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第73話 妖精王の邪な気持ち

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 ルークが言い終えてアミナスが持ち込んできたレヴィウスで流行っていると言うお菓子に手を伸ばすと、その手をライアンに叩かれた。

「か、菓子なんて食ってる場合じゃないだろ⁉ リ、リーゼロッテってあの二人組の片割れだろ⁉ どういう経緯でそうなったんだ!」
「経緯? お前の父さんがリーゼロッテにぶつかったんだ。で、リーゼロッテが買ったお菓子をぶちまけて駄目にしたから書い直したんだよ。その途中でその子がリーゼロッテだって事に気付いた感じ。お前の父さんは本当に強運だよな」

 世界はこんなにも広くてこんなにも沢山の人がいるというのに、どうしてたまたまぶつかった相手がリーゼロッテだったのか。ルイスの強運は凄い。流石王様になるだけの人は違う。それを聞いてライアンは青ざめてルークに掴みかかってきた。

「だ、大丈夫なんだよな⁉ なにか仕返しとかされてないよな⁉」

 何せ水の温度を変えてしまうような奴と一緒に居る少女だ。ぶつかったからと言って難癖つけられないとも限らない。

「大丈夫だよ。むしろ機嫌よく戻ってったから」
「そ、そうか……じゃあ次は俺が。ミランダが最近少しだけ記憶が戻ったらしいんだ。ミランダはどうやらオズワルドに説教をしたらしい。そしたらオズワルドはこう言ったそうだ。お前たちの事を何も知らない俺が、どうしてゴミみたいなお前たちの事を命を賭けて守らなきゃいけないんだって」
「そ、そんな事をあいつは言ったのか?」

 妖精王はライアンの言葉を聞いて尻尾を膨らませた。

「あ、いや、多分本当はもっと違う言い方だったのかもしれないが、ミランダがそこだけを思い出したらしい。ニュアンスとしてはこんな感じだったと言っていたぞ」
「何という事を……妖精王とは、善悪に関わらず万物を愛する存在だというのに……何故自分が妖精王の名を剥奪されたかまだ気付いていないのか!」

 ホロホロ鳥の手羽元がまるまる入った豪華な猫缶を貪りさながら憤る妖精王に、子どもたちは白い目をむけている。

「僕たちはディノの事を調べてるんだけど、シュタであの祠にまつわる話を聞いてきたよ」
「シュタ? 祠なんてあったっけ?」

 ルークの言葉にノエルはコクリと頷いた。

「レヴィウスの方のシュタね。そこに小さな祠があるんだけど、そこを建てた人の末裔って人に会ったんだ。あっちのシュタでは今ドラゴンが騒ぎ出してるって。レヴィウスのシュタは始まりの地って呼ばれてるみたなんだけど、どうもそれはドラゴンが降り立った地って事みたい。しばらく僕たちはシュタに泊まり込みだよ」
「うむ、確かにシュタは我らが初めて生物の元になる種を蒔いた場所だ。それがディノになった訳だが、ディノの魔力によってあそこは木が生えなくなってしまってな。しかしディノが姿を隠したのは、人間が生まれるもっと以前の話なのだぞ? それなのに何故そこに祀られているのがディノの一部なのだ?」
「それは別に変ではありません。ディノが自分の一部を他のドラゴンに預けたと考えれば、何も不思議ではないです」
「レオの言う通り。ただ、それだとディノは誰かに言語を伝えたって事になる。クロの話だとディノはその叡智をドラゴンには伝えなかったって言ったよね? でも、実際はもしかしたらディノはドラゴンの誰かにその叡智を預けていたのかもしれない」
「それって、ドラゴンは話せるって事⁉ やったぁ! じゃあドンちゃんとスキピオとも話せる⁉ ぎゃん!」

 思わず喜んで飛び上がったアミナスの頭を容赦なくカイが打った。

「最後まで聞く。大人しくしていないと今日のラーメンは二袋で終わりですよ」
「わかった。黙ってる」

 ラーメンを減らされるのは絶対に嫌なアミナスは、慌てて自分の口を両手で覆う。そんなアミナスを見てジャスミンとローズがクスクス笑った。

「アミナス、これをつけておくといいわよ」
「そうだよ。はい、粉塵マスク」

 ジャスミンとローズはそう言って粉塵マスクをアミナスに握らせるとさらに笑った。マスクにはライラが落書きした真っ赤でセクシーな唇のイラストが描かれていたのだ。それを見て思わず子どもたちとクロは声を出して笑ったが、当の本人だけは何故笑われているのかさっぱり分かっていない。

「そのイラストはライラか? アミナス、よく似合っているぞ。それで、お前たちの見解はどうなんだ? その男は他になんて言っていたんだ?」

 クロがヒゲについた猫缶をペロリと舐めながら言うと、ノエルは神妙な顔をして頷く。

「シュタには伝説というか、ドラゴンにまつわる話が今も結構残ってるみたいで、一つ目はアミナスも聞いてた古のドラゴンが復活するっていう奴ね。それともう一つ、そのドラゴンが復活するとき、この世界を治めるのはドラゴンになるだろうって」
「ま、待て! それはどういう事だ⁉ ディノが復活したら人は滅びるという事か⁉」 
「単純に考えればそうなんじゃん?」

 ギョッとしたようなライアンにルークが涼しい顔をして言った。

「ディノは我ら妖精王と同じ魔力を持つ者。それが出来たとしても何ら不思議ではない。我らは生物の生死も操る事が出来るのだから、ディノが目覚めて人を滅ぼすなど簡単な事だろう」
「そうなんだよね。それを聞いた時に僕たちも思ったんだ。ディノは本当に妖精王に匹敵する魔力を持つんだなって。それどころか妖精王みたいに制限がない分、何でも出来るという意味でオズワルドみたいだなって」

 だからこそディノは姿を隠したのだろう。全ての魔法が使えて頭もすこぶる良かったとなると、それはきっとさぞかしつまらない人生だっただろうと思うから。

「どうしてそんな生物を創ってしまったんですか、妖精王」

 呆れたようなテオの言葉に妖精王は胸を張って毅然とした態度で言い切る。

「我ら妖精王の力を分散させるためだ! 数いる我らの同志はそれぞれに星を創り幾度となく失敗を繰り返している。その失敗の原因が、我らだけに力がありすぎたからだ。オズワルドのように必ず長い年月の中で不穏の種を持つ妖精王が生まれてくる。その時に対抗する手段を予め創っておこうと考えたからなのだ!」

 胸を張って尤もらしい事を言った妖精王のヒゲがビリビリしている。それを見てルークが妖精王に言った。

「で、爺ちゃんの本音は?」
「む!」
「理由、それだけじゃないだろ?」
「むむぅ……わ、我らとて遊び相手が欲しかったのだ! 言っておくが、生物の居ない世界などほんっとうに暇なんだぞ! 最初は植物が育つのをじっと観察していたが、あいつらは動かんし話さん! 数百年も見守っていればいい加減暇になるのだ!」
「……逆によく数百年も我慢しましたね」
「生物が生まれた星の末路など、どこも似たり寄ったりだからな。我らからすれば星の一つはまるごと庭のような物だ。現に仲間の中には星を丸々一つ花畑にして楽しんでいる者もいる」
「ねぇねぇ、妖精王って一杯いるの?」

 セクシー唇を描かれたアミナスが言うと、妖精王は頷いた。

「いるとも。星一つ一つに我らは居る。それぞれ呼び名が違うだけだ。ここでは妖精王と呼ばれている。違う星では創造神だったり創造主と呼ばれていたり、まぁ色々だ」
「何だか凄く壮大な話が始まりそうだけど、とりあえず他所の星の事は今はいらないと思うんだ。それよりも、遊び相手欲しさに自分の力をディノに与えたって解釈でいいのかな?」
「……お前は本当にノアによく似ているな。そうだ。第一の目的はもちろん力を分散させる為だが、邪な気持ちがあった事は認めよう」

 何故か偉そうな妖精王を見てルークとレオとカイは白い目を妖精王に向けているが、ライアンはそれを聞いて顔を輝かせた。
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