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第57話 見事なまでの木偶
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「ルイス、それが君の良いところなんだよ。そんな君だから皆がついてきてくれるんだって」
「そ……そうか?」
「そうだぞ、ルイス。前も言ったけど、普通王様には誰もこんな事言ってくれないぞ。思ってても」
「そうです。あなたの懐の大きさに皆が甘えているのです」
「そうか! よし、思う存分甘えてくれていいぞ!」
仲間たちからの言葉にすぐさま機嫌を直したルイスが胸を張ると、後ろの方でそれを見ていたシャルがポツリと言った。
「見事なまでの木偶……」
むしろここまで単純だと扱いやすくてとても良さそうである。そんなルイスに仲間たちは満足げに頷いていた。
「さて、それじゃあそろそろキースさんとこ行こっか」
「だな。ルークは今頃何してんのかな」
一人息子のルークとの再開を今から楽しみにしているカインだ。
ノアがノエルに与えたブレスレットを今回新調すると聞いて、カインも早速ルードに頼んで新しいブレスレットを頼んだ。親子三人お揃いのブレスレットである。
嬉々として川沿いをバーリーに向かって歩いていると、もうすぐ冬が到来しそうだというのに、温くなった川で遊んでいた子供達が突然川から悲鳴を上げて上がりだした。
「なんだ?」
「分からない。行ってみよう」
仲間たちは急いで子供達の元に駆け寄ると、一人の少年を捕まえて何があったのか事情を聞いた。
「どうしたの? 何かあったの?」
ノアが問うと、少年は一生懸命足先をこすり合わせてブルブルと震えている。
「み、水……つ、冷たい……」
「え?」
少年の言葉を聞いてキリが川の水に手を突っ込むと、一瞬顔をしかめてすぐさまハンカチで手を拭き出した。そして、いつものように淡々と言う。
「ノア様、水温が戻っています」
「え⁉」
それを聞いて仲間たちは全員水を触って顔を見合わせる。確かに水温がちゃんと元に戻っている……。
「何でこんな急に……」
ポツリと言ったカインの言葉が聞こえたのか、一生懸命足を乾かしていた少女が徐に空を指差した。
「きっと神様があれ見たんだよ」
「あれ? な、なんだ、あれは!!」
少女の言う通り空を見上げたルイスは、いつの間に現れたのか分からない空にくっきりはっきり浮かんだ大きな絵を見て思わず声を上げた。
「ライラちゃんの教科書の……宣伝?」
「……みたいですね。でもそれは恐らく装っているだけで、ああやって水温の大切さを説いてみせたのではないでしょうか。あの二人組に」
「見るかどうかも分からないのに? あんなのを見た所でオズワルドが言うことを聞くとも思えないんだけど」
「でも聞いた。多分、あれはオズワルドに向けてじゃないよ。リーゼロッテに向けて、なんじゃないのかな」
「何故だ?」
「オズワルドは腐っても元妖精王だよ。今は人間の営みについて勉強してるだけで、本来なら水温を弄るなんて事は絶対にしないし、そもそもその危険性も分かってるはずだよね。今まではあの二人組が元妖精王なのかどうかが分からなかったから元妖精王はこの世界を滅ぼしたいのかもしれないって懸念もあった訳だけど、今回ので答えは出た。オズワルドとリーゼロッテの関係性はよく分からないけど、リーゼロッテの言う事ならある程度は聞くんだって事が。多分、アリス達はそう考えてあの絵を打ち上げたんだと思うよ」
簡潔に分かりやすくまとめられたイラストを見て、ノアは笑みを浮かべる。
「とりあえず僕たちも行こう。カインがルーカスに会いたくてウズウズしてるよ」
「いや、ウズウズまではしてない……と思う」
何だか歯切れの悪いカインに皆で笑いつつバーリーに向かって歩いていると、川にかかった橋を山の方から街に向かって駆けていく一人の少女が居た。裾の汚れたスカートを翻して脇目も振らず一目散にノア達の前を通り過ぎて行く。
「あれぐらいの歳の子って、どうしてあんなにも一つの事に夢中なんだろうね」
チラリともこちらを見ずに前だけを見て真っ直ぐ走り去った少女にノアが肩を揺らす。
「何でしょうね。周りを見ないにも程があります。そう言えばよくお嬢様も不用意に道に飛び出して羊や豚の群れに突っ込んでましたね」
「あったね、そんな事も。どれだけ叱ってもちょっとしたらやっぱり飛び出すんだよなぁ」
懐かしくて目を細めたノアにカインとルイスとシャルはドン引きである。
「ぶ、無事だったのか?」
「ああ、平気平気。可哀相に皆アリスを避けようとしてそのままどんどん泥に突っ込んでいっちゃうんだ」
急に飛び出してきたアリスを避けようとして泥に突っ込む被害者(主に羊・豚)を何度洗ったことか。それでほぼ丸一日潰れるなんて事もザラだった。
「それが分かっていながらどうして避けるんでしょうね? いっそ轢けばいいのに」
「シャルはとんでもない事をサラリと言うな!」
「それはね、皆アリスを轢いた方が自分たちが怪我する事をよく知ってるからだよ。アリスってば突進してくる子達を投げようとするからね」
悪いのは自分なのに、アリスにとっては突進してくる=遊んでくれている、なのでついつい投げようとしてしまうのだ。
「向かってくるのを見て、お相撲さんごっこしようって言ってるんだ! とか何とか言ってました。それならいっそ泥に突っ込んだ方がマシという訳です」
「……羊や豚にトラウマを植え付けた訳ですか」
「……流石だな」
「……」
呆れる二人を他所にカインは目の前を走っていった女の子の後ろ姿を見つめながら首を捻った。
「カイン? どうかしたの?」
そんなカインを不審に思ったのかオスカーが問うと、カインはハッとした顔をして笑みを浮かべる。
「ああ、いや。今の子、あっちから来たよな? でもさ、向こうに何かあったかな~って思ってさ。山の中で遊んでたのかなって」
「それにしちゃ必死の形相だったけど……言われてみれば変だね。女の子一人で山から降りてくるなんて」
オスカーの言葉にカインも頷く。
「だろ? な~んか嫌な予感すんだよな。まぁとりあえず行くか」
カインが歩きだすと、皆もゾロゾロとついてくる。
バーリーに着くと、町の入口で既にルークがクルスと手を繋いで待っていた。
「ルーク!」
「父さん!」
カインが手を上げたのを見てルークは走り出した。何せ家族とこんなにも離れて暮らすのは初めての事だ。子供達で集まっている時は虚勢を張っているルークだが、本当は寂しくて仕方なかった。
「元気だったか⁉ どこも怪我とかしてないな?」
「大丈夫。父さんも元気? 母さんは? 皆も元気にしてる?」
矢継ぎ早に尋ねてきたルークを抱き上げたカインは、ルークを撫で回して頬にキスをする。そんなカインにルークもキスを返してふと皆が居る事に気付いて頬を染めた。
「あ、えと……父さん、ちょ、下ろして」
「いいんだよ? もっと続けても」
「そうだぞ! 感動の親子の対面だからな!」
「そうです。ルーク、何だか久しぶり!」
「オスカー父さん!」
カインとルークを見て目を細めたオスカーが言うと、ルークは今度はオスカーに抱きつく。そんなオスカーとルークを見ていたトーマスが首を傾げた。
「そう言えばオスカーさんの所はお子さんは?」
「うちはマーガレットがあんまり体が強くないから、沢山話し合って止めとこうって話になったんです。その代わり色んな所に二人で一杯行って、思い出沢山作ろうって」
笑顔でそんな事を言うオスカーにトーマスも微笑む。
「そ……そうか?」
「そうだぞ、ルイス。前も言ったけど、普通王様には誰もこんな事言ってくれないぞ。思ってても」
「そうです。あなたの懐の大きさに皆が甘えているのです」
「そうか! よし、思う存分甘えてくれていいぞ!」
仲間たちからの言葉にすぐさま機嫌を直したルイスが胸を張ると、後ろの方でそれを見ていたシャルがポツリと言った。
「見事なまでの木偶……」
むしろここまで単純だと扱いやすくてとても良さそうである。そんなルイスに仲間たちは満足げに頷いていた。
「さて、それじゃあそろそろキースさんとこ行こっか」
「だな。ルークは今頃何してんのかな」
一人息子のルークとの再開を今から楽しみにしているカインだ。
ノアがノエルに与えたブレスレットを今回新調すると聞いて、カインも早速ルードに頼んで新しいブレスレットを頼んだ。親子三人お揃いのブレスレットである。
嬉々として川沿いをバーリーに向かって歩いていると、もうすぐ冬が到来しそうだというのに、温くなった川で遊んでいた子供達が突然川から悲鳴を上げて上がりだした。
「なんだ?」
「分からない。行ってみよう」
仲間たちは急いで子供達の元に駆け寄ると、一人の少年を捕まえて何があったのか事情を聞いた。
「どうしたの? 何かあったの?」
ノアが問うと、少年は一生懸命足先をこすり合わせてブルブルと震えている。
「み、水……つ、冷たい……」
「え?」
少年の言葉を聞いてキリが川の水に手を突っ込むと、一瞬顔をしかめてすぐさまハンカチで手を拭き出した。そして、いつものように淡々と言う。
「ノア様、水温が戻っています」
「え⁉」
それを聞いて仲間たちは全員水を触って顔を見合わせる。確かに水温がちゃんと元に戻っている……。
「何でこんな急に……」
ポツリと言ったカインの言葉が聞こえたのか、一生懸命足を乾かしていた少女が徐に空を指差した。
「きっと神様があれ見たんだよ」
「あれ? な、なんだ、あれは!!」
少女の言う通り空を見上げたルイスは、いつの間に現れたのか分からない空にくっきりはっきり浮かんだ大きな絵を見て思わず声を上げた。
「ライラちゃんの教科書の……宣伝?」
「……みたいですね。でもそれは恐らく装っているだけで、ああやって水温の大切さを説いてみせたのではないでしょうか。あの二人組に」
「見るかどうかも分からないのに? あんなのを見た所でオズワルドが言うことを聞くとも思えないんだけど」
「でも聞いた。多分、あれはオズワルドに向けてじゃないよ。リーゼロッテに向けて、なんじゃないのかな」
「何故だ?」
「オズワルドは腐っても元妖精王だよ。今は人間の営みについて勉強してるだけで、本来なら水温を弄るなんて事は絶対にしないし、そもそもその危険性も分かってるはずだよね。今まではあの二人組が元妖精王なのかどうかが分からなかったから元妖精王はこの世界を滅ぼしたいのかもしれないって懸念もあった訳だけど、今回ので答えは出た。オズワルドとリーゼロッテの関係性はよく分からないけど、リーゼロッテの言う事ならある程度は聞くんだって事が。多分、アリス達はそう考えてあの絵を打ち上げたんだと思うよ」
簡潔に分かりやすくまとめられたイラストを見て、ノアは笑みを浮かべる。
「とりあえず僕たちも行こう。カインがルーカスに会いたくてウズウズしてるよ」
「いや、ウズウズまではしてない……と思う」
何だか歯切れの悪いカインに皆で笑いつつバーリーに向かって歩いていると、川にかかった橋を山の方から街に向かって駆けていく一人の少女が居た。裾の汚れたスカートを翻して脇目も振らず一目散にノア達の前を通り過ぎて行く。
「あれぐらいの歳の子って、どうしてあんなにも一つの事に夢中なんだろうね」
チラリともこちらを見ずに前だけを見て真っ直ぐ走り去った少女にノアが肩を揺らす。
「何でしょうね。周りを見ないにも程があります。そう言えばよくお嬢様も不用意に道に飛び出して羊や豚の群れに突っ込んでましたね」
「あったね、そんな事も。どれだけ叱ってもちょっとしたらやっぱり飛び出すんだよなぁ」
懐かしくて目を細めたノアにカインとルイスとシャルはドン引きである。
「ぶ、無事だったのか?」
「ああ、平気平気。可哀相に皆アリスを避けようとしてそのままどんどん泥に突っ込んでいっちゃうんだ」
急に飛び出してきたアリスを避けようとして泥に突っ込む被害者(主に羊・豚)を何度洗ったことか。それでほぼ丸一日潰れるなんて事もザラだった。
「それが分かっていながらどうして避けるんでしょうね? いっそ轢けばいいのに」
「シャルはとんでもない事をサラリと言うな!」
「それはね、皆アリスを轢いた方が自分たちが怪我する事をよく知ってるからだよ。アリスってば突進してくる子達を投げようとするからね」
悪いのは自分なのに、アリスにとっては突進してくる=遊んでくれている、なのでついつい投げようとしてしまうのだ。
「向かってくるのを見て、お相撲さんごっこしようって言ってるんだ! とか何とか言ってました。それならいっそ泥に突っ込んだ方がマシという訳です」
「……羊や豚にトラウマを植え付けた訳ですか」
「……流石だな」
「……」
呆れる二人を他所にカインは目の前を走っていった女の子の後ろ姿を見つめながら首を捻った。
「カイン? どうかしたの?」
そんなカインを不審に思ったのかオスカーが問うと、カインはハッとした顔をして笑みを浮かべる。
「ああ、いや。今の子、あっちから来たよな? でもさ、向こうに何かあったかな~って思ってさ。山の中で遊んでたのかなって」
「それにしちゃ必死の形相だったけど……言われてみれば変だね。女の子一人で山から降りてくるなんて」
オスカーの言葉にカインも頷く。
「だろ? な~んか嫌な予感すんだよな。まぁとりあえず行くか」
カインが歩きだすと、皆もゾロゾロとついてくる。
バーリーに着くと、町の入口で既にルークがクルスと手を繋いで待っていた。
「ルーク!」
「父さん!」
カインが手を上げたのを見てルークは走り出した。何せ家族とこんなにも離れて暮らすのは初めての事だ。子供達で集まっている時は虚勢を張っているルークだが、本当は寂しくて仕方なかった。
「元気だったか⁉ どこも怪我とかしてないな?」
「大丈夫。父さんも元気? 母さんは? 皆も元気にしてる?」
矢継ぎ早に尋ねてきたルークを抱き上げたカインは、ルークを撫で回して頬にキスをする。そんなカインにルークもキスを返してふと皆が居る事に気付いて頬を染めた。
「あ、えと……父さん、ちょ、下ろして」
「いいんだよ? もっと続けても」
「そうだぞ! 感動の親子の対面だからな!」
「そうです。ルーク、何だか久しぶり!」
「オスカー父さん!」
カインとルークを見て目を細めたオスカーが言うと、ルークは今度はオスカーに抱きつく。そんなオスカーとルークを見ていたトーマスが首を傾げた。
「そう言えばオスカーさんの所はお子さんは?」
「うちはマーガレットがあんまり体が強くないから、沢山話し合って止めとこうって話になったんです。その代わり色んな所に二人で一杯行って、思い出沢山作ろうって」
笑顔でそんな事を言うオスカーにトーマスも微笑む。
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