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第104話 地下にあった日本語
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そんな中、ミアがその板を見ていて何か思いついたのか口を開いた。
「この板、動物たちが何だか変な体勢をとってるのでふと思ったんですが、キリさんがアニーに作ったおもちゃにそっくりです」
「え? キリがアニーに作ったおもちゃ?」
不思議そうに首を傾げたキャロラインにミアはコクリと頷いた。
「はい、えっと……確か、パズルって言ってたような気がします。キリさんがアニーに作ったのは植物を象ったものでしたけど」
それを聞いてノアはハッとして写真をさらに拡大した。
「ミアさん……それ、正解かもよ。これ、動物型のジグソーパズルなんだ……」
「なんだ、そのジグソーパズルというのは。普通のパズルではないのか」
きょとんとしたルイスにキャロラインもカインも頷いてみせたが、その反応を見てノアとシャルが互いに顔を見合わせた。
「やっぱり歴史の進み方は向こうとは違うんだなぁ」
「仕方ありません。発展の仕方が全く違いますから。ジグソーパズルというのは、沢山の小さなピースと呼ばれる物をつなぎ合わせて一枚の大きな絵を作るんです。作り方は簡単で、元々は大きな絵を様々なピースの形に切って、それをぐちゃぐちゃにして元の形に戻すという単純ですが大人でもうっかりハマるおもちゃです」
シャルの説明にシャルルが感心したように頷いた。
「面白そうですね。ノア、是非作ってみてください」
「いや~試しはしたんだよ。でもさ、うちの画伯が途中参入してきちゃってお蔵入りしたんだよね」
アリスの絵でパズルなど、高難易度すぎて誰も元の形に戻すことなど不可能だ。そもそも元の絵がすでにパズル状態なのだから。
「で、これがそのパズルのピースだと言うの?」
「うん。この熊の腰の部分と狼の足の部分をよく見てみて。写真だから分かりづらいけど、多分ぴったり当てはまると思う」
それを聞いてカインとルイスが二人してガラスを覗き込んで角度やら形やらを見比べている。
「ほ、本当だ」
「すごいな。この為にこの体勢なのか……よく考えてるなぁ!」
「まずは、秘密箱とパズルの作者を調べるべきですね」
「うん、そうみたいだ」
感心したカインとルイスと違い、ノアとシャルは神妙な顔をしている。寄木細工といいジグソーパズルといい、こんな所にあるはずのない物が見つかるなんてこれはもう確実にあちらの世界から来た人間の仕業に違いないのだから。
ドスン! という衝撃と共に頭から藁を被ったキリは、体のあちこちについた藁をはたき落としながら辺りを見渡した。
「これは……予想外ですね」
ここは地下だ。自分達は地上からここまでやってきたはずだ。それなのに洞窟の底はまるで夕方のように柔らかいオレンジ色に染まっている。
呆然と立ち尽くすキリの元にアリスとオリバーが駆け寄ってきた。
「凄いよね! どうなってるんだろう⁉」
「誰かの魔法……っすよね、多分」
「ねぇちょっとー、これ見てー。何か描いてあるよ」
アリスとキリとオリバーが明るい洞窟内に感動しているのとは裏腹に、リアンはすでにあちこちを調査して回っていたようだ。
「これ、上にあった壁画と同じタッチだ! 絵描きさんが住んでたのかな?」
「お嬢様、ここは地下ですよ? 誰がこんな所に住むんですか。あと、あなたに絵のタッチの違いなんて分かります?」
「失礼な! 分かる! だって、通路通るだけだったらこんな所に絵なんて描かないよ。これは一ヶ月はかかるな、うん」
自信満々に腕を組んで胸を反らすアリスにキリは胡散臭げだが、意外なことにそれに賛同したのはリアンだった。
「あながちこいつの言うこと間違ってないかも。よく見たらめちゃめちゃ細かいんだよね。上のもそうだったけどさ。僕はライラとグリーンが絵を描くから分かるんだけど、これだけ細かい装飾とかは2、3日じゃ無理だよ。それこそここにある壁画全部仕上げようと思ったら一ヶ月以上はかかると思う」
「てことは、誰かがここに住んでこれを仕上げたって事なんすかね」
「多分ね。もうちょっと他にも探してみよ」
そう言ってリアンは洞窟内をあちこち歩きまわりだした。
洞窟内は今下りてきた所がいわゆるエントランスなのか、円形になっていてそのあちこちにまるで迷路のように道が伸びている。
「ちょ、これ凄いよ! 私の懐中電灯も真っ青だよ!」
突然のアリスの叫び声にキリが向かうと、アリスは興奮したように一本の道を出たり入ったりしている。
「何してるんですか、お嬢様」
「これこれ、見ててね!」
アリスはそれだけ言って真っ暗な道に一歩足を踏み入れた。すると、途端に道がオレンジ色に照らし出されたのだ。
「なんですか、これは」
「分かんない。オートで電気つく仕様になってるよ! 文明が爆発するよ!」
「……何だかよく意味は分かりませんが、とりあえず凄いですね。他の道もですか?」
「多分そう。キリもやってきてよ!」
「ええ」
アリスに促されて他の通路に向かったキリは、全ての道を確かめてアリスの元に戻った。アリスはまだ道を出たり入ったりして遊んでいる。
「全部の道がこの仕様ですね。で、いつまでやってるんですか?」
「ん? いや、人感センサーどこにあんのかなって思って。まぁいいや。リーくーん、モブー! そっち何かあった?」
アリスの問いかけにすぐさま返事をしてくれたのはリアンだ。
「あったと言えばあったよ。これ一人で描いてないね。複数人いるし、子供の落書きみたいなのもあるよ。あんたみたいな相当な画伯じゃないなら、ローズぐらいの子も居たんじゃないかな」
「こっちには文字もあるっす。なんか見たことない文字なんすけど、古代語とかなんすかね」
「おー! 文字! どれどれ?」
アリスはオリバーの指差した先を見て目を丸くした。そこに並んでいたのはひらがなと漢字だ。たまにカタカナも混じっている。
「に、日本語だーーー! えっ、嘘でしょ⁉ 写真写真!」
「読めるんですか? お嬢様」
「読める! 琴子時代の文字だよ! 兄さまも読めるよ」
「何て書いてあんの?」
「えっとね、あぁ~いや、これはアウトな奴だわ」
「な、なんなの?」
「ほら~よく居るじゃん。観光地に行って遺跡とかにおバカな落書きするやつ! あれだよ。これ書いた奴、変態だな!」
この星の言語は発音は地球のものとあまり違いがないし大体意味もよく似ているけれど、文字は同じではない。文化が違うから当然なのだが、アリスが琴子時代の記憶を思い出した時に真っ先に思ったのは、それまでは普通にアリスとして暮らしていて本当に良かったと言うことだった。そのおかげで文字をすんなり読むことが出来たからだ。
そしてすっかり忘れかけていた日本語にまさかこんな所で遭遇するとは思ってもいなかった。たとえそれがしょうもない下ネタギャグだとしても!
「え、変態が書いたの? そんな事言われたら余計気になるんだけど」
「言わないよ! 私の品性が疑われちゃう」
そう言ってわざと両頬を押さえたアリスを見てキリが鼻を鳴らした。
「あなたに品性など! あまり笑わせないでください。で、この文字はこの洞窟には全く関係ない事ですか?」
「酷くない⁉ 喧嘩売ってんの⁉ うん、関係ない。本気でただの落書きだよ」
「そうですか。もしかしたら他にもあるかもしれませんね。では俺たちの本来の目的を果たしに行きましょう」
「そうだった。すっかり夢中になってたっす。とりあえずあの地図では真っ直ぐだったんで、こっちっすかね」
自分たちが落ちてきた場所とは反対側を指差したオリバーに仲間たちは頷く。
「この板、動物たちが何だか変な体勢をとってるのでふと思ったんですが、キリさんがアニーに作ったおもちゃにそっくりです」
「え? キリがアニーに作ったおもちゃ?」
不思議そうに首を傾げたキャロラインにミアはコクリと頷いた。
「はい、えっと……確か、パズルって言ってたような気がします。キリさんがアニーに作ったのは植物を象ったものでしたけど」
それを聞いてノアはハッとして写真をさらに拡大した。
「ミアさん……それ、正解かもよ。これ、動物型のジグソーパズルなんだ……」
「なんだ、そのジグソーパズルというのは。普通のパズルではないのか」
きょとんとしたルイスにキャロラインもカインも頷いてみせたが、その反応を見てノアとシャルが互いに顔を見合わせた。
「やっぱり歴史の進み方は向こうとは違うんだなぁ」
「仕方ありません。発展の仕方が全く違いますから。ジグソーパズルというのは、沢山の小さなピースと呼ばれる物をつなぎ合わせて一枚の大きな絵を作るんです。作り方は簡単で、元々は大きな絵を様々なピースの形に切って、それをぐちゃぐちゃにして元の形に戻すという単純ですが大人でもうっかりハマるおもちゃです」
シャルの説明にシャルルが感心したように頷いた。
「面白そうですね。ノア、是非作ってみてください」
「いや~試しはしたんだよ。でもさ、うちの画伯が途中参入してきちゃってお蔵入りしたんだよね」
アリスの絵でパズルなど、高難易度すぎて誰も元の形に戻すことなど不可能だ。そもそも元の絵がすでにパズル状態なのだから。
「で、これがそのパズルのピースだと言うの?」
「うん。この熊の腰の部分と狼の足の部分をよく見てみて。写真だから分かりづらいけど、多分ぴったり当てはまると思う」
それを聞いてカインとルイスが二人してガラスを覗き込んで角度やら形やらを見比べている。
「ほ、本当だ」
「すごいな。この為にこの体勢なのか……よく考えてるなぁ!」
「まずは、秘密箱とパズルの作者を調べるべきですね」
「うん、そうみたいだ」
感心したカインとルイスと違い、ノアとシャルは神妙な顔をしている。寄木細工といいジグソーパズルといい、こんな所にあるはずのない物が見つかるなんてこれはもう確実にあちらの世界から来た人間の仕業に違いないのだから。
ドスン! という衝撃と共に頭から藁を被ったキリは、体のあちこちについた藁をはたき落としながら辺りを見渡した。
「これは……予想外ですね」
ここは地下だ。自分達は地上からここまでやってきたはずだ。それなのに洞窟の底はまるで夕方のように柔らかいオレンジ色に染まっている。
呆然と立ち尽くすキリの元にアリスとオリバーが駆け寄ってきた。
「凄いよね! どうなってるんだろう⁉」
「誰かの魔法……っすよね、多分」
「ねぇちょっとー、これ見てー。何か描いてあるよ」
アリスとキリとオリバーが明るい洞窟内に感動しているのとは裏腹に、リアンはすでにあちこちを調査して回っていたようだ。
「これ、上にあった壁画と同じタッチだ! 絵描きさんが住んでたのかな?」
「お嬢様、ここは地下ですよ? 誰がこんな所に住むんですか。あと、あなたに絵のタッチの違いなんて分かります?」
「失礼な! 分かる! だって、通路通るだけだったらこんな所に絵なんて描かないよ。これは一ヶ月はかかるな、うん」
自信満々に腕を組んで胸を反らすアリスにキリは胡散臭げだが、意外なことにそれに賛同したのはリアンだった。
「あながちこいつの言うこと間違ってないかも。よく見たらめちゃめちゃ細かいんだよね。上のもそうだったけどさ。僕はライラとグリーンが絵を描くから分かるんだけど、これだけ細かい装飾とかは2、3日じゃ無理だよ。それこそここにある壁画全部仕上げようと思ったら一ヶ月以上はかかると思う」
「てことは、誰かがここに住んでこれを仕上げたって事なんすかね」
「多分ね。もうちょっと他にも探してみよ」
そう言ってリアンは洞窟内をあちこち歩きまわりだした。
洞窟内は今下りてきた所がいわゆるエントランスなのか、円形になっていてそのあちこちにまるで迷路のように道が伸びている。
「ちょ、これ凄いよ! 私の懐中電灯も真っ青だよ!」
突然のアリスの叫び声にキリが向かうと、アリスは興奮したように一本の道を出たり入ったりしている。
「何してるんですか、お嬢様」
「これこれ、見ててね!」
アリスはそれだけ言って真っ暗な道に一歩足を踏み入れた。すると、途端に道がオレンジ色に照らし出されたのだ。
「なんですか、これは」
「分かんない。オートで電気つく仕様になってるよ! 文明が爆発するよ!」
「……何だかよく意味は分かりませんが、とりあえず凄いですね。他の道もですか?」
「多分そう。キリもやってきてよ!」
「ええ」
アリスに促されて他の通路に向かったキリは、全ての道を確かめてアリスの元に戻った。アリスはまだ道を出たり入ったりして遊んでいる。
「全部の道がこの仕様ですね。で、いつまでやってるんですか?」
「ん? いや、人感センサーどこにあんのかなって思って。まぁいいや。リーくーん、モブー! そっち何かあった?」
アリスの問いかけにすぐさま返事をしてくれたのはリアンだ。
「あったと言えばあったよ。これ一人で描いてないね。複数人いるし、子供の落書きみたいなのもあるよ。あんたみたいな相当な画伯じゃないなら、ローズぐらいの子も居たんじゃないかな」
「こっちには文字もあるっす。なんか見たことない文字なんすけど、古代語とかなんすかね」
「おー! 文字! どれどれ?」
アリスはオリバーの指差した先を見て目を丸くした。そこに並んでいたのはひらがなと漢字だ。たまにカタカナも混じっている。
「に、日本語だーーー! えっ、嘘でしょ⁉ 写真写真!」
「読めるんですか? お嬢様」
「読める! 琴子時代の文字だよ! 兄さまも読めるよ」
「何て書いてあんの?」
「えっとね、あぁ~いや、これはアウトな奴だわ」
「な、なんなの?」
「ほら~よく居るじゃん。観光地に行って遺跡とかにおバカな落書きするやつ! あれだよ。これ書いた奴、変態だな!」
この星の言語は発音は地球のものとあまり違いがないし大体意味もよく似ているけれど、文字は同じではない。文化が違うから当然なのだが、アリスが琴子時代の記憶を思い出した時に真っ先に思ったのは、それまでは普通にアリスとして暮らしていて本当に良かったと言うことだった。そのおかげで文字をすんなり読むことが出来たからだ。
そしてすっかり忘れかけていた日本語にまさかこんな所で遭遇するとは思ってもいなかった。たとえそれがしょうもない下ネタギャグだとしても!
「え、変態が書いたの? そんな事言われたら余計気になるんだけど」
「言わないよ! 私の品性が疑われちゃう」
そう言ってわざと両頬を押さえたアリスを見てキリが鼻を鳴らした。
「あなたに品性など! あまり笑わせないでください。で、この文字はこの洞窟には全く関係ない事ですか?」
「酷くない⁉ 喧嘩売ってんの⁉ うん、関係ない。本気でただの落書きだよ」
「そうですか。もしかしたら他にもあるかもしれませんね。では俺たちの本来の目的を果たしに行きましょう」
「そうだった。すっかり夢中になってたっす。とりあえずあの地図では真っ直ぐだったんで、こっちっすかね」
自分たちが落ちてきた場所とは反対側を指差したオリバーに仲間たちは頷く。
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