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第47話 世界の水温を戻せ!

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「今のうちにこれをまとめておきましょう。ノア達が戻ってきたらあちらの情報とも擦り寄せなければ」
「そうですよ、アリスさん。それに明日はリアン君の所に行かなければ。どうなんです? やはり大変な事になっているんでしょう?」

 アランが言いつつスマホのチェックをしていたリアンに問うと、リアンは溜息を落としながら言った。

「だね。氷丘が目に見えて減ってるって。とりあえず見える範囲の生物達は変態の言う通り保護してるけど、氷の妖精達が既に疲弊してるみたい」

 早くどうにかしなければ、このままでは氷丘も氷の妖精たちも消えてしまう。深刻な顔をしたリアンを見て仲間たちは不安げだ。

「そればっかりは私もどうしようもないしなぁ……ああもう! 何で私の使える魔法は変な魅了なんだろう⁉」
「いや、あんたが氷魔法なんて使いだしたらこの世の終わりだから」
「っすね。そんな事になったら妖精王とか関係なく世界は終わるっすよ。アリスには大人しくしてて欲しいっす」
「ぶー!」

 呆れたようにそんな事を言うリアンとオリバーにアリスは頬を膨らませつつシャルルが取り出したノートにノアに聞いた事を書き出して行く。

「今思えばね、前にうちに現れた真っ黒の闇クマ、あれも影だったのかなって思うんだ」
「ああ、言ってたね。そうなの?」
「うん。なんかね、手応えが無かったの。痛がってたし血も出たし逃げてったけど、何か手応えが無かったんだよね」
「偽アリスもそうでしたが、傷はつくんですよね?」
「みたいですね。ただ安心なのは、影に何かあっても本人には何の影響も無いと言うことでしょう。やはり、特殊な魔法を使っているんでしょうね……」

 アリスの話もついでだとばかりにノートに書き込みながらアランは首を捻る。一体どんな魔法を使っているのか、本当に影を使っているのかも謎だ。何よりも以前ノアが言っていたように、リミッターが外されたとしたら、それほど恐ろしい戦士は居ない。

「アリスにリー君、アランにオリバー、ノアとキリ、ですか」

 この全員が敵に回ったとしたら、それはどれほどの恐怖だろう。

「とりあえず怪しい二人組のどっちかは元妖精王で確定したんだから、一歩前進だよ。それと始祖様とやらを探すよりも先に、まずは水の温度をどうにか下げなくちゃ。アリス、あんた何かいい案ないの?」
「う~ん……私もずっと考えてるんだけどね、無いのよ、これが。琴子時代にも水温の上昇で危険! みたいなのはあったけど、それとはまた原因が全然違うんだもん」

 限定的に冷やす事は出来ても、世界規模の水温を下げるというのはやはりどこの世界でも難しい。

「困ったわね。試しに私の魔法でも水を冷やしてみたけれど、それはやっぱり一時的なものに過ぎなかったの。あれを永久的にするのは流石に無理よ」

 元妖精王の力はやはり強大だ。いとも容易く世界の設定を書き換えてしまうのだから。それこそ、AMINASのように――。

 キャロラインはそこまで考えてハッとして顔を上げた。

「AMINASはどうかしら⁉」
「え? アミナス?」

 キョトンとするシャルルにキャロラインは早口で言った。

「違うわ! お猿さんのアミナスの方ではなくて、私達を助けてくれていたAMINASよ! 彼女の力は妖精王には匹敵しないかもしれない。でも、もしかしたら世界の設定を変える事は出来るかもしれないわ!」

 ノアの言っていたようにAMINASに保管されているというデータをもしもAMINASがまだ弄れるとしたら?

「お姫様、サラッと酷いね。他所の子捕まえてお猿さんって」
「ですが、そのAMINASにどうやって連絡をとるんです? 彼女はまだ妖精にもなれていない。彼女が神になるにはまだまだ長い年月がかかりますよ?」

 シャルルの言葉にキャロラインはシュンと項垂れた。結局、元妖精王の力の前では人間など無力だ。

「でも探してみる価値はあるかも! シャルならどうにか出来ないかなぁ?」
「あんたさ、シャルの事便利屋さんか何かだと思ってない?」

 最近アリスはシャルとオリジナルアリスに無茶振りばかりをしてしょっちゅう叱られているのをリアンは知っていた。

 白い目を向けるリアンの視線からアリスは目を逸らしてオリバーを見る。

「いや、俺は庇わないっすよ⁉ リー君の言ってる事の方が大概正しいんだから」
「ちぇっ!」

 アリスはそう言ってポチポチとスマホを操作してシャルにメッセージを送ってみた。するとすぐに返事が返ってくる。無理、と簡潔に。

「無理だって~」

 戻ってきた返信を皆に見せて肩を落としたアリスに、リアンはとうとう溜息を落とす。

「あんたほんとに聞いたの? 止めたげなよね、無駄な仕事増やすの。最近あんたの事でシャルとアーロがしょっちゅう飲んで愚痴ってるって言ってたよ」
「そうなの? 何だか意外な接点ね」

 首を傾げたキャロラインにリアンはコクリと頷いた。

「意外と気が合うみたいだよ、あの二人。ほら、初恋こじらせておかしな事になってた組だから仲間意識でも芽生えてんじゃないの?」
「それならノアも入れそうですね!」

 何故か笑顔で言い切るシャルルにオリバーは呆れたような視線を向ける。

「あんた達、ノア達に聞かれたら怒られるっすよ。それよりも、そもそもの話してもいいっすか?」

 真顔で言うオリバーに全員が表情を引き締めた。

「元妖精王がどっちかは分かんないっすけど、もう一人って……何者なんすか?」
「ほんとだ! 誰なんだろ!」
「……言われてみればそうね……誰なのかしら……」

 考えた事もなかったオリバーの真っ当な意見にキャロラインは思わず感心したようにオリバーを見る。

「恐らくですが、ノアさんの話を聞く限り元妖精王はオズワルドの方だと思います」

 アランはそう言ってジョーの話を思い出していた。

 彼の話を聞く限り、オズワルドが報いを受けてもらうと言い、ジョーにお守りを渡したのもオズワルドの方だ。つまり、元妖精王はオズワルドなのだろう。ではリーゼロッテとは一体何者なのだ。

「じゃあ手っ取り早くそのリーゼロッテにオズワルド止めてって言えばいいんじゃないの?」
「リー君? そんな事出来るの?」
「だってさ、ノアさんが言ってたじゃん。そのリーゼロッテってのがお腹減っててお腹一杯になったらノアさんにお礼したいって言い出した。で、オズワルドの方はそれを聞いてノアさんにお礼のお守りを渡した訳でしょ? それって、オズワルドはリーゼロッテの言うことなら聞くって事なんじゃないの?」
「リー君は天才ですね! そうですよ、二人の関係性が何なのか分かりませんが、ノアさんの話を聞く限り、リーゼロッテの頼みはオズワルドは断らない可能性があるって事ですよね」

 興奮して思わず立ち上がったシャルルにライラは首を傾げた。

「でも、どうやってリーゼロッテちゃんにお話するんですか? どこに居るかも分からないし、そもそもバラバラに行動する事ってあるんでしょうか?」
「……確かに」

 あまりにもごもっともなライラの意見にシャルルはしおしおとソファに座り込む。

 世界の水温が変わってしまっても、確かに人間にはさほど害は無いように思えるが、実際の所そんな事は全く無い。今はまだ影響がないだけで、後からじわじわとボディブローのように効いてくるに決まっている。

 ましてやシャルルは半分が妖精だから分かるのだ。自然界が変わると妖精には多大な影響が出るという事も。

「まだ落ち込まないでください。案外、良い切り口かもしれませんよ?」
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