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第93話 秘密の坑道
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思わず突っ込んだリアンを見てライラは嬉しそうに笑って頷いた。どうやらリアンに発破をかけただけのようだ。こういう所がライラにはいつも敵わない。
「何にしても、何も起こらない事を祈るばかりっすね」
「全くです。ミアさん、逐一報告するので途絶えたら誰かを寄越してください」
「はい! キリさん、気をつけてくださいね」
「もちろんです。それでは準備をして早速向かいましょう」
「その間に目ぼしい金鉱山探しとくよ。キリ、アリスをお願いね」
「はい」
お辞儀をして出ていくキリを見送った。
「カイン、メイリングの地図出して。その地図にシャル、昔の地名と大雑把でいいから当時の地図を書き込んでほしい」
「了解。えっと……ああ、これだ」
「この地図に直接書き込んでも?」
「いいよ。どうせそれ複製した奴だから」
カインが広げた地図を見てシャルが端から確認していく。シャルが居た時代よりも少し後からオドナー家の歴史は始まっている。その間に地殻変動があったのか、シャルが書き足した地図を見ると所々街の形も変わってしまっていた。
「これで全部ですね」
シャルが書き込んだ地図をノアに渡すと、ノアはそれを見ながら日記と照らし合わせつつ金鉱山の場所を探していたのだが、ある場所でふと手を止める。
「あ、これまずいな」
「どうした? 何か問題?」
「うん、ほらこれ。少年が働いてたと思われる金鉱山の入り口、今はメイリング城が建ってるよ」
「そ、それはまずいな……え、どうする?」
地図を覗き込んだカインとノアが顔を見合わせていると、ふとルイスが口を開いた。
「俺が一筆書いてやろうか?」
というかそれしか無い気がする。そう思って口を開いたのだが、ノアとカインはおろかキャロラインまで首を振った。
「駄目よルイス。アンソニー王はもしかしたらあちら側かもしれないのよ? それに今刺激したらまた戦争が始まるかもしれないわ」
「そうだぞ、ルイス。まぁでもそのうち一筆頼む事になるかもだけどな」
「だね。いつかはアンソニー王も引きずり出さないと。でもまだ今はその時じゃないよ。この金鉱山の長さとか調べて横穴開けるしかなさそうだね……横穴か。あんまり派手な事したくないんだけどなぁ」
言いながらノアは更に地図と日記を照らし合わせだした。そこにシャルも混じって3人でどうにか金鉱山跡地の場所と規模を特定していく。
「終わりましたか? ノア様」
準備を終えて戻ってきたキリの言葉にノアは顔も上げず首を振る。
「ううん、もうちょっとかかりそう。この金鉱山結構大きかったみたいなんだ。あと、何かちょっと変なんだよね……」
オドナーの先祖は相当にマメな人物だったようだ。日記が誰かに見つかる事を恐れたのか坑道の入り口や出口には触れてはいなかったが、坑道の中を事細かく記していた。そのおかげで坑道はどれぐらいの深さだったのか、どれぐらいの規模の人たちが働いていたのかがよく分かった。
戦争で真っ先に狙われたという事にも頷ける程大きな金鉱山だったようなのだが、何やらとても奇妙な事が地図上に起こっている。
日記と合わせながら地図上に線を引いていくと、メイリング城にある鉱山の入り口から大きく湾曲して、ある場所から地下へ潜っていた。そして地下に伸びた線はありえない場所で止まっている。
「……一方通行って事かな……それにしてもこれは……」
「途中までは普通に地上を通ってますが、そこから地下へひたすら潜っているようですね」
「ほんとだな。この深さは人間には無理だ。この坑道は妖精王が作ったって事か? これはほぼ星の中心だぞ」
ポツリと言ったカインの言葉に地図を黙って覗き込んでいた仲間たちがギョッとした顔をする。
「ど、どういう事だ⁉」
「どういう事も何もこの点線、日記から分かる大体の距離と時間を計算したら星の真ん中辺りまで伸びてる。つまりメイリングの金鉱山ははるか地中深く、それこそ星の中心に達してるって事だよ」
「え? 星の中心って行けるものなんですか?」
ふと、ミアが口を開いた。
「これは僕の居た星の話だよ? 僕の居た星の中心にはマグマっていうものがあった。そこはすっごく深くて高温でとてもじゃないけれど人なんて行けるような場所じゃない。この星の中心がどうなってるかは僕にも分からないけど、温泉が湧く事からやっぱりこの星にもマグマはあるんじゃないかな? ていうか、そもそもそんな深い穴なんて人間には作れないよ。でもディノや妖精王が作ったと考えたら……あるいは可能かも」
「何せ星の創造主だもんな。日記にも変な事書いてあるし」
「日記には坑道の突き当りには動かせない宝石があるって書いてるね」
ノアは言いながら地図を指でなぞって見せた。そこに着替えを終えてすっかり準備万端のアリスがノアの背中にのしかかってくる。
「に~いさま! 準備出来たよ! どこ行けばいいの?」
「アリス! もうちょっと待っててね」
「分かった! ん? 何、この点線。何でこんな地上に出た途端急にカクンって曲がってるの? こんな遠回りしなくても、真っ直ぐ進む方が楽なのに~」
アリスはノアの後ろから地図を覗き込んで笑った。
「!」
その言葉を聞いてノアがハッとした顔をして日記をめくり始める。しばらく日記と地図を交互にらめっこしていたノアはおもむろにアリスの方に向き直ってアリスを抱きしめた。
「アリス! 君は本当は天才なんじゃないの⁉」
「えぇ? いやぁ~照れるなぁ~! それほどでも~」
何だかよく分からないが急にノアに褒められたアリスが照れたように頭をかいていると、隣でキリがコイツマジか、の目をしてくる。
「お嬢様、本当は、とついている時点でバカだと思っていたと言われているのだと同義だと言うことに気づいてください」
「何であんたはいっつも私の喜びに水差すのよっ!」
「本当の事なので。それでノア様、どうしてお嬢様が天才なのです?」
「いや、この日記と地図が何か変だなと思ってたんだけど、何がおかしかったのか分からなかったんだ。でもアリスの今の言葉で分かったよ!」
そう言ってノアは地図の隣に日記を置いて説明しはじめた。
「まず日記を見て。この少年はずっと金鉱山で働いていた。で、お告げを聞いてシュタの端に移動したんだ。それからしばらくしてメイリングで内戦が起こって鉱山が攻撃された事を聞いた少年は、翌日の早朝に祠に祈りを捧げてから働いていた金鉱山に行ってそこで働いていた仲間たちの殆どが戦争に巻き込まれた事を知った」
「ああ、それがどうしたんだ? 何も変な事はないだろう」
「変だよ。この地図を見て。この少年が働いていたと思われる坑道の入り口はメイリング城にある。で、シュタはここだよ。どんなに頑張っても少年は祠で祈りを済ませてからその日の内にここまでは行けない」
「!」
「どういう事だよノア!」
「僕たちはオドナー家の先祖がメイリング出身って事で勝手に勘違いしてたんだよ。少年はメイリングにある金鉱山で働いていたんだろう、って。でももしもそうじゃなくて彼がどこかに出稼ぎに出ててこの秘密の坑道で働いていたんだとしたら? この地図ではアリスが言ったみたいに途中で不自然に折れ曲がってる。でもこれを真っ直ぐ繋ぐと、レヴィウスのシュタの祠の辺りに繋がるんだよ。そしてこの星の中心に向かっている点線をずっと伸ばせば――ルーデリアのシュタだ。ということは、この秘密の坑道の入り口は元々メイリング城ではなくて、シュタのどこかにあったって事だよ」
「何にしても、何も起こらない事を祈るばかりっすね」
「全くです。ミアさん、逐一報告するので途絶えたら誰かを寄越してください」
「はい! キリさん、気をつけてくださいね」
「もちろんです。それでは準備をして早速向かいましょう」
「その間に目ぼしい金鉱山探しとくよ。キリ、アリスをお願いね」
「はい」
お辞儀をして出ていくキリを見送った。
「カイン、メイリングの地図出して。その地図にシャル、昔の地名と大雑把でいいから当時の地図を書き込んでほしい」
「了解。えっと……ああ、これだ」
「この地図に直接書き込んでも?」
「いいよ。どうせそれ複製した奴だから」
カインが広げた地図を見てシャルが端から確認していく。シャルが居た時代よりも少し後からオドナー家の歴史は始まっている。その間に地殻変動があったのか、シャルが書き足した地図を見ると所々街の形も変わってしまっていた。
「これで全部ですね」
シャルが書き込んだ地図をノアに渡すと、ノアはそれを見ながら日記と照らし合わせつつ金鉱山の場所を探していたのだが、ある場所でふと手を止める。
「あ、これまずいな」
「どうした? 何か問題?」
「うん、ほらこれ。少年が働いてたと思われる金鉱山の入り口、今はメイリング城が建ってるよ」
「そ、それはまずいな……え、どうする?」
地図を覗き込んだカインとノアが顔を見合わせていると、ふとルイスが口を開いた。
「俺が一筆書いてやろうか?」
というかそれしか無い気がする。そう思って口を開いたのだが、ノアとカインはおろかキャロラインまで首を振った。
「駄目よルイス。アンソニー王はもしかしたらあちら側かもしれないのよ? それに今刺激したらまた戦争が始まるかもしれないわ」
「そうだぞ、ルイス。まぁでもそのうち一筆頼む事になるかもだけどな」
「だね。いつかはアンソニー王も引きずり出さないと。でもまだ今はその時じゃないよ。この金鉱山の長さとか調べて横穴開けるしかなさそうだね……横穴か。あんまり派手な事したくないんだけどなぁ」
言いながらノアは更に地図と日記を照らし合わせだした。そこにシャルも混じって3人でどうにか金鉱山跡地の場所と規模を特定していく。
「終わりましたか? ノア様」
準備を終えて戻ってきたキリの言葉にノアは顔も上げず首を振る。
「ううん、もうちょっとかかりそう。この金鉱山結構大きかったみたいなんだ。あと、何かちょっと変なんだよね……」
オドナーの先祖は相当にマメな人物だったようだ。日記が誰かに見つかる事を恐れたのか坑道の入り口や出口には触れてはいなかったが、坑道の中を事細かく記していた。そのおかげで坑道はどれぐらいの深さだったのか、どれぐらいの規模の人たちが働いていたのかがよく分かった。
戦争で真っ先に狙われたという事にも頷ける程大きな金鉱山だったようなのだが、何やらとても奇妙な事が地図上に起こっている。
日記と合わせながら地図上に線を引いていくと、メイリング城にある鉱山の入り口から大きく湾曲して、ある場所から地下へ潜っていた。そして地下に伸びた線はありえない場所で止まっている。
「……一方通行って事かな……それにしてもこれは……」
「途中までは普通に地上を通ってますが、そこから地下へひたすら潜っているようですね」
「ほんとだな。この深さは人間には無理だ。この坑道は妖精王が作ったって事か? これはほぼ星の中心だぞ」
ポツリと言ったカインの言葉に地図を黙って覗き込んでいた仲間たちがギョッとした顔をする。
「ど、どういう事だ⁉」
「どういう事も何もこの点線、日記から分かる大体の距離と時間を計算したら星の真ん中辺りまで伸びてる。つまりメイリングの金鉱山ははるか地中深く、それこそ星の中心に達してるって事だよ」
「え? 星の中心って行けるものなんですか?」
ふと、ミアが口を開いた。
「これは僕の居た星の話だよ? 僕の居た星の中心にはマグマっていうものがあった。そこはすっごく深くて高温でとてもじゃないけれど人なんて行けるような場所じゃない。この星の中心がどうなってるかは僕にも分からないけど、温泉が湧く事からやっぱりこの星にもマグマはあるんじゃないかな? ていうか、そもそもそんな深い穴なんて人間には作れないよ。でもディノや妖精王が作ったと考えたら……あるいは可能かも」
「何せ星の創造主だもんな。日記にも変な事書いてあるし」
「日記には坑道の突き当りには動かせない宝石があるって書いてるね」
ノアは言いながら地図を指でなぞって見せた。そこに着替えを終えてすっかり準備万端のアリスがノアの背中にのしかかってくる。
「に~いさま! 準備出来たよ! どこ行けばいいの?」
「アリス! もうちょっと待っててね」
「分かった! ん? 何、この点線。何でこんな地上に出た途端急にカクンって曲がってるの? こんな遠回りしなくても、真っ直ぐ進む方が楽なのに~」
アリスはノアの後ろから地図を覗き込んで笑った。
「!」
その言葉を聞いてノアがハッとした顔をして日記をめくり始める。しばらく日記と地図を交互にらめっこしていたノアはおもむろにアリスの方に向き直ってアリスを抱きしめた。
「アリス! 君は本当は天才なんじゃないの⁉」
「えぇ? いやぁ~照れるなぁ~! それほどでも~」
何だかよく分からないが急にノアに褒められたアリスが照れたように頭をかいていると、隣でキリがコイツマジか、の目をしてくる。
「お嬢様、本当は、とついている時点でバカだと思っていたと言われているのだと同義だと言うことに気づいてください」
「何であんたはいっつも私の喜びに水差すのよっ!」
「本当の事なので。それでノア様、どうしてお嬢様が天才なのです?」
「いや、この日記と地図が何か変だなと思ってたんだけど、何がおかしかったのか分からなかったんだ。でもアリスの今の言葉で分かったよ!」
そう言ってノアは地図の隣に日記を置いて説明しはじめた。
「まず日記を見て。この少年はずっと金鉱山で働いていた。で、お告げを聞いてシュタの端に移動したんだ。それからしばらくしてメイリングで内戦が起こって鉱山が攻撃された事を聞いた少年は、翌日の早朝に祠に祈りを捧げてから働いていた金鉱山に行ってそこで働いていた仲間たちの殆どが戦争に巻き込まれた事を知った」
「ああ、それがどうしたんだ? 何も変な事はないだろう」
「変だよ。この地図を見て。この少年が働いていたと思われる坑道の入り口はメイリング城にある。で、シュタはここだよ。どんなに頑張っても少年は祠で祈りを済ませてからその日の内にここまでは行けない」
「!」
「どういう事だよノア!」
「僕たちはオドナー家の先祖がメイリング出身って事で勝手に勘違いしてたんだよ。少年はメイリングにある金鉱山で働いていたんだろう、って。でももしもそうじゃなくて彼がどこかに出稼ぎに出ててこの秘密の坑道で働いていたんだとしたら? この地図ではアリスが言ったみたいに途中で不自然に折れ曲がってる。でもこれを真っ直ぐ繋ぐと、レヴィウスのシュタの祠の辺りに繋がるんだよ。そしてこの星の中心に向かっている点線をずっと伸ばせば――ルーデリアのシュタだ。ということは、この秘密の坑道の入り口は元々メイリング城ではなくて、シュタのどこかにあったって事だよ」
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