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第59話 チーム聖女の一員として!
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「満水時の水圧がここまで来るのなら圧力はこれぐらいだから、ここをあと30度だけ開くといいと思うな」
「確かに! そうか、埋める事ばかりを考えていましたが、逆にもう少し水の逃げ道を作ってやればいいのか……」
「うん。放水の量の設定も少し見直した方がいいかもしれない。ルウのカエルに頼んでもう少し妖精界に多めの水を送ってもらうといいかもね」
「そうですね! キース様、ダムの件は解決しそうですよ! そうと決まればすぐにスルガに連絡して――」
「あ! ちょ、待って待って! その前に色々話を聞かせてほしいんだ」
「そ、そうでした。すみません、夢中になるとどうにも周りが見えなくて」
「構わないよ。それだけ一生懸命だって事だから。それにダムは今や世界中で大活躍してる。クルスさん達のおかげだよ、ありがとう」
ニコッと笑ってお礼を言うノアにクルスは照れたように頭をかく。
「ねぇねぇノア君」
「ん?」
「なんでそんな計算早いのぉ? いっつも思ってたんだけどぉ、計算式とか君、何も書かないよねぇ?」
ダムの設計図を暗算で解いたノアにユーゴは首を傾げた。ずっと不思議だったのだ。何故ノアはこんなにも計算が早いのか、と。
「ああ、頭の中にそろばんが入ってるからね」
「……ん?」
何だかアリスのような事を言い始めたノアにユーゴは首を捻る。そんなユーゴを見てノアが苦笑いを浮かべた。
「ごめん。そろばんって言ってこういう珠のついた板があってね、これを弾いて計算するんだよ。この板を覚えておくと、自然と頭の中で勝手に弾けるようになって……ねぇ、これってもしかして商品化出来ると思う?」
何気なく使っていた頭の中のそろばんだが、もしかしてこれは役に立つのでは? ノアの問にクルスとルーイが激しく頷いた。
「そ、それはどんなに難しい計算式でも解けますか⁉」
「それはもしかして帳簿をつけるのにとても便利なのでは⁉」
「え、そんな食いついてくる感じ? あー……分かった。試作してみるよ。出来たら二人に使い方教えるから実際に使ってみて」
「はい! 喜んで!」
「もちろんだとも!」
「……もしかしてジャスミンのお告げはこれの事だったのかな……」
もうじきアリス工房に新商品が出来上がるだろう。ジャスミンからそんなメッセージが来たとリアンは言っていたが、まさかそろばんの事だったのだろうか。何にしてもあまりにもナチュラルに使っていたので、全く思いつかなかったノアだ。
「いやぁ~謎が解けてすっきりしたよぉ~」
「それは良かった。ところで二人共、ここに最近人形みたいな綺麗な男とピンクの髪の女の子が来なかった?」
ソファに座り直したノアがいつの間にか戻ってきていたキースとまだそろばんに思いを馳せているクルスに問うと、キースは首を傾げたがクルスは何かを思い出したように頷いた。
「ここでは無いんですが、半年ほど前にメイリングで見ましたよ」
「メイリングで?」
「はい。メイリングから依頼が来てダム建設の下見に行ったんですが、その時にボロボロの格好をした綺麗な顔の男女を見たんです」
「ボロボロの格好の男女」
「はい。女の子はほとんど裸の状態で、その肩にはバラの痣がありました。メイリングの人はそれを見て奴隷商から逃げてきたのかって言ってました」
「……奴隷商から? 女の子が奴隷だったって事?」
「恐らくそうではないでしょうか。男の方は痣の確認が出来なかったので分かりませんが、少なくとも女の子の方は奴隷だったようです」
メイリングは未だに闇市と称して奴隷の売り買いがされていると言う。レヴィウスが取り締まっているが、それでも完全に根絶させるにはまだまだ時間がかかりそうだとメイリングの人も嘆いていた。
結局そんな少女を見かねたのか一人の女性が男に何かを言った後、男は往来の真ん中でローブの下に着ていたシャツを脱いで少女に着せていたので、クルスは何となくだけれど男は少女を奴隷として買ったのではないのではないか、などと思ってしまった。
それをノアに伝えると、ノアは腕を組んで考え込んでしまった。
「それから二人は見てない?」
「ええ、見てませんね。でも噂は聞きました。スルガの所に現れたとかで……」
あまりにもおっかない話だったのでクルスは同じ人物とは思いたくなかったが、ノアのこの反応を見る限りどうやら同じ人物のようだ。
「うん、銀鉱山の二人組だね。そうか、リーゼロッテの方は元奴隷か。それをオズワルドが買った? なぜ?」
ブツブツと呟くノアにクルスもキースも首をひねる。そんな二人に詳しく説明したのはトーマスだ。
「――と、いう訳なんです。だからもしも今後どこかで二人に出会ったら、あまり干渉しない方がいいと思います」
「そ、そんな事が起こってるんですね……王妃様の宝珠を見てまたあの戦争が起こるのかと思っていましたが、今回は戦争どころの話ではなさそうですね……」
「ええ。一歩間違えればこの星ごと消滅します。それだけは避けなければなりません」
トーマスの真剣な声を聞いてキースとクルスは力強く頷いて言った。
「分かりました! もしまた二人が現れたらすぐに連絡します! ルーデリアの一国民として出来ることなど限られてはいますが、我々もお役に立ちたいと思います!」
「僕もどこかでまた見かけたらすぐに連絡します。キリ君に出会うまでは、あの出産事件が無ければ僕はこの世界の事なんてどうでも良かったかもしれない。でも、今はもうこの世界の素晴らしさを知っています。この世界を潰すなんて事、絶対にさせません!」
「ありがとう、二人共。でも無茶はしないと誓って。チームキャロラインは、どんなに小さな犠牲も出したくないんだ」
ノアの言葉に二人は声を揃えて、はい! と返事をしてくれた。
「話し聞かせてくれてありがとう、二人共。ダムの件は全部任せっきりになって本当にごめんなさい」
頭を下げたノアにクルスとキースが慌ててそれを否定してくれるが、ノア的には丸投げしてしまった事を本当に申し訳ないと思っている。
それだけ言ってノア達はキースとクルスにもう一度礼を言って屋敷を後にした。
「結局、ルイス様達は来ませんでしたね」
トーマスの言葉にシャルがルーイが頷くが、それを聞いてユーゴはニヤリと笑う。
「案外ホッとしてたと思うなぁ~。だって、嫌だよぉ~王様と宰相様が家に来るなんてさぁ~」
「確かにそれは言えてます。こんな事ならどこか待ち合わせ場所を決めておけば良かったですね」
「ほんとだよ。全く、何やってるんだろう」
眉を顰めたノアがふと視線を上げると、正面からドタドタと慌ただしく走ってくるルイスが見えた。それを見てシャルが呆れたように言う。
「いつでもタイミングが良いのか悪いのか分からない人たちですね」
「ははは、言えてる」
笑ったノアが手を上げるとルイス達が息を切らせて抱き着いてくるのかと思うほどの勢いで走ってくる。
「た、た、大変だノア!」
「い、い、居た! リーゼロッテ! さっきの子、リーゼロッテ!」
息を切らせて話す二人にノアが首を傾げると、キリがルークを抱いて後ろからやってきた。
「説明します。先程の少女、どうやらリーゼロッテだったようです」
「は? さっきの子って……ルイスがぶつかった子?」
「ええ。そしてあのお菓子の山はオズワルドに買った物だったようです」
相変わらず少しも動じないキリをルイスとカインは半眼で見つめているが、それを聞いてノアはさらに考え込む。
「なるほど、で、君たちはびっくりしてそんなに慌ててる、と」
「び、びっくりなんてもんじゃない! 俺は腰を抜かすかと思ったわ!」
「俺も久しぶりに心臓がギュッとしたよ。キリは……まぁ、いつも通り普通だけどさ」
「確かに! そうか、埋める事ばかりを考えていましたが、逆にもう少し水の逃げ道を作ってやればいいのか……」
「うん。放水の量の設定も少し見直した方がいいかもしれない。ルウのカエルに頼んでもう少し妖精界に多めの水を送ってもらうといいかもね」
「そうですね! キース様、ダムの件は解決しそうですよ! そうと決まればすぐにスルガに連絡して――」
「あ! ちょ、待って待って! その前に色々話を聞かせてほしいんだ」
「そ、そうでした。すみません、夢中になるとどうにも周りが見えなくて」
「構わないよ。それだけ一生懸命だって事だから。それにダムは今や世界中で大活躍してる。クルスさん達のおかげだよ、ありがとう」
ニコッと笑ってお礼を言うノアにクルスは照れたように頭をかく。
「ねぇねぇノア君」
「ん?」
「なんでそんな計算早いのぉ? いっつも思ってたんだけどぉ、計算式とか君、何も書かないよねぇ?」
ダムの設計図を暗算で解いたノアにユーゴは首を傾げた。ずっと不思議だったのだ。何故ノアはこんなにも計算が早いのか、と。
「ああ、頭の中にそろばんが入ってるからね」
「……ん?」
何だかアリスのような事を言い始めたノアにユーゴは首を捻る。そんなユーゴを見てノアが苦笑いを浮かべた。
「ごめん。そろばんって言ってこういう珠のついた板があってね、これを弾いて計算するんだよ。この板を覚えておくと、自然と頭の中で勝手に弾けるようになって……ねぇ、これってもしかして商品化出来ると思う?」
何気なく使っていた頭の中のそろばんだが、もしかしてこれは役に立つのでは? ノアの問にクルスとルーイが激しく頷いた。
「そ、それはどんなに難しい計算式でも解けますか⁉」
「それはもしかして帳簿をつけるのにとても便利なのでは⁉」
「え、そんな食いついてくる感じ? あー……分かった。試作してみるよ。出来たら二人に使い方教えるから実際に使ってみて」
「はい! 喜んで!」
「もちろんだとも!」
「……もしかしてジャスミンのお告げはこれの事だったのかな……」
もうじきアリス工房に新商品が出来上がるだろう。ジャスミンからそんなメッセージが来たとリアンは言っていたが、まさかそろばんの事だったのだろうか。何にしてもあまりにもナチュラルに使っていたので、全く思いつかなかったノアだ。
「いやぁ~謎が解けてすっきりしたよぉ~」
「それは良かった。ところで二人共、ここに最近人形みたいな綺麗な男とピンクの髪の女の子が来なかった?」
ソファに座り直したノアがいつの間にか戻ってきていたキースとまだそろばんに思いを馳せているクルスに問うと、キースは首を傾げたがクルスは何かを思い出したように頷いた。
「ここでは無いんですが、半年ほど前にメイリングで見ましたよ」
「メイリングで?」
「はい。メイリングから依頼が来てダム建設の下見に行ったんですが、その時にボロボロの格好をした綺麗な顔の男女を見たんです」
「ボロボロの格好の男女」
「はい。女の子はほとんど裸の状態で、その肩にはバラの痣がありました。メイリングの人はそれを見て奴隷商から逃げてきたのかって言ってました」
「……奴隷商から? 女の子が奴隷だったって事?」
「恐らくそうではないでしょうか。男の方は痣の確認が出来なかったので分かりませんが、少なくとも女の子の方は奴隷だったようです」
メイリングは未だに闇市と称して奴隷の売り買いがされていると言う。レヴィウスが取り締まっているが、それでも完全に根絶させるにはまだまだ時間がかかりそうだとメイリングの人も嘆いていた。
結局そんな少女を見かねたのか一人の女性が男に何かを言った後、男は往来の真ん中でローブの下に着ていたシャツを脱いで少女に着せていたので、クルスは何となくだけれど男は少女を奴隷として買ったのではないのではないか、などと思ってしまった。
それをノアに伝えると、ノアは腕を組んで考え込んでしまった。
「それから二人は見てない?」
「ええ、見てませんね。でも噂は聞きました。スルガの所に現れたとかで……」
あまりにもおっかない話だったのでクルスは同じ人物とは思いたくなかったが、ノアのこの反応を見る限りどうやら同じ人物のようだ。
「うん、銀鉱山の二人組だね。そうか、リーゼロッテの方は元奴隷か。それをオズワルドが買った? なぜ?」
ブツブツと呟くノアにクルスもキースも首をひねる。そんな二人に詳しく説明したのはトーマスだ。
「――と、いう訳なんです。だからもしも今後どこかで二人に出会ったら、あまり干渉しない方がいいと思います」
「そ、そんな事が起こってるんですね……王妃様の宝珠を見てまたあの戦争が起こるのかと思っていましたが、今回は戦争どころの話ではなさそうですね……」
「ええ。一歩間違えればこの星ごと消滅します。それだけは避けなければなりません」
トーマスの真剣な声を聞いてキースとクルスは力強く頷いて言った。
「分かりました! もしまた二人が現れたらすぐに連絡します! ルーデリアの一国民として出来ることなど限られてはいますが、我々もお役に立ちたいと思います!」
「僕もどこかでまた見かけたらすぐに連絡します。キリ君に出会うまでは、あの出産事件が無ければ僕はこの世界の事なんてどうでも良かったかもしれない。でも、今はもうこの世界の素晴らしさを知っています。この世界を潰すなんて事、絶対にさせません!」
「ありがとう、二人共。でも無茶はしないと誓って。チームキャロラインは、どんなに小さな犠牲も出したくないんだ」
ノアの言葉に二人は声を揃えて、はい! と返事をしてくれた。
「話し聞かせてくれてありがとう、二人共。ダムの件は全部任せっきりになって本当にごめんなさい」
頭を下げたノアにクルスとキースが慌ててそれを否定してくれるが、ノア的には丸投げしてしまった事を本当に申し訳ないと思っている。
それだけ言ってノア達はキースとクルスにもう一度礼を言って屋敷を後にした。
「結局、ルイス様達は来ませんでしたね」
トーマスの言葉にシャルがルーイが頷くが、それを聞いてユーゴはニヤリと笑う。
「案外ホッとしてたと思うなぁ~。だって、嫌だよぉ~王様と宰相様が家に来るなんてさぁ~」
「確かにそれは言えてます。こんな事ならどこか待ち合わせ場所を決めておけば良かったですね」
「ほんとだよ。全く、何やってるんだろう」
眉を顰めたノアがふと視線を上げると、正面からドタドタと慌ただしく走ってくるルイスが見えた。それを見てシャルが呆れたように言う。
「いつでもタイミングが良いのか悪いのか分からない人たちですね」
「ははは、言えてる」
笑ったノアが手を上げるとルイス達が息を切らせて抱き着いてくるのかと思うほどの勢いで走ってくる。
「た、た、大変だノア!」
「い、い、居た! リーゼロッテ! さっきの子、リーゼロッテ!」
息を切らせて話す二人にノアが首を傾げると、キリがルークを抱いて後ろからやってきた。
「説明します。先程の少女、どうやらリーゼロッテだったようです」
「は? さっきの子って……ルイスがぶつかった子?」
「ええ。そしてあのお菓子の山はオズワルドに買った物だったようです」
相変わらず少しも動じないキリをルイスとカインは半眼で見つめているが、それを聞いてノアはさらに考え込む。
「なるほど、で、君たちはびっくりしてそんなに慌ててる、と」
「び、びっくりなんてもんじゃない! 俺は腰を抜かすかと思ったわ!」
「俺も久しぶりに心臓がギュッとしたよ。キリは……まぁ、いつも通り普通だけどさ」
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