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第85話 負の種と善の種
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「壊れる? どういう意味だと思う?」
「分かりません。レックスは……生物ではない、という事でしょうか?」
「でも物には見えません。あのレックスに限ってただの言い間違いと言うことも無さそうです。とりあえず俺たちはここを離れましょう」
「そうだね。アミナス、行くよ!」
ノエルはアミナスの手を引っ張って表通りに戻ると、一目散にキャメルの屋敷に向かった。キャメルの屋敷に到着すると何だか屋敷の前が騒がしい。
どうやらちょうどルイスとシャルルが出てくる所だったようだ。ノエルはアミナスの手を繋いだまま走り出す。
「ルイス様! シャルル様!」
「おや、ノエル。丁度あなた達を探していたんですよ。元気ですか? というよりも、何かありましたか?」
あまりにも必死な形相のノエルを見て何かを察したようにシャルルが言うと、そんなシャルルにアミナスが飛びついた。
「シャルル! 助けて! 師匠とレックスとクロちゃんが森に入っちゃった! 森の奥から変なうめき声とかしてたから何か居るのかもしれない!」
「森の奥? 変なうめき声? ルイス、行きましょう」
「ああ、そうだな。お前たち、行くぞ」
アミナスがこんな反応をするのはとても珍しい。何より妖精王も共に行ってしまったとなると万が一があったら大変だ。シャルルの言葉にルイスは頷いた。
「何があるか分からない。お前たちはキャメルに匿ってもらっていてくれ。最悪、アリスを呼ぶ」
「そうですね。ノエル、もしも私達が半時間過ぎても戻って来なかったらアリスとノアとキリを呼んでくでさい」
「はい!」
こうしてシャルルとルイスと騎士たちは不審なうめき声が聞こえたという森に向かって行ってしまった。
シュタでそんな事が起こっているなど全く知らない屋敷に残った組は、未だにあちこちから届く二人組と接触した貴族たちの話をまとめていた。
「皆さんしっかり報復を受けてますねぇ」
シャルはまとめられた紙に目を通して口の端を上げた。内容はほぼ同じだ。元妖精王の所へ貴族たちは自ら向かい頭を下げるが何かおかしな事をされて放り出される。殺してしまわないのは慈悲なのかそれとも生きて償えという意味なのかは分からないが、どちらにしてもこれから彼らには地獄が待っているだろう。弱者を踏みつけ痛めつけた報いと言えば報いである。
「家に戻ってもこれでは皆幽閉でしょうね、きっと」
視線を伏せたキャロラインが言うと、隣でメモを整理していたミアも無言で頷いた。
「俺なんかはざまぁみろって思うんすけどね。因果応報ってやつっしょ」
「まぁ俺もちらっとはそう思うけど、ちょっと中には酷すぎないか? って思うのもちらほらあるな」
ため息を落としたカインにアランとチビアリスはやはり悲しげに視線を伏せている。ノアがここまでになることを予想していたのかどうかは分からないが、お仕置きにしては度が過ぎている。
「とはいえ彼らは直接、もしくは間接的に妖精や沢山の人の命を自分達の快楽の為に奪ってきた訳です。そういう意味ではオリバーの言うように因果応報なのかもしれません」
「どんなお仕置きが正しいのかなんてどんだけ考えても分かんないよ。結局、悪いことしたから神様の罰が当たった。それだけの話でしょ」
「リアン様の言う通りです。これを見る限りオズワルドは相手に応じて罰と程度を変えています。そういう意味ではこれは全て彼なりの慈悲なのだと思います。それに、被害にあった人たちやその家族の前でも同じことを言えますか? 結局俺たちにとっては他人事だから何とでも言えますが、被害者にとっては生温いとさえ思うのでは?」
キリの言葉に辺りが静まり返る。確かにキリの言う通りだ。結局ここでどれほど議論しても当事者以外は何があったのかを想像する事しか出来ないのだから。
「食べないなら殺さない! 意味なく意地悪しない! 喧嘩は正々堂々と! 簡単な事だよ。それだけの話だよ。上も下も右も左もないよ。皆一皮剥いたらぜ~んぶ同じなんだから! あるのは骨と臓器とお肉だけ!」
命に優劣など無い! アリスは心の底からそう思っている。そんなアリスをノアはニコニコしながら抱き寄せた。
「そうそう。世界は僕たちが思ってるほど難しくないんだよ。もっと単純に生きればいいのにね? 効率的にどうすれば皆がストレスフリーで生きられるかを考えれば答えは一択だよ。仲良くする。これしか無いんだからさ」
「そうやって聞くと滅茶苦茶簡単なのにな」
「でも、それが出来ないのが人間なんだよ。僕はそれを痛いほどよく知ってる。何度も何度も君たちが余計な事をするのをやり直したからね。本当に負の種はどこにでも落ちてるよ。一見ね、負の種は凄く綺麗なんだ。ピカピカししてていかにも美味しそうな実が成るんだろうなってさ。逆に善の種は凄く地味。だからこそ負の種に飛びついてしまう。でもそれが、それこそが本当は毒なんだよ。何も考えず安易に飛びつくと、いつかこの人達みたいに悲惨な事になる。そしてその時にはもう取り返しがつかない事になってるって訳。世界は単純だけど、そこら中に罠があるんだよ。それが星という生物なんだ」
「そうだよ! 私達は大きな星って言う生き物の上に間借りさせてもらってるだけ! その上であーだこーだ喧嘩しててもしょうがないんだよ!」
人間卒業したアリスが言うと、ライラは涙を浮かべてアリスを拝んでいる。
「ああ……やっぱりアリスは大地の化身なのね……ありがたやありがたや」
「ライラ!? 駄目だよ? ありがたやは止めときな!?」
いよいよ何かの宗教にハマってしまった人みたいになっているライラの肩を掴んだリアンはライラを前後に揺さぶるが、それでもライラはまだアリスを拝んでいる。
「そうね……負の種はそこら中に落ちている……その通りだわ」
よく悪魔が囁いたとか魔が差したとか言うが、そういう事なのだろう、きっと。ばら撒かれた負の種を一度掴んでしまえば、手放すのは難しい。
静まり返って考え込む仲間を見てノアはいつものようにニコッと笑う。
「でもね、同じぐらい善の種だって蒔かれてるんだよ。地味で見えにくかったりするけど、そういうのをちゃんと見分けて掴み取るのは大事な事だよ。それを僕のアリスは本能で嗅ぎ分けるからね! 流石だよね!」
頭で考え、最後に頼るのは本能と勘だ。本能と勘という才能が飛び抜けているアリスと居るとノアは大変安心出来るのである。
「結局そこに繋がんのかよ! で、結局これはノアの思惑通りな訳?」
カインはそう言ってどんどん溜まるメモをバサリと机の上に置いた。
「そうだね。お仕置きの程度でまとめた貴族の元を辿って一番酷い罰を受けた人たちの交友関係を調べたら全部同じ所に繋がるよね?」
妖精たちから受け取った情報を元に書き出した貴族は、今の所ギリギリ100件に届かないぐらいだ。その中からお仕置きの程度をいくつかに分けて見た所、面白いことが分かった。
「これだろ? メイリングだよな」
「そう。それから女王の本当の父親、カール・ダビッドソン」
「あれ? でもその人女王に処刑されたんじゃなかったっけ?」
リアンの言葉にカインとノアが頷く。
「公式文書ではそうなってる。でも、その公式文書を作ったのは他の誰でもない女王なんだよ。信用出来ると思う?」
「あー……無理だね。何なら一番信用できないね」
「おばあさんになったアメリアが唯一頼るとすれば、その父親の所だろうなって思うんだ。母親の方は今も投獄されてるけど、父親の方は今もどこかで生きてる可能性が高いよ」
「分かりません。レックスは……生物ではない、という事でしょうか?」
「でも物には見えません。あのレックスに限ってただの言い間違いと言うことも無さそうです。とりあえず俺たちはここを離れましょう」
「そうだね。アミナス、行くよ!」
ノエルはアミナスの手を引っ張って表通りに戻ると、一目散にキャメルの屋敷に向かった。キャメルの屋敷に到着すると何だか屋敷の前が騒がしい。
どうやらちょうどルイスとシャルルが出てくる所だったようだ。ノエルはアミナスの手を繋いだまま走り出す。
「ルイス様! シャルル様!」
「おや、ノエル。丁度あなた達を探していたんですよ。元気ですか? というよりも、何かありましたか?」
あまりにも必死な形相のノエルを見て何かを察したようにシャルルが言うと、そんなシャルルにアミナスが飛びついた。
「シャルル! 助けて! 師匠とレックスとクロちゃんが森に入っちゃった! 森の奥から変なうめき声とかしてたから何か居るのかもしれない!」
「森の奥? 変なうめき声? ルイス、行きましょう」
「ああ、そうだな。お前たち、行くぞ」
アミナスがこんな反応をするのはとても珍しい。何より妖精王も共に行ってしまったとなると万が一があったら大変だ。シャルルの言葉にルイスは頷いた。
「何があるか分からない。お前たちはキャメルに匿ってもらっていてくれ。最悪、アリスを呼ぶ」
「そうですね。ノエル、もしも私達が半時間過ぎても戻って来なかったらアリスとノアとキリを呼んでくでさい」
「はい!」
こうしてシャルルとルイスと騎士たちは不審なうめき声が聞こえたという森に向かって行ってしまった。
シュタでそんな事が起こっているなど全く知らない屋敷に残った組は、未だにあちこちから届く二人組と接触した貴族たちの話をまとめていた。
「皆さんしっかり報復を受けてますねぇ」
シャルはまとめられた紙に目を通して口の端を上げた。内容はほぼ同じだ。元妖精王の所へ貴族たちは自ら向かい頭を下げるが何かおかしな事をされて放り出される。殺してしまわないのは慈悲なのかそれとも生きて償えという意味なのかは分からないが、どちらにしてもこれから彼らには地獄が待っているだろう。弱者を踏みつけ痛めつけた報いと言えば報いである。
「家に戻ってもこれでは皆幽閉でしょうね、きっと」
視線を伏せたキャロラインが言うと、隣でメモを整理していたミアも無言で頷いた。
「俺なんかはざまぁみろって思うんすけどね。因果応報ってやつっしょ」
「まぁ俺もちらっとはそう思うけど、ちょっと中には酷すぎないか? って思うのもちらほらあるな」
ため息を落としたカインにアランとチビアリスはやはり悲しげに視線を伏せている。ノアがここまでになることを予想していたのかどうかは分からないが、お仕置きにしては度が過ぎている。
「とはいえ彼らは直接、もしくは間接的に妖精や沢山の人の命を自分達の快楽の為に奪ってきた訳です。そういう意味ではオリバーの言うように因果応報なのかもしれません」
「どんなお仕置きが正しいのかなんてどんだけ考えても分かんないよ。結局、悪いことしたから神様の罰が当たった。それだけの話でしょ」
「リアン様の言う通りです。これを見る限りオズワルドは相手に応じて罰と程度を変えています。そういう意味ではこれは全て彼なりの慈悲なのだと思います。それに、被害にあった人たちやその家族の前でも同じことを言えますか? 結局俺たちにとっては他人事だから何とでも言えますが、被害者にとっては生温いとさえ思うのでは?」
キリの言葉に辺りが静まり返る。確かにキリの言う通りだ。結局ここでどれほど議論しても当事者以外は何があったのかを想像する事しか出来ないのだから。
「食べないなら殺さない! 意味なく意地悪しない! 喧嘩は正々堂々と! 簡単な事だよ。それだけの話だよ。上も下も右も左もないよ。皆一皮剥いたらぜ~んぶ同じなんだから! あるのは骨と臓器とお肉だけ!」
命に優劣など無い! アリスは心の底からそう思っている。そんなアリスをノアはニコニコしながら抱き寄せた。
「そうそう。世界は僕たちが思ってるほど難しくないんだよ。もっと単純に生きればいいのにね? 効率的にどうすれば皆がストレスフリーで生きられるかを考えれば答えは一択だよ。仲良くする。これしか無いんだからさ」
「そうやって聞くと滅茶苦茶簡単なのにな」
「でも、それが出来ないのが人間なんだよ。僕はそれを痛いほどよく知ってる。何度も何度も君たちが余計な事をするのをやり直したからね。本当に負の種はどこにでも落ちてるよ。一見ね、負の種は凄く綺麗なんだ。ピカピカししてていかにも美味しそうな実が成るんだろうなってさ。逆に善の種は凄く地味。だからこそ負の種に飛びついてしまう。でもそれが、それこそが本当は毒なんだよ。何も考えず安易に飛びつくと、いつかこの人達みたいに悲惨な事になる。そしてその時にはもう取り返しがつかない事になってるって訳。世界は単純だけど、そこら中に罠があるんだよ。それが星という生物なんだ」
「そうだよ! 私達は大きな星って言う生き物の上に間借りさせてもらってるだけ! その上であーだこーだ喧嘩しててもしょうがないんだよ!」
人間卒業したアリスが言うと、ライラは涙を浮かべてアリスを拝んでいる。
「ああ……やっぱりアリスは大地の化身なのね……ありがたやありがたや」
「ライラ!? 駄目だよ? ありがたやは止めときな!?」
いよいよ何かの宗教にハマってしまった人みたいになっているライラの肩を掴んだリアンはライラを前後に揺さぶるが、それでもライラはまだアリスを拝んでいる。
「そうね……負の種はそこら中に落ちている……その通りだわ」
よく悪魔が囁いたとか魔が差したとか言うが、そういう事なのだろう、きっと。ばら撒かれた負の種を一度掴んでしまえば、手放すのは難しい。
静まり返って考え込む仲間を見てノアはいつものようにニコッと笑う。
「でもね、同じぐらい善の種だって蒔かれてるんだよ。地味で見えにくかったりするけど、そういうのをちゃんと見分けて掴み取るのは大事な事だよ。それを僕のアリスは本能で嗅ぎ分けるからね! 流石だよね!」
頭で考え、最後に頼るのは本能と勘だ。本能と勘という才能が飛び抜けているアリスと居るとノアは大変安心出来るのである。
「結局そこに繋がんのかよ! で、結局これはノアの思惑通りな訳?」
カインはそう言ってどんどん溜まるメモをバサリと机の上に置いた。
「そうだね。お仕置きの程度でまとめた貴族の元を辿って一番酷い罰を受けた人たちの交友関係を調べたら全部同じ所に繋がるよね?」
妖精たちから受け取った情報を元に書き出した貴族は、今の所ギリギリ100件に届かないぐらいだ。その中からお仕置きの程度をいくつかに分けて見た所、面白いことが分かった。
「これだろ? メイリングだよな」
「そう。それから女王の本当の父親、カール・ダビッドソン」
「あれ? でもその人女王に処刑されたんじゃなかったっけ?」
リアンの言葉にカインとノアが頷く。
「公式文書ではそうなってる。でも、その公式文書を作ったのは他の誰でもない女王なんだよ。信用出来ると思う?」
「あー……無理だね。何なら一番信用できないね」
「おばあさんになったアメリアが唯一頼るとすれば、その父親の所だろうなって思うんだ。母親の方は今も投獄されてるけど、父親の方は今もどこかで生きてる可能性が高いよ」
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