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第86話 大きな繭と子どもたちのピンチ!

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 結局、全てがあの戦争の時と同じ所に繋がるのかと思うとうんざりするが、あの時に出しきれなかった膿を出すという意味では丁度いいのかもしれない。

「今から頭が痛いな。元妖精王にまた教会関係か……」

 大きなため息を落としたカインにノアはニコッと笑って言った。

「カイン、今度はメイリングもだから前より厄介だよ。ただアンソニー王はどういう立ち位置なのかが全く分からない。カールが絡んでる時点でそれこそまた操られてるのかもしれないし」

 以前妖精王も言っていたが、戦争には妖精王は迂闊に手は出せないのだろう。出したくても出せない、が正しい。そんな元妖精王をおそらくカールは利用したのではないだろうか。あの魔法陣は間違いなく元妖精王が作った物だったのだから。

「ねぇねぇ兄さま、結局私達の敵は誰なの? 何だかよく分かんなくなってきちゃったんだけど」

 それまでお菓子を貪っていたアリスがノアの袖を引っ張って言うと、ライラがそんなアリスにいつものように言う。

「アリス、アリスには私がまた皆の関係図を描いてあげるわ」
「そうです。どうせ聞いていても分からないでしょうから、お嬢様はゴーされるまで大人しくお菓子でも食べていてください」
「分かった! ありがとう、ライラ!」

 お菓子を食べていてもいいというお墨付きをもらったアリスは早速お菓子を食べ始めようとしたその時、アリスのスマホが鳴った。相手は珍しくノエルだ。

「ノエル~? どしたの~?」
『母さま! 今すぐ来て! 師匠とレックスとクロ、ルイス王とシャルル大公が森に入ったまま戻らないんだ!』
「えっ!?」

 それを聞いてアリスは持っていたお菓子をぽろりと落とした。アリスがお菓子を落とすなど、相当である。それに気づいたノアがアリスの手からスマホを取り上げて電話に出た。

「ノエル? 何があったの?」
『父さま! シュタの森から不審なうめき声が聞こえるって言って師匠とクロが森に入ったんだ。それをレックスが追って、僕たちはルイス王とシャルル大公に助けを求めたんだけど、そしたら二人も戻ってこなくて! 半時経っても戻らなかったら父さまと母さま達に知らせろってシャルル大公が!』
「分かった。すぐいく」

 こんな切羽詰まったノエルは珍しい。

 ノアは急いでスマホを切ってアリスに上着を着せるとキリをチラリと見た。キリは既に妖精手帳に行き先を書いていて準備万端だ。

「それじゃあちょっと行ってくるよ。ついでにルイスとシャルルも連れて帰ってくるから」
「お嬢様、ほらゴーしますよ」
「うん! 皆、ちょっと行ってきます!」
「気をつけるのよ! 何かあったらすぐに私達も呼んでちょうだい!」

 青ざめたキャロラインにアリスは親指を立ててニカッと笑い、そのまま3人は部屋から姿を消してしまった。残された仲間たちは一体何が起こったのかよく分からないまま、しばらく動けないでいた。
 

 キリが妖精手帳に書いたのはシュタではなくノエルだったようで、シュタに到着した3人の目の前には驚く子どもたちが居た。

「母さま! ク、クロちゃんが! レックスも師匠も帰ってこないんだよ!」

 アリスに飛びついたアミナスはアリスに頬ずりしながらワンワン泣きわめく。そんなアミナスを片手で抱えたアリスは、もう片方の手でノエルの手をしっかりと繋いだ。

「大丈夫! ちゃんと助けるよ!」
「そうだね。ルイスとシャルルも行ってるんなら絶対に助けないとまずいだろうね」
「全くです。特にルイス様は何故何も出来ないのにノコノコ付いて行ってしまったのか、と」

 相変わらずルイスにも厳しいキリが言うと、双子たちの手を引いて歩き出した。

「俺たちも行っていいんですか? 父さん」
「ええ。そろそろあなた達もお嬢様とノア様の真の姿を見るべきです」
「真の……姿、ですか」

 真顔でそんな事を言うキリの言葉にレオもカイもゴクリと息を呑んだ。そんな双子と同じようにアミナスとノエルも何やら不安げな顔をしている。

「行くよ。早くルイス達助けて帰らないとキャロラインが勢い余って来ちゃう」

 歩き出したノアにアミナスがヒシッとアリスから飛び移ってきた。そんなアミナスにノアは言う。

「アミナス、皆はどっちに行ったの?」
「あっち!」
「ん、ありがと。アリス、師匠の匂い辿って」
「うん!」

 アリスは鼻をゴシゴシ擦るとふんふんと匂いを嗅ぎながら歩き出した。

 エリスの匂いを辿りながら歩いていると、目の前に何やら大きな繭のような物が見えてきた。

「あ、あれは一体……」

 レオがゴクリと息を飲むと、それに釣られるように子どもたちは固まってしまう。

「繭ですね。特大の」
「おっきいなぁ! 何が入ってるんだろう?」
「乗れるかなぁ!?」
「こらアリス、アミナス! 不用意に近づかないの! 何だかモスラとか出てきそうな繭だけど……」

 言いながらノアは繭をあちこちから見て回るが、そんな三人に子どもたちは青ざめている。

 そんな子どもたちを他所にアリスは何を思ったのかその場に倒れていた木をよっこいせと掴んで徐にそれを繭の下に突っ込んで持ち上げた。

「アリスー!! 何やってんの!?」
「え? 持って帰れるかなって思って。駄目だった?」
「良いか駄目かで言ったら駄目だよ! どうして君はいつも何かよく分からない物を調べもせずに持って帰ろうとするの!? 中から本当にモスラが出てきたらどうするの!」

 アリスのやることが未だに半分ぐらい理解出来ないノアが止めると、アリスは渋々持ち上げた繭を地面に転がした。それと同時に中から、痛い! と聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 それを聞いてアリス達は首を傾げて顔を見合わせていたのだが、そのせいで繭から何かがこっそりとこちらに向かって近づいている事に気づくのが遅れてしまった。

「わわわ!」
「うわぁぁ~!」
「っ!」
「アミナス! ノエル!」
「カイ! レオを決して離さないでください!」

 気づいた時には繭から出てきた細い触手のような物が子どもたちの足に巻き付いていて、そのまま繭に引きずり込まれてしまいそうになる。

 咄嗟に子どもたちの体を掴んだノアとキリは子どもたちを抱き寄せてその場で踏ん張るが、触手の力は尋常じゃない。ズルズルと繭に向かって引きずられる家族を見て、とうとうアリスがキレた。

 スッと背中から剣を抜くとそれを振り上げてさっき放り出した木を駆け上がり叫ぶ。

「家族に……手、出すなぁぁぁ!」

 駆け上がった木から勢いよく繭に向かって飛んだアリスはそのまま繭の上に剣を突き刺さして着地すると、自分の重みで繭から滑り降りて繭を切り裂く。

「悪いけど、危害加えてくるんなら容赦しないよ! それが嫌ならとっととその足離しな! じゃなきゃ反対側も引き裂いて真っ二つにするよ!」

 アリスが叫んだ途端、子どもたちに絡まっていた触手がしゅるしゅると引っ込み始める。それを見てノアはポツリと言った。

「え、言う事聞くんだ……これ、ほんとにモスラなのかな……」

 確かモスラは正義の味方だったはずだ。うろ覚えだがそうだった気がする。

 絡まった触手が取れた子どもたちは、ボロボロと落ちてきた。それをノアとキリはしっかり受け止めて抱きしめる。

「はぁぁ……寿命が縮まるかと思いました」
「僕も。久しぶりにヒヤっとしたよ」

 子どもたちを抱きかかえてその場に座り込んだノアとキリを他所にアリスは繭の正面で仁王立ちして繭に向かって説教を始める。

「あんたの中身が何なのかは知んないけど、家族と仲間には手は出させないよ! そもそも食べないのに取っちゃ駄目! 今度やったらこの繭ひん剥いて寒空の下、中身放り出すからね!」
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