャロラインの肩をアリスがポンと叩いた。
「キャロライン様、元妖精王は敵なんかじゃないです。誰にとっても。兄さまも言ってたけど、まだ何も知らないから色んな所に行って色んな人に会って勉強してるんだと思う。学生の頃の私達と同じなんじゃないかなぁ?」
「私達と?」
「はい! 色んなとこ行って色んな事してこの世界の事を知った私達みたいに!」
いつものようにニカッと笑ったアリスを見てキャロラインは小さく笑った。
「そうね。そうかもしれないわね」
「うん! だから世界は素敵だって教えてあげないと! ね!」
お花畑アリスの言葉にその場に居た全員が笑った。やっぱり、アリスはどんな時でもアリスだ。
「ここ来るの、俺初めてだわ」
「そうなんですか?」
足元にある小さな祠に手を合わせたカインは、本当に何もないシュタの小高い丘を見ながら言った。そんなカインにシャルが問うと、カインはコクリと頷く。
「俺も初めてだぞ! しかし丘と言う割に本当に何も無いんだな……」
祠の後ろには確かに小高い丘があるが、丘というよりは原っぱである。
その光景をしばらくじっと見ていたノアが、何を思ったのか突然祠の後ろの土を掘り出した。そんなノアを見て仲間たちはギョッとした顔をして慌てて止める。
「お、お前! 何やってんの!」
「そうだぞ! バチでも当たったらどうするんだ!」
止めに入るカインとルイスを他所にそんなノアを見てキリがふと口を開いた。
「何か見つけましたか?」
「ん? いや、変だなと思って。見てキリ、ここの土だけ他の所と質が違う」
「本当ですね。それにここだけ不自然に木がありません」
「うん。もしかしたらこの下、何か埋まってるのかも。シャル、ここはシャルの時代にも木がない?」
「無いですね。私の時代ではここは森の一部だったんです。バセット領のように森の中に突然この丘があるんですよ。そこにはこんな風に木もありません」
「そうなんだ。数百年経っても木が生えないのは変だね。ちょっと調べてみるべきかも」
「調べるってどうやってぇ~? シャル君でも分かんないのにさぁ~」
一緒になって土を掘り返していたユーゴが言うと、ノアは土いじりを止めて溜息を落とした。
「そこなんだよ。誰に聞いたらいいんだろうね。それこそこの祠を建てた人ぐらいにしか分からないのかも」
そんな人、どれだけ時を遡ればいいのかすら分からない。腕を組んで溜息を落としていたノアの耳に、どこからともなく聞き慣れた歌声が聞こえてきた。
「ノア様、アミナス一行がようやくいらっしゃったようですよ」
「だね。アミナスの歌はこういう時便利だなぁ」
「あれはもうそういう次元では無いような気がするが」
「アリスちゃんにしてもアミナスにしても、どんな発声したらあんな声出るんだろうな」
ただ一つ言えるのは、アミナスはアリスと違って歌が上手いので騒音にはならない所である。かと言って特別上手いわけでもないのだが。
だんだん近づいてくるアミナスの歌声にノアは笑みを深めて叫んだ。
「アミナスー!」
はるかにアミナスの声の方が大きいので絶対に聞こえないだろうと思うのに、
そこは流石アミナスだ。まだ姿も見えないうちから歌が止んだかと思うと、次の瞬間さっきよりも遥かに大きな声でアミナスの叫び声が聞こえてきた。
「父さま~~~~⁉ どこに居るの~~~~~~!」
「ふふ、どこに居るの、だって!」
決して幻聴だとは思わないアミナスにノアが肩を揺らして笑うと、ようやく遥か向こうにエリスが操る小型の荷馬車が見えてきた。
御者台に居るエリスはノアの姿を見た途端に馬のスピードを上げたのだが、その甲斐もむなしくアミナスは走っている馬から飛び降りてこちらに駆け出してくる。
「父さまだ! キリも居る~~! なんで~?」
「アミナス! 走ってる馬から飛び降りちゃダメだっていつも言ってるでしょ!」
そんなアミナスを見て思わず注意したノアを仲間たちは白い目で見ている。
「いや、そこじゃなくない? 何で馬より早く走れんの? おかしくない? あれ結構スピード出てるよ?」
「アリスの娘だぞ。何もおかしくなどないだろう」
「ルイス、バセット家に感化されすぎですよ」
呆れた顔をしたシャルに従者たちも頷くが、心のどこかではルイスの言葉に納得してしまう。
「父さま! 会いたかったよ~!」
「僕もだよ。元気にしてるみたいだね。少し大きくなった?」
「うん! 5ミリぐらい!」
「5ミリかぁ~」
それはもう誤差である。ノアは残念そうに笑ってアミナスを抱き上げると頬にキスをした。それに続いてようやく荷馬車が到着して子供達がゾロゾロと降りてくる。
「父さま! どうしたの? ビックリした!」
「父さん、来るなら先に連絡を入れておいてくれないと困ります」
「そうです。予定がまた狂ってしまいます」
到着するなり双子に叱られたキリは、それでもいつもの無表情で言う。
「驚かせようと思ったんです。ところで、道中はどうでしたか?」
淡々としたキリだが、その顔はどこか楽しそうだ。
「いつも通りです。そうだ、皆さんに紹介します。お嬢様が途中で拾ったレックスです」
そう言ってレオが体をずらすと、後ろからレックスがひょこっと顔を出したけれど、その視線は大人たちではなく、アミナスに注がれている。
「馬より早い。あれは本当にヒト? いや、ありえない。ヒトの筋肉量と骨格では馬より早いなど、ありえない」
「レックス、難しい事考えちゃダメだよ。アミナスは母さまの娘。それだけで色んな事に納得しなきゃダメなんだ」
真顔でノエルが言うと、ノアは苦笑いして言った。
「君がレックス? ノエルから電話で聞いてるよ。アミナスが巻き込んじゃってごめんね。何か他に予定はなかった?」
ノアはレックスの目の高さまでしゃがんでレックスの顔を覗き込んで驚いた。レックスはとても美しい。特に神秘的な目の色はノアでさえ吸い込まれそうになる。
少年なのにどこか大人っぽい雰囲気にノアが驚いていると、レックスはノアの質問に首を横に振って答えた。
「予定なんて何も。いつも行き当りばったりだから」
「そうなんだ。どこから来たの?」
「メイリングかな。今はそう呼ばれてる」
レックスはピクリとも笑わずに淡々と答えながらじっとノアの目を見る。何を考えて、どんな意図があってこんな質問をしてくるのかが全く読めない。ノエルもそうだが、まだノエルの方が表情が豊かだ。この男は笑っていても笑っていない。慎重そうな性格だ。
「そっか。随分遠くから来たね。戦争は大丈夫だったの?」
「最近の?」
「そう、最近の人間同士のやつだよ。怪我はしなかった?」
レックスはとにかく不思議な少年だ。
「正当な報酬って事か……もしかしたら何も知らない元妖精王を教会は利用してたのかもね。それこそずっとタダ働きさせてたのかも」
生かさず殺さず相手を意のままに操るのは女王もそうだった。そのやり方で元妖精王に上手いこと言って騙していたのだとしたら、同情の余地などない。
けれど相手は何を言っても妖精王だ。結果、滅ぼされて資金を全て持ち去られたのだから笑えない。
「たとえ元妖精王でも支配下に置こうとするのが教会の人間たちだったのね……そしてそれを私達が壊してしまった……それは滅ぼしたくもなるかもしれないわ。やっぱり私達は敵認定されてしまっているのかしら」
視線を伏せたキャロラインの肩をアリスがポンと叩いた。
「キャロライン様、元妖精王は敵なんかじゃないです。誰にとっても。兄さまも言ってたけど、まだ何も知らないから色んな所に行って色んな人に会って勉強してるんだと思う。学生の頃の私達と同じなんじゃないかなぁ?」
「私達と?」
「はい! 色んなとこ行って色んな事してこの世界の事を知った私達みたいに!」
いつものようにニカッと笑ったアリスを見てキャロラインは小さく笑った。
「そうね。そうかもしれないわね」
「うん! だから世界は素敵だって教えてあげないと! ね!」
お花畑アリスの言葉にその場に居た全員が笑った。やっぱり、アリスはどんな時でもアリスだ。
「ここ来るの、俺初めてだわ」
「そうなんですか?」
足元にある小さな祠に手を合わせたカインは、本当に何もないシュタの小高い丘を見ながら言った。そんなカインにシャルが問うと、カインはコクリと頷く。
「俺も初めてだぞ! しかし丘と言う割に本当に何も無いんだな……」
祠の後ろには確かに小高い丘があるが、丘というよりは原っぱである。
その光景をしばらくじっと見ていたノアが、何を思ったのか突然祠の後ろの土を掘り出した。そんなノアを見て仲間たちはギョッとした顔をして慌てて止める。
「お、お前! 何やってんの!」
「そうだぞ! バチでも当たったらどうするんだ!」
止めに入るカインとルイスを他所にそんなノアを見てキリがふと口を開いた。
「何か見つけましたか?」
「ん? いや、変だなと思って。見てキリ、ここの土だけ他の所と質が違う」
「本当ですね。それにここだけ不自然に木がありません」
「うん。もしかしたらこの下、何か埋まってるのかも。シャル、ここはシャルの時代にも木がない?」
「無いですね。私の時代ではここは森の一部だったんです。バセット領のように森の中に突然この丘があるんですよ。そこにはこんな風に木もありません」
「そうなんだ。数百年経っても木が生えないのは変だね。ちょっと調べてみるべきかも」
「調べるってどうやってぇ~? シャル君でも分かんないのにさぁ~」
一緒になって土を掘り返していたユーゴが言うと、ノアは土いじりを止めて溜息を落とした。
「そこなんだよ。誰に聞いたらいいんだろうね。それこそこの祠を建てた人ぐらいにしか分からないのかも」
そんな人、どれだけ時を遡ればいいのかすら分からない。腕を組んで溜息を落としていたノアの耳に、どこからともなく聞き慣れた歌声が聞こえてきた。
「ノア様、アミナス一行がようやくいらっしゃったようですよ」
「だね。アミナスの歌はこういう時便利だなぁ」
「あれはもうそういう次元では無いような気がするが」
「アリスちゃんにしてもアミナスにしても、どんな発声したらあんな声出るんだろうな」
ただ一つ言えるのは、アミナスはアリスと違って歌が上手いので騒音にはならない所である。かと言って特別上手いわけでもないのだが。
だんだん近づいてくるアミナスの歌声にノアは笑みを深めて叫んだ。
「アミナスー!」
はるかにアミナスの声の方が大きいので絶対に聞こえないだろうと思うのに、
そこは流石アミナスだ。まだ姿も見えないうちから歌が止んだかと思うと、次の瞬間さっきよりも遥かに大きな声でアミナスの叫び声が聞こえてきた。
「父さま~~~~⁉ どこに居るの~~~~~~!」
「ふふ、どこに居るの、だって!」
決して幻聴だとは思わないアミナスにノアが肩を揺らして笑うと、ようやく遥か向こうにエリスが操る小型の荷馬車が見えてきた。
御者台に居るエリスはノアの姿を見た途端に馬のスピードを上げたのだが、その甲斐もむなしくアミナスは走っている馬から飛び降りてこちらに駆け出してくる。
「父さまだ! キリも居る~~! なんで~?」
「アミナス! 走ってる馬から飛び降りちゃダメだっていつも言ってるでしょ!」
そんなアミナスを見て思わず注意したノアを仲間たちは白い目で見ている。
「いや、そこじゃなくない? 何で馬より早く走れんの? おかしくない? あれ結構スピード出てるよ?」
「アリスの娘だぞ。何もおかしくなどないだろう」
「ルイス、バセット家に感化されすぎですよ」
呆れた顔をしたシャルに従者たちも頷くが、心のどこかではルイスの言葉に納得してしまう。
「父さま! 会いたかったよ~!」
「僕もだよ。元気にしてるみたいだね。少し大きくなった?」
「うん! 5ミリぐらい!」
「5ミリかぁ~」
それはもう誤差である。ノアは残念そうに笑ってアミナスを抱き上げると頬にキスをした。それに続いてようやく荷馬車が到着して子供達がゾロゾロと降りてくる。
「父さま! どうしたの? ビックリした!」
「父さん、来るなら先に連絡を入れておいてくれないと困ります」
「そうです。予定がまた狂ってしまいます」
到着するなり双子に叱られたキリは、それでもいつもの無表情で言う。
「驚かせようと思ったんです。ところで、道中はどうでしたか?」
淡々としたキリだが、その顔はどこか楽しそうだ。
「いつも通りです。そうだ、皆さんに紹介します。お嬢様が途中で拾ったレックスです」
そう言ってレオが体をずらすと、後ろからレックスがひょこっと顔を出したけれど、その視線は大人たちではなく、アミナスに注がれている。
「馬より早い。あれは本当にヒト? いや、ありえない。ヒトの筋肉量と骨格では馬より早いなど、ありえない」
「レックス、難しい事考えちゃダメだよ。アミナスは母さまの娘。それだけで色んな事に納得しなきゃダメなんだ」
真顔でノエルが言うと、ノアは苦笑いして言った。
「君がレックス? ノエルから電話で聞いてるよ。アミナスが巻き込んじゃってごめんね。何か他に予定はなかった?」
ノアはレックスの目の高さまでしゃがんでレックスの顔を覗き込んで驚いた。レックスはとても美しい。特に神秘的な目の色はノアでさえ吸い込まれそうになる。
少年なのにどこか大人っぽい雰囲気にノアが驚いていると、レックスはノアの質問に首を横に振って答えた。
「予定なんて何も。いつも行き当りばったりだから」
「そうなんだ。どこから来たの?」
「メイリングかな。今はそう呼ばれてる」
レックスはピクリとも笑わずに淡々と答えながらじっとノアの目を見る。何を考えて、どんな意図があってこんな質問をしてくるのかが全く読めない。ノエルもそうだが、まだノエルの方が表情が豊かだ。この男は笑っていても笑っていない。慎重そうな性格だ。
「そっか。随分遠くから来たね。戦争は大丈夫だったの?」
「最近の?」
「そう、最近の人間同士のやつだよ。怪我はしなかった?」
レックスはとにかく不思議な少年だ。
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