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第96話 ドラゴンの聖域
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「へぇ、何でなんだろう?」
言いながらアリスは上着を脱いでドレスも脱ごうとした所で流石にキリに止められた。
「お嬢様、泳ぐ気満々な所申し訳ないのですが、流石にここで素っ裸になるのは止めてもらっていいですか。誰も見たくないので」
「だって、泳がないと駄目なんでしょ? だったらこんなの着てらんないよ! 沈んじゃうよ!」
「ええ。ですからコレを使いましょう」
着は胸元から竜笛を取り出しおもむろにその笛を力いっぱい吹いた。すると、どこからともなく一匹のドラゴンがやってくる。
「お嬢様、あのドラゴンに話をつけて我々を向こう岸まで運んでもらいましょう。空から行けばあるいはたどり着けるかもしれません」
「キリ天才じゃない⁉ お~い! こっちだよ~! 君はどこの誰さんかな~?」
訝しげにやってきた見知らぬドラゴンを見てアリスが声を張り上げると、ドラゴンはしばらく様子を伺ってやがて意を決したかのように下りてきた。
下りてくるなりしげしげとアリス達を順番に見つめていたかと思うと、突然オリバーにスリスリと頬を寄せる。
「お、おお! こ、これは初めての展開っす!」
いつもオリバーは基本的に色んな動物に無視されるが、珍しい事もあるものである。
「なんだなんだ~。モブ贔屓か~! じゃ、モブから頼んでみてよ」
「えっと、悪いんっすけど俺たちをあっちまで運んで欲しいんすよ」
オリバーがアリスの言う通りドラゴンに頼むと、ドラゴンは何の躊躇いもなくその場にしゃがみこんだ。それを見ていつものようにアリス達がドラゴンに跨る。
「す、素晴らしい! やはりここはドラゴンの聖域なのですな!」
ドラゴンに次々跨る英雄たちを見て指導者は目を輝かせ、ドラゴンを拝むように手を組んだ。それを聞いてリアンとキリが首を傾げる。
「ドラゴンの聖域ってどういう事?」
「初めて聞きました。ここはドラゴンの聖域なのですか?」
「そう言われているという話です。先程も申し上げたようにいくら人間や妖精がこの湖を渡ろうとしても、あちらには辿り着けないのです。禁足地に渡れるのは月に一度だけ。それ以外の時に渡る事は決して許されない。ドラゴンを除いては。そう言われているのです」
「要は空からなら渡れる、と言うことなのでしょうか」
「いえ、空も磁場が狂っているのか、鳥さえあちらには行けません」
「じゃ、何でドラゴンだけ行けるんだろう?」
腕を組んだリアンにアリスもキリも首を傾げるなか、ふとオリバーが口を開いた。
「そういやいつだったかアランが言ってたんすけど、ドラゴンの耳って特殊らしいんすよ。大地と呼応していて、何か人間にも妖精にも聞こえない音を聞き分けるらしいんっす。逆にある一定の音だけは聞こえなくなってるって言ってたっす」
「ふーん、そうなんだ。あるかないか分かんないような耳なのに凄いね」
言いながらリアンが思い浮かべたのは領地に住み着いているグリドラだ。よく耳の後ろをかいて欲しいと言って頭を擦り付けてくるが、その度に耳を探すのにまず一苦労なのである。最初は頭についているひらひらが耳だと思っていたのだが。
そんなリアンの言葉に指導者は苦笑いを浮かべながら頷くとさらに話しだした。
「禁足地にはここよりも一回り小さな教会があります。誰が建てたのかなどの記録は残ってはいませんし、常に扉は閉じられていて私達でも入った事はありません。だから月に一度道が開いた時には、私達は外からのみ祈りを捧げるのです」
「では、その道が開いた時以外に誰かが禁足地に行った事は無いと言うことですか?」
「ええ。誰も一度もありません」
「じゃ、私達が一番乗りだね! よし! それじゃあ早速行ってみよ~! 指導者さんありがと~!」
指導者の話を聞き終えたアリスがドラゴンの上から手を振ると、指導者は困ったように笑って手を振り返してしてくれた。
「すみません、ご迷惑をおかけして。では戻り次第また声を掛けます」
「ええ、お願いします。お気をつけて」
あの先に本当は何が隠されているのか指導者にも分からない。ただ自分が身を隠していた時、あの奥から女王の一味だと思われる者達が大量の武器を持って出てきていたという。
それが一体何を意味するのかを考えようとして途中で止めた。あそこは今も昔も変わらず指導者やこのシュタに住む人達にとって、かけがえのない聖域なのだから。
アリス達が秘密の坑道を探っていた頃、子ども達は皆でレヴィウス探索に来ていた。というのも、朝一番にアーロの所に泊まり込んでいたテオからジャスミンのお告げがあったと聞いたのだ。
お告げの内容は子どもたちだけでここに集まれというものだったのだけれど、子どもたちだけでここに一斉にやってくるのは不自然なので、ラルフにレヴィウスの歴史を皆で学びたいとノエルが提案した所、ラルフは喜んで子どもたちを招待してくれた。
ここで初めてレックスと顔を合わせた子どもたちは、挨拶もそこそこに一軒の屋敷を見上げていた。子どもたちは今、レヴィウスのとある屋敷にやってきている。
ここはその昔、裏切りの女王とその下っ端達が使っていた屋敷だそうで、今は無料解放されて当時のまま中の調度品などが残されている。ラルフの計らいで今日はこの屋敷を貸し切りにしてくれていたのだ。
セイ率いる騎士団を外に待たせた子どもたちは、目を輝かせながら屋敷の入り口で記帳して屋敷内をキョロキョロと見渡した。
「凄いな! こんな所があったのだなぁ」
「へぇ、これって血痕でしょ? うわぁ~生々しいなぁ」
言いながらロープが張られた壁の血痕を見て呻くルークに、テオも顔をしかめて頷いている。
「当時のままだと言うからもっと凄惨かと思っていましたが、案外綺麗ですね」
「全くです。もっと汚れていると思っていました」
「そりゃ最低限の掃除はしてるよ、きっと。でないと一般開放なんて出来ないと思うな。こらアミナス! 触っちゃ駄目って書いてるでしょ! じっと出来ないならもう出るよ!」
「や、やだ! もう絶対触らないから!」
そっと調度品に手を伸ばそうとしたアミナスの耳をノエルが掴んで引っ張ろうとすると、アミナスはレックスの腕を掴んで抵抗する。
「今のはアミナスが悪い。触っちゃ駄目なものは触っちゃだめ。そう書いてあるって事は、何か理由があるって事だから」
淡々と言うレックスに子どもたちは皆真顔で頷いた。
「ぶー……分かった。大人しくしてる」
「そうだぞ、アミナス。レックスの言う通りだ。ほら、俺が手を繋いでいてやろう!」
そう言ってライアンが手を差し伸べると、アミナスはすぐさま首を横に振る。
「ううん、兄さまとレックスと繋ぐからいい」
言うなりアミナスはノエルとレックスと手を繋いでスキップしながら次の部屋へ向かう。
「ぐぬぅ」
「ははは! 振られたな、ライアン!」
「ルーク……お前なんて誘う勇気もないだろうが!」
「お、俺は慎重なだけだし、この年になって異性と手を繋ぐなんてそんな事――」
真っ赤になったルークが言い訳していると、目の前をテオとジャスミンが手を繋いで通り過ぎていく。その後ろをやっぱりカイがローズと手を繋いで必死に言い訳するルークとライアンを鼻で笑って屋敷の奥に進んでしまった。
「そなた達、難儀な恋をしておるな。我の手を持つか?」
妖精王は二人の前にそっと両手を差し出したが、ライアンとルークはそんな妖精王を見てゆっくり首を振る。どうやら頭は冷えたらしい。
「いこ、ライアン」
「ああ、そうだな。クロ、すまん」
「いや、気にするでない。それが青春というものだ」
言いながらアリスは上着を脱いでドレスも脱ごうとした所で流石にキリに止められた。
「お嬢様、泳ぐ気満々な所申し訳ないのですが、流石にここで素っ裸になるのは止めてもらっていいですか。誰も見たくないので」
「だって、泳がないと駄目なんでしょ? だったらこんなの着てらんないよ! 沈んじゃうよ!」
「ええ。ですからコレを使いましょう」
着は胸元から竜笛を取り出しおもむろにその笛を力いっぱい吹いた。すると、どこからともなく一匹のドラゴンがやってくる。
「お嬢様、あのドラゴンに話をつけて我々を向こう岸まで運んでもらいましょう。空から行けばあるいはたどり着けるかもしれません」
「キリ天才じゃない⁉ お~い! こっちだよ~! 君はどこの誰さんかな~?」
訝しげにやってきた見知らぬドラゴンを見てアリスが声を張り上げると、ドラゴンはしばらく様子を伺ってやがて意を決したかのように下りてきた。
下りてくるなりしげしげとアリス達を順番に見つめていたかと思うと、突然オリバーにスリスリと頬を寄せる。
「お、おお! こ、これは初めての展開っす!」
いつもオリバーは基本的に色んな動物に無視されるが、珍しい事もあるものである。
「なんだなんだ~。モブ贔屓か~! じゃ、モブから頼んでみてよ」
「えっと、悪いんっすけど俺たちをあっちまで運んで欲しいんすよ」
オリバーがアリスの言う通りドラゴンに頼むと、ドラゴンは何の躊躇いもなくその場にしゃがみこんだ。それを見ていつものようにアリス達がドラゴンに跨る。
「す、素晴らしい! やはりここはドラゴンの聖域なのですな!」
ドラゴンに次々跨る英雄たちを見て指導者は目を輝かせ、ドラゴンを拝むように手を組んだ。それを聞いてリアンとキリが首を傾げる。
「ドラゴンの聖域ってどういう事?」
「初めて聞きました。ここはドラゴンの聖域なのですか?」
「そう言われているという話です。先程も申し上げたようにいくら人間や妖精がこの湖を渡ろうとしても、あちらには辿り着けないのです。禁足地に渡れるのは月に一度だけ。それ以外の時に渡る事は決して許されない。ドラゴンを除いては。そう言われているのです」
「要は空からなら渡れる、と言うことなのでしょうか」
「いえ、空も磁場が狂っているのか、鳥さえあちらには行けません」
「じゃ、何でドラゴンだけ行けるんだろう?」
腕を組んだリアンにアリスもキリも首を傾げるなか、ふとオリバーが口を開いた。
「そういやいつだったかアランが言ってたんすけど、ドラゴンの耳って特殊らしいんすよ。大地と呼応していて、何か人間にも妖精にも聞こえない音を聞き分けるらしいんっす。逆にある一定の音だけは聞こえなくなってるって言ってたっす」
「ふーん、そうなんだ。あるかないか分かんないような耳なのに凄いね」
言いながらリアンが思い浮かべたのは領地に住み着いているグリドラだ。よく耳の後ろをかいて欲しいと言って頭を擦り付けてくるが、その度に耳を探すのにまず一苦労なのである。最初は頭についているひらひらが耳だと思っていたのだが。
そんなリアンの言葉に指導者は苦笑いを浮かべながら頷くとさらに話しだした。
「禁足地にはここよりも一回り小さな教会があります。誰が建てたのかなどの記録は残ってはいませんし、常に扉は閉じられていて私達でも入った事はありません。だから月に一度道が開いた時には、私達は外からのみ祈りを捧げるのです」
「では、その道が開いた時以外に誰かが禁足地に行った事は無いと言うことですか?」
「ええ。誰も一度もありません」
「じゃ、私達が一番乗りだね! よし! それじゃあ早速行ってみよ~! 指導者さんありがと~!」
指導者の話を聞き終えたアリスがドラゴンの上から手を振ると、指導者は困ったように笑って手を振り返してしてくれた。
「すみません、ご迷惑をおかけして。では戻り次第また声を掛けます」
「ええ、お願いします。お気をつけて」
あの先に本当は何が隠されているのか指導者にも分からない。ただ自分が身を隠していた時、あの奥から女王の一味だと思われる者達が大量の武器を持って出てきていたという。
それが一体何を意味するのかを考えようとして途中で止めた。あそこは今も昔も変わらず指導者やこのシュタに住む人達にとって、かけがえのない聖域なのだから。
アリス達が秘密の坑道を探っていた頃、子ども達は皆でレヴィウス探索に来ていた。というのも、朝一番にアーロの所に泊まり込んでいたテオからジャスミンのお告げがあったと聞いたのだ。
お告げの内容は子どもたちだけでここに集まれというものだったのだけれど、子どもたちだけでここに一斉にやってくるのは不自然なので、ラルフにレヴィウスの歴史を皆で学びたいとノエルが提案した所、ラルフは喜んで子どもたちを招待してくれた。
ここで初めてレックスと顔を合わせた子どもたちは、挨拶もそこそこに一軒の屋敷を見上げていた。子どもたちは今、レヴィウスのとある屋敷にやってきている。
ここはその昔、裏切りの女王とその下っ端達が使っていた屋敷だそうで、今は無料解放されて当時のまま中の調度品などが残されている。ラルフの計らいで今日はこの屋敷を貸し切りにしてくれていたのだ。
セイ率いる騎士団を外に待たせた子どもたちは、目を輝かせながら屋敷の入り口で記帳して屋敷内をキョロキョロと見渡した。
「凄いな! こんな所があったのだなぁ」
「へぇ、これって血痕でしょ? うわぁ~生々しいなぁ」
言いながらロープが張られた壁の血痕を見て呻くルークに、テオも顔をしかめて頷いている。
「当時のままだと言うからもっと凄惨かと思っていましたが、案外綺麗ですね」
「全くです。もっと汚れていると思っていました」
「そりゃ最低限の掃除はしてるよ、きっと。でないと一般開放なんて出来ないと思うな。こらアミナス! 触っちゃ駄目って書いてるでしょ! じっと出来ないならもう出るよ!」
「や、やだ! もう絶対触らないから!」
そっと調度品に手を伸ばそうとしたアミナスの耳をノエルが掴んで引っ張ろうとすると、アミナスはレックスの腕を掴んで抵抗する。
「今のはアミナスが悪い。触っちゃ駄目なものは触っちゃだめ。そう書いてあるって事は、何か理由があるって事だから」
淡々と言うレックスに子どもたちは皆真顔で頷いた。
「ぶー……分かった。大人しくしてる」
「そうだぞ、アミナス。レックスの言う通りだ。ほら、俺が手を繋いでいてやろう!」
そう言ってライアンが手を差し伸べると、アミナスはすぐさま首を横に振る。
「ううん、兄さまとレックスと繋ぐからいい」
言うなりアミナスはノエルとレックスと手を繋いでスキップしながら次の部屋へ向かう。
「ぐぬぅ」
「ははは! 振られたな、ライアン!」
「ルーク……お前なんて誘う勇気もないだろうが!」
「お、俺は慎重なだけだし、この年になって異性と手を繋ぐなんてそんな事――」
真っ赤になったルークが言い訳していると、目の前をテオとジャスミンが手を繋いで通り過ぎていく。その後ろをやっぱりカイがローズと手を繋いで必死に言い訳するルークとライアンを鼻で笑って屋敷の奥に進んでしまった。
「そなた達、難儀な恋をしておるな。我の手を持つか?」
妖精王は二人の前にそっと両手を差し出したが、ライアンとルークはそんな妖精王を見てゆっくり首を振る。どうやら頭は冷えたらしい。
「いこ、ライアン」
「ああ、そうだな。クロ、すまん」
「いや、気にするでない。それが青春というものだ」
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